ダンジョンでサーヴァントに出会うのは間違ってるでしょう!?   作:夕鶴

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今回は各勢力の皆さんの動向と、独自設定チョロリと、久しぶりのアヴェンジャーage……age?
ポンコツサイドは最後にチョロっとあるだけですけど、こう、当時のポンコツ達の悲鳴に想い馳せながら読んでいただけると……


第10.5話

「やぁ、アルトリア。体調はどうだい?」

「まずまずといったこところですよ、フィン。それにリヴェリアも……わざわざ見舞いになど来なくても、良かったのに」

 

 寝台の上で儚げに微笑む少女の姿は、小さな勇者の胸を締めつけた。

 

「僕としても、今の君に負担をかけるのは心苦しいんだけどね、君たちをそこまで痛めつけた相手の情報が欲しい。……出来れば、威勢よく出かけたアイズにも聞いておいて欲しかったんだが」

「……あの子には、後で私から伝えておこう。それで、アルトリア、話せるだろうか?」

「勿論ですよ、リヴェリア。と言っても、どう説明すれば良いのやら……」

 

 眉をひそめながら言葉を探す彼女は、数日前、彼女達のホームで見た姿と同様、どこか翳りが見えた。

 それは、話に聞いた死闘の名残────というよりも、もっと根深い理由が潜んでいるように思える。

 先程までは見守るべき少女(アイズ)が居た手前、無理をしてシャンとしていたようだが、入れ替わりにフィン達が入ってきたことで緊張の糸も切れたのだろう。心なし、ぐったりとしている。

 ちなみにアイズは、犯人捜しに意気揚々と出かけてしまった。

 

 幾つか言葉を交わしながら、フィンの胸に苦い感情が広がる。

 寝台の上で弱っている姿は、出会ったばかりの彼女を思い起こさせた。

 

 

 少女達は、オラリオに来たばかりの頃から卓越した技倆を誇っていた。

 当時すでにオラリオ二大派閥の長であったフィンに匹敵──あるいは凌駕──する技倆と強力極まりない魔法、そして悪を許さず、弱者を慈しむ精神性を持つ彼女達は、最初からオラリオに秩序をもたらす希望の光だった────わけではない。

 

 むしろ、当時の彼女達は、侮られ、蔑まれる対象だった。

 

 

 理由は単純。彼女達は、弱かったから。

 

 

 仮に今が、神が降臨する以前の古代であったなら、彼女達より強い者など存在しなかっただろう。

 だがここはオラリオ。ヒトの領域を超え、英雄達がしのぎを削る地上で最も強き地。

 

 確かに技倆は優れていた。だがそれが何だと言うのだ。

 いかに鋭く振るおうと、枯れた小枝で巨木をなぎ倒せるか。

 

 強大な魔法を持っていた。それは確かに素晴らしい。

 だが、一発撃つだけで精神力を消費し尽くす体たらくで何が出来る。

 

 要するに、彼女達の資質に身体(ステイタス)が追いついていなかったのだ。

 

 彼女達は恩恵を得たばかりの冒険者としては異常に強かったものの、ランクアップを果たした強者達とはそれでもなお、歴然とした差があった。

 

 そもそも派閥構成員自体、一番歳上が十四か五の小娘で、他の団員はそれより幼く、主神も又、ボロを纏った少年神。侮るなという方が無理があった(もっとも神々は、この世全ての悪(アンリマユ)を名乗るモノの来訪に心穏やかではなかったが)。

 

 そんな中、やめておけば良いものを、彼女達は都市の悪と積極的に対峙した。

 迷宮攻略を進めつつ、地上で悲劇が起ころうとすれば毎度の如く彼女達は居合わせた。それこそ当時、彼女達の自作自演すら疑われるほどに。

 

 結果はもちろん、連戦連敗。

 

 ファミリア全滅の危機に陥ったことも、フィンが知る限り一度や二度では済まない。

 それでも生き延びたのは、生存に特化した魔法を持つアルトリアやカルナが時間を稼ぎ、自らの負傷を無視してランスロットが暴れ回り、逃走に向いた能力を有するロビンやアストルフォが他の派閥に助けを求めたからだ。

