ダンジョンでサーヴァントに出会うのは間違ってるでしょう!?   作:夕鶴

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2019/6/27 早朝の夕鶴
日刊ランキング2位 ダンジョンでサーヴァントに出会うのは間違ってるでしょう!?
……Σ(・□・;)!?
ありがとうございます、本当にうれしいです。感想も評価も全部読んでます。少しずつ返信します。
そんな中でこの馬鹿話を投稿する恐怖に震えてますが自分の化けの皮が剥がれるだけと思って投稿します。
前回までだとこいつマトモに見えるなと思ってバランスを取りました。


第3話

 斬る、斬る、斬る。

 

 目につくモンスターに片っ端から斬りかかり、灰の飛沫に変えていく。

 

 昨日まで感じていた昂ぶりはそこには無い。

 

 初日はゴブリン一体倒すだけでも大喜びで、神様に報告をした。

 その後も、悪戦苦闘しながらも我流で頑張り、自分なりに工夫し、策を練り、勇気を出して戦っていた。

 不安と、恐怖と、緊張と、興奮と、達成感と……一つ一つの戦いが大きな試練であり、生きるために全力を振り絞っていた。

 

 今は違う。

 

 嫉妬、羞恥、悲嘆、後悔――その他、言葉にできない苦しさを紛らわすために、モンスターを狩っている。

 

 これは、ただの八つ当たりだ。

 

 こんなものは、ベル・クラネルが憧れた英雄譚とは程遠い。

 子供じみた癇癪を起している現実(ジブン)と、彼女が誇らしげに語った理想(カレ)があまりにかけ離れていて、そのことが一層ベルの心をかき乱す。

 

 

(見惚れたんだ……!)

 

 月光のような気高い姿に。

 

(憧れたんだ……!!)

 

 神話のようなその武勲に。

 

(願ったんだ……!!!)

 

 いつかその隣に並ぶ自分を。

 

 彼女に、微笑みかけられる未来を。

 

 

 ――しかしその願いは、もう叶わない。

 

 

 アルトリア・ペンドラゴンには、愛する人がいるのだ。

 その在り方を嘲笑われただけで、許せないほどに。

 その在り方を語るだけで、誇らしげに。

 

 その人を想うだけで――――あんなにも美しい笑顔が浮かぶほどに。

 

(わかってるのに、僕は……!!)

 

「う、うぅ……ああ…………!」

 

 みっともない、情けない、恥知らずにもほどがある。

 届かないとわかっているのに。

 自分に捧げられたものじゃないのに。

 

 

 

 『彼を、愛している』

 

 その笑顔が、忘れられない。

 

 

 身体が熱い。

 背中のステイタスが―――そこに刻まれた想い(スキル)が、主に応えるように、灼熱を放つ。

 

(それでも僕は、その笑顔の先にいたいだなんて―――!!)

 

「うわあああああああ!!」

 

 己の浅ましさに涙さえ流し、それでもベルは刃を振るう。

 

 

 しかしここはダンジョン。冒険者が隙を見せれば、即座にむさぼり喰らう魔の領域。

 

 

 ほんの一瞬の隙だった。

 

 涙で視界が滲み、ゴブリンの体当たりへの反応が一瞬遅れた。

 それ自体はギリギリで躱したものの、体勢が崩れる。

 崩れた体は次のモンスターへの対処を遅らせ、それがさらに次の行動を遅らせる。

 気づけばベルは、防戦一方にまで押し込まれていた。

 

 さらに、

 

「ウォーシャドウ……!」

 

 十二階層までに出現するモンスターの内、初心者では絶対にかなわないとされる強豪モンスター。

 二体同時に現れた、黒い影のようなその怪物は、長い腕から繰り出される三枚の黒爪による攻撃でベルを傷つけた。

 

(距離を取って、態勢を……な!?)

 

 バックステップ直後に背中に伝わる固い感触。

 いつの間にか、壁際まで追い詰められていたのだ。

 

 致命的な隙を見せた獲物に、ウォーシャドウの一体が一気に詰め寄る!

