ダンジョンでサーヴァントに出会うのは間違ってるでしょう!? 作:夕鶴
昔のベル君、結構小生意気でこれはこれで可愛いですよね。
早い話、その日のベルは浮かれていたのだ。
まず運命のような出会いから一夜明け、麗しの少女と熱い抱擁を交わす夢を見て幸せな気分で目覚められた。
主神である幼い女神ヘスティアの可愛らしい寝姿を堪能できた。(もっとも、幼女らしからぬ殺人的に豊満な部位により朝から精神的に殺されかけたが)
意気揚々とダンジョンに繰り出した早朝、正体不明の舐めまわすような変態的な視線には寒気を覚えたものの、美しい少女、シルからお弁当をもらえた。
ダンジョン探索も何度かヒヤッとする場面はあったものの、昨日のような致命的な事態にはならなかった。
そして最後、これが最も重要なことだが、ダンジョン帰還後のステイタス更新の結果が素晴らしかった。
たった一度の探索で、冒険者になってから今日までの半月分の成長に匹敵するほどの飛躍を遂げたのだ。
ただその結果を見た途端、何故かヘスティアが不機嫌になり、バイト仲間と打ち上げに出かけてしまったことには落ち込んだが……。
『おのれ、アルトリア何某……ッ!!』
出かける直前、凄まじい形相だったのは本当に何が原因だったんだろう? という疑念はあるものの、お弁当をくれた少女シルとの、夕食は彼女の店で食べるという約束を果たすため、平服で出かけた。
女店主にシルが伝えた意図的なデマには慌てたが、提供された料理は美味しく(普段の食費の何倍も高かったが)、キャットピープルやヒューマンのウェイトレスの少女たちは美人揃い、何よりシルとの会話は、心を解きほぐされていくような奇妙な心地よさがあった。
そんなシルとの談笑中、冒険者の集団が現れた。
様々な種族で構成されたその一団は、全員が全員、今のベルなどとうてい及ばない強者の雰囲気を漂わせていた。
特にそのうちの一人、金髪金眼を持つ妖精のような少女には、特に目を引かれた。
ざわめきが広がる店内で、シルが彼らの正体を教えてくれる。
「あれは【ロキ・ファミリア】の皆さんですね。ウチのお得意さんで、よく来てくれるんですよ」
なるほど、彼らが。と納得するベル。オラリオに来て日が浅い彼でも知っている、都市最大派閥の一角だ。
「あと、今日は珍しいお客さんも一緒ですね」
そんな言葉に釣られて、目線を集団の後方に向けると――――息が止まるかと思った。
星々の光を束ねたような金糸の髪。
ベルと同い年か、あるいはもっと幼く見える容貌を彩るのは、強い意志と高潔さを見せる凛々しい表情。
触れれば壊れてしまいそうな小さな身体から、思わずひれ伏してしまいたくなるような王気を放つ女神のような美少女。
間違えるはずもない。
――アルトリア・ペンドラゴンさん……!!
