転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第101話 クレリアたちと一緒に対策を練ろう

「忙しいところすまないね、調書作成に協力してもらって」

 

クレリアがテキパキと調書を取る準備をしながら笑顔で話す。

近場の衛兵詰め所に来ているので、常にここにクレリアが詰めているわけではないようだ。

簡素な机と椅子、余分な物が無く、質実剛健をイメージできる。

これがこのクレリアの指示だとしたら、かなり好感が持てる。

 

「改めて自己紹介しよう。私はこの王都を守る王都警備隊隊長のクレリア・スペルシオだ。今回は暴漢たちの捕縛協力感謝する」

 

そう言って頭を下げるクレリア。

 

「俺はヤーベだ。一応コルーナ辺境伯家の賓客として王都に来ている。身分確認が必要ならそちらに当たってくれ」

 

簡単に挨拶する。

シンプルに俺という存在をコルーナ辺境伯家の賓客という重要な立場で信頼づけようというわけだ。

 

「なんと、そのような身分の方にご協力頂けたとは、感謝の念に堪えない」

 

そう言って笑顔で話しながら左手の指で何か後ろの部下へ指示を出したようだ。

部下の一人がわずかに頷き、部屋を出ていく。

多分、ウラを取りに行くのだろう。

俺の話を鵜呑みにしない慎重さも合格だ。

 

俺の確認が取れるまで少し時間がかかるだろう。

俺は調書作成の協力をしながら、様子を見ることにした。

 

 

 

部下が戻って来て、クレリアの後ろに立っていた女性騎士に耳元で何かを伝える。

その内容をクレリアに耳打ちする。

 

「ふむ、大体聞くべきことは聞けた。ご協力大変感謝する。大変申し訳ないが王都警備隊は現在予算の圧縮が進められており、報奨金などを出すことが出来ない。心苦しいがご了承願いたい」

 

「ああ、それは全然かまわないよ。ありがたい事にお金には困っていない」

 

「ははっ、それは大変に羨ましい。私がこの王都警備隊隊長に任命されてから、予算繰りなので苦労しているのでね。一度でいいからそんなセリフを私も言ってみたいよ」

 

俺が気を使ってもらわなくてもいいように軽く答えたのだが、予算繰りに苦しむクレリアにはだいぶ羨ましく聞こえてしまったみたいだ。

 

「それでは・・・」

 

「ヤーベ殿。貴殿が王都へ来るまでの活躍を耳にさせてもらいました。できれば少し相談に乗って頂きたいことがあるのです」

 

クレリアが調書作成のための確認完了を伝えようとしたのを、後ろに立っていた部下がさえぎる。

 

「エリンシア、どうしたんだ? ヤーベ殿の活躍とは?」

 

「実は、ヤーベ殿はこの王都に来るまでに数々の英雄譚ともいうべき活躍をなさっています。ハバーナ村に大量に発生したダークパイソンを討伐、バーレーンでは千五百匹ものオークを殲滅したとか」

 

「な、なんだと!? ダークパイソンが複数出たなど、王国騎士団の出撃が検討される事案ではないか!」

 

「オークの千五百匹に関しては、本気の災害級事案ですよ。騎士団だけでなく、軍兵士も招集されるレベルです」

 

「え、え、ええっ!? それを・・・ヤーベ殿はどうやって?」

 

「うん? アイツ(外で寝転がって休んでいるローガ)とその部下六十匹でね。あ、後、愛と正義の騎士『赤カブト』ってのもいるけど」

 

「あ、赤カブト?」

 

「狼牙族が六十匹もいるのですか!?」

 

クレリアとエリンシアがそれぞれ驚いて質問をぶつけてくる。

 

「そうだけど・・・、で、相談に乗って欲しい事って?」

 

実は大体予想がついているが、向こうから言わせたい。

俺があまりに情報通では怪しさが増してしまう。

 

「実はクレリア隊長は王都警備隊の隊長に抜擢されたのだが、それを快く思わない連中も多く、指揮系統がうまく働かないのです。その上、先ほどのようなならず者がこの王都で急増しておりまして・・・」

 

エリンシアが心底困り果てているといった感じで溜息を吐く。

そりゃそうだろうな、あの公爵家の三男坊が滅茶苦茶足を引っ張っているわけだし。

 

