ダンジョンでサーヴァントに出会うのは間違ってるでしょう!?   作:夕鶴

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めっちゃ長くなりそうだったので、とりあえずベルたち原作サイドの視点だけ先に投稿します。
ポンコツサイドもなるべく早めに投稿します。


第6話の①

「それで自分は、まーた下界の男にコナかけようと動き回ってたっちゅーわけか」

「それが私だもの」

 

 【怪物祭】当日、賑わいを見せる大通りを見下ろしながら、二柱の女神による腹の探り合いが行われていた。

 ロキとフレイヤ。どちらも都市最強の一角に数えられるファミリアの主神。

 ついに戦争でも始まるのかという面子だが、話す内容としては神の宴にも積極的に参加したり等、最近妙にアクティブな美の女神を貧の女神が問い詰め終わったところ。

 その色ボケっぷりに呆れつつ、ロキは僅かに好奇心を覗かせた。

 

「そんで? 今回は何やらかそうとしてるんや?」

 

 この美の女神が男を見初めたのだ。

 くわえて今日は【怪物祭】という絶好のイベント。必ずや何かをやらかすだろうという興味だったのだが……

 

 

「何も。今日は何もしないわ」

 

 そんな、期待ハズレの答えが返ってきた。

 

「は〜? ウソつけぇ。どうせ怪物でも暴れさせて、その男とぶつけるんやろ?」

「フフフッ。それも楽しそうね。えぇ、何もなければ、きっとそういうことをやりたくなっていたかも」

 

 でも、と美の女神は続ける。

 

「約束したもの。怪物祭では騒ぎを起こさないって」

「やくそくぅ〜?」

 

 思いっきり顔をしかめるロキ。

 この胡散臭い女神の口から、約束などという可愛らしい言葉が出てきたのが信じられないというオーラが溢れている。

 そもそも、たかだか約束程度でこの女神が愛の衝動のままにいらんことするのを思いとどまるとは思えない。

 

 しかし当のフレイヤは、男を惑わす妖艶な、同時に花開く少女のように可憐な微笑みを浮かべ、そっと頷く。

 

「えぇ、約束。群衆の主の名誉を守るために命を懸けた英雄(こども)との、大切な」

「はぁ?」

 

 ますます訝しむロキを横目に、何かを懐かしむようにクスクスと笑みをこぼすフレイヤは人々で賑わう通りの中、見覚えのある白髪頭を見つける。

 

「だから期待には添えないけど、今日は何もするつもりがないの」

 

 

 もっとも。

 

(せっかく私が我慢しているのに()()()が起きたら、貴方達はどうするのかしら?)

 

 ささやかな趣味に没頭していれば気づかなかっただろう、些細な違和感。

 美の女神であると同時、戦士達を愛する女神であるからこそ感じ取れた、僅かな争いの気配。

 自分を差し置いて何かが蠢いている予感に不快感は覚える。

 しかしそれを上回る好奇をその瞳に宿し、フレイヤは微笑む。

 

 

 

 

「あーあ、アルトリア達とお祭りまわりたかったなー」

「だから言ったじゃない。前もって約束しておくべきだって」

「で、でもアルトリアさん、酒場での一件以来、体調を崩してたらしいですし、お邪魔するのも良くないかと……」

「だよねー、レフィーヤ。ティオネは人の心がわからなーい」

「あぁん? あんた今なんて!?」

「なにさー!?」

「お二人とも、喧嘩はやめてくださーい!?」

 

 ガネーシャ・ファミリアの団員による調教が行われている円型闘技場。

 ロキ・ファミリアの三人の少女達は、それを眺めながらキャイキャイと騒いでいた。

 正史ならば、モンスターの脱走に対処するガネーシャ・ファミリアに感づき、動き始めるはずの彼女達。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ──異物(ポンコツ)たちの介入が、外伝のとある事件の解決策を遠ざけてしまったのだ。