 

「くっ、うおお!!」

 

 繰り出される大振りに合わせて、右手に持つ短刀でカウンターの刺突を叩きこむ。

 まっすぐ怪物の胸部を貫いたその一撃は、体内の魔石を見事に砕いた。

 同時に、左手を灼熱のような痛みが襲う。

 

 躱しきれなかったウォーシャドウの爪が、ベルの左腕をえぐり、そのまま壁に突き刺さったのだ。

 しかし問題はない。今の一撃でこのウォーシャドウは倒した。即座に灰化するはずだ。

 迫る残りの一体に意識を向けるベル。

 

 だが、

 

(ドロップアイテム!? このタイミングで!?)

 

 モンスターの絶命と共に消えるはずの黒爪は、実体を残してベルを壁に縫い留め続けた。

 冒険者への報酬すら更なる試練をもたらす状況に、ベルにある言葉を思い出させた。

 

 

 ダンジョンは、弱った冒険者を逃さない。

 

 

「うわあああああああ!?」

 

 動けないベルを、射程外からいたぶるウォーシャドウ。

 右手一本で対処しているが、片手が壁に縫い付けられた体勢では限界がある。

 肩を、膝を、頬を、腹を、モンスターが容赦なく切り裂いていく。

 

「こうなったら、腕を引きちぎってでも……!!」

 

 もはや動かない腕を自ら切り落としてでも離脱を図るベル。

 ウォーシャドウの連撃の一瞬の隙を突き、自ら左腕を切り落とすべく短剣を振りかぶり、

 

 

 

 

 

「……ふん。お前の勝手だが、その前に右に避けろ!」

 

 

 

 響く男の声。

 

 直後、消し飛ぶウォーシャドウの頭部。

 

 咄嗟に右にのけ反ったベルの頭が一瞬前まで存在した空間に、一本の矢が突き刺さった。

 何者かが、ベルの窮地を救ったのだ。

 

 

「あ、あなたは……?」

 

 矢から視線を外し、救い手の姿をその目に映すベル。

 その人物は、バツが悪そうに頬を掻いていた。

 

 知っている。自分は彼を知っている。

 

 憧憬の彼女と共に、豊穣の女主人を訪れた男性。

 

 茶色の髪に、若草を想起させる緑の装束。

 

 オラリオ最高の弓兵と名高いその人物は――――

 

 

「アーチャー、ロビンフッド。……呼ばれちゃいねえけど、それなりに働きますよっと」

 

 

 

「ありがとう、ございました」

「あー、いいっていいって。気にすんな」

 

 ロビンフッド。【皐月の王(メイキング)】の二つ名を持つ第一級冒険者。アンリマユ・ファミリアの一員。

 

 彼が現れてからは、あっという間だった。

 いまだ残っていたモンスターの群れをあっという間に射尽くした彼は、『時間稼ぎ時間稼ぎっと』といって広間の壁に大穴を空けた後、現在はベルの治療を行っている。

 貫かれた状態で無理やり動き回ったため骨が見えるほど無残なベルの左腕を、水筒の水で綺麗に洗浄し、匂いのキツイ軟膏を塗りこむとテキパキと包帯を巻きつける。

 

「あの、どうして……」

「ん~? あんだけ傷が深いと、ポーションじゃ後遺症が残るかもしれねぇからなあ。ウチの錬金術師の薬ならその点心配いりませんから。その点以外が、本当にひでえんだよなぁ……」

「そうじゃなくて!」

 

 とぼけた物言いに、つい声を荒げてしまう。彼は命の恩人なのに。

 

「どうして、助けてくれたんですか……?」

「あー……」

 

 ポリポリと頬をかくその姿は、ともすればただの、気のいいお兄さんにしか見えない。

 だがその実力は、先ほどまでさんざん見せつけられた。

 結局のところ、彼もまた、()()なのだ。

 

「アンリマユ・ファミリアなんて、雲の上の人が!」

「ナニイッテンダオマエ」

「!?」

 

