ダンジョンでサーヴァントに出会うのは間違ってるでしょう!? 作:夕鶴
リヴィラでの殺人事件をすんでのところで防いだ我らが頼れる英雄、セイバーとランサー。
しかし二人の脳を蝕む謎の発作により、下手人である怪人の逃亡を許してしまった!
事態を重く見たロキ・ファミリア団長のフィンは、自派閥の冒険者達にも怪人の捜索を命じた。
十八階層各地を捜索する冒険者達。
その内の一組であるレフィーヤとティオナは、自らが怪人に狙われているという犬人の少女を保護する。
少女の事情を聞き、拠点に戻ろうとする二人。
しかし、怪人の卑劣なる不意打ちによりティオナが、次いで犬人の少女がその凶刃に倒れた。
最後に残ったレフィーヤもまた、怪人の手により命を奪われんとしていた。
絶望の涙を流す少女……。
その嘆きを止めずして、何が英雄か。
戦場に降り立つは緑衣の弓兵。
少女の祈りを背に受け、アーチャーは怪人との一騎討ちに挑む……!
そして普通に吹っ飛ばされた。
うん、まぁアレだ。ちょっと感情的になり過ぎたな。
散々レヴィス相手にタイマンやべぇって思ってたのに、普通に八つ当たりで斬りかかってたわ。
冷静になったところで、『顔のない王』で身を隠す。
とりあえずティオナと犬人の嬢ちゃんを回収しよう。流石にあの出血量はヤベェ。
コソコソと死角にまわって二人のもとに辿り着くと、キャスター印のエリクサーをぶっかけて応急処置を済ませた後、懐から『顔のない王』のスペアを取り出す。
この十年で色々試したんだが、どうもこのマント、切れ端には透明化の効果が残ってるんだが、切れ端同士を縫い合わせたりしてもメチャクチャ大きな透明マントを作ったりは出来ないらしい。
その代わり、フード以外全部切り落として、元の顔のない王とほぼ同じサイズにしても、切れ端としてキチンと透明化できる。
本体のマントというかフードは魔力を流せば元の形に修復されるとはいえ、かなり時間が掛かるから量産は出来ないし、切れ端の方は魔力を流しても修復出来ないので使い捨てになってしまうが、今はちょうど二枚ストックがある。
これで二人を包んで──おっと、懐からなんか落ちちまった。
何だコレ────
いやあああああああ赤ん坊が宝石の中に閉じ込められてるグロいいいいいいいいいい!!!!
いや、これアレか! 精霊の宝珠だかなんだか言う原作アイテムか!
え、なんでオレの懐から出てきたんだよ。あれか? バーサーカーに吹っ飛ばされてレヴィスに衝突した時、どさくさに紛れてこれもパクっちまってたのか? 冗談キツくありません?
えー、これどうしよう。レヴィスってこれ狙って今回の事件起こしたんだよな? 返したら帰ってくれるか? 無理? 無理だよなー! あー、っていうかあわよくばこのまま逃げようとか考えてたのに、思わぬ拾い物にパニクってる間にレヴィスがオレの姿が見つからないことに気付いてキョロキョロし始めやがった、ちょ、こっち見んなこっち見んな、ああぁあぁぁぁああもおおおおおお!!
ほぼヤケクソで放った矢は、残念なことにその腕に突き刺さるだけに終わった。
正直、眼球にでも当たってくれれば本当に心の底から嬉しかったんだが、世の中そう甘くないよな。知ってる。
不意打ちにお冠なのか、えらい美人な顔を怒りに歪めてなんか言ってるが、正直ほとんど頭に入ってこない。
よし、いったん落ち着けオレー。
とりあえずヤケになるのはもう終わりだ。こっからは一個一個丁寧に処理していけ。
まずティオナと犬人の嬢ちゃん。
意識は戻っていないが、傷はほぼ塞がっている。かなりの重傷だったからキャスターの秘薬でも万全とは行かないだろうが、現状すぐ死ぬ心配は無い。
次、レフィーヤ。
レヴィスに首絞められてた影響でまだ立てないようだけど、こっちも命に関わる怪我は無さそうだ。
ちょっと離されちまったからフォローするのは難しい。どうにか目立たないよう、ジッとしててくれ。
三つ目、なんかグロい宝珠。
…………。
保留!
キャスターに分析任せる! アイズ居なけりゃ暴れることもないだろたぶん! 次!