 

 

 

 

「さぁ、ベルくーん、次は何を食べようかー?」

「か、神様、人探しのこと、忘れてませんよね?」

「む、当たり前じゃないか。でもベル君? 君まさか、せっかくのボクとのデートを、他の女を優先して蔑ろにするつもりかい?」

「そそそ、そんなつもりは!?」

 

 ところかわり、東のメインストリート近くの広場。

 零細派閥の主神とその唯一の眷属が、身を寄せながら歩いていた。

 いや、正確に言うと、ヘスティアが一方的にベルに擦りついているのだが。

 

 何故こうなったかというと、ことは単純。

 今日も今日とてダンジョン攻略に励もうとしたベル。

 しかし豊穣の女主人の前を通りがかった際、店員の少女たちに財布を忘れて祭りに出かけたシルに届けて欲しいと頼まれたのだ。

 負い目もあり、又、お弁当の恩もあるシルの為ならばと引き受けたベルは、祭りの最中何日かぶりにヘスティアと遭遇。

 色々あってデートをしながらシルを探し回っているのだ。

 もっとも、ヘスティアはベルとのお祭りを楽しむことに重点を置きまくっているのだが。

 

 そんな女神に苦笑しつつ、オラリオに来て初めてとも言える羽休めにベル自身少し浮かれていた。

 モンスターの調教が行われているという円型闘技場から離れて大通りまで戻った後、銀色の猿に襲われる謎の幻覚を見たが、ガネーシャ・ファミリアとギルドがきっちり管理している以上そんなことが起こるはずもなく。

 無邪気に笑う女神に釣られて、そっと微笑んだ直後。

 

 

 

 ソレが現れた。

 

 

「うわあああああああ!?」

「かみさまあああああ!?」

 

 

 突如盛り上がった地面の真上にいたヘスティアがポーンと吹き飛ばされ、大慌てでベルがダイビングキャッチ。なんとか事なきを得た。

 

「神様、大丈夫ですか!?」

「うぅっ、すまないベル君、心配させて申し訳ないが今ボクは幸せを噛み締めている!」

「何言ってるんですか神様ぁ!?」

 

 抱き抱えた敬愛する主神と漫才をしながらも、ベルはソレを見た。

 地面を砕きながら現れたソレは、蛇のような姿をしていた。

 地面から生えた、緑の鱗に覆われた長い胴体と、口や目が見えないものの頭部のように見えなくもない先細った先端部。

 顔のないそいつは、周囲を睥睨するように先端部をグルリと回した後────前方を大きく薙ぎ払った。

 

 飛び散る屋台や民家の残骸。

 悲鳴を上げながら逃げ惑う民衆。

 ベルもヘスティアを抱えたまま、この場から離脱しようとして────見つけてしまった。

 

 

 怪物を挟み広場の対角。屋台の中でうずくまり、涙を流す獣人の少女を。

 

 

「ベル、くん?」

「神様、ここから離れていてください。それから、出来ればギルドに救援を」

 

 女神をそっと下ろし、ベルは前傾姿勢を取る。

 

「おいおいベル君! まさかあいつと戦うつもりかい!? 君でも勝てる相手なのかい!?」

「わかりません。あんなモンスター、見たことも聞いたこともないので」

 

 エイナから授けられた怪物の知識に照らし合わせても該当するものがいない謎の個体。

 まだ教える必要が無かったからか、あるいはエイナも知らないレア・モンスターなのか。それはわからない。

 わかるのは、今のベル・クラネルでは絶対に太刀打ち出来ないということだけ。

 本来なら逃げるべき相手。それは臆病でも卑怯でもなく、当然の行為。

 むしろ今からベルがやろうとしていることこそ、無謀と罵られる愚行。

 だが、

 

 

 

(あの人なら、絶対に見捨てない!!)

 

 泣いている少女を置き去りにして、憧憬に向ける顔など存在しない!! 