 

 一部の心ない者は、理想ばかり立派で現実が見えていないような彼女達を嘲り、団長である少女を騎士姫(リリィ)──世間知らずのお嬢様と揶揄した。

 

 

 フィンも又、何度も彼女達の窮地を救ってきた。

 

 その度に、彼女にこれ以上の無茶は止めるよう、何度も何度も忠告した。

 

 例え癒しの力で傷が塞がろうと、血溜まりの中で倒れる少女の姿に何度肝を潰したことか。

 微笑み一つで多くの男を虜にするだろう可憐な容貌が、苦悶に歪むことに何度胸を痛めたか。

 それほどに犠牲を払わせてなお、彼女を愚か者と嗤う者どもに、何度臓腑を焼かれるような怒りを覚えたか。

 

 願いと言ってもいいフィンの言葉に、しかし少女は困ったような微笑みを浮かべながら首を横に振る。

 

 

 

『私も別に、戦いたくて戦っているのではないんですよ?』

 

 

 

 ならば、何故そこまで傷ついているのか。何故そこまで傷ついて、戦いをやめようとしないのか。

 

 決まっている。都市に住まう、力無き人々のためだ。

 当時の彼女の装い同様、気高い純白の精神が、彼女を戦いに駆り立てるのだ。

 

【英雄】たらんと自らを律し、合理を邁進するフィンとは真逆。

【英雄】であるが故に、彼女は非合理にも手を伸ばす。

 

 その過程に何度傷つき、何度倒れようと彼女は進み続けた。

 不器用で、泥臭くて、非効率的で────なんと、尊いことか。

 

 それは、フィンが至ろうとする理想とは異なるが────フィンが、同胞達に取り戻さんと願った、勇気と気高さに溢れた姿だ。

 

 

 弱く、無様な子供達が、それでも立ち上がり、立ち向かい続ける。

 そんな姿に触発されたのはフィンだけではなかった。

 

 一人、二人と彼女達に救われ、彼女達を助けたいと願う人々が、彼女達の周りに集まり始めた。

 人々の願いに応えるよう、彼女達は戦い続け────少女は、史上最速である五ヶ月でのランクアップを果たす。

 

 人々が彼女達を見る目が、明確に変わった。

 

 力を得た彼女の快進撃は、目覚しいものがあった。

 今まで力及ばず敗北を喫していた闇派閥を真っ向から打ち倒し、より多くの人々を救ってみせた。

 されど驕らず、今までと変わらず誠実に人々と寄り添う。

 

 騎士姫(リリィ)の名は、穢れなき少女の純真を称える、敬意に満ちた呼び名に変わった。

 

 

 団長の偉業に追随するように、ファミリアの団員全員が一年以内でのランクアップを果たしてみせた。

 

 もはや、アンリマユ・ファミリアの名を嘲りを込めて呼ぶ者は居なくなった。

 

 

 その名は都市に新たに現れた希望。

 幾度敗れても、その度に立ち上がり打ち克つ──故に常勝不敗の王が率いる、誉れ高き円卓の騎士達。

 

 

 そしてフィンも又、いつしか少女を【英雄】としての責務でなく、一人のヒトとして、案じ、焦がれ────

 

 

「──ィン、──ますか? フィン、聞こえてますか?」

 

 

 ハッ、と意識を取り戻す。

 つい、思索にふけってしまっていた。

 わざとらしく咳払いをして、続きを促す。

 

「失礼。大丈夫だとも。続けて欲しい」

「はぁ。とにかく、先ほども言った通り、件の怪人はレベル6を凌駕しかねないステイタスです。万全を期すなら、私や貴方であっても、一対一の状況は避けるべきでしょう。ですが正直、現時点なら第一級冒険者二人がかりなら撃退は容易でしょう」

「……逆に、今より強くなることがあれば、ファミリアの総力で潰さなければいけなくなる、か。まるで階層主の対策を練っている気分だよ」

「少し良いか?」

 

 苦笑を浮かべるフィンの隣で、リヴェリアが手を挙げる。

 

「今の話を聞いた限り、お前達二人なら倒し切れたのではないか? 何か、特殊なスキルや魔法でも使ってきたのか?」

「そ、それは……少し、話させてください!」

 

 もっともな質問に、露骨にアルトリアの目が泳ぐ。

 その目線が、地蔵に徹していたカルナとぶつかると、部屋の隅に連れ込み小言で何か話し合い始める。

 

(え、どうしますこれ。正直に言っときます?)