ロキ・ファミリアの登場に慄いていた酒場の面々が、再度ざわつく。
『おい、あれ』
『うほっ、イイ男……』
『ちげえよ、エンブレムを見ろ』
『アンリマユ・ファミリア……!』
アルトリアに従うよう入ってきた面々を見て、酔客たちの口が回る。
『ファミリア全員が第一級冒険者ってぇ化け物ども……』『レベル7はどいつだ?』『あれが騎士王……永遠の王ってやつか』
聞こえてくるのはどれも畏怖を孕んだもの。ともすれば、ロキ・ファミリアに対するもの以上に理解出来ないものへの尊敬・嫉妬・恐怖など多様な感情が入り混じっている。
無論、ベルも冷静ではいられない。
憧憬の対象である麗しの少女に目が釘付けだ。
さっきからシルに声を掛けられているような気もするが、ろくに返事をする余裕もない。
視界の先では、ベルに背を向けた背の高い赤毛の女性が乾杯の音頭を取っている。
「ダンジョン遠征お疲れさん!! そんでアンリマユ・ファミリア、次の遠征ではよろしくなぁ!! とりあえず今日は宴や、呑めえ!!」
号令と共に、騒ぎ始める二つのファミリア。各々グラスをぶつけあったり、呑んだり食ったりしている。
ベルの視界の先でも、アルトリアが料理を口に運んでいた。
下品やはしたなさとは程遠い食事風景。なのに凄まじいスピードで減っていく料理。もっきゅもっきゅという幻聴が聞こえるのは何故だろう。
「アンリマユ・ファミリアの皆さんも、たまにウチに食べに来てくれるんです。……ただ、いつも申し訳なさそうな、物足りなそうな、でもちょっと嬉しそうな複雑な表情で食事をするのでミアかあさ、店長からは評判が悪いんですけど」
――つまりこの店に通えば、アルトリアさんに会える可能性が高まる!?
心のメモ帳の最重要欄に書き留めるベル。
今日という一日は、本当に幸福だ。
ヘスティアに拾われた時には及ばないものの、幸運の連続に思わず頬がゆるんだ。
だが、幸運があれば、急な絶望に襲われることも冒険者の常だ。
「そういえばアルトリア、お前のあの話、聞かせてやれよ!」
きっかけは、ロキ・ファミリアの獣人の青年の発言だった。
「ゴフッ!? ……失礼。あの話?」
同じ卓を囲む青年に首をかしげるアルトリア。
盛大にむせていたような気がするが気のせいだろう。
隣に座る黒い長髪の男性からジョッキを受け取って、喉を潤しつつ問い返す。
「あれだって、ほら、昨日俺達が鉢合わせた時のあれ、5階層まで逃げやがったミノタウロス! お前が最後に始末したヤツ! そんで、ほら、あの時のトマト野郎のことだよ!!」
ドクン、と――ベルの鼓動がはねた。
「ミノタウロスって、17階層で返り討ちにしたら、上層まで逃げていったあの時の?」
「それそれ! んでよ、いたんだよその時! いかにもひょろくせえ駆け出しのガキが!!」
一瞬で理解できた。それは、じぶんのことだと。
その後続く青年によるベルへの嘲弄。ミノタウロスの血に塗れた自分が逃げ出したクダリでは、他派閥の相手だからと気を遣っていたロキ・ファミリアの面々の多くが、思わず吹き出してしまった。
いや、ロキ・ファミリアだけでない。
気づけば、酒場の客のほとんどが青年の語りに笑いを噛み殺している。
ロキ・ファミリアの幹部らしきエルフの女性がいさめるが、反発からか、青年の語りはますます熱を帯びる。
「なあ、お前もそう思うだろ!?」
何の感情も示さず黙って杯を傾けていたアルトリアに、再度声を掛ける青年。
「自分より弱くて、軟弱で、救えない、気持ちだけが空回りしている雑魚野郎に、お前の隣に立つ資格なんてありはしねえ。他ならないお前がそれを認めねえ」
青年の一言一言が、ベルの心に軋みを上げさせる。
逃げ出したい、恥ずかしい、消え去りたい、悔しい――――もうこれ以上、聞きたくない。
ベルの想いに構わず、青年は高らかに叫ぶ。
「雑魚じゃあ、アルトリア・ペンドラゴンには釣り合わねえ!!」
ダン!!!! と、凄まじい音が響いた。
