ダンジョンでサーヴァントに出会うのは間違ってるでしょう!?   作:夕鶴

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エイプリルフールだし、半年以上前に書いてお蔵入りした嘘予告この際投稿しちゃうかー、と軽い気持ちで見返したら尋常じゃない文字数だったやつ。
劇場版的なノリで読んで頂くと、精神汚染は少ないかもしれません。

シリアス:ポンコツの割合が9:1どころじゃないので、この話にそんなの求めてねえんだよ!!って方は、下の方の長い長い改行終わりから読むと、あっ(察し)ってなるかもです。


超・外伝『Fate/Grand Order 亜種特異点⁇:迷宮神聖都市オラリオ』

 

 

 

 

 

 ──僕の、責任だ……! 

 

 

 血と炎と灰に覆われた世界で、少年は喘ぐ。

 左腕の肘から先は存在せず、右足もおかしな方向に曲がっている。

 兎のよう、と言われた白髪は血と灰と泥で汚れ、もはや見る影も無い。

 

 それでも少年が俯くことは無かった。

 

 自らをここまで傷つけた死神を、真っ直ぐに睨む。

 

「終わりです。ベル・クラネル」

 

 何度も何度も、自分の名前を呼んでくれたその声。

 時に優しく、時に厳しく、それでもいつだって自分を案じるような、見守るような暖かな陽だまりのような響きはそこに無い。

 どこまでも冷酷に、どこまでも冷徹に、彼女は逃れ得ない死を告げる。

 

 【勇者】も【剣姫】も、【猛者】でさえ彼女には敵わなかった。聖剣──否、もはや黒く染まった魔剣の極光の前に、骸すら残さず消え去った。

 

 

 ────それでも。

 

 

 

「僕は、諦め、ません」

 

 

 ヒュー、ヒューとか細い息で、ベルは闘志を燃やす。

 この世界で、最後に残った冒険者として諦めることは許されない。

 震える右手を彼女に向け────無造作に落とされた彼女の脚に踏み潰された。

 剣を振り抜く間際、彼女は小さく呟く。

 

 

「さようなら、     」

 

 

 最後に彼女は何と言ったのか。

 

 その前に首を刎ねられた少年には届かなかった。

 

 命の灯火が消える最後の刹那、少年は思う。

 

 

 

 もし。

 

 もし、次の機会があるなら。

 

 その時こそ、自分は。

 

 

 

 ──彼女を  。

 

 

 

 湿った音を立て、少年の首は地に落ちた。

 

 これで、この世界にはもう誰もいない。

 

 黒き騎士王、ただ一人を除いて。

 

 

 彼女は数秒、動きを止め────やがて踵を返すと、崩壊したバベルを目指す。

 

 

 

 ────さぁ、世界を終わらせよう。

 

 

 

 

 

『Fate/Grand Order 亜種特異点⁇:迷宮神聖都市オラリオ』

 

 

 

 

 

 カルデアにて毎度お馴染み、微小特異点が観測された。

 

 時代は五世紀末。場所はブリテン。

 

 伝説に名高き、アーサー王の時代だ。

 

 

「緊急性は低いと思うけど、特異点は特異点だ。今回も期待してるよ、立香ちゃん」

「先輩のバイタルサインは常に私がチェックしています! ご安心ください!」

「大船に乗ったつもりで、まっかせてくださいダ・ヴィンチちゃん! マシュも、よろしくね」

 

 カルデアの技術顧問兼所長代理の美女(?)と、フンス! と意気込む美少女に見送られ人類最後のマスターだった少女、藤丸立香はコフィンに入る。

 元気いっぱいな彼女を、一年以上の時を共有したスタッフ達がサムズアップや笑顔など、それぞれのやり方で励ましながら見送る。

 そこに不安はない。幾度行っても消えない職務への緊張感や責任感はあれど、魔神王との戦いを乗り越え、大きく成長したマスターへの信頼が彼らにはあるのだから。

 

 

 

 

 だから、部屋の片隅でモニターを眺める探偵の曖昧な表情に、誰も気づくことは出来なかった。

 

「……ふむ、この特異点……何かがおかしい。これは、特異点というよりは、そう、下総のアレに近いのか? しかし──」

 

 ──今は語るべき時ではない。

 

 一人頷いたホームズは、せめて何一つ見逃すまいとコフィンに目を向ける。

 そこでは、今まさにレイシフトが行われようとしていた。

 

 しかし──

 

 

「ダ・ヴィンチちゃん!? レイシフトの座標指定に異常が!!」

「何だこれは──文字化け!? いけない、このままでは立香ちゃんが虚数空間に叩き落とされる! 即座に中止、彼女を回収するんだ!!」

「ダメです! こちらからの操作を受け付けません!!」

 

 

 明らかな異常事態。

 

 ホームズがレイシフトの瞬間に立ち会った経験はさほど多くはないが、それでもこれが危険な状態だとは理解できる。

 

「彼女の反応は!?」

「バイタルサインは全てクリア! 藤丸さんの存在証明は正常に行われています!」

「せめてもの幸いか……! 場所は!? 通信は繋がるかい!?」

「全力でサーチ中です!」

 

 職員達の怒号を背景に、探偵はそっと呟く。

 

「今回の特異点────中々の難事件となりそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

「あぶふぁ!?」

 

 ズベシャ、と顔面から地面に突っ込み、乙女にあるまじき悲鳴を上げた藤丸立香。

 くぅぅ、と呻きつつ、鼻を押さえて立ち上がる。人類最後のマスターはこのくらいではへこたれないのだ。

 

「ダ・ヴィンチちゃーん、マシュー、着いたよー? …………。みんなー?」

 

 通信機に語りかけるが、返答がない。

 

 大丈夫。まだ落ち着いている。こういうケースも何度かあった。人類最後のマスターは経験豊富なのだ。

 

 

「とりあえず、人がいそうなところに移動して……っていうか、ここ、どこ?」

 

 右も左も剥き出しの岩肌。見上げても岩。見下げても岩。

 

 通路はしばらく行った先で曲がっており、なんとなくその先でも何度も曲がってるんだろうなぁという予感がした。

 なんとなく、日本にいた頃プレイしたゲームを思い出す光景だ。

 

「とにかく、歩いてみよう!」

 

 あえて明るい声を出し、自分を奮い立たせる。

 しかし十歩と進まない内に、少女の歩みは止められた。

 