(……言うべきだろう。戦力の過小評価は論外だが、過大評価も余計な力みを生み、十全の力を発揮できない要因になり得る)

(ですよねー。まぁ、大人なフィンとリヴェリアなら、呆れはしても失望の目とかは向けませんしね……向けませんよね?)

(……王の判断に委ねよう)

(あっ、ズルい! 言っときますけどアーチャーとかに怒られる時は同罪ですからね!)

 

 

 ゴニョゴニョと話し合った末、なにかを決心した顔でフィンやリヴェリアに向き直るアルトリア。

 その悲壮な表情に、フィンとリヴェリアも揃って身構える。

 

 

 

 

 

「その、実はですね、私もランサーも……大変お恥ずかしい話なんですが、二日酔い気味でして……」

「「は?」」

 

 キョトンとしてしまった二人を責めることは、誰も出来ないだろう。

 ぐるぐるとフィンの脳内を大量に駆け巡る疑問符。

 

 

(二日酔い、この二人ほどの冒険者が──明らかに不調な様子、それは真実──何故ダンジョンに──そもそも何故この場に二人は居合わせた──)

 

「……アルトリア──」

「待った、リヴェリア」

 

 余りにも突拍子が無い発言に、思わずリヴェリアが苦言を呈そうとする。おそらく、つまらない冗談と捉えて本当のことを言わせようとしたのだろう。

 だがフィンがそれを遮った。

 正直、フィンも軽い冗談と思いたかったが、そう捉えるにはあまりにもアルトリアの表情に悲壮感が満ちていた。

 

「……なるほど。二日酔いか。それなら仕方ない。仕方ないとも。あぁ、そういう日もあるさ。しかし、君達ほどの冒険者がそんなに苦しむことも厭わず呑むほどに美味い酒とは、興味深いね」

 

 うんうんと頷きつつ、代わりに一つの疑問を投げつける。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ハッとした表情を浮かべるアルトリアを見て、フィンは己の疑問がいくらかの正鵠を射たことを確信する。

 

「ともかく、君達はもう少しここで休んでいるんだ。不調なまま戦線に参加しても、皆も気を使うからね。僕らもそろそろ、捜索に戻るよ」

 

 何か言いたげなリヴェリアを目で制し、やや強引に退室する。

 扉が閉まる間際、鎮痛な表情のアルトリアを目に刻みながら。

 

 

 

「で、何のつもりだ。まさか二日酔いなどというたわ言を信じたわけではないだろうな」

「まさか」

「だったら何故だ」

「何故、か。リヴェリア、僕は最初から気になっていたんだけど、()()アルトリアとカルナは十八階層にいたんだろうね?」

「……それは、我々と同じくダンジョン散策を──」

「本人達曰く、二日酔い中にわざわざかい?」

「それは……二日酔いが、あの子の冗談だっただけだろう」

「彼女があの場でいきなりあんな突拍子もない冗談を言う人間じゃないことは、君もよくわかっているだろうリヴェリア。それに、アルトリアもカルナも、負傷以外の理由で弱り切っていたのも確かだよ」

「……」

 

 フィンの言葉に押し黙るリヴェリア。

 

「もっとも、僕ら第一級冒険者がたかだか二日酔いで苦しむわけがないというのも当然の話だけどね」

 

 そう、そもそも生物としての格が極めて高く、なおかつ対異常や対毒の発展アビリティを備えている高位冒険者は、滅多なことでは二日酔いになどならない。アルコールを摂取すれば酔いはするが、適切な対策などを取らなくても翌日には復調しているものだ。

 そして更に、仮に二日酔いだったとして。アルトリアほどの一流の冒険者が、そんな体調でダンジョンに潜るだろうか? 