青年が、思わず口を閉ざすほどの。
酒場の客が、思わず身をすくませるほどの。
何より、今まさに逃げ出そうとしたベルの身体を、その場に縫い留めるほどの迫力だった。
「何を笑う」
それを為した、小さな少女が小さく呟いた。
卓に叩きつけた杯を手放し、ゆっくりと立ち上がる。
「弱さは悪か。未熟は罪か。届かぬ想いを胸に抱くことは、許されないことか」
ぐるりと店内を見渡すその視線に、第一級冒険者を含む誰もが気圧された。
「貴方たちがそう思っているなら、私がこの場で宣言します。――否であると」
「私は知っています。弱くとも、身を挺して誰かを守る気高さを」
「私は知っています。未熟でも、それを認めてひた走る美しさを」
「私は知っています。誰に否定されても、理想を目指したその姿の――――尊さを」
それは、誰もが見惚れる姿だった。
弱さを、未熟を、不出来を綺麗なものだと語るそれは、一見すればただの戯言、優等生のキレイごとにしか聞こえないだろう。
だが、彼女の口から語られるそれは、人が無視できない力強さと具体性があった。
まるで、
「理想を抱き、裏切られ、騙され、傷つけられ……それでも、最期まで、
「多くの人がその選択を非難しました。ですが、私はその姿を尊いと思う。たとえもう二度と見ることが出来なくても、忘れないほどに」
その言葉には、尊敬があった。
その言葉には、賞賛があった。
その言葉には、その言葉には、その言葉には――――
「そんな彼だからこそアルトリア・ペンドラゴンを信じてくれました。共に戦ってくれました。救ってくれました。だからアルトリア・ペンドラゴンは――――」
そして彼女は、花開くような笑みと共に――――
「彼を、愛している」
気づいた時には、ベルは逃げだしていた。
呼び止める声や、怒号、悲鳴、いろんなものを無視してオラリオを遮二無二駆け抜ける。
その心を占めるのは後悔や悲しみ、嫉妬。そして怒り。
(何を、浮かれていたんだ、僕は!!)
アルトリアが語ったのが、誰のことかは知らない。
だが、確かにいたのだ。自分よりずっと前に。
彼女より弱く、未熟で、馬鹿みたいな想いを抱いて、それでも彼女の愛を得た男が!
(僕、は!)
ただ救われて、憧れて、舞い上がって、自分のことしか考えてなくて。
(僕は――――!!)
彼女があんな風に、自分の宝物のように語る何かなんて、一つも持ち合わせてなくて。
「僕はああああああああ!!!!」
だから今は、ただ走り続ける。
「え~、それではただいまから、セイバールート攻略wiki作成会議をはじめま~す。司会進行はこのオレ、アヴェンジャーがつとめま~す」
パチパチパチ。まばらな拍手
その場にいる全員、疲れ果てた顔をしていた。
かくいうこの私、騎士王アルトリア・ペンドラゴンことセイバーもどきも似たような状態ですけどね。
昨日の夜に始まり深夜、そして明け方まで続いた宝具まで持ち出してのOHANASHIは、とりあえず全員の精神枯渇によりひとまずの終了を得た。
これ以上騒いでも原作は止まらない。なら身内で争う前に、今後の展望を話し合うべきだという極めて建設的な結論に至ったからだ。
私も少し、ほんの少し暴れたものの、今はこのふざけた会議に参加している。
決してあのまま戦ってたら普通に負けて、意識を失っている間にキャスターに怪しげな薬品で洗脳調教をうけてらめぇ! なことになるのをビビったわけではない。
ビビったわけではないが、ランサー主軸に第一級冒険者が四人がかりで襲ってくるとか普通に卑怯じゃありませんか? バーサーカーは私の風王鉄鎚で気絶したまんまで盾にしかなりませんし。
おっと、セイバーはらめぇとか言いません、清純系ヒロインですから。
ちなみにバーサーカーは今朝までの騒動の謝罪行脚とギルドへの釈明で欠席です。
湖の騎士の外交能力、本当高いですね。
とにもかくにも、なんとかヒロインルートから逃れるためにも、ここは私がイニシアティブを取って進めなくては!