 ビキ、ビキ、と音を立てながら床を裂き現れた小鬼のような怪物が、冷たい目で彼女を睨み据えたからだ。

 

 

「!!」

 

 今までにない出現方法に驚くものの、そこは歴戦のマスター。

 礼装に魔力を流しつつ、彼女は自らと契約した仲間(サーヴァント)を呼び出す。

 

「クー・フーリン!!」

 

 現れたるはケルトの大英雄。ドルイドの深奥を修めし魔術師だ。

 

 意思ある実像ではなく、力のみを振るう影法師(シャドウ・サーヴァント)として呼び出された仮初の存在としてもその力は本物。

 杖より放たれた火球が怪物を即座に焼き払い────しかし怪物は、絶叫をあげながらも生きている。

 

「そんな!?」

 

 今まで数多の怪物──それこそ、ティアマトの仔を含む神獣魔獣も──を打ち倒してきた一撃が、明らかに低級な怪物を殺しきれない。

 嫌な汗が滲むのを自覚しつつ、それでも立香は落ち着いて指示を出す。

 

 通常の魔術で倒せないなら、更なる力を行使すれば良い。

 

 

「令呪使用、宝具解放!!」

 

 彼女の右手に刻まれた令呪の一角が消失し、同時にクー・フーリンに莫大な魔力が注ぎ込まれる。

 影法師は自らをキャスターたらしめる真価、ウィッカーマンを呼び出さんとし────しかし、何も起こらなかった。

 

「宝具が、使えない!?」

 

 今度こそ彼女は動揺した。

 英霊を英霊たらしめる象徴、宝具が使えないなど、今まで有り得なかったことだ。神霊のような強大な存在に力を封じられているのとも違う──そもそも、宝具などというものは、最初から存在しなかったような手応えの無さ。

 

 仕方のないことだ。あまりにも当然の反応だ。しかし。

 

 その隙は、()()迷宮において致命的だった。

 飛びかかった小鬼の一撃でクー・フーリンの影は消滅し、怪物はそのままの勢いで立香に襲いかかる。

 

「! このぉ!!」

 

 礼装に魔力を走らせ、ガンドを撃ち込む。

 狙い違わず命中した魔弾は、僅かに小鬼の動きを止めた。が、所詮そこまで。

 

 即座に回復し、再度襲いかかる小鬼。

 せめて急所を守ろうと腕を上げた立香。

 そして────

 

 

 

『ファイアボルト!』

 

 

 

 炎雷の矢が小鬼を討ち倒す。

 

 

 

「へ?」

 

 思わずポカンとした彼女が振り向くと、緩やかな足取りで近づくものがいた。

 

 

 土と血に塗れて汚れた白髪。

 暗く沈み、澱を湛えた紅眼。

 かつて眩く輝いていたであろう白銀の鎧はくすみ、あちこちに傷が走っている。

 幽鬼の如き出で立ちの中、その手に携えた紫紺の刃だけが暖かな光を灯していた。

 

 

「君、は」

 

 なんとか声を搾り出した立香に応えるように、その少年は薄く微笑む。

 

 

「はじめまして、カルデアのマスター。僕はベル・クラネル────セイバーの、サーヴァントです」

 

 

 

 かつて世界を救った、ただの少女。

 

 いずれ世界を救うはずだった少年。

 

 

 あり得るはずのない邂逅が、ここにあった。

 

 

 

 

 

 

『ベル・クラネルに迷宮都市オラリオ……。なるほど、【迷宮神聖譚】の登場人物と舞台か』

 

 

 少年に連れられ迷宮を脱出した立香は今、彼が拠点にしている廃墟で休んでいた。

 カルデアと連絡は依然取れず、どうしたものかと悩んでいたところ、妙に見覚えのある卓に手をついた途端、通信が正常化したのは僥倖だったという他ないだろう。

 そのまま少年──ベル・クラネルを交えて情報交換を行い、ベルに都市の名前を聞いたところ、カルデアの名探偵ホームズが聞き覚えのない単語を口にした。

 

「あのー、私、そのお話知らないんですけど……」

『そうなんですね。では僭越ながら、このマシュ・キリエライトがご説明を!』

 

 コホン、と可愛らしい咳払いを行い話し始める後輩。

 

『先輩は、アーサー王伝説をご存知でしょうか?』

「まぁ、なんとなくは」

 

 始まりの地冬木と第六特異点キャメロット。

 

 二つの特異点で出会った騎士の姿を思い浮かべながら、立香はうなずく。

 

「確か、アーサー王が選定の岩に刺さった剣を抜いて王様になって、武者修行して、国をヴォーティガンから取り戻して、色々冒険して、最期はモードレッドと相討ちになるんだよね?」

『流石です、先輩! 迷宮都市オラリオは伝説の序盤、アーサー王が選定の剣を引き抜き国を取り戻すまでの修行期間に訪れたとされる都市です。地下に広大な迷宮が広がるその都市で王と騎士達は腕を磨き、見事、卑王から国を取り戻すのです!』

「んー? 私が読んだ本にはそんなこと書いてなかったけど……」

『あっ、それは、その……』

 

 何気ない立香の言葉に、興奮気味に話していたマシュが途端に元気を失う。

 その様子を見かねたのか、ホームズが話を引き継ぐ。

 

 

『ミス・藤丸が知らないのも無理はない。オラリオでの物語は決して有名なものではなく、むしろその荒唐無稽な舞台設定から、後世における創作であるという見方が強い。取り上げていない文献の方が多いだろう』

「……どういうこと?」

『伝承に曰く、オラリオには世界各地の英雄豪傑と、天界よりあらゆる神々が実体を保ちながら集まったそうだ。記述があるだけでも、ギリシャ、北欧、日本、インド……多くの神話体系の神がその名を連ねている」

「おぉ……それはなんというか、ゴージャスな……」

『遠く離れた異国の神話を取り入れる程度には、後の時代で作られた物語なのだろう。さらに大きな特徴もある────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「え? アーサー王は女の人でしょ?」

『…………世間一般的に、アーサー王は男だと思うよ、ミス・藤丸』

「……あっ、そうだった」

 

 素で忘れていた。

 

『とにかく、迷宮神聖譚とは本来ならば神話としてのテクスチャすら存在するはずもない、世界そのものが幻霊とでも呼ぶべきものだ』

「へー……ハッ!?」

 