 

 ぐ、と全身に力を溜め、一気に解放。

 冒険者になって一月も経っていないとは思えない、凄まじい加速。

 恩恵なき人々では到底成し遂げられない疾走の中、ベルは叫ぶ。

 

 

 

 

「逃げろおおおおおおおお!!!!」

 

 

 自分では絶対に敵わないだろう。

 先ほどの薙ぎ払いを見るに、少女を抱えたまま回避が叶うとも思えない。

 ならば一撃を加え、自分に注意を向けた上で全力で離脱する。

 その間に少女が逃げてさえくれれば、地面から未だ抜け出すことすら出来ていない蛇から、自分一人なら逃げられるかもしれない。

 

 握った短刀から熱が伝わる。

 あの日、憧憬の彼女から渡された武器が、ベルの心を励ます。

 誇りと興奮のまま、短刀を振りかぶり────知覚すら出来ない一撃で、吹き飛ばされた。

 

 受け身も取れず、民家に激突。

 衝撃と混乱による視界の急速なブラックアウト。

 その中でベルは見た。

 

(そん、な……)

 

 冒険者となり、初めに支給された武器。

 ミノタウロスの前に手放し、失われた牙。

 彼女に返され、ベルの心に刻んだ憧憬の象徴。

 

 

 その短刀が、粉々に砕け散っているのを。

 

 

 絶望とともに、ベルの意識は闇に飲まれた。

 

 

 

「──ん、──くん!」

 

 誰かがベルを揺さぶっている。

 良く知っている声だ。

 いつも無邪気で明るくて、なのに包み込むような優しい響きを持っていて。

 希望を抱いてオラリオを訪れファミリア入団を目指すも、無しのつぶての日々に磨耗していた心を救ってくれた。

 憧憬の彼女とは違う、自分が守りたい存在。

 いつも笑っていてほしい、大切な女神様。

 

 その声が、今は涙に濡れている。

 なら起きなくちゃ。

 泣かないでください、神様、と自分が言わなくては。

 慰める、なんて烏滸がましいけれど、彼女の悲しみを分かち合うことが、眷属(かぞく)である自分の役目なんだから。

 

 泥濘のまどろみに沈んでいた意識を浮上させ、重たいまぶたを持ち上げる。

 

「──ル君、ベル君! 起きてくれ、ベル君っ、ボクを一人にしないでくれ!!」

「かみ、さま……」

「ベル君!? 起きたのかい、大丈夫かい、怪我は!?」

「大丈夫、です。手も、足も、動きます……っ」

 

 事実だった。

 したたかに打ち付けた背中こそやや痛むものの、それ以外はほぼ無傷。格上相手に完全な不意打ちを受けたとは思えない軽傷だ。

 むしろ、倒れる前より明らかに身体に力が満ちている。

 

「そうだ! 神様、あいつは!?」

 

 完全に意識がハッキリした瞬間、一方的に打ちのめされた怪物の存在を思い出した。

 自分が助けようとしたあの少女はどうなっているのか。

 

 勢いよく身体を起こしたベルを心配そうな目で見ながら、ヘスティアはある方角を指差す。

 

 

 

「前に出すぎるな、囲め!!」

「盾を壊された! さがれ、さがれ!」

「折れた! これ絶対腕折れてる!!」

 

 

 そこでは、戦闘が繰り広げられていた。

 

 いや、戦闘ではない。それは一方的な蹂躙だ。

 

 武器を持たない数人の男達が、大口を開け、本性をむき出しにした食人花に一方的に嬲られていた。

 

 祭りの日だからと、非武装で出かけた冒険者達。動きを見るに、ほとんどが下級冒険者なのだろう。

 打撃ならばレベル5の攻撃すら無効化する食人花は、彼らにとってあまりにも強大過ぎる相手だった。

 出来ることと言えば消極的な攻撃を繰り返し、食人花の注意を引きつけるだけ。

 