「はい、アヴェンジャー議長!」
「何かね、セイバー君」
「そもそも、原作通りっていうのがもうまず無理じゃないでしょうか!!」
続けて、と目線で促すアヴェンジャー。
「知っての通り、我々はこの十年、良くも悪くもオラリオでいろいろな活動をしてきました。派閥の立ち上げ、ダンジョン探索、闇派閥との戦い、原作にも登場する派閥との交流……ぶっちゃけ、すでに割と原作から乖離しています! ね、ランサー!!」
「……む、確かにそうだ。俺たちは、自らの生存を第一義としながらも、この都市で生きていく以上、必然的に多くの人間とかかわらざるを得なかった。……俺自身、ガネーシャやフレイヤ・ファミリアとは浅からぬ縁がある」
ええ、貴方のフリーダムな暴れっぷりは忘れていませんよ。貴方とオッタルの決闘の余波で、ウチがどれだけ賠償金を支払ったか。
「あ~、まあそうだよねー。原作だと死んじゃってる人、大勢生きてるし……」
ライダーも少しばかりバツが悪そうな顔をしている。
そうですよね、貴方とバーサーカーが絡んだあの一件の影響、すごく大きいですよね。いえ、責めてるわけじゃないんですよ? 英雄の力を借り受けている者として、相応しい行いでした。
――たとえ中身が偽物でも、大好きなFateのキャラを貶めるようなことはしない。
――誰かの運命を変える行為という傲慢さは理解していても、目の前の命を救えそうなら救う。
これが、この十年で私達、アンリマユ・ファミリアが掲げてきた誓いでした。
なんともふわっとしていて、微妙に情けなさすら漂いますが、凡人である我々にはこのくらいが精一杯でしたし、それでも悪いようにはしてこなかったつもりです。
しかぁし!!
「困りました。もう原作のゲの字も見当たりません。この状況で私だけルートヒロイン担当は、ちょ~っと負担が大きいんじゃないでしょうか? 自分たちが引っ掻き回した分の補填は、誰がしたんでしょうねえ?」
むむむ~っと可愛らしく顔をしかめるライダーと、そっと視線をそらすランサー。
よし、二騎攻略。
浮かれる私に、しかし緑衣のアーチャーから異議が突きつけられた。
「確かにオレらはすでに色々やらかしてますよ? なんなら原作ヒロインの立場変わってますし? そこのシナリオでベルが死なないように陰ながらフォローする算段までたててますし?」
「だったら……」
「でもベルとアイズ周りだけは、かわんねえように約束してきたでしょうが」
「うぐっ!」
「最悪、他のヒロインはいなくても憧憬一途があれば成長補正は続く。だったらここだけは見守ろう。アンタもそう言ってたよなぁ?」
「うぐぐぅっ!?」
それを言われればこちらも弱い。
おのれアーチャー、正論なら人を殴ってもいいわけじゃないんですよ?
「しかし、実際のところ難しい話ではあります……。人の感情とは複雑なもの。それに依存したスキルを外部からの干渉で調整するとなればさらに困難なことは自明の理。これは、確かにセイバー一人に押し付けることではありません、アーチャー」
必死に反論を探していた私に、思わぬ助け船が現れた。
うさんくさマッドサイエンティスト・パラPことロン毛のキャスターです。
「オタクはこっち側だと思ってたんだけどな、オレ」
「私はどちらにも属しません……。ファミリアの意向を、公平な裁量から叶えるのみ。そのためには、骨身を惜しみません」
正直彼が助けてくれるとか意外でした。というか、胡散臭さがすごいんですが!