 バッ、と後ろを振り向くと白髪の少年が困ったように頬を掻いていた。

 無理もない。彼からすれば、目の前で自分たちの世界はただの創作に過ぎないと言われたのだから。

 

「ご、ごめんね、ベル!」

「気にしてませんよ、マスター。僕も、サーヴァントになったことで世界の仕組みは少しだけ理解しましたから」

 

 慌てて謝罪する立香を、少年は笑って許す。

 それよりも、とベルは表情を改める。

 

 

「皆さんには、この地を特異点へと歪めている元凶──僕らが倒さなくてはいけない、敵をお話しします」

 

 

 

 

 

 少年が語ったのは、一つの世界が終わる物語。

 

 

 

 始まりは、一柱の神が太古の魔獣に捕食されたことだった。

 魔獣の名はアンタレス。古き時代にダンジョンより逃れ、封じられていたサソリの魔獣。

 喰われた神の名はアンリマユ。魔獣を討つ為に派遣された二つの派閥の内の一柱。

 複数の第一級冒険者も所属していた彼の派閥は、しかし()()()()()()()()()()魔獣により壊滅状態に追いやられる。

 彼もその混乱に巻き込まれて眷属と離れてしまい、隙を突かれて捕食された。

 

 

 ──悲劇はそこから始まった。

 

 

 悪神を喰らったアンタレスは、赤黒い泥を生み出し、その場にいた冒険者をどんどん飲み込んでいった。

 

 逃れられたのは一人だけ。

 日輪の英雄が命を賭してこじ開けた泥の囲いを、ヒポグリフに乗せられた騎士王だけが辛うじて突破できた。

 

 彼女はオラリオに戻り、この緊急事態を告げた。

 

 ただちにオラリオの中でも最強の派閥達が集められ、第二次討伐隊が組織された。

 

 

 ──これこそが第二の悲劇。

 

 

 結果は惨敗。

 

 泥に飲み込まれたはずの日輪の英雄や湖の騎士といった冒険者達が()()()()()、討伐隊を散々に打ち倒し、泥に捧げていったのだ。

 そして捧げられた彼らもまた、黒く染まった姿で現れかつて仲間だった者に襲いかかった。

 

 最高戦力の多くを失い、あまつさえ敵にそのまま奪われたオラリオに──世界に希望はもはや残されていないのか? 

 

 

 

 ────否。騎士王が、未だ残っている。

 

 

 アンリマユとの契約が消え、戦う力を失っていた彼女は第二次討伐隊に含まれていなかった。

 眷属のほとんどを失った女神ロキと再契約を果たした彼女は、難を逃れた少数の強者達と第三次討伐隊を結成。

 下級冒険者を都市前面に配置して陽動とし、後背から泥の軍勢の首魁──アンタレスに強襲を掛けた。

 傷つけても傷つけても蘇る太古の魔獣は依然脅威であったが、此度の騎士王には勝機があった。

 最初にアンタレス討伐を請け負った月の女神が、天上への送還と引き換えに召喚した神器の矢と、それを託された少年。

 剣姫がヒビを入れた外殻の隙間に、彼は渾身を以て叩きつける。

 光となって翔けた女神の矢は、狙い違わずアンタレスを──その内に取り込まれていた悪神を討ち取った。

 崩れゆく魔獣を見て、誰もが歓喜した。

 数多の犠牲を出した悲劇が、ようやく終わったのだと。

 我らは未来を取り戻したのだと。

 

 

 

 ──そして、最後の悲劇が始まる。

 

 

 

 突如溢れ出した黒泥が、意志を持つかのようにもがき、のたうち、自らを傷つけた少年を新たな宿主とすべく殺到した。

 そして────

 

 

 

 

 ベル・クラネルは忘れない。

 

 初めて会った日と同じように。

 

 軽やかに。凛々しく。気高く。

 

 当然のように立ちはだかり、真っ向から泥を受け止めた誇り高きその姿を。

 

 それは、彼女にとって当然の行為であり────世界を滅ぼす、最悪の選択であった。

 

 

 

 泥の濁流が収まった時、そこにいたのは皆が知る騎士王ではなかった。

 黒く染まった鎧に身を包み、誇りと慈愛に満ちた瞳をバイザーで覆った姿。生の活力に満ちていた肌は病的な白さとなり、何より清冽な彼女の気配が、黒く澱んで垂れ流されていた。

 

 

 

 

 堕ちた騎士王は、まず肩を並べて戦った強者を皆殺しにした。

 【勇者】も【猛者】も【剣姫】も、全員死んだ。

 その後、都市外部でアンタレスの眷属と戦っていた下級冒険者を葬り去り、黒き極光を以てオラリオを蹂躙した。

 眷属を奪われた神々が、オラリオを守る為に戦ったのか、あるいは下界の運命と静観したのかはベルには分からない。

 ただ一つ分かることは、騎士王はオラリオの神と人を滅ぼし尽くした。その事実だけだ。

 

 ベルも彼女と戦った。討伐隊に所属していながら、はるか格下の彼を殺す価値も無いと見たのか、一度は騎士王も見逃した。

 だが、全てが滅びた後のオラリオにて騎士王に追いつき戦いを挑んだ少年を、二度も見逃しはしなかった。

 

 

 

「──そしてその時死んだはずの僕は、気づいたらサーヴァントとして存在していました。……ここ、アンリマユ・ファミリアのホーム『キャメロット』に」

 

 

 コツン、と。少年は自らが座す円卓を叩く。

 

「神様も、エイナさんも、シルさんも、ロビンさんも、みんな、みんな居なくなった世界で、僕だけが存在してる。だから、これは義務なんです」

 

 瞳は暗く澱み、かつての希望に満ちた少年とは似ても似つかず。

 

 

 

 

 

「────僕が、あの人を殺します」

 

 

 

 

 少年の誓いが、哀しく響いた。

 

 

 

『ミスター・クラネルの説明が正しければ、恐らく最初はアンタレスという怪物が聖杯を所持していたんだろう。それが魔神王が遺したものか、はたまた偶発的に生み出されたものかは不明だが、とにかく、聖杯を手に入れたアンタレスは地上を滅ぼすために動き始めた。そして今、聖杯を所有する騎士王は迷宮を攻略している。これは間違いないね?』

「はい、召喚後に探索をしていた時、迷宮の入り口が地上側から破壊されていました。たぶん、あの人がやったんだと思います」

 

