IS lamentation   作:夏陽

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 昔話

 

「明日はきっと会えるはず。だから、明日も頑張らないと・・・・・」

 

 何度目かわからなくなるほど、同じ言葉を自分に言い聞かせる。

 ずっと前から、何年も前から言い聞かせたような気がする。

 毎日、毎日。

 叶うはずもない事を何度も何度も。

 耳にタコができるくらいに、まったく同じことばかり。

 馬鹿馬鹿しいことでしかないのに。

 それでも、そうしないと自分が保てなかった。

 おかしくなってしまいそうだったから。

 

「・・・・・・・いつになったら会えるんだろう?」

 

 不意に言葉が漏れる。

 叶うもない事を自分に言い聞かせて誤魔化していたけど。

 もう、限界なのかもしれない。

 もう、何年も自分に言い聞かせた。

 あの戦争で世界は崩壊の一途をたどった。

 今じゃ、自分以外の人は皆死んだ。

 本当だったら治ったはずの風邪で死んだ人もいた。

 転んだとき切った傷から感染症を発症して死んだ人も。

 空腹で餓死したひとも。

 体力が尽きて死んだ人も。

 何もかもが嫌になって自ら命をたった人も。

 沢山の人の死を見てきた。

 嫌になるほど死んで行くのを見てくた。

 

「一人は嫌だ・・・・・」

 

 たくさんの死を見てきて、ずっとずっと1人で生きてきた。

 頼れる人はいない。

 そもそも地球で生きてる人間は自分だけ。

 ぽたりと涙が落ちた。

 おかしいな。

 もう涙は枯れたと思ったのに。

 あの日。

 死ぬんじゃないかってくらい泣いたのに。

 

「嫌だよ・・・・・・・」

 

 心はもうボロボロだった。

 ずっと一緒に笑い合って過ごしていたい。

 そう思っていた人たちはもう、ずっと前に死んだ。

 その後も、生き延びるために旅をした仲間も死んだ。

 「生きてくれ」そう、最後に呟いて。

 もう、生きるのが辛い。

 苦痛でしかなくなってしまうほど生きた。

 自分を勇気づけた言葉も意味を持たない。

 言い聞かせれば言い聞かせるほど、心が求めようとする。

 人のぬくもりを渇望してしまう。

 一人が嫌だど苦しいほどに思ってしまう。 

 

「俺、頑張ったよな・・・・・?」

 

 答えてくれる人などいない。 

 月明かりが僅かに差す部屋は暗い。

 

「もう、頑張らなくても、いいよな・・・・?」

 

 目の前が涙で歪んで見えなくなっていた。

 拭っても、拭っても。

 とめどなく溢れ出し、とまってくれることはない。

 カッターナイフを手にとった。

 その刃は刃こぼれをしていて、錆び付いてすらいる。

 でも、今からすることに使うのは十分なはず。

 それを首筋に当てた。

 ひんやりと冷たい。

 今までの人生の中で一番冷たいと感じるくらいに。

 そんな冷たさだった。

 

「死んだら、皆に会えるかな・・・・」

 

 脳裏にあるのは何よりも大切に思っていたかけがえのない人たち。

 記憶の中の皆は幸せそうな笑顔を浮かべている。

 こんな世界を逃げ出して、その輪の中に入りたい。

 もう一度だけ。

 もう一度だけ皆と会いたい。

 他愛もないことで喧嘩して、笑い転げて、過ごしたい。

 どんな形でもよかった。

 どんな形でもいいから、皆に会いたかった。

 

「そっちに行くから・・・・・・」

 

 ぐっとカッターナイフを握る手に力を込める。

 迷いなどなかった。

 

 

 

 

 

「織斑君!!ツーマンセルトーナメントがんばってねっ!!」

 

「はい?」

 

 みんみん鳴きまくるセミどもに「やかましいわ!!ちったぁ黙っとけボケェ!!」と言いたくなるこの頃。

 授業おわったー!さぁ、寮にかえろーと思った矢先、クラスの女子に言い寄られてた。

 なにこれ?