 あまりにみっともなく、物語に謳われる英雄達とはかけ離れた無様。

 

 それでも彼らが何故立ち向かうかというと。

 

 

「全力で注意をひけええええ!! ガキに近づけさせるなああああ!!」

「「「「おおおおお!!」」」」

 

 

 怯え、未だに逃げられぬ少女を救う。ただその為だけに彼らは身体を張っていた。

 

 

「なにが、どうなって……」

「ベル君が吹っ飛ばされた後、逃げようとしてた冒険者君たちが帰ってきてくれたんだ」

 

 本来の歴史ならば、ロキ・ファミリアに任せ避難していた彼ら。

 しかしこの世界において、彼女らの参戦は無い。

 それでもなお、彼らは逃げようとした。

 繰り返すが、それは臆病ではない。

 

 彼らは英雄ではなく、豪傑ではなく、頂点ではなく、謳われる名を持たない人々だ。

 

 冒険を果たすことなく、魂の昇格を果たせずとも、それは自らの分を弁えた戦いと評価できるだろう。

 

 自らの日々の糧を得ることに必死な下級冒険者。

 

 そんな彼らでも、いや、彼らだからこそ。

 

 

 

「駆け出しのガキより、みっともないところ見せるなあ!!」

 

 

 自分達よりもなお貧弱な風体の少年が、一切の躊躇なく駆け出した。

 

 一撃も加えられず、逆に一発で吹き飛ばされはしたものの、子どもを救うために己が身を投げ打つ姿は、自分達が忘れてしまったモノがあった。

 

 彼らは英雄でも、豪傑でも、頂点でも無いが────かつて、確かにそれを目指していたのだから。

 

 咄嗟に、衝動的に、思わず……そういう、奥底の熱を呼び起こされてしまった。

 

 しかし────

 

 

「勢いに任せず逃げときゃ良かったブフぁ!?」

「ああ、また一人やられたぁ!?」

 

 現実は残酷だ。

 いくら奮起したところで彼らは万年下級冒険者。時間稼ぎ以上の何も出来ない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、なんとか踏み止まってはいるが、同時にこちらの攻撃も一切効かず、はっきりいってジリ貧である。

 かと言って距離を取りすぎると、何故か食人花の攻撃が苛烈になるため逃げ出すことも出来ない。

 高揚のためか、何故か体力は満ち溢れているが、精神の方が限界だった。

 

「はやく誰か助けに来てくれええええ!!」

 

 

「僕も、手伝わないと……!」

「ベル君!? 無茶だ、さっきやられたばかりじゃないか!」

 

 冒険者達の惨状に思わず立ち上がろうとしたベルを、ヘスティアが必死の形相で食い止める。

 彼女にとってベルはたった一人の愛しい眷属。

 目の前でこれ以上傷つくことを、見過ごすことは出来ない。

 だが、そんなヘスティアの手をベルは優しく押しとどめた。

 

「無茶をしてる自覚はあります」

「だったら!」

「でも神様、僕は──冒険者になる為に、オラリオに来たんです」

 

 

 始まりは、出会いを求めて。

 

 それは、物語の主人公のように女の子に囲まれたかっただけかもしれないし、最愛の祖父を喪った空虚を埋めてくれる家族が欲しかったのかもしれない。

 

 どちらにしろ、そんな甘ったれた幻想を抱いて即座に死にかけた自分は、しかし死ぬことなく、()()に救われたのだ。

 物語の英雄達よりなお輝かしく、強く、美しいその姿にどうしようもなく憧れた。

 

 今の自分ではとても届かない憧憬。

 追い続けなければ──ただ一度でも脚を止めれば、二度と届かなくなる遥か遠き理想。

 無理だと、無謀だと、何を夢を見ていると笑われるかも知れない。

 それでも構わない。

 