 カルデアから通信を飛ばすホームズに、ベルは首肯を返す。

 少しの思索の後、名探偵は重々しく告げた。

 

 

 

『……ならば、早く彼女を止めなければ。もし彼女が迷宮最下層に到達すれば、人理は再び消滅する』

 

 

 

『そもそも迷宮都市オラリオは本来なら存在し得ない、数多の神話から影響を受けた創作のはずだった。しかし、そこに正規の英霊と同じ霊基を持つアーサー王が存在してしまっている。願望器たる聖杯まで所有してね。ここで一つの可能性が発生する。────本物のアーサー王がいるならば、この世界(オラリオ)こそ正しき世界なのではないか、とね』

 

『本来なら、この程度では正しき歴史──汎人類史が塗り替えられることなど起こらないだろう。だが、ゲーティアによる人理焼却により、世界は未だかつてない不安定な状態だ。そう、あり得ない異聞の発生すら起こり得るほどに』

 

『空想は現実に。数多の神話から生み出された物語は、それこそが数多の神話の原典へと上書きされる』

 

『そして、アーサー王の物語において、彼──彼女は、迷宮の最奥に到達せずにオラリオを去っていた』

 

『もし仮に彼女が迷宮を踏破してしまえば──その奥に待ち受けるものが、世界の在り方すら変えてしまう真実だったなら──その特異点から広がった影響が、この世界にどれだけの影響を及ぼすかは計り知れない』

 

 

「……止めなきゃ。絶対に!」

 

 ホームズの推理に、カルデアのマスターは強く宣言する。

 

「ベル……貴方にも手伝ってほしい。()()世界を、壊させないために!」

 

 伸ばされた手を、少年は眩しげに見つめる。

 僅かな逡巡。

 しかし、少年もまた、少女の手を強く握る。

 

「……はい。()()()世界を守るために」

 

 

 

 

「立香、足止めを!」

「了解! レオニダス!!」

 

 丸盾を構えた槍兵が、上半身のみを生やした巨大な骸骨──ウダイオスの攻撃を受け止める。

 まともに食らえば一瞬でミンチになりかねない怪物を完全に抑え込む様は流石はサーヴァント。

 次の瞬間、紫紺の光が走り怪物を切り裂いた。

 灰となった怪物に見向きもせず、少年は周囲を見回す。だが怪物はこれで打ち止めのようだ。

 フゥ、と一息ついた少年に明るい声が掛かる。

 

「お疲れ様、ベル!」

「うん、立香も、ありがとう」

 

 ダンジョンの奥底にも関わらず元気なその声に、ベルは少しだけ微笑んだ。

 何日も何日も掛けてダンジョンを攻略する中で、少しだけ心を開いてくれた少年に立香も笑い返す。

 

 とはいえここはダンジョンの深層。

 世界が滅びる以前とは様変わりしたとはいえ、未だに危険極まりない魔境には違いない。

 

 それに人理が揺らぎ、創作に過ぎないはずの世界が力を持ったこの特異点において、本来なら正しき人類史の英霊こそが儚い幻霊に堕とされた。

 立香が呼び出すサーヴァントが弱く、宝具すら発動出来ないのもその為だ。

 故に、この世界で座に刻まれたベルこそが唯一の万全な戦力なのだ。

 

 静かに気を張る少年に、立香はまあまあ、と落ち着くようにジェスチャーを行う。

 

 少年の話では、ダンジョンとは常に油断が出来ない場所で、一度モンスターを狩り尽くしてもすぐに母胎たるダンジョンが産み出すとのことだった。

 だが、騎士王に蹂躙された後のダンジョンは少し様子が違い、一度攻略した階層ではモンスターが新しく生まれず、未だモンスターが残る階層でも、立香達が先に進もうとしない限りモンスターの方から襲ってくることもなかった。

 ダ・ヴィンチちゃんの解析によると、とある階層で膨大な魔力反応が連続して出現と消滅を繰り返し続けており、恐らく騎士王の侵攻を食い止めることにダンジョンが総力を傾けているためではないか、との推測が為された。

 

 それでも完全な油断は出来ないが、休める時に休んでおかなくては。

 

 立香達は既に、生前のベルの到達階層より遥か深く────深層と呼ばれる領域にまで、何日もかけて辿り着いたのだから。

 

 ベルにも座るよう促すと、立香は食事の用意を始める。

 『キ』とカタカナで刻まれた折り畳み式鍋に親指の爪先ほどの大きさの茶色いキューブと魔石を入れ、鍋を振ると、魔石が淡く光りながら体積を減らし、代わりにキューブがドロっとした液体になりながらどんどん嵩を増す。

 一分もしないうちに、温かなクリームシチューが鍋一杯にまで発生した。

 

「はい、ベルの分」

「……ありがとう」

 

 

 この鍋もシチューの素のキューブも、ベルが召喚された場所──アンリマユ・ファミリアの拠点の中、とある錬金術師の工房に保管されていたらしく、その他様々なマジックアイテムが立香達のダンジョン攻略に役立てられている。

 

 

 閑話休題。

 

 

 シチューを食べながら立香はベルの顔を窺う。

 少し躊躇いを見せた後、彼女は強く頷いた。

 

 

「ねぇ、ベル。教えてほしいんだ」

「? どうしたの、立香」

 

 

 

 

「────貴方にとって、アルトリアさんってどんな人?」

 

 

 

 

 カシャン、と。

 ベルの手からスプーンが落ちた。

 

「……仇だよ。神様や、この街に住んでた僕の大切な人達の」

「本当に?」

「当たり前じゃないか。僕はこの街を滅ぼして、君たちの世界も壊そうとしている彼女を殺すために召喚されたサーヴァント……あの人には、怒りや憎しみしか抱いてないよ」

 

 拾ったスプーンをシャツで拭うベルの手を、立香は強く握りしめた。

 

 

 

 

「────だったら、なんでそんなに辛そうなの?」

 

 

 

 

「ベルが、私たちの世界のために独りで戦ってくれてたのはわかってる。その為に、アルトリアさんを倒さなきゃいけないのもわかってる。……それでも、ダンジョンを攻略する度に、貴方が苦しんだ顔を浮かべるのは、辛い思いをするのは、私は納得できない!」

「……そうか。心配させてごめんね、立香。でも大丈夫。もうそんな顔はしないよ。だからどうか、僕を道具(サーヴァント)として使い潰してほしいんだ」

 

