IS lamentation   作:夏陽

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 平和

「あ゛ーち゛ー!」

 

「そうですねぇ」

 

 6月も半分が過ぎようとしているこの頃。

 我が母国ニッポンは猛暑に晒されていたのであるッ!!

 いやホントマジで日中気温35度超えとかふざけるんじゃないだろうか。真夏の最高気温超えてるんだけどなんじゃいコレ。

 まだ夏じゃないというのにこの気温。8月とか地獄じゃないかコノヤロー。

 どうやら太陽の活動期がなんやらとのこと。黒点?だかそんなのが関係してるらしい。俺はバカだからわからんけどとりあえずふざけんな太陽。11年周期の活動今年に持ってくんな、失せろ。

 

 ・・・・・・・普段全く動かさない頭使ったせいで知恵熱とんでもない。

 ベチャーと机に突っ伏すしかできない。

 ダラダラ流れる汗がうっとおしい。

 

「なぁ、葵ィー。セシリアにばっかうちわ扇いでないで俺にも扇いでくれぇー」

 

「嫌です」

 

「即答かよっ!」

 

 救いの手を求めるも即断られる。ちくせう、ひでぇ。

 ショックでぐでーとなってる俺を一瞥してる男はセシリアの執事、もしくは未来の婿。

 こんなに暑いというのに執事服をきちんと着込んで、汗一つかいてすらいないのは脱帽ものなんだけれど、見てるこっちが暑苦しい。

 その執事服冷却装置でも付いてんじゃねえの? 

 

「と言うか暑いなら自分で扇いでください。自分はこの暑さからお嬢様を守ること以外に”無駄”な、”無駄”な労力は使いたくないのですよ」

 

「なぜ無駄を強調するんだよ・・・・・・・」

 

「分からないのですか?貴方みたいな男を助けるくらいだったら、か弱い女性方をお助けしますよ」

 

「ぐっ・・・。なんでお前は毒ばっか吐くんだよ・・・・・」

 

「安心してください。あなた以外の御方には毒を吐くことなどしませんから」

 

 その笑顔見て、殴りかかろうとしたのは仕方ないことだと思う。

 だけど、そんな事死んでもしないけどな!!

 返り討ちにあってしまうし。

 

 前に一度だけ試合を挑んだんだがあれだ。

 

 

 気がついたら目の前に天井が広がってましたって感じ。うん。

 

 あれだよ。開始の合図で突撃したんだ、渾身のストレートってやつをさ。大抵のやつはそれをモロに食らって終わるんだが、葵は違った。

 いつの間にやら視界から消えていて、気がついた時にゃ超綺麗なフォームで無防備の腹にケリをぶち込もうとしてるところで、例外なく叩き込まれて一発KO。もちろん俺が。

 強すぎて笑えなかった。

 ちなみに姉貴と戦ったところを見たが、あっという間に戦闘不能にしてた。ただ、俺みたく蹴り飛ばされたわけじゃなく、背後を取られたって感じ。

 世界最強を瞬殺する奴が護衛とか、安心できて涙が出るわ。

 

「・・・・・・どうしたんですか?男が泣いてても気持ち悪いだけですが」

 

「うっさいわ!!なんだか最近俺の扱いがひどくね?って思ってる訳無いだろう!?」

 

「・・・・・・大丈夫ですか?お嬢様」

 

「あ、暑いですわ・・・・・・・。日本がここまで暑いのだなんて・・・・・」

 

「イギリスは今の時期でも比較的涼しいですからね。辛いのも無理はないですよ。ただ、夏はこれくらいの気温が続きますが」

 

「そ、そんな・・・・」

 

 完全無視。現実はいつも(俺にだけ)無常である。

 

 

 

 

 

 

 

「兄貴の事なんだけど、さ」

 

 自販機でコーヒーを買って近くにあった休憩用の椅子に座る。葵の分も奢ってやる。こいつに奢るのはなんだか気に食わないけれど、話を聞いてもらうのだから妥当なのかも知れないけれど。

 

「やっと、振り切れた気がする。何年も時間が必要だったけどさ」

 

「お兄さんのことですか」

 