 抑えられない激情のままに叫ぶと、ものすごいトーンで返された。

 びっくりして顔を見ると、『腹ペコ……男の娘……マッド……? いいえ、ポンコツです』と、虚無の顔でブツブツと謎の言葉を放っていたが。

 ベルの視線に気づいたのか、ゲフンゲフンと咳ばらいをして、ロビンフッドは顔を引き締める。

 

「そいつは、どうしてわざわざ追ってきたのかって意味だよな?」

 

 ベルが肯くと、彼はぽつりぽつりと話し始めた。

 

「酒場でベート――あの獣人な?――が話し始めた時、オタクのことだってすぐわかったよ。酒の席での笑い話に、真っ赤になって震えて死んじまいそうな顔をしてたし……何より、ウチの王サマが言ってた冒険者の特徴ぴったりだったからな」

「王様、ですか?」

「そう。知ってるだろ? アルトリア・ペンドラゴン」

 

 一息ついて落ち着いていた呼吸が、一気に苦しくなった。

 

 あの人が? 自分のことを仲間に話していた? どうして? 腰を抜かしてた自分がみっともなくておかしくて? 違う、自分でもわかる、あの人はそんなことをしない。ならどうして? 笑わなくても…………情けない姿に、失望して?

 

 

「怖がらせてしまったと。まだ駆け出しだろうに、ミノタウロスの前でただ立ち竦まず逃げようとして、立派だったと。もっと早く助けたかったと。……褒めてたよ、オタクのこと」

 

 カァっと顔が熱くなる。

 

 憧憬の人が、自分を気にかけてくれていたことに。

 そんな人を疑ってしまった羞恥に。

 それでもなお、褒められて喜んでしまう自分の浅ましさに。

 

 朱くなったベルを見て、緑衣の男はにやついた。

 

「惚れたんだろ?」

「違いま!!………………せん」

「か~、初々しいねえ!」

 

 ぐりぐりと頭を撫でまわされる。

 乱暴な手つきで痛いくらいなのに、何故か祖父のあたたかな手と重なり、気が抜けて……

 

 

「でも、意味ないんですよね」

 

 涙と共に、そんな言葉が零れた。

 

(あぁ、男は泣くもんじゃないって、さんざん言われてきたのに……!)

 

 祖父の教えを思い出して涙をぬぐうが、そのたびにどんどんあふれ出してくる。

 ついにはとめどなく流れるようになったそれを、せめて見せまいと乱暴に顔を擦り続けるベルを見ていた男は、静かに口を開く。

 

「意味ないなんて、なんでわかるワケ?」

「だって、彼女には、ロビンさんみたいに強い仲間がいて、僕は、弱くて、それにあの人には――――もう好きな人がいて……!!」

 

 

 泣き叫ぶ自分があまりにみっともない。

 命の恩人にまで八つ当たりをするような自分は、あの人が語った()とは程遠くて……

 

 

「昔話を聞いてくれるか?」

 

 ポツリと、ロビンフッドが呟く。

 先ほどまでの、どこかふざけた響きが消えた口調に思わずベルが顔を上げると、彼は真剣な目でベルを見据えていた。

 

「遠く遠くで起きた、少年少女の、小さな小さな戦争のお話だよ」

 

 

 

 

 人の願いを叶える万能の魔道具(マジックアイテム)、聖杯。

 

 それを巡り争う七組の英雄と魔術師。

 

 国と国ではなく、ささやかな個人による、しかし世界を揺るがす戦争の物語。

 

 

 ロビンフッドが語った物語は、祖父より数多の英雄譚を聞かされたベルすら初耳の話だった。

 しかし物語の登場人物たちは誰もが魅力的で、英雄たちの活躍には胸が躍り、そんな彼らが次々と力尽きていくストーリーは思わず引き込まれてしまうものがあった。

 

 しかし、何よりもベルの心を動かしたのは、とある少年だった。

 