最後、レヴィス。
さっきはボッコボコにされたが、手持ちの装備を考えれば、いくらでも勝ち筋はある。
いや、もう、ピンときた。
起死回生の一手────いや、必勝の策。孔明の軍略。冴え渡る叡智の結晶。
呼び方はなんでもいいが、土壇場でのこの頭の冴えこそ、オレが他のポンコツどもと一線を画してるとこだろう。
よし、そうと決まれば早速──ってちょ、考え事してる最中に斬りかかってくるんじゃないですよ!!
女の子二人抱えたまま必死でレヴィスの攻撃を避けて、壁側まで退避。
二人を横たえると全速力でその場から離れ、未だにこちらを見失っているレヴィスにお返しの矢をくれてやる。
普通の矢と、『顔のない王』で覆った透明の矢による連撃。
初見で避けた奴はウチのポンコツ騎士王とフィンくらいしか居ない技ですよっと!
うん、豆鉄砲ほどにしか効いてませんね! ふざけろ畜生!
いやいやいやいや落ち着けオレ。ここまでは予想通り。ここからが必勝の策だ。
オレには火力補助としてキャスターに渡された液体性の爆薬がある。次は接近戦を挑むフリをしてこいつをお見舞いしてやる──!
「透明能力による、影矢か……!」
「ご明察。見える矢があると、ついついそっちに気を取られちまうよな」
姿を見せての煽り。
余裕のある態度で牽制しつつ、懐に手を伸ばして爆薬を手に取る──────
あれ?
ん? ちょっと待て。確かこの辺にしまってたはずなんだけど。んん? 一緒のポケットに入れてたはずの、ミニサイズの顔のない王詰め合わせも無いぞ?
不敵な笑みの裏で、冷や汗がほとばしる。
あれ、ちょ、ええー。あの爆弾を主軸に戦い組み立てるのがオレの必勝の策だったんだけど、どこに落とした。
まさか、バーサーカーに殴り飛ばされた時に落としちまったのか!?
ちょ、あれ無いと作戦一から立て直しになるんですけど!?
そんなオレの動揺は気にせず、レヴィスが忌々しげに吐き捨てる。
「────ハ。弓兵風情が剣士の真似事とはな!」
「……」
お前ええ!
この非常時によりにもよってその台詞言わないでくれますかねぇ!? なんか気の利いた返ししたくなるじゃねえか!
そんなオレの一瞬の動揺を突いて、卑劣にも攻撃を仕掛けてきたレヴィス。
マズい、要らんこと考えてたせいで完全に反応が遅れた────!
しかし直後、レヴィスの足元から噴き上がる爆炎。
その尋常ならざる火力は間違いなくキャスター印の爆薬に相応しい頭のおかしさだった。
ちょっと待て、オレは護身用の何かが欲しいって言ったんだ。
あんな火力、もしオレが直撃したら即死なんですけど?
いつの間に火力アップさせやがったあの野郎! そんでよくも黙ってあんな危険物、人様の懐に突っ込んでくれやがったなキャスタアアア!!
つうかよくよく周囲の地面に意識を向けると、そこかしこにオレが落としたらしい『顔のない王』の魔力を感じる。
それはレヴィスの周囲や、オレの足元。離れたところにいるレフィーヤやティオナ達の周りにも散らばっていた。
なんとなく、足元の一枚を可視化すると、妙にビチョっと湿っていた。
っていうか、爆薬を吸って、不可視の爆弾化してた。
そして、オレの周りだけ狙ったように超大量に落ちていた。
もし仮に誘爆したら────。
「あ〜、言い忘れていたけど、あんま動かねぇ方が良いぞ。この場には、オレの『
最悪の想像に、オレの口から超早口が垂れ流される。
「ここは既に(主にオレの)命の狩場ですよ?」
頼むから動くなレヴィス。
一回、一回停戦しよう。
爆弾回収したら仕切り直すから。仕切り直し:Aばりの仕切り直しを見せるから。
「──選択を誤れば、(オレやレフィーヤ達含めてマジで)何人たりとも生きては帰れぬと知れ」
「舐めるなぁ!!」
しかしオレの懇願虚しく突っ込んでくるレヴィス。
舐めてねぇよ! 必死だよ! なんならさっきバーサーカーに命乞いした時並に全力だったわ!!
「……馬鹿野郎が!」
マジで馬鹿野郎が!!
お前にも悪い話じゃないし、ちょっと待ってくれても良いじゃないですかねぇ!!
ええい、切り替えろオレ! とにかくもう何もかも後回しだ!
余計なこと考えずにレヴィスを近づけないことに全力出せ!