「そう、複雑な感情を持つから難しいのです。……ので、私が開発中の、人の感情をとてもわかりやすく増幅するこの新薬で、ベル・クラネルとセイバーを相思相愛♡ラブラブ馬鹿ップルにしましょう」
「貴様そこに直れ、私自ら首を刎ねてやろう!」
「ちょちょちょ、セイバー落ち着いてぇ!!?」
「ええい放しなさいライダー、この聖剣で打ち倒すべき悪が目の前にいるのです!!」
「キャスターよ、その薬は恋愛感情以外にも有用なのか? 具体的には、笑いの感情の発露などだ」
「申し訳ありません、ランサー。今のところ媚やkゲフンゲフン、プラトニックな愛を育む程度の効能しか持たないのです……」
「そうか。……………………そうか」
やはりロクデナシでしたこの男! 本家のパラケルススはああ見えて正義の男なんですよ!?
ランサーもそんな怪しげな薬に興味を持たないで下さい! 原作のカルナに比べれば貴方はわりとわかりやすいです! ポンコツですけど!!
一瞬でごたついた会議を眺めながら、アーチャーが頭に手を当てため息をつく。
「セイバーはともかく、ベル・クラネルに薬盛るのは無しだ、無し。悪党以外の原作キャラには、可能な限り迷惑かけねえルールだっつーの」
「しかし、ならば実際どうするのですか? あまりこういうことは言いたくないのですが、本物ならともかくウチのセイバーが原作のアイズ・ヴァレンシュタイン並みにベル・クラネルの好感度を稼げるとは思わないのですが……」
「あはは、言えてる~。外での騎士王エミュは様になってきたけど、私生活ポンコツだもんね、セイバー」
本当に失礼ですね、この野郎ども! だいたいポンコツなのは我々全員でしょうが!
その後もああでもないこうでもないと騒ぎ立てる我々ですが、ピンポーン、と響くインターホンの音にピタリと動きを止めた。
ライダーが円卓まで駆け寄り、その中央に鎮座する水晶(キャスター謹製、外部モニター)を覗き込む。
「あれ、ロキじゃん。他にもロキ・ファミリアの人が大勢いるよ?」
「ロキが? いったい何の用だ? おい、ライダー、ちょっと玄関まで迎えに行ってくれよ」
「はいは~い」
アヴェンジャーに頼まれ、パタパタと駆けていくライダー。
いや、本当に何の用でしょう。ロキ・ファミリアとは闇派閥相手に散々共闘してきましたし、同盟組んでの遠征も何度も経験してるのでそれなり以上に親交はありますが、今日は特になんの約束もなかったはず?
しばらくして、行きと同じくパタパタとライダーが戻ってくる。
「なんかねえ、『豊穣の女主人』で遠征の打ち上げするみたいなんだけど、ウチも一緒にどうかって。セイバーがミノタウロス片付けるの手伝ってくれたお礼がしたいんだって」
おっと思わぬところでバタフライエフェクト。
額を突き合わせて
「どうします、これ、例のイベントですよね」
「ベートが読者のヘイト稼ぐアレか」
「……行くべきだろう。確かこのイベントを通して、ベルが強くなりたいとより強く望むようになったはずだ」
「でも、原作と同じような展開になるかな? ベートがセイバーに絡む?」
「そこは最悪、我々の誰かが泥をかぶりましょう。団長から聞きましたがなんとも情けない話ですね、と」
「セイバーも、これくらいなら別に良いだろ?」
「正直、嫁論争以前に、あえて少年の心を傷つけるような真似は気が進みませんが……」
上から私、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アヴェンジャー、私の順に意見を述べる。
正直、セイバールートは今も納得していませんが、これは別に積極的にベルに絡むイベントでも無し。
今後の行動を決めるまでは、なるべく原作との乖離を少なくするべきでしょう。
ベルには、強くなるためのイベントと思って我慢してもらいたい。…………いや、本当に我々みんな、これに関しては乗り気じゃないんですよ!?
うん、と肯き合い、参加を決める。
細かいタイミングとかは高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応しましょう。
「あ、オレはパスね。一般
ひ弱ですね、アヴェンジャー!
