ダンジョンでサーヴァントに出会うのは間違ってるでしょう!? 作:夕鶴
ガギィッ、と耳障りな音を立てて刃が交差する。
「あらよっと!」
「ふん……」
次いで迫る蹴りをレヴィスはスウェーで回避。お返しに放った足払いは後方への跳躍で避けられた。
(なるほどな……)
何度目かの小手調べを終え、レヴィスは冷静に相手の戦力を見極める。
(この男もまた第一級冒険者……だが聖剣使いや槍使いに比べれば、ずいぶん
侮りではなく、公平な戦力評価。それが証拠に軽く打ち合っただけでロビンと呼ばれた男の息は乱れ始めている。
この男と同格以上の冒険者が援軍に来られると不味いが、それも問題はないだろう。
先程アマゾネスを襲撃した際、同時に十八階層に持ち込んだ食人花のほとんどを暴れさせた。
今頃この階層の冒険者は総出でその対処に当たっているはず。
多少ここで騒いだとしても、モンスターとの戦闘程度にしか思われまい。
頭の中で算段を終えたレヴィスは軽く足踏みをしてリズムを整え──次の瞬間、ロビンの眼前に迫る。
「!?」
先程までとは桁が違う速さ。
一息にすり潰せる相手と判断しての猛攻。
仮に聖剣使いに同じ攻勢を仕掛けたなら、レヴィスにダメージが無い万全の状態だったとしても防ぎきられ、むしろ攻撃の隙をついて手痛い一撃を受けただろう。
だが目の前の男相手なら、下手な小細工よりも真っ向からの力押しこそ最適解。現にロビンはレヴィスの連撃を捌ききれず、亀のように縮こまって防ぐことで精一杯だ。
レヴィスは連撃の最中、渾身の振り上げで短剣ごとロビンの腕を跳ね上げる。
「ッッッ!!」
そのまま無防備な腹に強烈な蹴りを入れると、勢いよく吹き飛んだロビンが十八階層の壁面に激突し、盛大な土煙を巻き上げた。
ただの蹴りとはいえ、レベル6以上のステイタスで放たれた一撃。並の相手なら間違いなく致命傷だろう。
現に、視界の隅でエルフの娘も絶望の表情を浮かべている。
「……」
だが、レヴィスの表情は冴えなかった。
(今の一撃、感触が軽過ぎた。私の蹴りに合わせて跳び、威力を殺したか。意外と、やるな)
敵対者への評価を一段上げつつ、レヴィスは自らの剣を力任せに振り抜く。
放たれた剣圧が土煙を吹き飛ばし、ロビンの姿を晒す────ことはなかった。
「……馬鹿な!?」
そこにあるのは砕けた岩壁のみ。肝心要のロビンフッドがどこにもいない!
──不意に、背筋を怖気が走り抜けた。
咄嗟にかざした左手に、鋭い痛みが走る。
「くぅっ……!?」
──それは、奇妙な光景だった。
レヴィスの腕には指先ほどの穴が空き、確かに何かが突き刺さっているのに、
「小細工を……!」
見えない何かを掴み、へし折ると、何もなかったはずの空間から滲み出るように現れる一本の矢。布の切れ端が巻きついている。
同時に、ヒュウ、という口笛の音。
「目玉の一つでも貰ってやろうかと思ったのによぉ、良い勘してんなオタク」
「貴様……!」
そこにはフードを深々と被った緑衣の男。
右肩と左脇に、先程レヴィスが斬り捨てたアマゾネスと犬人をそれぞれ抱えている。
更にはいつの間に掠め取ったのか、精霊の宝玉までその手にしている。
「ひでぇことしやがる。可愛らしいお嬢さんが台無しだ」
「貴様も、すぐに同じ道を辿らせて──やろう!」
言葉と同時に斬りかかるが──
「お断りですよっと」
ロビンが身を翻すと同時、その姿が背景に溶けるように消失した。
空振りに終わった一撃の後、苛立ちまぎれに辺りを切り裂くがどれも空を切るだけに終わる。
思わず、舌打ちが漏れた。
(落ち着け。奴の能力を分析しろ。今の現象から、透明化なのは間違いない……。女達も消えたことを考えると、自身のみではなく任意の対象も隠せる応用性がある。先程の矢も同様の手口か。防ぐ直前まで風切り音も聞こえなかったことから、消音効果もあると見て良いだろう。厄介な能力だ──!?)