「エリンシア、いくらヤーベ殿がすごい方だとしても、警備隊の相談をするなど・・・」

 

「隊長、現状はそのような些細な事に構っているほど余裕はありません。このままならず者たちの蛮行が増え続け、部下の統率がままならなければ、王都の治安が崩壊してしまいます! その責任を問われるのは貴女なのですよ」

 

「しかし・・・」

 

「エリンシア殿の言う通りですな」

 

「えっ?」

 

「私は王都に二日前に到着したばかりです。ですが、すでに私の元にもいくつか情報が入って来ておりますよ。このままではエリンシア殿の言う通り、王都の治安が危険水域まで下がり、その責任を押し付けられるでしょう。その後釜にはプレジャー公爵家三男のサンドリック・フォン・プレジャーが名乗りを上げるでしょう」

 

「くっ・・・やはりあのゲス野郎か!」

 

「だが、その事で一番迷惑を被るのは貴女方ではない、王都に住む何の関係も無い住民たちですよ」

 

「ぐっ・・・」

 

クレリアは拳を握りしめて俯く。

 

「ですから、ヤーベ殿のお力を何としてもお借りしたいのです」

 

エリンシアは真剣な表情で俺を見つめてくる。

 

「先ほどのならず者たちを捕縛する作戦、あったの?」

 

俺はクレリアに尋ねる。

 

「いや・・・、通報を受けて現場に最も早く到着するように・・・」

 

「それがダメだよね。見ていたけど、君だけ馬に乗って真っ直ぐ先行して部下が走って来ている。君を見て反対側に逃げるならず者を誰も捕らえられないじゃないか」

 

「あ、ああ・・・」

 

肩を落とすクレリア。

 

「ならず者たちは計画的に動いているようだ。だから、位置を確認したら二方向から挟み撃ちにする戦略で動いた方がいい。すぐに路地裏に逃げるような動きをしていたし、一網打尽にするのは難しいが、必ず一人か二人を確保する事に全力を挙げた方がいい」

 

「え・・・、一人か二人で良いのか?」

 

「と言いますか隊長、やはり敵は組織的に暴れていたんですね」

 

「そう、組織的に君たちにダメージを与えるためにやっている事だから、元々君たちが姿を現したら悪口を言って逃げることが前提になっているんだ。そして、毎回逃げられていれば、ならず者を捕らえられない王都警備隊としてその悪口が真実だと住人に錯覚されて行ってしまう」

 

「なんて狡猾な!」

 

クレリアが激昂する。気持ちはわかるけどね。あまりにコスズルイ。セコ戦法だ。

でも効果的なんだよね、評判を落とすと言う意味では。

 

「だから、姿を見せれば反対方向へ逃げるんだ。最初から位置を確認したら、前後から挟み撃ちにする位置に人員を配置すればいい。全員を捕縛できなくていい、最低一人、もしくは二人で十分だ。町の人々に「捕縛したぞ!捕まえたぞ!」とアピールできればいいんだ。どうせ何人捕まえたってしばらくは減らないよ。いくらでも末端の使いっぱしりは補充されると思うし」

 

「それでは! いつまでも王都に平和が訪れないではないか!」

 

クレリアの激昂がさらに一段アップする。

 

「随分と直情的な隊長さんだね。かなりの剣の腕だと聞いたけど、もう少し物事を冷静に分析する力が必要だよ。人の上に立つならばね」

 

「むっ・・・」

 

ここで文句を言わない器はあるようだ。自己分析出来る人は伸びるかもね。

 

「なぜこんなに嫌がらせのような事が続いていると思うんだい?」

 

「えっ・・・、それは、私への妨害か・・・?」

 

「そうだね、その通りだと思うよ。であれば、そんな事が永遠に続くわけないよね?」

 

「それは、私の失脚を意味しているか?」

 

剣呑なオーラを出しながら答えるクレリア。

 

「それでもこの嫌がらせは止まるだろうけど、王都の治安が良くなるとは思えないね。自分の評価が気に入らないと平気で王都に迷惑を掛けるヤツが責任者になって安心できるとは思えないしね」

 

「そ、そうか」

 

少し嬉しそうにするクレリア。それなりに単純なお方のようだ。

 

「だから、排除するなら、この嫌がらせを仕掛けているヤツだよね。そうすれば止まるんだから」

 