 優しい笑顔を浮かべてそんなことを言う少年の両頬を、立香はパンッ、と音を立てて掴むと、

 

「イヤだ!!」

 

 眦を吊り上げて、叫んだ。

 

「私にとって、ベルは道具じゃない! 私の命の恩人で、短い間でも一緒に迷宮を冒険した仲間だ! そんな人が苦しんでるのに、見過ごして自分の世界だけ守られれば良いなんて、私は私を許せない!」

 

 だから、と。彼女は懇願する。

 

「話してよ、ベル。貴方にとってアルトリアさんはどんな人なの? ────本当は、貴方は何をしたいの?」

 

 

 

 少女の願いに僅かに逡巡したベルは、それでもなんとか取り繕おうとする。

 当たり障りの無いことを言って煙に巻き、さっさとアルトリアの元まで辿り着こう────それで、ようやく自分も終われる。

 

 だが、いざ口を開こうとした時、少年は見てしまった。

 

 神の加護すら受けぬ身体で、過酷なダンジョン攻略に弱音も言わず付いてきた少女。

 

 

 そんな強い少女が────涙を流していた。

 

 

 

 

「アルトリアさんは、僕の憧れなんだ」

 

 気づけば、言の葉を紡いでいた。

 

「僕の命を救ってくれた人で、僕に道を指し示してくれた人で、僕を強くしてくれた人なんだ」

 

 やめろ。止まれ。何も言うな。

 

「強くて、優しくて、誇り高くて。誰かの笑顔こそが自分にとっての幸福だって本当に信じてる、誰よりも美しい人なんだ」

 

 せっかく考えないようにしてたのに。忘れようとしてたのに。

 

「でも、僕は知ってるんだ。あの人は、みんなが思ってるほど強くなんかなくて、人並みに悩んだり苦しんだりしてるのを、必死に隠して強がってる人なんだって。だから僕は────ぼく、は……っ」

 

 人理の為に戦うと誓っただろう。だからもうやめろ。

 

「あのひとを、まもりたいって……っ。あのひとの、英雄になりたいって……!」

 

 これ以上話せばベル・クラネルは────

 

 

 

 

 

「ぼくは、アルトリアさんを、ころしたくなんかないんだ……!」

 

 

 

 

 

 ────もう、戦えなくなってしまう。

 

 

 

 召喚されてから、ずっと心の奥底に封じていた想い。

 自分が何を為すべきか理解していたからこそ、考えてはいけなかったこと。

 ベル・クラネルは、アルトリアを護るために強くなると誓ったのだ。

 なのに────なのに、どうして彼女に刃を向けられる。

 

 心を削り、擦り減らし、生前同様ダンジョンで魔物を狩って力を磨いて────でも、どうしても彼女を追ってダンジョン奥深くに潜ることは出来なかった。

 そんな中、一人の少女が現れた。

 藤丸立香。人類最後のマスター。いずれ来ると最初から知っていた、この世界の歪みを正す者。

 ベルは彼女を理由にした。

 自分は彼女の世界を救うのだ。その為に戦うのだ。

 そこに自分の意思は無く、だからこそなんだってやれてしまう。

 その過程に不都合になる感情を無理やり騙してここまで来たのに────他ならぬ彼女自身の手で、その封印を解かれてしまった。

 

 もう自分は戦えない。

 

 これ以上自分に嘘を吐けない。

 

 少年の心は、今まさに折れようとしていた。

 

 

 

 ──だが、彼はもう、独りではない。

 

 

 

 泣きじゃくるベルを──ここまで頼もしく自分を導いてくれた少年の弱さを見て、藤丸立香の心に決意の火が灯る。

 

 

 

「わかった。ベル……ここでお別れしよう」

「! そんな、ダメだ、この世界じゃ、君のサーヴァントは力を出せない!」

「……それでも、貴方をこれ以上戦わせられない」

 

 

 震える手を無理やり押さえ込み、少女はニッ、と強く笑う。

 

「大丈夫! これでも私は世界を救ったマスター! ……らしいから!」

 

 ギュッと少年の手を取った彼女は、しっかりと目を合わせて宣言する。

 

「ベル。私は、これからアルトリアさんを傷つける。……でも誓うよ。貴方の大切な人を、これ以上穢させない」

「!!」

 

 目を見開くベルに、最後に優しく微笑むと少女はサーヴァントを呼び出した。

 

 馬頭人身馬体を持つ騎兵、中華の大英雄、呂布。

 ヒョイと担がれた彼女は、最後に小さくバイバイ、と手を振ると、サーヴァントを走らせる。

 

 

「待って、立香!」

 

 

 取り残された少年は、また独り。

 だが、その心には先ほどの少女の言葉が木霊する。

 

 

 

「アルトリアさん、に……これ以上……」

 

 

 

 

 

 ────その背に、再び熱き火が灯ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 ゴウ、と。

 黒き聖剣の一撃が、迷宮の尖兵たるジャガーノート、その最後の一体を破壊した。

 周囲に散乱する灰と魔石には目もくれず、彼女────セイバーは静かに告げる。

 

 

 

 

「────彼は、いないのですね」

「ベルが居なくても、私の仲間たちだけで十分だよ」

 

 視線の先には、この身に縁深き少年を思い起こさせる、オレンジ色の髪の少女。

 その身をここまで運んできたライダー以外にも、新たにサーヴァントを呼び出し、計六騎のサーヴァントを並べる。

 しかし摂理異なるこの世界において、汎人類史の彼らはあまりに弱々しい。

 対する黒き騎士王は聖杯の恩恵によるものか、かつて冬木の地で相見えた彼女より、はるかに強大な魔力を漲らせている。

 

 

 

 ────だが、そんなことは関係ない。藤丸立香にできる事は、自分の全力をぶつけるだけだ。

 

 魔力を回し、サーヴァント達に号令を掛け──

 

「思い上がりも甚だしい」

 

 一閃。

 

 ただそれだけで、神域の碩学たる弓兵が両断された。

 

「な!?」

「読み違えたな、星見の魔術師よ。この世界の命運を握るは貴様ではない」

 

 ヒュン、と軽く剣を振り、堕ちた騎士王は告げる。

 

 

「────端役は端役らしく、疾く失せるが良い」

 

 

 

 

 

 戦闘──否、蹂躙としか呼べないそれは、ほんの数分で終了した。

 最後の一騎を討ち倒した騎士王は、世界を救った少女に剣を向ける。

 

