ダンジョンでサーヴァントに出会うのは間違ってるでしょう!? 作:夕鶴
たぶん、④まででポンコツも書けるはず……!
ダンジョンに潜ると、いつも同じ声が頭に響く。
『──よくも、私の前に顔を出せたものだ』
それは力と意志に満ちた、強き言葉。
『貴様の不出来で苦しむのが貴様だけならば、まだ容認できよう』
それは正しさと冷たさしか持たない、刃のような言葉。
『だが他者を巻き込む弱さは──もはや、罪深くさえある』
ああ、なんて正しい言葉だろう! なんて公平な言葉だろう!!
『この聖剣を振るわぬことをせめてもの慈悲と知れ──
────そしてなんて、残酷な言葉だろう。
「リリ、どうかした?」
「っ……なんでもありません、ベル様!」
ベルの声に、サポーターの少女──リリルカ・アーデはニッコリと笑顔を浮かべる。
ベルは笑みを浮かべる彼女に釈然としないものを感じながらも、それ以上の追及はやめておいた。彼女とは今回が初仕事だし、あまり踏み込んだ話も良くないだろう。
それに、彼女の仕事ぶりは素晴らしいものがある。
魔石やドロップアイテムを引き受けてくれる人がいるだけで、探索がこうも捗るとは想像だにしていなかった。
働きに文句がない以上、これ以上言うのは文句になりかねない。ならばせめて、と最後に一つだけ言っておく。
「そう? ペースがキツかったら言ってね。休憩挟むから!」
「いえいえ。リリ達サポーターの為に冒険者様が探索の手を緩めるなんて、本末転倒です。どうぞ、ベル様はお気になさらず攻略を進めてください」
「そんなこと……」
「あるのです。どうぞ、リリのことはお気になさらず!」
強い口調で押し切られ、ベルも頷いてしまった。
うーん、とベルは内心で唸る。
彼女の働きぶりには文句はないが、昨日からのドタバタにはやや理解が追いついていないところがある。
エイナとデートをしたかと思えば冒険者と小人族の少女のトラブルに巻き込まれ、すわ乱闘騒ぎかというところを通りすがりの錬金術師に助けられた。
そしてその次の日には、昨日の少女に良く似た雰囲気の犬人の少女に声をかけられ、セクハラ紛いの耳タッチのお詫びとしてサポーターとして雇っている。我ながら、なかなかのイベント発生数だとベルも思う。
──そう。そして、件の錬金術師がまた濃かった。
いきなり現れて冒険者を吹き飛ばしたかと思えば、見ず知らずの相手(ベルは知っている相手だったが)にいきなり『友達になってくれませんか』だ。
思わぬ質問に動転している間に小人族の少女は消えていて、パラケルススはパラケルススで『おや、何かお急ぎの用でもあったのでしょうか……? 仕方ありません、また次の機会にお話しできることを、楽しみにしていますよ』と意味深に微笑んだ後にどこぞに立ち去ってしまった。
話をしてみたいと思っていた相手が、まさかその日の内に現れることは想像していなかった。
「アルトリアさんのこと、聞いてみたかったな……」
知らず、後悔の念が溢れていた。
すると、それまで黙々とモンスターの魔石や素材を収集していたリリが何気なく話しかけてくる。
「アルトリアさん? まさかあの、【アンリマユ・ファミリア】のアルトリア・ペンドラゴン様のことですか? ベル様は、あの方とお知り合いなのでしょうか?」
「え? う、うん。いや、知り合いってほどでもないんだけど……あの人達に、二回も助けられたんだ」
一度目は、無謀な進出の代償を払わされかけた時に救われた。
運命に出会ったのだと確信した。
二度目は、自暴自棄になり投げ捨てようとしていた命を拾われた。
人生に使命を与えてもらった。
照れ臭そうに。恥ずかしそうに。
しかし、秘密の宝物を自慢するかのように、どこか誇らしげに。
ベルは語る。