 

 答えは否だ。

 

 どれだけ慣れ親しんだ階層であろうと、ふとした拍子に命を落としかねないのがダンジョンの恐ろしさ。

 十年近い経験を持つアンリマユ・ファミリアが、ダンジョンを軽んじるような真似をするとは思えない。

 

「つまり、彼女達は不調を押してでもダンジョンに潜る必要があり……彼女達が到着したまさにその時、十八階層では謎の怪人との戦闘が勃発していた。果たしてこれは偶然と呼べるだろうか」

「……確かに不自然ではあるが、いつ事件が起きるかなど、あの子達には知りようがないだろう──いや、まさか」

 

 何かに気づいた様子のリヴェリアに、フィンが頷く。

 

「あくまで可能性の話だけど、僕にはこれが偶然とは思えない。何者かの意図が潜んでいるようにしか見えないんだ。そして彼女達の異変。その原因の【酒】とやらは誰からもたらされたものだったろうか」

 

 

 

 二人の脳裏に浮かぶのは、暗闇に浮かぶ紅い半月────ニンマリと裂けたように笑う、とある悪神の姿。

 

 

 しかしリヴェリアは、なおも首を横に振る。

 

「そうだとしても、解せない。あの神が何か画策しているなら、アルトリア達が止めないはずがないだろう」

「……そうだね。この十年、ずっとそこだけが気がかりだった」

 

 

 どのような悪にも屈さず、善をなす理想の英雄。彼女達が眷属であることが、アンリマユ唯一にして最大のアリバイだった。

 だがつい先日、その答えの一端が見えた気がした。

 

 

「僕は、アルトリアがあれほど生き生きとした姿を見たことが無かった。あれほど誰かに執着をしていたことを知らなかった」

 

 思い起こすは数日前の酒場での一件。

 ここにいない誰かの勇姿を、彼女は誇らしげに語っていた。

 

 

 その姿は、何者かに全てを捧げた信仰者のように狂熱的で。

 

 その姿は、己が仕える主に心酔した騎士のように誇らしげで。

 

 その姿は────恋する少女のように、愛に溢れていた。

 

 

「彼女が万人に平等な、理想の王であったなら、何者も付け入ることは出来ないだろう。だけど、彼女が人間としての幸福を委ねた相手がいたなら…………それこそが、アルトリアを蝕む猛毒になりかねない」

 

 零れた言葉は、驚くほど平坦なものだった。

 自分は一体、どんな顔を浮かべているだろう。

 痛ましげなリヴェリアの顔を見るに、ロクな表情では無さそうだ。

 

 フッ、と笑って心を仕切り直す。

 

「もっとも、今はそんなことは関係がない。不調であろうとなんであろうと、彼女達から逃げ切った怪人退治に専念しなきゃね」

 

 

 

 

 

 

 

 視点変更(アル意味一番ノ被害者)

 

 

 

 

『ピギィッ!?』

 

 ブチリ、と。兎型モンスターに齧り付き、血肉ごと魔石を取り込む。

 口の中で灰に変わった肉を吐き捨てながら、赤毛の女──レヴィスは怒りに目を細めた。

 

(まさか、私の正体がバレていたとはな。それに加えて、レベル7以上の冒険者が居合わせるとは、運が無い)

 

 逃げ延びはしたが、あの炎を纏う槍使いは厄介だ。何度か近接戦に持ち込んだが、軽くあしらわれて空に逃げられた。

 散々に焼かれたダメージは未だ癒えず、五割の力も出せないだろう。

 おまけに……

 

 

(星の聖剣使いまで出張るとは、流石に想定外だ)

 

 ブルリ、と身を震わせる。

 もしあの剣が真価を発揮していたら、レヴィスと言えどチリも残さず消し飛ばされていただろう。

 

 

 存在に気付いてはいた。

 

 精霊の匂いが染み付いた強大な力の気配を、ここ数年地上やダンジョンから常に感じていた。

 だがその正体を掴めぬまま月日は流れ六年前のあの日。神々の派閥同士と多くの怪物を巻き込んだあの事件。

 そこで、レヴィスとダンジョンに潜む堕ちた精霊は、気配の正体を知った。

 