 その少年は、ほとんど巻き込まれたようなものだった。

 力もなく、知識もなく、あるのは使命感だけ。

 相棒が最優を謳われる剣士(セイバー)でなければ、一夜目で脱落していただろう。

 実際、少年は何度も窮地に陥った。

 そのたびに助かったのは、剣士より借り受けていた癒しの力と、優れた同盟者のおかげだろう。

 

 あまりに愚か。あまりに未熟。そしてあまりに――――眩かった。

 

 誰もを救う正義の味方なんて愚かな理想を抱く少年は、しかし何度死にかけても自らを曲げず、やがてその尊い在り様に剣士も惹かれていく。

 物語の終盤、聖杯の正体が人類に仇なす呪いの塊だと判明した時、剣士には二つの選択があった。

 少年を裏切り、呪いの力を以て願いを果たすか――――少年と共に、自らの希望を破壊するか。

 

 果たして剣士は、少年の手を取った。

 

 待ち受ける最強の英雄を打ち破り、自らの手で聖杯を破壊した()()は朝焼けの中で少年に愛を告げ、物語は終わる。

 

 

 

 全てを聞き終えたベルは、あまりに壮大な物語にポツリと呟く。

 

「今のは、アルトリアさんの……?」

「さあな。ただ、お前は今の話を聞いてどう思った。その未熟なガキに対して」

 

 肯定も否定もしないロビンフッドの返答。

 普通ならあまりに荒唐無稽。

 だが、彼女になら、そんな過去があってもおかしくない。むしろ相応しいとすら思えた。

 

 その上で、彼女と共に駆け抜けた未熟な少年に対して、思うことなど――――

 

 

「勝てない、と。思いました」

「ひょ?」

 

 

 そう、勝てないと思った。

 どんな困難にも、苦痛にも、遂にはこの世全ての悪からの呪いにすら耐えたその少年は、ベル・クラネルとあまりにかけ離れていて、敬意すら覚えた。

 

 彼女が、その思い出を大事にしているのは当然だ。

 その思い出を汚すような発言に、あそこまで凛とした態度を見せたのも当然だ。

 

 いっそ、すがすがしいほどの完敗。

 もはや心残りの余地すらない。

 美しい物語に、ベルの心の闇が急速に晴れていく。

 同時に、先ほどまで感じていた背中の熱が急速に冷え込んでいくのを感じる。なんなんだろうコレ。ちょっと怖い。

 

 

「教えてくれてありがとうございます、ロビンさん。おかげでスッキリ―――「待て待て待てえええい!!」

 

 ものすごい剣幕で遮られた。

 

「ちょっと待て、今のオタクの状況は、ええっと、その、あれだ! ちょっと勘違いしてる! 何が勘違いかはわからないがオレも落ち着きたいしオタクもそうだよな! あ、ポーション飲むか!?」

「い、いえ、結構です」

「だと思ったぜ気が合うな! いやいやいや落ち着け、オレ。あいつらに大見得切って出てきた手前これはヤバいしオレもやばいしベル君もヤバい、今はとにかくリカバリーを……なんだなんだなんだ? どうすれば……そうだ、あれだ!!」

「あの、ロビンさん……?」

「ベぇルぅくん!!」

「ヒィ! はい!!」

 

 後ろを向いて早口にナニカ呟いたかと思えば急にがっちり肩を掴んでくる緑の人にガチ怯えするベル。仕方ないことである。

 

「疑問に思わないか? ……なんで今その少年はここにいない?」

「!」

 

 急に真剣な顔になって話し始める緑男のテンションに若干戸惑いは残るものの、確かにそれは気になる。

 そんな雰囲気を察したのだろう。ロビンは神妙な顔で続ける。

 

「そいつはな……死んじまったんだよ」

「な! なんで、どうして!?」

「……戦争が終わった後、二人は別の道を進んだ。少女は祖国救済の力を求めて。少年は正義の味方になるため。別れは必然だった。少年は少女と別れた後も、己の信念に沿って戦い続け……自分が救った人間に殺されたのさ」