「ではな、……くっ!」

 

 疾る炎雷の矢。咄嗟に翳した騎士王の手に触れると、それは爆炎を撒き散らす。

 対魔力により無傷とはいえ、一瞬視界を奪われた。

 風の鞘を解放して即座に煙幕を晴らし────彼女は、静かに頷いた。

 

 

 

「迷いは晴れたのですね────ベル」

 

 傷つき、汚れた姿はそのままに────しかし、その瞳に強き光を取り戻し、再び少年は戦場に帰還した。

 

 

 

 

 

「ベル、どうして……?」

「君のおかげだよ、立香」

 

 魔力の欠乏により意識が薄れかける立香に、ベルは優しく微笑む。

 

「気づいたんだ。たとえ堕ちても、アルトリアさんがこんなことを望むはずが無いって。例えその手を仲間の血で穢そうと、心が悲鳴を上げているはずだって。……止めてあげられるのは、僕だけだって」

 

 苦笑しながら、彼は続ける。

 

「考えたらわかるはずだったんだ。なのに、僕は自分が嫌だからって逃げて逃げて、答えから目を背けようとしてた」

 

 少年の身に光が宿る。

 

「アルトリアさん。僕は今から貴方を傷つけます。怒りからでも、恨みからでもなく──」

 

 壊れた鎧は修復されその輝きを更に増し、紫紺のナイフは主の願いを叶えるべくその身を研ぎ澄ます。

 

 

 

「──貴方を、愛しているから」

 

 

 

 

 

 カルデア管制室にて。

 

「ベル・クラネルの魔力反応増大……これは、霊基の再臨!?」

「──今回の事件で一つだけ、不可解な点があった」

 

 突然の現象に驚く偉大なる芸術家に聞かせるでもなく、探偵はひとりごちる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()? オラリオにはフィン・ディムナやオッタルなど、騎士王に匹敵する英雄も少数と言えど存在した。騎士王により討たれたとはいえ、彼らを差し置き、何故ベル・クラネルでなければいけなかったのか」

 

「答えは簡単だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。彼の召喚者は知っていたのだ。他の事件ならともかく、ことオラリオの騎士王に絡んだ件ならば、彼こそが最も強いと。強くなってくれると」

「……なら、一体誰が彼を召喚したんだい?」

「それこそ、簡単な推理さ」

 

 

 

 探偵は静かに微笑む。

 

 

 

 

「サーヴァントは、聖杯に招かれるものだよ」

 

 

 

 

 

「ハァッ!!」

「フッ!!」

 

 激しく火花を散らしながら、漆黒と紫紺の輝きが入り乱れる。

 

 目にも留まらぬ紫紺の刃が乱舞すれば凄絶なる漆黒の一撃が全てを蹴散らし、黒の魔風が荒れ狂えば紅き炎雷が掻き消す。

 白き少年は、もはや憧憬の騎士王とも対等に渡り合うほど強くなり、その力は刻一刻と増し続けていた。

 背中の熱が。失われたはずの女神の恩寵が、少年の背を押す。

 愛する女を救ってみせろと────! 

 

 一際強烈な打ち合いの末、二人は大きく弾き飛ばされた。

 

 セイバーは魔力放出により勢いを殺し、即座に体勢を立て直しながら少年を称える。

 

「素晴らしい、ベル。もはや正面からの戦いですら私と互角ですか。今の貴方が相手では、私ですら勝利は危うい。────ならば」

 

 ズ、と。

 空気が粘性を帯びたかのような重圧。

 セイバーは己が胸に手を翳し、()()を取り出した。

 

 

「我が全霊を以て貴方を討ち倒し、私は世界を滅ぼす」

 

 

 黒く染まったそれこそはこの地の聖杯。

 彼女の手を離れ浮かび上がったそれは、励起し、騎士王に魔力を注ぐ。

 そも、英霊にとって、武器での打ち合いなど前座。彼らの真価は宝具にある──! 

 

 

 

十三拘束解放(シール・サーティーン)円卓議決開始(ディシジョン・スタート)

 

『是は、■■■■■■■■■■──《■■》』

 

 

『いけない! 立香ちゃん、ベル! 彼女に宝具を使わせるな!』

 

 悲鳴に近い指示がダ・ヴィンチから届く。

 

 さもありなん。これこそが、セイバーがオラリオの神殺しを果たせた理由。

 聖杯の無尽蔵の魔力による、聖剣の認識を騙した上での強制解放。

 ただの真名解放による一撃を超えた、世界を守護する聖剣の全出力。

 例え今のベルがどれだけ強くとも、この一撃を相殺する神秘を彼は持ち合わせていない──! 

 

「なら、その前に────!」

 

 駆けるベル。

 音をも置き去りにする彼の疾走は、刹那の内に騎士王の喉元まで迫り────

 

 

 

 

無限の残骸(アンリミテッド・レイズ・デッド)

 

 

 聖杯に宿る悪神の残滓。それから溢れ出した黒き異形の大河に押し戻された。

 

 

「な!? こん、のぉっ!!」

 

 リン、と響く鈴の音。一秒チャージによる炎雷の強化。

 焼き払われた泥の軍勢だが、即座に再召喚され押し寄せる。

 

 

『是は、■■■■■■■■■──《■■■■■■》』

 

 その隙に、聖剣の拘束は十一まで外れている。

 

 

(ここまで来て間に合わないなんて────そんなことは、させない!)

 

 意識を奮い立たせる立香だが、彼女のサーヴァントは全滅している。

 一か八かに賭けて、現地召喚を試みるか? 