そんなこんなで合流したロキ・ファミリアの面々。
「あ、アストルフォ、ひさしぶり~」
「うわ、本当に若返ってるじゃない、アンタそれどうなってるのよ?」
「ティオネ、ティオナ、おひさ~。えへへ、それは企業秘密だよ~」
「カルナか、久しいのう。今日は飲み比べでもしてみるか?」
「答える価値はあるか? ……重傑に挑まれ逃げたとあっては、戦士の名折れだ。謹んで相手になろう」
「ゲッ、テメェらもいやがんのかよ。薬草臭くて鼻が曲がるぜ」
「なんだぁ、ベート、鼻づまりか? またケツに矢ぶち込んで座薬代わりにしてやろうか?」
「……その薬は、私が責任をもって処方しましょう」
「やめないかベート。すまない、アルトリア。遠征帰りでどうにも気が立っているようだ」
「気にする必要はありません、リヴェリア。非礼はあの二人も同様だ」
「そう言ってもらえると助かるよ。ベートも口ではああだけど、君たちのことは認めてるんだ。騎士王と、その円卓の一員はね」
「光栄だ、フィン」
一部妙なやり取りはあったものの、基本的に和気あいあいとした雰囲気で話す二つのファミリアの面々。
私自身、ポンコツどもとやりあってささくれた胃が、大人なリヴェリアとフィンとの会話で癒されるのを感じる。
と、私の直感スキルが反応した。
「アルトリアたん、久々にそのちっぱい揉まして~!! ギャブン!?」
「……ロキ、アルトリアに失礼しちゃダメ。ごめんね、アルトリア。……アルトリア?」
「あっ、ああ、申し訳ありませんアイズ。貴方の気遣いに感謝を」
背後から飛びついてきた主神を叩き落とすアイズ。
……訂正、これからのことを考えると、胃痛が増してきた。
アイズ、私はしばらく貴方の顔を直視できそうにありません……。
話してるうちに豊穣の女主人に到着。
目線は正面を見据えたまま、周囲の気配を探ると、やはりいた。
ベル・クラネルがこっちをガン見している。
横のシルをもう少し相手してあげてください。
そのまま気付かないふりで着席。ロキの音頭を聴き終え、食事を始める。
と、とりあえずエネルギー補充を! この後、ウチのファミリアの誰かが私にトマト事件の話題を振ってくるので、それまでにアドリブ対応できるレベルのカロリーを摂取しなくては(!?)
しかし、全員ロキ・ファミリアとの談笑に夢中になっているのか、やはり何も悪くない少年を馬鹿にするのは気が引けるのか、なかなか切り出そうとしない。
や、やるなら早く終わらせてください! 覚悟はできていませんが!!
そんな緊張の中、食事を続けていると、不意に同じ卓についていたベートが私に話題を振ってきた。
「そういえばアルトリア、お前のあの話、聞かせてやれよ!」
「ゴフッ!?」
こ、この切り出し方はまさか!?
全くの不意打ちに盛大にむせたものの、何とか平静を装う。……装えてるんです。
「……失礼。あの話?」
もしかしたら全く別の話かもしれない。そんな気持ちで質問する。
あぁ、ありがとうございますキャスター。ちょうど水でも飲んで落ち着きたかったところです。
「あれだって、ほら、昨日俺達が鉢合わせた時のあれ、5階層まで逃げやがったミノタウロス! お前が最後に始末したヤツ! そんで、ほら、あの時のトマト野郎のことだよ!!」
こ、こいつマジですか!?
明らかに身内で盛り上がるためのネタ、しかも身内からもヒンシュク買いかねないネタを平気で振ってきやがりましたよ!?
思わずセイバーらしからぬ汚い言葉が出てくるレベルで驚愕する私。
いけない、水を飲んで落ち着くのです私よ。
にしてもこの水、妙な味ですね。飲んでると、頭がぼーっとしてくるというか……
妙に心地よいふわふわ感に身を委ねている間に、ベートが勝手に盛り上がっている。
あぁ、私と話をしていたんでしたっけ?