「そ、そんな、変ですよ! そんなの! 自分を助けてくれた人を、裏切るなんて!?」

 

 アルトリアに救われ憧憬を抱き、ロビンフッドに命を救われたから先ほどの奇行を見なかったことにしているベル・クラネルには信じられない話に、思わず食って掛かる。

 しかしロビンフッドは、悲しそうに首を振った。

 

「ある種、当然の結末さ。少年は紛れもなく正義の味方で、一切の私心無く弱きを助け悪を挫いた。助けられた奴らが、『自分たちが悪になった時、この男は間違いなく自分を殺す』と確信するほどに。あとは、語るまでもない、つまんねー結末ですよ」

「そ、そんな……」

 

 知ったのは先ほどだが、それでもおとぎ話の英雄たちと肩を並べるほどに敬意を抱いた正義の味方の末路に、言葉を失うベル。

 だが、もっと気になることがあった。

 

「このこと、アルトリアさんは……!?」

「…………あぁ」

 

 心臓が、氷の手で鷲掴みにされた気分だった。

 会ったことすらない自分ですら、痛みを覚えたのだ。

 ともに聖杯戦争を駆け抜け、愛を告げた少女の悲嘆はどれほどのものか。

 

「……かつてこの街は、闇派閥(イヴィルス)ってぇ奴らに脅かされていた。もちろんオレたちも戦ったが、誰よりも先頭に立っていたのはあいつだった。オラリオのみんなは口を揃えて称えたもんさ。『騎士王に栄光あれ! 聖剣担う偉大なる勇者!!』……だけどオレは、素直に喜べなかった」

 

 目を伏せたロビンの気持ちがベルには痛いほどわかる。

 破滅の道と知ってなお突き進んだ少年と、彼を愛した少女が重なっているのだろう。

 ……あるいは、少女自身、少年と同じ終わりを望んでいるのかもしれない。

 

 

「でもなぁ、あいつは止めたって聞いちゃくれねえんだ。こっちの気持ちなんてお構いなしに突き進む。この十年、オレが何度言ったって、理解してくれなかった」

 

 ベルの肩を掴むロビンの手に力がこもる。

 

「オレたちじゃダメなんだ。ああ、さいごまで付き合う覚悟はできてるさ。でもな、本当にどうしようもない最悪が来た時、オレたちじゃ一緒に沈んでやることしかできねえ。わかるんだ!」

 

 その目は、第一級冒険者が下級冒険者に向けるには、あまりに熱を帯びていて―――

 

「それがいつかはわからねえ! 本当に来るのかもわからねえ! でもあいつを救うには、きっと別の誰かが必要になる!」

 

 だからこそ、ベルも目を逸らすわけにはいかなくて―――

 

「だから、なぁ、頼むよベル・クラネル……お前があいつを想っているなら、あいつに少しでも恩を感じているなら!」

 

 その胸に決意の炎が燃え上がって―――

 

「お前が、あいつの英雄になってやってくれ!!」

 

 

 

 

 

 

「誓います。絶対に……!!」

 

 この日、少年は飛翔を始める――――。

 

 

 

視点変更(まきもどし)

 

 

「ヤバいですヤバいですいとヤバし! なんか致命的なやらかしがあった気がします!!……あ、でも気がするだけだから、気のせいって可能性も?」

「ねえよ!!」

 

 酔っぱらったセイバーもどきの珍種による熱いキャラ語りの結果、主人公(ベル・クラネル)が涙目で走り去った。

 何を言ってるのかわからねえと思うが、オレにもわからねえ。黙ってるだけで無事に終了するはずだったイベントが、どうやったらこんなにこじれるんだ?