 数多の怪物を薙ぎ払い、ダンジョンから地上まで届く大穴をこじ開けた黄金の斬撃。

【二十七階層の悪夢】と呼ばれるはずだった殺戮劇を、勇ましき英雄譚に塗り替えた【二十七階層の栄光】。

 

 神々が降臨するよりはるか過去。古代と呼ばれる時代に、ただ一人の王のみ振るうことを許された聖剣。怪物から人々を守り続けた、偉大なる()()()の伝説。

 王の没後、とある湖の精霊に返還され、それ以来ただの一度も地上に現れていないはずなのに。

 何故遠きブリテンの地を離れ、オラリオにそれが存在するのか!! 

 

 その神威は、血の匂いに誘われた邪精霊すら怯え、逃げ帰ったほどだ。(その姿をとある妖精に見つかり、興味を抱いた主神に命じられるがままに調査に赴いたとある派閥が喰い荒らされたのはまた別の話だ)

 

 忌々しさに歯軋りが止まないが、一つ幸運だったことがある。

 

 聖剣の担い手が、大したことはなかったからだ。

 

 確かにステイタスはレヴィスに匹敵するほど高かった。

 だが、剣筋は鈍く、注意は散漫。一対一なら、明らかにレヴィスに軍配が上がるだろう。

 

「かの聖剣で、奴らを血祭りに上げるのも一興か……」

 

 

 フンと鼻を鳴らしたレヴィスの近くを、冒険者の一団が通り過ぎた。

 中には、レヴィスが狙っていたあの男も混じっている。

 人数は五人。負けは無いが、悲鳴も上げさせずに倒せるかというと、今の体調では半々か。

 

 どうしたものかと考えつつ、レヴィスは静かに尾行を始めた。

 

 

 

 

 

 

 ちなみにだが、当然彼女は、自分と散々斬り結んだ相手が二日酔いで体調最悪だったなど、知るよしも無い。

 

 

 

 

 

 

 視点変更(ソモソモアレ今誰ガ持ッテンノッテ話)

 

 

 

 

 

「つーかハシャーナさんよぉ」

「あん?」

 

 リヴィラの冒険者達は、五人一組で怪人の捜索を行っていた。

 そんな中、街の顔役、ボールスは同行するハシャーナに疑問を投げ掛けていた。

 

「例の女は、アンタが持ってるブツを狙ってんだろ? 一体、アンタ何持ち出したんだ?」

「あぁ、それな……」

 

 ハシャーナは腕組みをしながら思い返す。

 

「怪物祭の何日か前にな、妙な黒フードの奴からクエストを頼まれたのよ。下層まで潜ってブツを取ってこいってな」

「黒フードだぁ? 名前は?」

「さぁな、所属も何も明かさなかったよ。ただ金払いが良かったし、俺は怪物祭当日の担当は当たってなかったからな。軽い気持ちで受けたんだ」

「へっ、不用心なことだぜ」

「あぁ、今思うとな。とにかく、俺は下層に潜って、依頼のブツを回収してきた。……気味が悪い代物でよぉ、化け物の胎児みたいなもんが埋め込まれてる、緑の琥珀みたいなアイテムだったぜ」

「胎児だぁ? 聞いたことがねぇな」

「あぁ、俺も初めて見る代物だった。だがまぁ、依頼は依頼だ。この十八階層にまで戻ってきた俺は、指定されてた酒場で運び屋にブツを渡した」

「…………あ?」

「そんでさぁ仕事も終わりだ、パーッと遊ぶぜーってなタイミングで、あの女に声をかけられてな、最初は良い体してんじゃねえかと喜んだもんだが、よくよくツラ拝むといつぞやカルナに見せられた悪党じゃねえか。後は、お前らも知っての通りってやつだな」

「おい、テメェちょっと待て」

 

 話し終えたハシャーナに、ボールスがドスの効いた声を出す。

 

「するってーと何か、テメェ、今そのアイテム持ってねえのか?」

「だからそう言ったじゃねえか」

 

 

 

「アホかあああああああああ!!!!」

 

 

 ボールス、キレる。

 