思考を中断。
が、そのすぐ後に飛来した
「透明能力による、影矢か……!」
「ご明察。見える矢があると、ついついそっちに気を取られちまうよな」
フラリと現れた男の姿に、思わず歯軋りがこぼれた。
見れば抱えていた女達はいなくなり、その代わり、その右腕には先ほどまでは
短剣を構えていた時より明らかに堂に入ったその姿は、その弓こそ男の主兵装であることが明白だった。
(私の目を女達から逸らすために、あえて不得手な接近戦を挑んでいたということか……?)
──要するに、先程までの斬り合いは、三味線を弾いていたわけだ。
「────ハ。弓兵風情が剣士の真似事とはな!」
「……」
曖昧な表情で沈黙するその姿に、苛立ちが募る。
だが、この男はミスを犯した。
姿が消えるといっても、実体が無くなるわけではないだろう。
そして、タネが割れていれば破る手段も存在する。加えてこの近距離なら答えは明白。
つまり────消えるより早く斬り捨てれば良い!
レヴィスは先ほども見せた強靭な踏み込みでロビンフッドに迫る────否、正確には迫ろうとした。
何かを踏み潰す感触。
直後、足元から爆炎が巻き起こる。
「!!!?!?」
「あ〜、言い忘れていたけど、あんま動かねぇ方が良いぞ。この場には、オレの『
驚愕するレヴィスに、男の声が掛かる。
「ここは既に命の狩場ですよ?」
飄々とした声に、確かな力を込めて、緑衣の弓兵は宣告する。
「──選択を誤れば、何人たりとも生きては帰れぬと知れ」
「舐めるなぁ!!」
激昂したレヴィスが、咆哮と共に駆ける。
そして当然のようにガシャリ、と何か──恐らくロビンがいう爆弾──を踏みつけ、爆炎に身を焼かれるが、彼女は止まらない。否、止まれない。
(認めるものか……!)
この男は明らかに自分より弱い。
現に、先程まで自分が圧倒していたではないか。
だというのに、ほんの一瞬とはいえ、自分は──
(そんな相手に、気圧されることなど──!!)
「……馬鹿野郎が!」
まるで先の光景の繰り返し。
いかにレヴィスとはいえ、爆炎を浴びながらではその突進の勢いも削がれる。
身を翻し透明化したロビンに躱され、逆に矢による反撃をその身に受けた。
それはまさに一方的な狩り。
狐を罠に追い込むが如く、弓兵はレヴィスをトラップ地帯から抜け出させない。
現れては消える弓兵は、怪人の刃をただの一度も身に受けず、少しずつ、少しずつその命を削っていく。
「……! ォォオオ!!」
だがレヴィスもまた、それを意に介さずに突進を仕掛ける。
狩人の矢も、爆炎も、レヴィスの強靭な肉体を滅ぼすには威力が低すぎる。
ならば意に介さず、と言わんばかりに彼女は暴れ回った。
地面を、木を、岩を、迷宮の壁を砕く猛攻は、しかし森の狩人の影すら捉えることは叶わない。
それは、さながら暴れ狂う闘牛のごとき無謀な攻撃に見えた。
だが。
(姿が見えず、音が聞こえずとも、形はある……ならば、炙りだすことは出来る!!)
それは、レヴィスが見えない矢による初撃を防いだ理由と同じだ。
レヴィスの攻撃に巻き上げられ、空中を漂う土煙が──その流れの歪みが、不可視の存在を浮かび上がらせる!!
レヴィスの目は確かにそれを捉えた。
高速で走り、跳躍し、縦横無尽に自らの周囲を駆け巡る弓兵の姿────
「止めてみろ、
「んなもん当たるわけ──!?」
────ではなく。
岩壁にもたれかかる、二つの不可視の存在。恐らくは負傷したアマゾネスと犬人を、透明化の魔法で隠したもの。
レヴィスはそれに向かって、渾身の力で剣を投擲したのだ。
「しまっ──」
虚空から現れた弓兵が、剣とアマゾネスの間に飛び込む。
あぁ、彼は恐らく間に合うだろう。だがその非力では、単純な力の塊を防げはしまい。
出来ることは、せいぜいその身を盾にする程度。
その瞬間、レヴィスの勝利は確定する。
あぁ、彼女の確信は正しい。
ステイタス的にははるか格下の相手に翻弄され、圧倒されはしたが、それでも最終的に彼女は勝利する────
この場にいた冒険者が、ロビンフッドだけだったならば────!!
『────アルクス・レイ!』
流星の矢が、友の命を奪わんとする凶刃を撃ち落とし、ダンジョンの空を駆ける──!