ちゃんと話を聞かなくては。あれ、でもそもそもきょうなにしにここにきたのだろう……?
ぼーっとするしこうをそれでもなんとかしゅう中させて、目のまえのワンくんのはなしをがんばってきく。
だいじょうぶだいじょぶ、おきてますよ?
えーっとなになに?
「自分より弱くて、軟弱で、救えない、気持ちだけが空回りしている雑魚野郎に、お前の隣に立つ資格なんてありはしねえ。他ならないお前がそれを認めねえ」
ん?
んん? ちょっと待て貴様。
「雑魚じゃあ、アルトリア・ペンドラゴンには釣り合わねえ!!」
思わず全力で、ジョッキを叩きつけてしまった。
いや、しかしそれも仕方ない。
何せ、この男は私に言ってはならぬことを言ってしまったのだ。
弱くて? 軟弱で? 理想を抱いて溺死した馬鹿野郎? 雑魚じゃアルトリアに……セイバーに釣り合わない????
なるほどなるほど、よく理解した。
どこのどいつか知らんが貴様……
士郎アンチだな!!??
はー。こんな公共の場で吹っ掛けてきますかー。いや、よくよく思い出せば周りの奴らもくすくす笑ってましたね、なるほど、衛宮士郎アンチスレの擬人化ですね(?)。よくあることです。
上等です。どのヒロイン推しも何ならzeroアニメ時によく見かけた金×剣やら槍×剣やらも個人の趣味と温かい目で見守る私ですが、アンチは別です。
真正面からぶち抜いてやりますよ、衛宮士郎の魅力を知ったうえでFateルート百万回プレイして尊さに死ね!!
(ねぇ、なんかセイバー、変じゃない? 酔ってるの、あれ)
(いえ、あれはアルコールではなく、私の酩酊薬です。セイバーの薬物耐性を計るため、以前コスト度外視で調合しました)
(なんつーもん飲ませてんだアンタ! めちゃくちゃめんどくさい精神状況になってんじゃねえか!!)
(いやあ、緊張しているようでしたので、精神安定剤を与えるつもりが、ウッカリウッカリ)
(うっかりで済まねえだろ、ベル君泣きそうになってるじゃねえか!!)
(俺たちには好きなキャラを語っているだけとわかるが、何も知らない人間からすれば愛する者を語る乙女にしか見えないからな。仕方あるまい)
(セイバー、落ち着け、セイバアアアアア!!)
(第一段階の酩酊から、第二段階の高揚に移っています。我々の声は届きません……)
外野が何かうるさいですが、私の語りも良いところです。無視しましょう。
ふむ、しかしだいぶアンチスレ住民もだいぶ理解してきたようですね。
神妙な顔で私の話を聞き入ってます。何人か泣きそうなくらい反省してますし。
そろそろ締めくくりましょう。
思い返すと今でも胸が熱くなるシーンに、思わず笑顔を浮かべながら
良いですか、そんなわけで士郎はすごくかっこいいんです。
だからこそ原作で、セイバーもこう言ったんです。
「彼を、愛している」と。
直後、響き渡る怒号、悲鳴、怨嗟の声。
「嘘や、アルトリアたんに恋人おったなんて信じひんぞ! つるせ、ベートを、諸悪の根源をつるせええええええええ!!!!」
おお、荒ぶってますね。ちょっと士郎っぽい髪色の人。
うん、っていうかアレ、ロキですね。
大勢に取り押さえられてるのはベートですか。
あれ、なんか急に頭がすっきりしてきたっていうか。
…………。
血の気の引いた顔で振り返ると、同じく顔面蒼白の仲間たちが。
あっれええええええええええええええ!?
主人公たちは割とポンコツ。
主人公はポンコツ+ちょいゲス。
書くの楽しくなってきたので、たぶん続きます。たぶん。