 

「いやあのさ?ツーマンセルトーナメントを俺が百歩譲って優勝したとしよう。それでお前らになんの得があんのさ?優勝賞品なんてないだろ。それにもらってもお前ら全員分はないんじゃね?」

 

「ふっふっふ。織斑君は情報が古いなー。これを見ればわかるよっ!」

 

 ばんっ!!と顔面に叩きつけられる何かの紙。

 

「おいこら見えないって」

 

「あ、ごめん」

 

 素直でよろしい。

 

「えーなになに?ツーマンセルトーナメントを見事優勝した生徒のクラスに、一ヶ月デザート無料チケットを全員分プレゼント・・・・・・・、お前らさてはこれが目当てだな?」

 

「もちのろんさ!!デザートと聞いちゃ私たちは黙っていないよ?クラス対抗戦の時は仕方ないといえ、今回ばかりはきっちり優勝してもらうよっ!!」

 

「・・・・・・お前らそんな事のために俺を動かすなよ」

 

 正直俺甘いものとかどうでもいいし。

 

「そんな釣れないこと言わないでくれてもいいんじゃない?ここのデザートはすっごく美味しいんだから。一度でもいいから食べてみなよ」

 

「一度でもいいからっていわれてもなぁ、高いじゃん。1個1000円とか余裕で超えてなかったか?」

 

 ここの食堂のモットーはおばちゃん曰く、

 

 早く!

 すっごい安く!!

 そして美味しく!!!

 

 というのが売りらしく、定食セットが300円もあれば買えてしまう位。しかもすっごくうまい。これだけで十分なのに時々プリンが付いてくるときもあるサービスっぷり。

 ただ、デザートだけは異様に高いのだ。一番高いので5000円位する。そんなの言っちゃ悪いがかんてられないのだ。

 

「まぁそれはそうだけどね?ここのデザートって世界トップクラスのパティシエがプロデュースしたものばかりだよ?」

 

「へぇ・・・・・ってか、そんなこと言われてもあんまり好きじゃねぇんだよな甘いのとか」

 

「もったいなーい!!ここのデザートって甘いものが嫌いで仕方なかった人ですら甘いもの好きに買えたってウワサもあるのに」

 

「・・・・・・あのさ?結局のところ俺を甘いもの好きにしたいんじゃなくて、チケット目当てだろ」

 

「あ、バレた?」

 

 てへ✩と舌を出してるのはすごく可愛いんだが、いつもそんなことやるのもどうかと思う。

 いや、橋本さん(目の前の女子)は十分美少女の部類だけど。

 

「・・・・・・ねぇ、少しくらい動揺してくれてもいいじゃない。それひどくない?」

 

「・・・・・・イヤ、俺年上派だから。そんなわけで年下、同い年にはときめくことすらないんだよ。ちなみにプラス3歳までならOK」

 

「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・え?」」」」」」

 

 あ、なんかこれやば・・・・・・

 

「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!???織斑君って年上派だったのっ!??」」」」」」

 

「のふぅ・・・・・・」

 

 もうこいつらの声おかしいだろ・・・・。耳が痛くてやばい。

 

 ・・・・・・そこまで驚くことじゃないだろ。

 

「織斑君オレオレタイプだと思ってたー!!」

 

「そうそう!!だから引っ張ってく方だと思ってたのに!!」

 

「「「まさか年上好きなんてー!!」」」

 

「イヤーーーー!!!私の人生設計図がァ!!」

 

 ・・・・おい。勝手に俺を組み込むな。

 

 

 

「ってなわけで、タッグマッチトーナメントを優勝できるように手助けしてくれ!!」

 

「・・・・・・・ってなわけでと言われましても、あなたが年上好きというとてつもなくどうでもいい事を知ったくらいなんですが、それがどうすればISの話になるんですか?」

 

「相変わらずひでぇ事」

 

 アリーナに向かう葵を呼び止めて頼みごとをして見ればこのざま。なんだか最近嫌われてるんじゃないか?って思えるんだけど。いや、そんなことはないって本人が言ってるんだけどさ・・・。