 

「アンタほんと、アンタほんっとふざけんなよこのアホトリア!」

「いや今回私悪くありませんよね!? キャスターに一服盛られた被害者ですよ!?」

「緊張しているセイバーを助けようと、気を遣っただけなのに……。人の善意とは、往々にして裏切られるものなのですね」

「オタクも黙ってろ!?」

 

 ベートを吊るそうという周囲の喧騒に紛れて怒鳴り合うオレの袖を、ライダーが引っ張る。

 

「ねえ、そんなことよりアレ大丈夫!? なんか原作とえらいフインキ違ったけど! あと何故か変換できない!!」

「だぶん大丈夫じゃないと思いますよ! あとフインキじゃなくてフンイキな!いちいちふざけてる場合か!」

 

 ええい、この馬鹿どもと話し合っていてもらちがあかねえ……!

 

「オレが追いかける! オタクらはフィンに一言詫びて帰っててくれ!」

「くっ、釈然としませんが、ここは仕方ありません。任せます、アーチャー!」

 

 入り口を飛び出そうとしたオレを、ランサーが呼び止める。

 その手には、ウチのファミリア特製の通信用魔道具が。

 

「待て、アーチャー。アヴェンジャーから連絡だ」

「あぁ、なんだこの忙しい時に! もしもし!?」

『もしもし、アーチャー? これフォローミスったら、次の神会でお前の二つ名、【森の賢人(ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ)】にしていい?』

「いいわけないでしょこのアホ神がぁ! あ、切りやがったアイツ!! くそ、とんだ貧乏くじだぜ……」

 

 ゲラゲラ笑いながら通信を切る神に殺意を覚えつつうなだれるオレの肩を、ランサーがポンと叩く。

 

 

「お前にはその程度の任務が相応しい」

「ああハイハイ、オレにしかできないから頑張れってことね頑張りますよゴリラは嫌ですからね!」

 

 サムズアップしてんじゃないですよオタクも!!

 

 だがまあ確かにこのフォローはポンコツ揃いのほかの連中には無理だ。

 オレ? オレはこのファミリア唯一の真人間だ。

 

 いいか! オレは絶対、ポンコツなんかに屈したりしない!!

 

 

 

 

 

 ダンジョンに向かうベル君に追いつくのは簡単だった。

 『顔のない王』で透明化し、ダンジョンにもくっついていった。

 そこからのベル君の戦いは、まあ悲惨なもんだった。

 無理も無い。夢抱いて田舎から飛び出して、数日で(見た目だけは抜群に良い)運命の人に出会えたと思ったら次の日の夜にはそいつの口から聞きたくもない違う男の話が出るわ出るわ。ロビンフッドになる前のオレなら鬱になっていたかも知れない。

 

 いったいベル君が何をした?

 前世でどんな悪行を犯したら異性愛者の少年が、元男で現ポンコツに惚れなくちゃいけないんだ?

 しかも24時間で失恋とかRTAでもやっておられる?

 

 あまりに不憫な境遇に思わず涙があふれ、顔のない王で目頭を押さえる。

 

 ってやべえ! 目え離してる隙にウォーシャドウにめっちゃ追い込まれてる!

 あ、でも一匹倒した。さすが主人公! ってちょ、うでうでうで、欠損イベントは十二巻以上早いって、あああああああ仕方ねえええええ!!

 祈りの弓に矢をつがえながら、こういう時用のかっこいいセリフを必死に思い出す。

 

 

「……ふん。お前の勝手だが、その前に右に避けろ!」

 

 命中! いや、違う茶が入ってたような気もするが、とりあえず関係ねえ!

 とりあえず、呆然としてるベル君に名乗るか。

 

 

「アーチャー、ロビンフッド。……呼ばれちゃいねえけど、それなりに働きますよっと」

 

 うし、決まった!

 

 

 その後はとりあえず周辺の雑魚をせん滅し、キャスター印の爆薬でルームに穴をあける。これでしばらくはモンスターもわかねえ。

 んで、ベル君のケガを手当てしてたんだが、ここからが問題だ。

 完全にメンタルへし折れてたらどうしよう。

 だって、『アンリマユ・ファミリアなんて、雲の上の人が!』とか言い出すんですよ?

 それって脳味噌お花畑の隠語? そういうことだろ? 原作でネタ交じりに言われる腹ペコ(セイバー)とか男の娘(ライダー)とかマッド(キャスター)なんて可愛いもんよ? あいつらもっとヤバいアホどもですよ?