「あぁ。なんていうのかなー、ずっと現実を受け入れられなかったって言うのかな。ずっとそんな感じだった。気が付けばどこにもいなくて、だけどいつの間にかそばに居たような奴だった。だから、たまたまいなくなっただけで、ひょっこり帰ってくるんじゃないかって、いつものことのように思ってたんだ。だから、姉貴がなんで泣いてるのか全く分からなかった」

 

 コーヒーを口に運ぶ。少し減糖しておいたほうが良かったかもしれない。甘い。 

 

「ホントはさ、心のどこかで分かってた。でも、認めたくなかったのかもな。兄貴が死んだなんてさ。姉貴からすれば俺は兄貴っ子ってくらいだったらしいし。俺自身も兄貴といつも一緒に居た記憶があるからさ。そんな、子供の考えのまま今まで生きて来て、IS学園の皆と知り合いどんちゃん騒ぎしているうちに嫌でも理解しちまった。俺は馬鹿だった。どうしようもないくらい子供だったよ」

 

「確かに、初めて出会った時の貴方は子供でしたね。目も当てられないくらい現実から逃げていましたよ」

 

「だろうな。兄貴はそれくらい、俺の中ででかかったから、さ」

 

「よろしければ」

 

「ん?」

 

「よろしければ、お兄さんのこと聞かせては貰えないでしょうか。失礼なのはわかります。でも、どういう人なのだか気になるんです」

 

「少し長いけどいいか?」

 

 もちろん、と葵が笑いながら返事を返してくる。いつもの、嫌味が混じっている物ではなく、セシリアに向けている穏やかな笑顔。

 

「兄貴は、俺の憧れだった。小さいころの俺はいつも泣いていて、すげぇ弱かったんだ。泣き虫で弱虫って奴だよ。近所のガキにいつもいじめられてて、泣かされてた。辛くて、悲しくてな。たいからものを壊されたことだって数え切れないほどあったよ。でさ、そこで助けに来てくれるんだ、兄貴が。俺をガキから守るようにたってくれて、俺の弟なかせんじゃねぇ!ってな。その後ろ姿がすげぇかっこよくてさ。あっという間に叩きのめしちまうんだ。5、6人まとめて」

 

「すごいお強いですね」

 

「あぁ、すごい強かった。それに正義感が人一倍強い人でな。困ってる人を見ると無条件で助けたくなるって、胸張って言ってたよ。兄貴に助けられた人なんか数え切れないほどいて、いつも兄貴は慕われてた。俺にはほとんど友達がいなかったから、ちょっぴり羨ましかったなぁ。兄貴の友達が可愛がってくれたからあんまり気にしてないんだけどな。それでさ、皆が言うんだ。兄貴のことをヒーローだって。今思えば、兄貴はそこまでできた人間じゃなかったなぁ。力が強くて正義感があるってだけだったのに、それだけでひどくかっこよく見えたよ。俺にとって兄貴は、兄貴は自慢だった。まだ、兄貴においつけたとは思えないんだけどさ、いつしか追い抜いて胸張って会えるようにするのが俺の目標かな」

 

 長々と話し終え喉にコーヒーを流し込む。乾いた喉に甘いのは少しキツイがどうでも良い。

 1分か、2分だかの時間をおいて葵が口を開く。

 

「とても立派な御方だ。これくらいしかいうことが無いくらいです。羨ましい限りですよ。歪んだ世界の中でもまっすぐ生きてゆける心を持った人を兄に持ててることが」

 

「どうも」

 

「なんとなく、貴方がお仲間を何よりも大切に想う気持ちが理解できた気がします。お兄さん譲りかもしれませんね」

 

「そうかもな」

 

 長い、長い沈黙がお互いの間を流れる。

 話すのが面倒になったとかそんな理由じゃなくて。

 ただ、話す事がなくなった・・・・・というより、聞いていいことなのか俺が迷ったからだ。

 ここで話すべきかなんて思ったけど、この際ぶっちゃけてしまおう。

 

「なぁ、葵」

 

「なんです?」

 

「俺馬鹿だから口下手で説明できねぇんだけどいいか?」

 