 そんな困難を乗り越えて、彼女の隣に立った少年の物語を、自分はすでに知っているのだから。

 

 

 ならばこれは、ベル・クラネルの始まりの英雄譚。

 

 目の前の女の子を救う。

 

 これ以上なくわかりやすい、正義の味方だ。

 

 

 そんなことを自分の主神に告げると、何故かジト目で睨まれる。

 

「君はほんっとーに……バカ!!」

「はぅ!?」

 

 耳元で叫ばれた。

 

「あー知ってるとも! 君は世間知らずで! お人好しで! 特に女の子に甘いってことくらいね! なんせ眷属0人のボクなんかのファミリアに入るくらいなんだから!! そうとも、そんな君だからこそ大好きなんじゃないかコンニャロー!!」

「か、神様……?」

 

 オドオドと声をかけると、ズイッ、と何かのケースを差し出された。

 

「本当はもっとドラマチックに渡すつもりだったんだ。でもボクは空気が読める女神だからね。時と場合は弁えるさ」

 

 開けて、というジェスチャーに従うと、中には紫紺の輝きを帯びたナイフが入っていた。

 明らかな業物。ヘスティア・ファミリアの財力ではとても手が届くとは思えない逸品だ。

 思わず驚愕して見上げると、幼い姿に見合わない豊かすぎる胸を張ってヘスティアは笑った。

 

「神様、こ、これ!?」

「何をやるにも、武器が無くっちゃ話にならないだろ? 使うんだ。これは君の、君だけのパートナーなんだから」

 

 ヘファイストスに幾夜も土下座し続けて作ってもらった【ヘスティア・ナイフ】。

 その威力は所有者のステイタスに連動して強くなる。

 ベルが気絶している間に、少しでも回復力が上がればと更新したステイタスの急激過ぎる数値。あれならば、あの食人花にも勝てるだろう。

 ポン、と眷属の背中を叩きながら、送り出す。

 

「どうせならさ、女の子を救うだけなんて言わず、サクッとあいつ、やっつけちゃってくれよ?」

「神様……はい!!」

 

 慈愛と信頼に満ちた女神の微笑に応え、ベル・クラネルは再起する。

 喪った得物よりなお鋭い牙を取り戻し、自らの信念を貫くため。

 

 戦場に舞い戻るその背は、力に満ち溢れていた。

 

 そんな眷属を見送って、ヘスティアは僅かに唇を尖らせる。

 

 

「なんだよ、アビリティ上昇値、トータル1()2()0()0()オーバーって……」

 

 デタラメ過ぎる数字に、少し納得いかないヘスティアだった。

 

 

 

 

 

(身体が軽い、これなら、確かに!!)

 

 先程の突進を遥かに上回る加速。

 一瞬で戦場に舞い戻ったベルは、触手で今まさに殴りつけられようとしていた冒険者を抱え、横っ飛びで攻撃を回避した。

 

「ガ、ガキ、てめぇもう回復したのか!?」

「はい! 状況は!?」

「獣人のチビは助けれてねぇ! 花が邪魔だ! 攻撃も鈍いし、直撃さえしなきゃ死ぬことはなさそうだが、リーチが長い上にとにかく硬ぇ! こっちの攻撃が通らねえ! たぶんレベル2くらいのモンスターだ!」

 

 

 助けた男の言葉通り、他の冒険者達も苦戦はしているが、食人花の攻撃そのものは辛うじて回避出来ている。

 あれ、僕の時はもっと速かったような? と一瞬疑問に思うものの、たぶん気のせいだろう。それか、スタミナ切れか。そんな風に納得する。

 

 ベルは激しく頭を回転させる。

 

(このくらいのスピードなら、今の僕なら女の子を抱えて離脱できるかも? いや、もしかしたらまだ全力じゃないのかもしれない。それに下手に女の子に注意を向けさせたら、僕たちがあの子に辿り着くより先に女の子を攻撃するかも知れない。その時は、たぶん間に合わない。ならやっぱり……!)