「だが、敵は強大な権力がバックについているんだ・・・」

 

俯くクレリア。プレジャー公爵家の権力は絶大なようだな。

 

「先に対処療法をもう一つ。新しい武器の提案だ。予算が厳しいと言う話だが、この提案する武器は刃物が付いていない。鉄の加工だけである程度済む。紙を貸して見ろ」

 

そう言って受け取った羊皮紙に羽ペンで書き込む。

その武器は「刺又」。そう、地球時代の犯人捕縛用非殺傷武器として、役所なんかにも配備された武器だ。先の半月部分と根元には鉤型の引っかけを付けて足も転ばせられるように一工夫だ。

 

「これで、槍で殺してしまうかも、と言った感じで手加減を考える必要はない。これで全力でぶっ叩けるし、抑え込める。先の部分で壁に押し付ければ簡単には動けなくなる。もちろん脛を打つも良し、先で突くも良しだ」

 

「これは、何という武器なんだ! 素晴らしい! つい先日もちょっと暴れただけの者を切るなど、王国警備隊は野蛮だなどという輩もいて・・・」

 

悔しそうに拳を握るクレリア。

 

「だが!この武器は画期的だ! 非殺傷武器とはよく言ったものだ! すぐにでも大量に作らせよう!」

 

だいぶ興奮しているクレリア。さてさて、うまく事が運べばいいけどね。

こちらも一つ布石は打っておこう。

 

「さて、もう一つ。君の指示を聞かない部下たちの処遇についてだ」

 

「うむ、実は相当に頭が痛い。信頼できる人間を各グループに送り込んで指示をするようにしているのだが、どの者達もうまくいってい無い様なのだ・・・」

 

そう言って落ち込むクラリス。

 

「考え方を真逆にしよう。君が信頼できる使える者達だけで編成するんだ。そして、例のプレジャー公爵家三男のサンドリック・フォン・プレジャーの派閥の連中を固めて配置する」

 

「そんなことをすれば、その隊はまともに仕事をせんぞ?」

 

「それでいいさ。その代わり、王都の簡略地図を毎回用意して、毎日各隊をどこに配置しているかをそして、印すんだ。それを君のお兄さんと宰相にも提出する」

 

「ええっ!?」

 

「紙が貴重だとしても、警備隊本部に必ず張り出して、各隊の責任者が確認しておける様にする」

 

「それでどのような効果が望めるのですか?」

 

ストレートにエリンシアが問いかける。

 

「シンプルだ。プレジャー公爵家三男のサンドリック・フォン・プレジャーの関係する隊が担当する地域でならず者たちが暴れており、サンドリックの能力不足で王都の治安が守れないと訴えるんだ」

 

「な、なるほど! この指示した地図があれば、こちらの指示を無視して対応しないから治安が悪いと報告出来ますね!」

 

「だが、この地図の意味に気が付いて我々の担当する地域に集中してならず者たちを送り込んでくるかもしれんぞ?」

 

「それであっても好都合だ。少なくとも集中的に警戒する地域が王都中から自分たちの担当するエリアに絞られるんだからな」

 

「あ!そうか!」

 

クラリスの疑問に明確な戦略を回答してやる。

 

「君の兄と宰相に提出するのは、上位権力者に王都での警備隊の不手際を晒すようなものだが、プレジャー公爵家の権力は強すぎる。王家に近いところで現状を認識してもらわないと手遅れになりかねない」

 

「くっ・・・、だが、私自身で王都警備隊がまとめきれないのも事実だ・・・。仕方がない。私の実力不足で王都をいつまでも不安定な状態には置いておけない。この地図を使った配置指示でどの隊に問題があるのか兄や宰相殿にご理解頂くのが早道だろう。早々に本日から準備して、明日の指示から実施する事にしよう」

 

嬉しそうに立ち上がり握手を求めてくるクレリア。

俺も立ち上がり握手する。

 

(尤も、反撃の一歩を踏み出したばかり。必ず敵は対策してくる。さて、敵さんはどう出て来るか・・・)

 

クレリアたちの奮闘に期待しつつも、ヒヨコ十将軍序列第八位キュラシーアのクレリアに関する報告を待つ事にしよう。こちらはその情報も併せて対策を練るとするか。

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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