「もちろん」

 

「・・・・・・なんで人って辛いことばかりの人生を生きてくんだろうな。あーなんて言うんだ?うまくいえねぇや。なんかそうゆうこと」

 

「そんな簡単な事ですか?」

 

「へっ?」

 

 思わず間抜けな声を出してしまう。まさか、こんなに早く答えを言われるとは思っていなかった。

 

「簡単すぎることです。確かに人生は辛いことばかりです。今のご時世じゃ特に。IS学園では、いえ日本はまだ比較的平和だと言えましょう。満足ではないにしろ、それなりの生活を送れている人はたくさんいます。でも、他の国は違い、争いや貧困が広がっているところだってあります。そう言う自分もお嬢様と出会うまでは裏路地で過ごして来た身です。少し話がそれましたが、それでも生きていれば楽しみの一つ位見つかるでしょう?だれも好き好んで辛い毎日を生きてなどいません。辛い毎日の先にある楽しみに希望を抱いて生きてるんですよ。今の貴方は辛いと感じていますか?」

 

「いや、むしろ楽しい」

 

「ソレでいいんです。辛いことがあるから楽しいこともある。そんな程度の簡単なことでしかないんですよ」

 

「・・・・・ハハッ、なんだそりゃ。単純過ぎるじゃん」

 

「そんなんですよ。単純なんです」

 

「ったく、ひとりで悩んでたのが馬鹿みたいだ。よしっと。心のもやもやも取れたし新鮮な気持ちでトーナメントに出場できそうだ、さんきゅーな」

 

「いえいえ。悩みを抱えていたら満足に戦えないですから。当然の事をしてだけですよ」

 

 そうやって笑う葵は、幼い頃いつも見ていた兄貴の笑顔となぜか重なった。

 兄貴がいきていれば葵と同い年だから、無意識に兄貴の面影と重ねて見ていたのだろう。葵は兄貴にとても似ていたから。

 ちょっと口が悪いところとか、周りの人を大切にするところ、そして何よりその強さが。

 もし、葵と出会えたならいい親友になれていたのだろうと思う。

 だから、口走ってしまう。

 

「兄貴にほんと似てるよ。葵は」

 

「奇遇ですね。自分も似たような事を考えていましたよ。生き別れた弟にそっくりですよ」

 

「・・・・・・・そうか、それは大変だったな」

 

 生き別れ。 

 それは死に別れより辛いことだと俺は思ってる。

 死んでしまうと逢いたくても、どうあがこうとも会うことはできない。

 でも生き別れは違う。

 逢いたくても会えない。

 いつか本で読んだことがあるけれど、生き別れというのはただ単に離れ離れになったわけじゃないらしい。複雑な理由があって逢いたくても会えないというのだ。

 

「大丈夫ですよ。今頃は幸せに暮らしているんでしょうし。それに今の自分にはとてもとても手のかかる弟がいますしね」

 

「・・・・・・・弟と思ってくれてるなら、少しくらい優しくしてくれぃ」

 

「ダメです。可愛い子には旅をさせろならぬ、可愛い弟分は厳しく扱えです」

 

 ひでぇ。ダメだこの人。どSだ、ドSの悪魔がいやがる!!

 ・・・・・ドSなのは前々からわかってたけど。

 

「さてと、ISの訓練でもしようかなっと」

 

 全部吐き出してスッキリしたところだからいつもよりうまくいきそうだ。

 

「頑張ってくださいよ?優勝賞品楽しみにしてますから」

 

「ぐっ。余計なプレッシャーかけんじゃねぇって」

 

 どこまでもSな葵だった。

 

 それじゃ、と言って葵は反対の方へ歩いてゆく。そんな後ろ姿を見ながら頑張らないとなと思う。

 

――――頑張れよ、千夏

 

「ッ!?」

 

 踵を返して歩き出そうとしたとき、不意にそんな声が聞こえる。

 咄嗟に振り返っても、もうだれもいない。葵の姿も見えない。

 

「・・・・・・・・・なんだってんだよ」

 

 その声は、なぜか兄貴に似ていた。

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