 

 思わずオレも闇に呑まれかけるが、なんとか持ち直しつつ話をする。

 

 とりあえずメンタルケア最優先だ。セイバーが気にかけてたことにして、反応をうかがってみよう。

 

 お、嬉しそうだな。意外と軽症なのか?

 

「惚れたんだろ?」

「違いま!!………………せん」

「か~、初々しいねえ!」

 

 頭をぐりぐり撫でまわす。なんだよ、全然大丈夫そうじゃねえか。いやあホッとしたホッとした!

 

 そう油断してたらまさかの号泣。ああああゴメンって! からかって悪かったって!!

 

 たぶんアレか、衛宮士郎に嫉妬?してるんだなコレ。

 どうするどうする、本物のロビンフッドと違ってオレにはイケメンフラッシュ以外のモテスキルなんかねぇぞ、バーサーカー、なんでこんな時にいねえんだよアンタ!!

 

 とにかく、アレだ。こういう時は、相手の男なんて大したことないって思わせるんだ。

 理想は、『衛宮士郎? そんな男より、ベルのここ、あいてますよセイバーさん』くらいに思ってくれるとベストだ。

 

 士郎の嫌なとこ嫌なとこ……そういえばDE○N版のアニメで見た時は、まだ士郎の内面とかよく知らなかったしオレ結構士郎のこと嫌いだったな。役立たずの出しゃばりみたいで。

 ……いけるか? いけるんじゃないか、これ。

 Fateルートをちょくちょくダンまちの世界観に脚色しつつ話せば普通に嫌ってくれるんじゃないか?

 よし、頑張れオレ。

 

 

 そして語ること数時間。

 そこには立派なFateファンになったベル君がいましたとさ。

 

 へ、第一級冒険者にとっては1ルート休憩なしで語るなんて大したことじゃないさ。

 むしろじっと黙って聞き続けたベル君の集中力が怖い。そういやこの子、神話とか好きなタイプでしたね……。

 

 

「今のは、アルトリアさんの……?」

「さあな。ただ、お前は今の話を聞いてどう思った。その未熟なガキに対して」

 

 あんまり深く突っ込まないでくれ、粗があるのはわかってるんだ。それより士郎への感想をくれ。

 ほら、あんまり役に立ってないよー? ちょっと不死身の大英雄相手にケーキ入刀したり、この世全ての悪の欠片に耐えたりしたくらいだよー?

 

 

「勝てない、と。思いました」

「ひょ?」

 

 待て、今の声はロビンフッド的に無しだ。

 いや、そんなことはいったん置いといて、ちょ、勝てないってどういうことだ!?

 

 うん、どんな目に遭っても、信念を曲げず、自らこそ間違いだと自分を責めるセイバーを正し、世界を救って見せた士郎をかっこいいと思った。

 うん、セイバーが惚れるのにも納得した。

 

 

 ちょおっとまてえ!!

 

 やばいぞーこれ、なんかすげえスッキリした顔してる。

 失恋を乗り越えて一回り大きくなった男の子の顔してる。

 完全にダメな方向に背中押しちまった!? いや、ベル君の人生的にはその方がいいかもだが、ちょっと待ってくれ、お前のスキルの為でもあるんだ!!

 

 ダメだ、焦り過ぎて変な幻覚まで見える。ウチの派閥の奴らが肩組んでなにか言ってる。なになに、『おれ達は、仲間(ポンコツ)だ!』? やかましいわ!

 

「教えてくれてありがとうございます、ロビンさん。おかげでスッキリ―――「待て待て待てえええい!!」

 

 致命的な一言を口にしようとしたベル君を黙らせつつ、何か手段がないか考える。がんばれ、オレ。オレは凡人でもこの体はサーヴァント。死後英霊にまで上り詰めた存在。

 

 ん? 死後? 死んだ後? これだ!!

 

 すまん、士郎! 死んでくれ! 他意はない、昔はともかく今は割とお前のこと好きだから!!