 俺としてはさっきの事を事細かく教えただけなのに。

 

「あのですね?私はISを動かせないと前も言ったは図なんですが、学習してくれませんか?」

 

「いやいやいや!!そこをなんとか!!俺あのあと姉貴に説教食らって、リンたちから追い掛け回されたんだぞ!?少しくらい助けてくれてもいいだろ!?」

 

「・・・・・・・追いかけ、回されたのは自業自得なのではないんですか?」

 

「え?自業自得?俺なんも悪いことしてないと思うんだけど」

 

「はぁ・・・・・」

 

 やれやれと言いたげに、盛大に葵はため息をつく。しかも「こいつ鈍すぎ・・・」と、葵が素で罵倒してきた。

 このやろう!小声で言ったつもりだろうけどまるぎこえなんだよっ!!

 

「まったく、貴方という人は・・・・もう少し周りを見たらどうなんです?」

 

「周りを見ろって言われても、誰もいないぞ?」

 

「・・・・・・・・・・・チッ」

 

「ちょっ!?葵お前今舌打ちしただろ!?なんで舌打ちされなきゃいけないわけ!?」

 

「・・・・・そんな単純な意味じゃないということですよ。まったく・・・・」

 

 よく意味わからない事を言い残すとスタスタと先を早歩きで言ってしまう。

 って!

 

「待てよ葵!IS教えてくれる話はどうなったんだよっ!!」

 

「だから、私はISを動かせないとおっしゃったはずです。織斑千冬さんにご教授願ったらどうなんです?」

 

「・・・・・いや、姉貴はやめてくれ。殺されちまう」

 

「そのまま殺されてしまえばいいじゃないですか。死んだなら貴方はそんな程度だったというわけです。そもそも貴方には頼る人がたくさん居るでしょうに」

 

 葵は心の底から呆れていた。まとってる雰囲気がとっとと失せろと言ってるかのようだ。

 

「いやあのさ?葵が言いたいことはわかるんだけどさ?俺さっきアイツ等に追い掛け回されたんだよ?今更どのツラ下げて頼み込めばいいんだよ」

 

「そのツラ下げればいいじゃないですか。どうせ一つしか顔はないんですし」

 

「そうゆう意味じゃなーいっ!!」

 

 思わず大声で突っ込んでしまった。

 確かに葵のいうことは間違っていないんだけど(顔は二つあるわけじゃないし)、俺が聞きたいのはそっちじゃないんだよなぁ・・・・

 

「ならどうゆう意味なんです?」

 

「いやお前さ、空腹で気が立ってるライオンの前に肉体に巻きつけて同じ部屋にこもりたいわけ?死ぬぞ?」

 

「殺される前に叩きのめせばいいだけじゃないですか」

 

「そうじゃねぇんだよぉ・・・」

 

 葵ならしかねないんだけどな・・・・・・。姉貴に余裕で勝てるならライオンなんて楽勝に違いない。

 

 

「はいはい、分かってますよ。頼み込むにしろ断られる上に、なぜ自分を頼らなかった!と結局追い掛け回されるのが怖い。違いますか?」

 

「いや、まったくもってその通りだ」

 

「という、わけで私にISの事を教えてもらいたいと」

 

「そうそう!!」

 

「はぁ、分かりましたよ。整備士からの視点でよろしければできることをしますよ・・・・・まったく。手のかかる御方だ」

 

「サンキュー葵!!」

 

 よっしゃぁ!!これで怖いものなしじゃあ!!