「な──!?」
驚愕するレヴィスは見た。
未だ起き上がることは叶わず、それでも強い意志をその瞳に宿し、怪人を見据える気高き妖精の姿を。
「わたしは、ロキ・ファミリアのぼう、険者なんです……! 守られて、ばかりじゃ、いられないんだから──!」
喉を潰され、咳き込みながら、されどその高潔さにいささかの曇りもなき宣戦布告。
「貴様、────っ!」
激昂したレヴィスの、しかしその口から飛び出したのは怒りの叫びではなく、彼女自身の血反吐だった。
訝しげにそれを見る彼女に、男の声が届く。
「
レヴィスの中で一つの合点がいく。
そもそもの話、先のトラップもロビンフッドの矢も、仮にレヴィスが本調子であったなら、力尽くで食い破れていただろう。
だが、先の戦いのダメージに加え、彼女の身体には異変が起こっていた。
少しずつではあるが、四肢から力が抜けていたのだ。疲労や出血によるダメージかと思っていたが、自身の耐性すら突破する毒が存在するなど、想像すらしていなかった。
「
「いつから仕込んでたかって? さて、何発もくれてやった矢か、あるいは短剣か、ひょっとしたら爆弾に練り込まれていたかもしれませんねぇ」
話しながら、ロビンフッドは矢を弓に番える。
「卑怯と言いたきゃ言いな。臆病者と罵りたければお好きにどーぞ。あいにく、このやり方しか知らないし、他を知る必要も感じないんでね」
「ぬかせ! この程度のダメージで私が動けなくなると思ったか!? 貴様のくだらない矢も、罠も、毒も、私を仕留めることは出来ん!!」
咆哮するレヴィス。
実際、彼女にはまだ勝算があった。
先の一戦での負傷は重く、この戦いでも少なくない手傷を負ってはいるが、ロビンフッドの火力は低い。まだしばらくは戦うだけの体力は残っている。
並の怪物なら即死させる猛毒も、彼女の耐性の前には凄まじい早さで分解されており、もう間も無く無力化されるだろう。
故にこその挑発。────だが、間違いなく悪手であった。
「──この
真剣ながら、軽口混じりに淡々と戦っていた今までとは違う、掛け値なしの怒りがこもった言葉。
「なら受けてみな。ちょいとばかり──本気の一撃ってやつをな」
言葉と共に地面に手を触れるロビンフッド。
そこから微かな魔力が流れたかと思うと、レヴィスの足元から茨状の魔力が噴出した。
「なっ!?」
まさかの無詠唱魔法に驚愕するレヴィス。
だが、戦闘不能のダメージという訳でもない、茨を薙ぎ払い素手で首をへし折ってしまえばそれで終わりと、思考したところで────歌を聞いた。
『我が墓地はこの矢の先に──』
番えた矢に魔力が集う。
『森の恵みよ、圧政者への毒となれ──』
深緑の光を帯びたそれは、紛れもなく彼の必殺。
『
短文詠唱から放たれた矢を前に、不意打ちで崩れた状態では避けきれない。
(速度、威力共に今までの矢と変わりない──魔力は感じるが、そこまで強力なものでもない──特殊な効果を付与するタイプか? ならばそれはなんだ、矢の誘導? 起爆?──ブラフもあり得る。この矢を囮に影矢が飛んでいるのか? だが、いずれにしろ防ぐしかないー─)
高威力だろうと何だろうと、切り払いさえすれば──その身に触れさえしなければ、と剣を振るうレヴィス。
だが。
「残念。剣でも、受けた時点でアウトだ」
『
その効果は、矢が触れた対象が帯びる不浄を増幅・流出させ、火薬のように爆発させる。
レヴィスから毒を吸い上げ急速に成長する、魔力で編まれた巨木を眺めながら男はひとりごちる。
「加減はした。聞きたいこともあるし、殺しはしねぇ。──ただまぁ、自分の英雄を馬鹿にされて笑ってられるほど、人間出来ちゃいないんスわ」
巨木が枯れた後には倒れ伏すレヴィス。
十八階層を騒がせた怪人が、完膚なきまでに打ち倒された瞬間であった。
(´・ω・`)<ワシの第11話は百八式まであるぞ。
すみません調子に乗りました冗談です。
シリアスとポンコツ両方書いて投稿してたら時間が掛かるという歴史的発見をしまして、実験的に先にシリアスだけ書き上げて投稿してみました。
今後もこうするかは未定です。
次回はアーチャーもどきさんによるポンコツパートオンリーです(たぶん)。