 

「だったらあの女の次の狙いは、その運び屋じゃねえか! テメェ引き連れて歩き回れば女釣れると思ったのになんなんだよチキショオがぁ!」

「あ……。悪い」

「わりぃじゃねえよテメェ! さっさとその運び屋の特徴教えろや! 出て行ったかどうか調べるからよぉ!」

「待て待てあんま急かすな。顔はフードで隠れてて、あんま分かんなかったけどよぉ、小柄な浅黒い女だったぜ。あと雰囲気がちょっと獣人系だったな」

「ビリー! 急いで街に戻れ! んでこのことロキ・ファミリアに知らせろ! 探すのは、獣人の女だ!」

「りょ、了解、ボールス!」

 

 年若い男に怒鳴り散らすボールスに、ハシャーナはボリボリと頭を掻きながら詫びる。

 

「わりぃわりぃ、色々急だったもんで、すっかり伝え忘れてたぜ」

「ったく、でけぇファミリアの連中はこれだから困るぜ! どいつもこいつも気ままでよぉ」

「わりーって、そんな怒んなよ」

 

 

 

 ハシャーナ・ドルリア。

 

 本来の歴史ならこの時点で命を落としている、ガネーシャ・ファミリアの上級冒険者。

 ランサーとの交流もあり、たまに悪い遊びに連れ出す間柄である。

 

 ……ひょっとしたら、ポンコツを伝染されているかもしれない原作キャラでもある。

 

 

 

 

 兎にも角にも、余計なことを大声で話し合ったせいで、一人の犬人の少女にターゲットが移されたのは、幸か不幸か────。

 

 

 

 

 視点変更(オッサンバッカ描写シテ潤イガ足リナイ)

 

 

 

 時は少し遡り、地上。

 

 

「あ゛〜くそ、頭いてぇ。あぁ、キャスター、おはようさん」

「おや、起きましたかアーチャー」

「Arrrrrrrrrrthurrrrrrrrr!! Laaaaaaaancerrrrrrrrrrrr!!」

「まだ寝てたかったんですけどねぇ……コレが煩くて。なんなんですかぁ今日は」

「どうもセイバーとランサーが、二人で十八階層に向かったようでして。嫉妬で狂っているようです」

「 Alooooooooone!! Hoooooo◯ome aloooooooone!!」

「いや意味わかんねえよなんだよホー◯アローンって」

「アレじゃないですか? 家族が旅行に行ってるのに一人取り残されたケ◯ンくんと王に置いてかれた自分を重ねてるとか」

「そのまま泥棒でも撃退しといてくれよ、オレもう一眠りしてくるから」

「あぁ、アーチャーお待ちを。実は頼みがありまして。どうもセイバーもランサーも財布を持たずに出かけたらしくて、届けていただけませんか? 私が行っても良いのですが、この後予定がありまして……」

「財布ぅ? 別に無くても困んねえだろそんなもん」

「本当ですか? 彼らが向かったのはあのリヴィラですよ? 宿で一泊しようとして財布が無くて、『ひもじいよぉ〜』と段ボールの中で夜を明かすあの二人を想像しても心が痛みませんか?」

「嫌な絵面想像させんなよ……。あの二人ならマジでやりそうなところが一層嫌だ」

「では、頼みましたよ」

「へぃへぃ。ったく、おーいバーサーカーの旦那ぁ、アンタは──」

「何をモタモタしているアーチャー! 急ぎ、我が王の許へ馳せ参じるぞ!」

「……やっぱオレ、二度寝してて良いですかね……」

 

 

 




前回、一ヶ月以上ぶりに投稿しても読んで頂いて感想も頂けて、本当にありがとうございました。
皆さんの感想や増える閲覧数にすごく励まされています。
たぶん今後もそんなに早くはなりませんが、お付き合いいただければ幸いです。

以下、内容についてのどうでもいい言及

夕鶴が書くと、フィンの湿度がやたら高くてなんか申し訳ない気分になります

> 私も別に、戦いたくて戦っているのではないんですよ?
ヒント:幸運EX(良くも悪くも規格外というか巻き込まれ体質)

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