 葵が教えてくれれば大抵どうにかなるんだしまぁ、肝心の葵がひどく疲れたような感じだけど。

 

「・・・・・葵?具合でも悪いのか?」

 

「誰のせいだと思ってるんですか・・・・・」

 

 やれやれを肩をすくめる葵。

 あっはっは、悪いな葵。

 優勝しないと俺の黒歴史が暴露されてしまうからな。それだけは何としてでも避けなければ。

 ちなみにそういったのはまさかの姉貴だ。どうやら姉貴は、俺が昔束さんに無理やり女装させられた写真をばらまくらしい。

 アレは軽くトラウマだ。あれがばらまかれたら引きこもりになれる自信があるぞ。

 

 葵には悪いが手伝ってもらおう。

 

「というわけでこれか――――」

 

 ドンッ!!とおれの言葉を遮るように突然、爆発音が響いてきた。それは一回じゃなくて何度も連続で聞こえてくる。

 

「この音、アリーナの方から・・・・・」

 

 呟く葵は険しい表情をしていた。連続して起きた爆発音に何かを感じ取ったのに違いない。 

 

「そんな簡単にわかるものなのか?」

 

「慣れればどうってことはないです。行きますよ織斑さん」

 

 言い終わるとも言えないうちに葵が走り出す。あまりの速さに驚くも、すぐにそのあとを追う。

 嫌な予感しかしなかった。

 

 

 

 

 

 

「そういう事か・・・・!」

 

 途中でシャルルと合流しつつアリーナに到着すると、信じられないような光景が広がっていた。

 ドイツの代表候補生のラウラが鈴とセシリアを一方的に蹂躙していたのだ。

 戦意喪失しているようにしか見えないのにも関わらず、攻撃の手をやめようとしていない。

 

「あのままじゃ危ないよ!!ダメージレベルも深刻な状態になってる!」

 

「アイツ、何やっていやがる!」

 

 鈴のISも、セシリアのISもボロボロというのすら生ぬるい。百式を展開してリンクしてみればシールドエネルギーはレッドゾーンをゆうに通り越していた。

 

「・・・・・千夏、零落白夜でアリーナのバリア壊せ」

 

「あ、葵・・・・・?」

 

 一瞬、葵の口から出たものだとは思えなかった。普段からは想像もできないくらいに怒気を含んだ低い声。

 体がすくんでしまう。

 

「聞こえなかったのか?壊せと言ったんだ。デュノア、リヴァイヴのブレードを貸せ」

 

「え、あ・・・・う、うん」

 

「早くしろッ!!」

 

「分かったよ・・・・・」

 

 すくんだ体に鞭をうち、バリアーを零落白夜で切り裂く。葵はシャルルからブレードを受け取ると、切り裂いた隙間からアリーナの中へと飛び込んでしまった。

 

「葵ッ!?お前何やってるんだよ!?」

 

 思わず叫んでしまうが、聞く耳を持たないのか、それとも聞こえていないのか振り向くことはなかった。

 

(あぁっ!何やってんだよ!!)

 

「畜生!シャルル、行くぞ!」

 

「う、うん!」

 

 シャルルがISを展開したのを確認して腕を引っ張るようにアリーナへ飛び込んだ。

 

 

 

 

 これでいいんだ。

 そう自分に言い聞かせる。

 ボロボロのカッターナイフだけどきちんと役目を果たしてくれた。

 体から力が抜けて床に倒れ込んだ。

 切り裂いた首から大量に血液が吹き出す。

 あたり一面が赤色に染まっていく。

 視界に映る自分の手は生気を失ったいた。

 人の手だとは思えないほどに青白い。

 だんだんと意識が薄れていく。

 これが死なんだと実感が湧いてきた。

 後悔なんてものはない。

 むしろ達成感だけがボロボロの心を満たす。

 これでもう辛い思いをしなくていいんだから。

 なにもない場所へ手を伸ばす。

 でも、力なく床に手が落ちた。

 ぴしゃっと音がする。

 血の海ができるほどに体から血が抜けたらしい。

 まぶたが重い。

 閉じたら二度と開けられないような重さだった。 

 でも、それでいいんだ。

 躊躇うことなく目を閉じた。

 心臓の鼓動が殆ど聞こえなくなってきた。

 動かせないのに、体が軽くなったみたいだった。

 やっと。

 やっとこれで皆に会える。

 皆と楽しく過ごせる。

 

「会えると・・・・・いいな」

 

 そして意識を手放した。

 




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