「物語の英雄達みたいに、強くて、格好良くて、綺麗で……輝いていた。もし誰もを救う正義の味方がいるんだったら、きっとあの人達のことなんだろうなって、そう思うんだ」
純真な子供のように語るベルを、リリはニコニコと微笑ましげに見守る。
「えぇ。えぇ。そうですとも! ベル様の仰る通り、あの方達こそ正義の味方です。あの方達の道は常に正しくて、輝いています!」
「そうだよね!」
同意を得られたことが嬉しくて、ベルも相好を崩した。
リリもまた、笑顔を浮かべたまま続ける。
「ですが────誰をも救ってくれる
失敗した。間違った。こんな筈ではなかった。
ダンジョン探索を終え、ベルと別れたリリルカ・アーデは
いつも通り、甘ったれで、スキが多そうで、放っておくだけでも早死にしそうな新米に目を付けたところまでは良かった。
サポーターにあそこまで偏見も悪意も無く、一度の仕事で信頼されたのは初めてのことだ。すこぶる調子が良かった、とさえ言える。
後は適当に仕事を重ねてスキを窺うなり、懐に入り込んで信頼を深めるなりどうとでもやりようがあったものを……
大人気ない否定をした後、明らかにベルはこちらを訝しんでいた。
リリはリリで、もはやこれまで、とスキを突いて値打ち物のヘファイストス製ナイフを掻っ払ってしまった。今頃気付いて大慌てしているだろう。
おまけに持ち込んだノームの鑑定屋にはガラクタ扱いされ、骨折り損のくたびれ儲けとはこのことだ。
ヘファイストスの銘柄が刻まれた鞘もあれば、再鑑定の価値もあるかも知れないが……果たして、あの少年が再びリリのことを受け入れてくれるだろうか。と言うより、リリとしても出来れば近づきたくないというのが本音だ。
どうしたものかと路地裏で悩んでいると────不意に、空気の変化に気付いた。
(寒い……!)
比喩ではなく、明確に周囲の気温が下がっている。
床石や建物の壁は霜が張り付き、リリに向かって氷の侵食が進んでいく。
視線を上げ、冷気の元を辿り────彼女の表情が、歪んだ。
「あぁ、昨日も会いましたね、お嬢さん────申し訳ありませんが、そのナイフを渡して頂けますか?」
不自然なほどに人通りの無い路地裏で、静かに佇む長身の美青年。
その口元には穏やかな笑みが浮かんでいるが、リリにはそれが何よりも恐ろしかった。
「……生憎ですが、これは私のナイフです。名高きアンリマユ・ファミリアのパラケルスス様が追い剥ぎの真似事なんて、似合いませんよ?」
「……そう、ですか。それは、困りました……」
本当に悩んでいるように沈痛な表情を浮かべるパラケルスス。
そのまま、何気なく手を上げると────
「!!?!?」
一瞬の空白。
リリの天地が高速で回転し、気づけば天を仰いでいた。
混乱する頭が過去の経験を遡り、何らかの強い衝撃で吹き飛ばされたのだろう、と判断する。
その割にはどこにも痛みが無いのは、怪我をさせる価値すらないという侮りか。
とにかく、逃げなければ。
駆け出そうとして気づく。いつの間にか、パラケルススが黒いナイフを手で弄んでいる。
(〜〜っ!!)
仕方ない。アレは、どうしようもない。
あんな化け物から獲物を取り戻すなんて真似、リリには出来るわけがない。
そもそも彼女は、生きてこの場から離脱できるかもわからないのだから。
──もういっそ、諦めてしまおうか。
不意に、そんな暗い情念が湧き上がる。
──もう、疲れた。嫌だ。意味もないし……全部、投げ出してしまいたい。
目の前の男が、幕を下ろしてくれるというならそれはそれで有りかも知れない。
リリの脚から力が抜け────
「逃げて! リリ!!」
思わぬ救いの手が、現れた。
(え、これは、一体、え? なんで、ベル様……!?)