 

 

 倒すしか、道はない。

 

「僕が攻撃します! あいつの注意を引くことは出来ますか!?」

「なにぃ、てめぇみたいなガキの攻撃で……いや、そのナイフ、ヘファイストスの刻印が!? なるほど、それなら確かに、ってうぉ危ねぇ!」

 

 

 すんでのところで身を屈め、触手を回避したベルに向かって頷いた。

 

「よし、美味しいところはてめぇにくれてやる! 野郎の注意を引くのは任せろ! あいつ、さっきから逃げようとする冒険者を優先的に狙いやがるからな、つまり……!」

 

 周りの冒険者に向け叫ぶ! 

 

「てめぇら! 作戦だぁ! 合図で違う方向に逃げろ!!」

 

 ベル達のやりとりを聞いていなかったため、ハァ!? という顔を浮かべる周りの冒険者。

 しかし、ジリ貧なのも事実。

 策があるなら縋りたい。正直、早く楽になりたい。もう限界一杯です。

 

「いくぞぉ、いち!」

 

 冒険者達が、食人花に背を向けた。

 

「にのぉ!」

 

 ベルの脚に力がこもる。

 

 

 

「さぁん!!」

 

 

 消極的攻勢から、脱兎の如く逃げ出した冒険者達。

 食人花は、一瞬の静止の後、習性に引きずられるように冒険者達にありったけの触手を伸ばす。

 その瞬間。

 ベルは駆け出した。

 

(狙いは、頭の花!!)

 

 渾身の突進(チャージ)で魔石を砕き、一撃で終わらせる。

 

 超人的な加速で射程に飛び込み、跳躍。

 ナイフを突き出し────

 

 潜んでいた触手が、ベルを打ち据えた。

 

 砕け散る軽鎧。飛び散る鮮血。ベルの身体が宙を舞う。

 さらに、冒険者達に伸ばされていた触手が引き戻され、ベルに殺到した。

 

「ベルくん!!」

「小僧おおお!!」

 

 ヘスティアや冒険者の悲鳴が響く。

 誰もが小さな英雄の死を予感した。

 

 

 だが、

 

 

(まだだ!!)

 

 ベルの眼は死んでいない。

 

 自分を打ち据えた触手。それに渾身のドロップキックを叩き込み、反動で更なる加速を得る。

 直後に触手群が迫るが、必殺に見えた一本目の根は()()()()()()()()()()()()()()()()、残りは全て置き去りにベルは跳ねた。

 

 

「うあああああ!!!!」

 

 咆哮と共に、食人花の口腔内にナイフを叩き込む。

 威力、タイミング共に完璧。

 紛れもなく、今のベルに出せる最高の一撃だった。

 

 しかし、

 

(──これでも、貫けないのか!?)

 

 食人花の肉に僅かに突き刺さりはしたものの、そこで勢いが止まる。

 ベルの渾身を受け止めた食人花は、身の程知らずの雑魚を食い殺さんとする。

 

 数瞬後には噛み砕かれ、死に果てる危機的状況。

 

 走馬灯が駆け抜ける中、ベルは金の髪を幻視した。

 

 

 

『ずっと、気に掛かっていました。私のせいで、貴方の運命を歪めてしまったと。貴方の意思を挫いてしまったと。ですが、貴方は武器を手放さなかった。自らの運命を自ら切り開く姿を見せてくれた────私にはそれが、何より嬉しい』

 

 

 

「うおおおおおおおお!!!!」

 

 諦めない、手放さない、生きることを投げ出しはしない。

 

 憧憬の彼女(アルトリア)に並ぶために。

 ただの少女(アルトリア)を救うために。

 

 ベル・クラネルは、こんなところで死んでやるわけにはいかない────!! 