 

 そこから先ほどの話の続きを再開するオレ。記憶にあるextraでの無銘の過去で偽りの物語を捏造する(トレース・オン)

 

「このこと、アルトリアさんは……!?」

「…………あぁ」

 

 心臓が、氷の手で鷲掴みにされた気分だった。

 こんな話バレたら、間違いなくウチのセイバーに殺される。

 

「……かつてこの街は、闇派閥(イヴィルス)ってぇ奴らに脅かされていた。もちろんオレたちも戦ったが、誰よりも先頭に立っていたのはあいつだった。オラリオのみんなは口を揃えて称えたもんさ。『騎士王に栄光あれ! 聖剣担う偉大なる勇者!!』……だけどオレは、素直に喜べなかった」

 

 これは事実だ。

 チヤホヤされて浮かれてるアホにはめっちゃ腹立った。

 なぁにが『んん~? 昨日までアーチャーにアタックしていた娘も私に声援送ってますね~。いやぁ、すみませんね~』だ、あの野郎……!

 

 

「でもなぁ、あいつは止めたって聞いちゃくれねえんだ。こっちの気持ちなんてお構いなしに(ポンコツ道を)突き進む。この十年、オレが何度言ったって、理解してくれなかった」

 

 ベル君の肩を掴む手に力がこもる。

 

「オレたち(のツッコミ)じゃダメなんだ。ああ、さいごまで付き合う覚悟はできてるさ(やらかし的な意味で)。でもな、本当にどうしようもない最悪(のやらかし)が来た時、オレたちじゃ一緒に沈んでやることしかできねえ(マジで)。わかるんだ!(普段の言動見てるから!)」

 

 要保護者なポンコツを押し付けたいあまり、オレの眼はあまりに熱を帯びていて―――

 

「それがいつかはわからねえ(からこわい)! 本当に来るのかもわからねえ(でも多分来る)! でもあいつを救うには、きっと別の(ポンコツをフォローしてくれる)誰かが必要になる!」

 

 現実から眼を逸らしたくて仕方なくて―――

 

「だから、なぁ、頼むよベル・クラネル……お前が(不幸にも)あいつを想っているなら、(残念なことに)あいつに少しでも恩を感じているなら!」

 

 対岸の火事に巻き込む気満々で―――

 

「お前が、あいつの英雄になってやってくれ!!」

 

 

 

 

 

 

「誓います。絶対に……!!」

 

 この日、オレは少年を地獄に堕とした――――

 

 

 

余談(えくすとら)

 

 

「ランサー、アーチャーはまだ戻らないんですか! あと昨日の一件が広がって郵便受けに怪奇文書が大量に!!」

「怪奇文書は知らんが、アーチャーからは言伝を預かっている。『ショウジキ、スマンカッタ』らしい。なんのことかはわからんが」

「そっちはそっちで何やらかしたんですかあの緑いい!!」

「セイバー、追加来てるよー。なになに、『処女じゃないなんて嘘ですよね!?』『信じてたのに信じてたのにイ言じてたのにシンジテタノニ――――』『NTRに目覚めました! ありがとう!!』ほかにもいっぱ~い」

「ひぃぃ! アーチャー! アーチャアアアア!!!!」

 




憧憬一途 ギリギリセーフ。
・特に重要ではないキャラ設定
アーチャーもどきさんはロビンフッドより色々べちゃっとしてます。抹茶くらい。
アーチャーもどきさんは反面教師にできるポンコツがいなくなると、急速にポンコツ化します。
アーチャーもどきさんとセイバーもどきさんは一番仲が良いですが、お互い相手の方が自分よりポンコツと思っています。
というかファミリア全員、自分はこいつらより比較的まともと思っていますが仲は良いです。

あと感想欄でよく聞かれたアサシンですが、七騎目にアヴェンジャー突っ込んだので、今回は欠席です。
すみません、そのうちセイバーもどきさんにジャージ着せるんで石を投げるのは勘弁してください。
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