 無理だ。彼女と縁を結んだ汎人類史のサーヴァントはこの世界では力を振るえず、かといってこの世界の英雄達との縁を彼女は持っていない。

 もはや打つ手は残されていない────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『是は、■■■■■■■■■■──《■──』

「いいえ、我が王よ。私は承認などしておりません」

 

 

 

 

 

 ────そんな窮地を覆す者たちを、人は英雄と呼ぶ。

 

 

 

 

 

「聖杯の魔力使用が規定値を超過。仕込んであった術式通り、我らをサーヴァントとして召喚させました」

「流石キャスター。いざって時は頼りになるぜ」

「とはいえ危機的状況に変わりはない。この槍を振るうに値する」

「あ、キミ、カルデアのマスターだよね!? とりあえず、ボクらと契約してよ!」

「どの面下げてってハナシだが、まぁそこは流してくれよ。────とにかく、アヴェンジャー以下六騎。我らアンリマユ・ファミリア、カルデアのマスターとそのセイバーに助力させてもらいますよっと」

 

 

 魔力を帯びた風と共に降臨するは、強壮なる六騎のサーヴァント。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「皆さん……!」

 

 思わず喉を詰まらせたベルの前で、彼らは即座に動き出した。

 

 

「王よ、聖剣の輝きは打ち消させて頂く……!」

「バーサーカー……!」

 

 強制解放された聖剣と斬り結ぶは『無毀なる湖光(アロンダイト)』とその担い手。真なる円卓が一席、バーサーカー。

 誤認による不具合か、はたまた同格の神造兵装による影響か、最強の聖剣はその輝きを一段減衰させる。

 だが、却下された承認は彼の一つのみ。

 未だ全てを焼き尽くす魔力を秘めた聖剣だが……それでも、一瞬の猶予は出来た。

 

 

「■■■■■■────ッ!!」

 

 

 彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして。

 

「この私から、聖剣を奪うか!」

 

 『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)

 手にした武器を己が支配下に置く己が宝具を以て、彼は聖剣の魔力を己の内で無駄打ちさせる。

 当然、一瞬でその身は蒸発するだろう。

 

 だが、仕事は果たした。これほど減衰した威力ならば、奴の宝具ならば戦える。

 

 

「素晴らしい戦果だ。素晴らしい戦果だ、バーサーカー!」

 

 バーサーカーの身を焼き尽くしてなお止まらぬ極光の前に立ちはだかるは日輪の英雄。

 彼は再召喚により取り戻した己が最強宝具を展開する。

 

 

日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)!!』

 

 

 ほぼゼロ距離での規格外宝具同士の衝突。

 オラリオ最強を謳われた槍兵といえど、その身は一瞬で砕け散る。

 

 

「……征け、友よ!」

 

 

 

「あいよぉ!」

 

 

 狂戦士と槍兵は最強の聖剣を防いでみせた。

 ならば主神たる己もそれに応えよう。

 サーヴァントとして召喚されたアヴェンジャーに、オラリオでの超越存在としての権能は存在しない。

 だが、そんなものは不要だ。

 なにせ()()()()()は、この最弱の英霊は、それでもなお、最強の剣士を打ち倒してみせたのだから──! 

 

 アヴェンジャーの肉体が変貌する。

 影に覆われた獣と化した彼は走り出した。

 狙いは当然、己が半身。

 少年の道を妨げる、怨念の残滓ども。

 

 

「────ッ!!」

 

 

 

 死滅願望により、この身は最高の英霊にも比肩する。

 しかしそれでもやはり残骸どもの数が多い。

 飲み込まれ、打ち据えられ、その霊基を砕かれんとするが。

 

 

「しっかり頼んますって、カミ様」

 

 緑衣の弓兵が、残骸の群れの只中に現れた。

 飄々とした笑みを浮かべるその顔は、しかし生気が欠けた土気色だ。

 

「道はオレが作ってやるから、ちゃんと仕事してこいよ。悪ぃな、ベル。後始末頼むわ」

 

 弟分に小さく別れを告げ、弓兵は、その手の弓を己が身に突き立てる。

 

「こいつらに毒が効けば、こんなことしなくて済むんだが仕方ねぇ……! 『祈りの弓(イー・バウ)!』」

 

 自らを爆薬としての血路。

 一瞬だが、確かに開いたその隙をアヴェンジャーが駆ける。

 既にその身の崩壊は始まっている。だが、そんなもの、関係ない────!! 

 

 

「四夜は終わりだ」

 

 

 

 聖杯に宿る己が悪性。その全てを掌握し────悪神もまた、退去する。

 

 

 

「泥を失ったか」

 

 だが、脅威は未だ残っている。

 聖杯に残る残滓は消えても、既に反転したセイバーが戻るわけではない。

 最大出力での使用を諦め、彼女は聖剣を構える。

 ランサーもバーサーカーも居ない今、エクスカリバーの真名解放を防ぐ術は残されていないのだから。

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)────!!』

 

 

 

 解き放たれた黒き聖剣。

 

 残る一人と三騎を飲み込まんと迫る極光に、偉大なる錬金術師が立ちはだかる。

 

「ライダー、それでは手筈通りに」

「オッケー! そっちもよろしく!」

 

 掲げるは柄尻に宝玉を頂いた儀式剣。

 

元素使いの魔剣(ソード・オブ・パラケルスス)

 

 フォトニック結晶により構成された、超々精度の演算器。

 対象の魔術を解析しての力の強奪こそ、この魔剣最強の能力。

 格上殺しすら成し遂げるこの錬金術師の奇跡は────原典通り、食らい尽くせぬ星の聖剣の魔力により、五秒と保たずに砕け散った。

 しかし、その数秒をこそ、彼は欲していたのだ。

 

 

 

 

「……?」

 

 

 セイバーは、不意の違和感に眉をひそめた。

 聖剣の輝きが一瞬弱まったのは理解できる。

 キャスターの悪足掻きだろう。

 今この瞬間、聖剣と拮抗している正体も知っている。

 ライダーの『破却宣言(キャッサー・デ・ロジェスティラ)』だろう。

 ありとあらゆる魔術を打ち消す規格外の魔本だが──それを上回る神秘ですり潰せば良い。

 そして、エクスカリバーにはそれが可能だ。

 

 わからないのはその理由。

 

 破却宣言では星の聖剣には勝てない。

 それを理解しているはずの彼が何故──? 

 

 その答えは、ライダーが消滅した直後に理解できた。

 

 

 

「おおおおおおおお!!」

「ライダーのヒポグリフ……! 二人を逃すために使ったか!」

 

 咆哮と共に極光を越えて迫る幻想の天馬と、その背に乗るベルと藤丸立香。

 確かに次元を跳躍するかの幻想種ならば、聖剣を回避することも可能。

 ライダーとキャスターは、この奇襲のために命を懸けたのだ──! 

 

 ベルが構えるヘスティア・ナイフは白い光に包まれ、大鐘楼の音を響かせる。

 一方のセイバーは、聖剣を振り抜いた直後で動けない。

 無限の残骸が残っていれば護衛にも回せたが、今はそれも無く。

 

 だが。

 

 

全て遠き理想郷(アヴァロン)──!』

 

 

 騎士王が有する最強の護り。

 無数の光塵が彼女を覆い、次元を隔てた先に隔離する究極の防御宝具。

 何人たりとも、アルトリア・ペンドラゴンが最後に辿り着く理想郷を穢せはしない────! 