馬鹿みたいに頑丈なあいつならともかく、繊細なオレがこんなバ火力直撃したらその心臓貰い受ける!どころじゃなく全身飛散する!
爆炎を纏いながら接近するレヴィスに死ぬ気で矢を射掛けながら、こっちはこっちで移動する。
幸い、『顔のない王』はオレの宝具だ。
透明化しててもどこにあるかは分かる。
何者かの悪意すら感じるほどに密集して落ちてる爆弾と爆弾の隙間、猫の額ほどのスペースを必死になって跳躍する。
時にバレリーナばりの爪先立ち。
時にブリッジからの開脚前転。
カッコいいロビンフッドのイメージ的にアウトなポーズを多数取る必要があったので、流石にその時は『顔のない王』を使用して出たり消えたりしながら、なんとかレヴィスをティオナやレフィーヤ達から引き離す方向で逃げる。
ええい、多少作戦は変わったが問題ない! 当初の予定通り、爆弾を利用した戦法でレヴィスを撃破する!
本当に問題ないから! オレ、やれるから!!
現れては消える
あ、ストレスで自分の、って意味ですよもちろん。
そんなト◯とジェ◯ーのような鬼ごっこもマンネリ化しそうなタイミングで、最後の猛攻とばかりに暴れまくるレヴィス。
爆弾や、周囲のダンジョン構造物をやたらめったら壊しまくるその姿を遠巻きに眺めながら、ようやく一息つけそうだ……と安堵した直後、レヴィスがその手に持つ剣を振りかぶる。
「止めてみろ、
「んなもん当たるわけ──!?」
何かを狙い定めたレヴィスの視線に悪寒を覚えその先を見れば、オレが隠していたティオナ達の姿が、砂煙の流れによって浮き上がっている──!
「しまっ──」
辛うじて割って入るが、それが限界。
……あー。これはちょっとオレの腕力じゃ止められませんね。
迫る剣を見ながら、オレの脳裏をこの十年の走馬灯が過ぎる。
思えばドタバタした日々だったが、悪くなかった。
『アーチャー、アーチャー! やりました! ランクアップです!』
『マジでか!? やったじゃねえか、セイバー!』
オレ達の中で初めてランクアップしたのはセイバーだったなぁ。
ワンコみたいにキャンキャン興奮してて、馬鹿っぽかったもんだ。いや、オレも似たようなテンションで、一緒にはしゃいだっけ。
『おわ、ランサーの旦那、どしたんスかそのほっぺ』
『む、アーチャーか。大した話ではない。ガネーシャに頼まれ、シャクティの買い物に付き合ったのだが、お前の好みで見立ててくれと言われたのでな。防御性能と機動性を重視した鎧を持っていったら、涙目で殴られただけだ。あぁ、俺の誤解が招いたことだ。理解している』
『……一応言っときますけど、重装甲の鎧が欲しかったとかじゃ無いってのは、理解してますよね?』
『違うのか? 違うのか……』
……まぁ、オレがいなくなってもガネーシャ様がいるし、どうにかなるだろ。
『アーチャー! どうしても行くの……?』
『止めるなライダー。オレは男として行くと──いや、
『……わかった。もう止めないよ。たとえ帰ってきたキミが変わってしまっていても、ボクは受け入れる。……だから、ちゃんと帰ってきてね!』
『ライダー……。あぁ、約束する。じゃあ、行ってくるぜ────歓楽街に!』
ライダー、すまねぇ。結局、漢になったオレを見せてやれなかった……!
『なあキャスター、宝具以外での攻撃力上げたいんだけど、なんか良い案あるか?』
『おや、唐突な質問ですね。……なるほど、貴方もパワーアップイベントが欲しくなるお年頃ということですか。では、これを授けましょう。私特製の爆薬です。専用の容器から出せば、一定の衝撃で爆発します。鏃に塗って爆裂矢にしても良し。埋めて地雷にしても良し。ワイヤートラップにしても良しの優れものです』
『いや、パワーアップイベントは別に要らねえよ? 護身用程度で十分ですよ? ……しかしまぁ、確かにこりゃ便利だ。ありがたく頂いていきますよっと』
『無くなったら補充しておきますね。…………こっそり中身を改良して、「い、いつの間にかオレはこんなに強くなっていたのか……!」ごっこが出来る様にしといてあげましょう』
……言ってた! あの野郎、思い返したら最後になんかボソッと言ってた!