「リリ、走って、早く!!」
つむじ風を伴って、白い少年がリリとパラケルススの間に立ちはだかる。
ギルド支給の貧弱な短刀一つを手に、みっともないくらい震えてる身体を無理やり押しとどめて。
けれど、その声だけは────リリを護るという、強い決意に満ち溢れていた。
「なんなんですか、貴方は……アンリマユ・ファミリアが、アルトリアさんの仲間が、正義の味方なのに、どうしてこんなことを!!」
「……いけません、ベル様! 逃げて! 彼らに逆らっちゃダメです!」
そうだ、疑問は後回しだ。
この少年を、一刻も早くこの場から遠ざけなくてはいけない。
だから、もう良い。
けれど、この少年は違う。
一日一緒にいただけで分かる。
この少年は才能に溢れていて、希望に満ちていて、無限の未来が広がっている。
何よりこの少年は────
「リリなんかの為に、アンリマユ・ファミリアに歯向かってはいけません!!」
「『なんか』なんかじゃない!!」
叫びに、それ以上の怒声で返された。
「一緒にダンジョンに潜って、戦って、生きて還ってきて……! そんな子を、『なんか』なんて言って、見捨てられるもんか!!」
「そんな、理由で……!」
少年の、想像以上の愚かしさに気が遠くなる。
ダメだ、なんとかしないと、でもどうやって……!
グルグルと思考が空回りするリリ。
不意に、パチ、パチ、パチ、と乾いた音が響いた。
「あぁ、素晴らしい。やはり、貴方は良いですね……ベル・クラネル」
パラケルススが、小さく拍手をしながらベルを称える。
彼は、そのまま一つ頷くとゆっくりと歩み寄ってきた。
「申し訳ありません。些細な行き違いから、酷く怯えさせてしまったようです……。これは、せめてもの謝罪です」
無造作にベルの間合いに入り込むと、空いている手に液体の詰まった瓶を握らせる。
そのまま脇を通り過ぎながら、彼は続ける。
「もしそこの少女が怪我をしていたら、これを使ってください。私が作った
「待っ……!?」
ベルが振り向いた時には、その姿は消えていた。
呆然とする彼の耳に、風が声を運ぶ。
『────我等を正義の味方等と、盲信しない方が良い』
静寂を取り戻した路地裏。
ベルとリリの間に気まずい空気が流れる。
何故パラケルススとリリが争っていたのか?
行き違いとは何なのか?
どうしてあそこまで必死にベルを逃そうとしたのか?
ベルが質問したいのはこの辺りだろうか、とリリはぼんやりと考える。
一番目は答えられるわけがない。ベルのナイフを盗んだからパラケルススが現れたのは明白だ。盗みの告白なんてする気力が今は残っていない。
二番目はリリが聞きたいくらいだ。審判の日だと覚悟していたのに、何故か見逃された。
三番目も同様、答えられない。冷静になると、何故自分があんなに必死だったのか訳が分からない。恐らく惨めでみっともない理由なのだろうが────今の彼女の内に、その答えは存在しなかった。少なくとも、彼女の心の中の、見える範囲には。
とは言えずっと黙っている訳にもいかず、仕方なしにリリが口を開くと。
「あーーーーっ!!」
ベルが、不意に叫んだ。
そのまま駆け出した彼は、路上で何かを拾って戻ってくる。
「良かった! 無くしたから探してたんだ! やっぱり落としてたのか……!」
その手には、パラケルススがリリから奪った黒のナイフ。
少年が『ごめんなさい神様、もう二度となくしません……!』と誓うと、紫紺の輝きを取り戻した。
大方、パラケルススが立ち去る時に見えるところに置いていったのだろう。
どこかわざとらしくナイフを見つけた喜びを語る少年に空々しさを感じながら、リリは目を閉じる。
(もうリリには……裁く価値すら、ないということでしょうか……?)
答えをくれる者は、どこにもいない。
どこぞのポンコツどものせいで、原作とは別方向で拗らせリリ
そして読み返すと都市伝説の怪人みたいになってるキャスター。どうしてこうなった
本編更新以外で許せるのはどれですか?(※あくまで参考です! 優先順位は変わるかも)
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