 

 

 

 

 

 

 

「令呪を以て命じる! 騎士王の願いを、誇りを────彼女の尊厳を護って、セイバー!」

 

 

 

 

 

 

 

 故に、この結末は当然だ────。

 

 

 

 彼は、彼女を穢すのではなく────

 

 

 

 

 

 

聖火の英斬(アルゴ・ウェスタ)────!』

 

 

 

 

 

 

 ────彼女を、救うためにその命を懸けたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「強く、なりましたね……ベル」

「アルトリア、さん……っ。僕は……!」

「泣く必要はありません。貴方は、私の願いを叶えて、私をとめてくれたのだから」

 

 泣きじゃくる少年の頭を、セイバーが優しく撫でる。

 その手にはもう力が込もっておらず、瞳も焦点が合っていない。

 だが、その表情は憑き物が落ちたように安らかだ。

 

「聖杯の泥はアヴェンジャーが持ち去り、それに侵された最後の一騎たる私も力尽きました。これでこの特異点は修復されます。……あまりに多くの命を奪ったこの私に、世界を案じる資格などありませんが」

「それは、違います! アルトリアさんは、僕を泥から守るために……! だから、これは全部、元は僕の責任で……!」

 

 言葉にならず、喉を詰まらせる少年にセイバーは困ったような顔を浮かべる。

 そんな彼女達に、思わず、立香は口を挟んでしまう。

 

「でも、アルトリアさんだから、この特異点はギリギリで保たれてました! ダ・ヴィンチちゃんが言ってました。貴方が宝具を使ってダンジョンを破壊しながら進んでいれば、私たちは追いつけませんでした! 最後の戦いだって、貴方は聖杯を使って戦わなくても勝てたのに、私たちの味方を呼んでくれました! ベルを召喚したのだって、貴方なんですよね!? だから……! 自分のこと、そんな風に言わないでください……!」

 

 涙ぐみながら叫ぶ彼女にも、セイバーは優しく微笑む。

 

「世界を取り戻したマスターにそんなに褒められるとは、私も捨てたものではないようだ」

 

 心からとは思えない、せめて少年少女に傷を遺さないために取り繕ったような物言い。

 もどかしさに立香が言葉を探していると、それを遮るようにベルが叫んだ。

 

 

「もし! もし次があるなら! ……こことは違う世界で、貴方に逢えたなら……!」

 

 

 少年は誓う。例え幾果てを越えようと、決して忘れぬ想いを。

 

 

 

「その時は……僕が、必ず貴方を護ります!!」

 

 

 

 

 不器用で、飾り気もなく、ただただ真っ直ぐな言葉。

 されど、精一杯の真心を込めたその言葉に────セイバーは、少しだけ泣きそうな、笑いそうな顔を浮かべた。

 

 最期の力を振り絞り、ベルの手を握り締めた彼女は告げる。

 

「今度こそも何も、貴方は間違いなく私を──私たちを、護ってくれましたよ」

 

 きっと彼には届いていなかったのだろう言葉を。今度こそ届けるために。

 

 

 今度は別れではなく、再会の希望を込めて。

 

 

 

 

 

「さようなら──そしてきっとまた逢いましょう、()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 ──その後、カルデアにて。

 

「ダ・ヴィンチちゃん! ベルが召喚されたって本当!?」

「あぁ、本当さ。サー・ベディヴィエールと似た特例なのかな。今回の件を経て、ベル・クラネルは正式に座に登録された。──早く行ってあげなさい。積もる話もあるでしょう」

「うんありがとうダ・ヴィンチちゃ「ほわああああああ!? アルトリアさんがいっぱいぃぃぃい!!?」ベル!?」

 

 

 奇声の方へ、笑いながらパタパタと走っていく少女を見ながら、ダ・ヴィンチもまた、小さく笑みを浮かべるのだった────。

 

 

 

 その後、部屋にひしめくアルトリアシリーズにベルがひっくり返ったり、セイバーのアルトリアがベルのことを知らなかったりでまた一悶着あったりするが、まぁご愛敬だろう。

 

 

 

 

 

  亜種特異点⁇:迷宮神聖都市オラリオ

 

       告白成就

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 という嘘小説をオラリオで発行しようと思うんですけど、どうでしょうか」

「え、いきなり行軍中にファミリア全員集めて長い話しだしたと思ったらそれが本題ですか? あとどうでしょうって聞くなら普通に死ねば良いのにって思いました。なんですか告白成就って」

「オレ、可哀想過ぎない? 唯一の見せ場が自爆とか」

「聖杯を手にしているとはいえ、セイバー相手にこの俺が当て馬扱いも少し納得しかねる」

「ボクじゃなくてヒポグリフじゃん。セイバー救出したのも最後に決めたのもヒポグリフじゃん!」

「私が我が王に刃を向けるとしても、まず貴様ら全員血祭りに上げた後で説得にかかると思うのだが」

「つーか、召喚周りとかセイバーのエクスカリバーの強制解放とか、設定ガバガバ過ぎんだろ。練り直してこい。あと、こんなに善良なオレを捕まえて悪神呼ばわりとか酷くアリマセン?」

 

 

 セイバーもどきです。

 キャスターが阿呆なこと言い始めました。

 春の陽気に当てられて──と言うには、四六時中ポンコツですが。

 というか、自分だけなんか美味しい役回り多めにしてるのがちょっと腹立ちます。

 

 っていうか、人のことヒロインにして話進めるなと何回言わせれば気が済むのでしょうこのポンコツどもは!!

 

 腹が立ったので、オラリオに戻ったらキャスターのヘソクリでジャガ丸くんパーティーを開催しようと思いました。まる。

 

 

 

 

 

 

 

 ◯月×日 セイバーの日記より。

 

 劇場版の敵、アンタレスを無事討伐してのけた帰り道にて。




コンセプトはたぶん、ポンコツどもがポンコツじゃなく、シリアス畑だったらどうなるかのIFルート的な。結論として、世界の方もシリアス対応してくる。
書いてた時すっごい楽しかった記憶があります。

本編進めろや!って声も聞こえる気がしますが、許してください!
これ自体はもうだいぶ前に書き上げてたやつなんです!
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