 

 

 諦観に染まった瞳に火が灯る。

 最期の瞬間まで、この手に力を込め続ける。

 

 

「あああああああああああああああ!!!!」

 

 

 しかし少年の奮闘虚しく、無慈悲にも怪物の顎が迫ったその時────

 

 

 

 

 風が吹いた。

 

 

 

 

 気付いた時には、ベルは食人花をぶち抜いていた。

 

 

 

「う、うおおおおおおおおおお!!!!」

「やりやがった、やりやがったあの小僧おおおお!!!!」

「うわああああ! ベルくん! ベルくううううううううんんんん!!!!」

 

 灰と化して消滅する食人花。

 一拍遅れの大歓声。

 

 

 しかし、少年の耳にはそのどれも届かない。

 

 全力のその先を振り絞った代償か、意識を失いながらベルが知覚できたのは二つ。

 

 自分の背を押し、最後の一押しをしてくれた力強くも優しい風と。

 

『ベル、よく頑張りました』と褒めてくれた、愛しい少女の幻だ。

 

 受け身も取らずに落ちていく身体を誰かに支えられながら、ベルは意識を失った。

 

 

 

 

 

「よく、頑張ったね」

 

 意識を失った少年を抱き上げながら、金の髪を靡かせる少女は呟いた。

 少年とは、初対面ではない。

 

 一度目はダンジョンで。

 自分達が逃してしまったミノタウロスに追われ殺されかけていたところを、盟友たる騎士が救った姿を。

 

 二度目は酒場で。

 自分の仲間の一人に酷く笑い者にされ、酒場を飛び出した彼の後ろ姿を。

 

 どちらの記憶の彼も今にも泣きそうな顔をしていて、何故か強く印象に残っていた。

 

 だけど、所詮それだけの話。

 酷いことをしたと。謝りたいと考えてはいたけれど、その程度のはずだったのに。

 

「すごく、強くなっていた」

 

 金の少女はその言葉を噛み締める。

 いかにも駆け出しといった風情だったはずの彼が、多くの力を借りてとはいえ、明らかに格上の敵を倒してみせた。

 ()()()()()()()()のだ。

 

 聞きたいことがたくさん出来た。

 話したいことがたくさん出来た。

 

 でも今は何よりも。

 

 

「次は、私の番だよね」

 

 石畳を砕き、現れる三体の食人花。

 

 姿形は同じなのに、明らかに先ほどの個体よりも動きが速く、攻撃性が高い。

 第一級冒険者である少女でも、代用品の武器では苦戦は免れないだろう。

 

 だがそんなことは関係ない。

 

 弱く、未熟なはずの冒険者が勲を示したのならば。

 

 アイズ・ヴァレンシュタインがこの程度の危機、乗り越えてみせなければ、示しがつかない。

 

 

 だけど、心配はないかな、とアイズは口元を綻ばせる。

 直後、彼女の前に降り立つ七つの影。

 

 

 一人は緑衣に身を隠し、毒と罠を駆使する森の弓兵。

 

 一人は黄金の輝きをたたえ、日輪の猛威を振るう槍使い。

 

 一人は白銀の馬上槍を携え、幻獣と共に天翔ける騎兵。

 

 一人は純白に身を包み、元素結晶を従えた魔術師。

 

 一人は黒の瘴気を纏い、無双の武芸と暴威を宿す狂戦士。

 

 一柱は紅の衣を身に巻きつけ、この世全てを嗤う復讐者。

 

 そして最後の一人が、アイズに手を伸ばす。

 

 

「これ以上の悪逆を許すわけにはいきません。アイズ、力を貸してくれますか?」

「……! うん!」

 

 そう、なんの心配も無いのだ。

 この偉大なる騎士王と共に戦うなら、どんな敵も恐れるに値しないのだから──!! 




ちなみに原作でのベルくんの上昇値は600オーバー
早期に積み重ねたポンコツイベントにより、現時点での成長度だけは原作を上回っています
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