『いやー、流石はアーチャー! 見事、ベルきゅんの『憧憬一途』喪失を阻止してくれたなぁ』
『おいアヴェンジャー、これであのふざけた二つ名は無しだな!?』
『わーかってるわかってるって。……もし死んだら、墓に刻むのはアリ? 【
『無しに決まってんでしょうが!?』
あのアホ神、マジでしませんよね? 人の墓に変なことしませんよね?
『アーチャー、貴様、我が王を歓楽街に連れ込んだとは事実か!?』
『うわめんどくせーのが来たよ……。いや、違うんですよバーサーカーの旦那。事情があってですね──』
『事実ということか……! 問答無用。我が王の純潔は貴様の命で償ってもらうぞ!! ■■■■■■────!!』
『気色わりーこと言うんじゃねえよ! つうか誰かに聞かれたらオラリオ中から命狙われそうなデマ叫ぶんじゃねえ!!』
バーサーカーは許さん。あん時も人のこと散々追いかけ回しやがって。
っていうかよくよく考えたらオレのこのピンチあいつのせいじゃねえか。
……しかも、人のこと童貞呼ばわりで馬鹿にした仕返しがまだ終わってねえ!
っていうか後半ロクな思い出ねえじゃねえか!
流石にこれで死ぬのは嫌なんですけどねえ!?
あー、でももう無理だわ! 目の前まで迫ってるわ、今さら防ぎようねえわ!!
あー、死んだこれ! くそ、あいつら絶対枕元に立って恐怖のどん底に叩き落としてやるからなぁ!!
『────アルクス・レイ!』
しかしそんなオレに迫る凶刃を叩き落とす魔法の一撃。
振り向いた先で、息も絶え絶えながら、強い意志を込めた言葉を振り絞る妖精の少女。
レフィーヤ、愛してる────!!
マジでありがとう! 最悪の形相で死ぬとこだった!
更に幸運は続く。
レフィーヤに憎悪の目を向けていたレヴィスが吐血したのだ。
明らかに毒の作用。しかし、矢に塗っていた毒だけで、あのしぶとそうな怪人がこうも苦しむか?
まるで、第一級冒険者を死に至らしめる量の毒をあらかじめ摂取していたような────そこまで考えたとこで、ふと脳裏を過ぎるつい先程の出来事。
『■■■■■■────ッ!!』
人のことぶん殴った後に、祭りうちわ使って周囲の毒をバッサバッサ吹き飛ばしまくっていた狂戦士。
あの風に吹き飛ばされて、オレがレヴィスに直撃したってことは…………バーサーカー、愛してる────!!
「
「いつから仕込んでたかって? さて、何発もくれてやった矢か、あるいは短剣か、ひょっとしたら爆弾に練り込まれていたかもしれませんねぇ」
正解は、オレは悪くねえ、でした。
「卑怯と言いたきゃ言いな。臆病者と罵りたければお好きにどーぞ。あいにく、このやり方しか知らないし、他を知る必要も感じないんでね」
「ぬかせ! この程度のダメージで私が動けなくなると思ったか!? 貴様のくだらない矢も、罠も、毒も、私を仕留めることは出来ん!!」
ほとんど負け惜しみに近い叫びが、めっちゃ心に突き刺さる。
正直、今回、ほぼ不運と奇跡の連続による泥仕合過ぎません?
オレが自力でやったことって、レフィーヤやティオナ達の方にレヴィスが行かないよう、矢で牽制してたくらいだからな。
いや、違うんだよ、本当に。普段はもうちょっとまともに戦ってるんだよ、本当に。
心の中で言い訳をしても、我が力の原典である英雄への申し訳なさに泣けてくる。
──だから、これは八つ当たりだ。
「──この
「加減はした。聞きたいこともあるし、殺しはしねぇ。──ただまぁ、自分の英雄を馬鹿にされて笑ってられるほど、人間出来ちゃいないんスわ」
天に聳える魔力の大樹に背を向けながら、自嘲の言葉を口にする。
あ゛〜〜〜〜、みっともねえ〜〜〜〜。
いや、切り替えろ! 次だ! 次こそは、ロビンフッドに恥じない戦いをしてみせる──!
そう決意はしたが。
目の前で未だ残っていた爆弾を黒雷で一掃してのけた仮面の人物が、淡々と言葉を紡ぐ。
「マサカ、彼女ガ敗北スルトハ……。流石ハ、
流石にこれは、オレ、死にません?
ポンコツさん達は、カメラが回ってないところではちゃんとしてるんです……三回に二回くらいは。