転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第103話 おいしいケーキを持って挨拶に行こう

 

「こ・・・これは・・・?」

 

六名の暴漢たちがプスプスと黒い煙をあげている。

 

「クレリア様・・・どうやらヤーベ様は類稀なる術者の様です。眉唾な英雄譚かと思いましたが・・・どうやらそれが真実だと言われても私は信じることが出来ます・・・」

 

ちょっとだけ遠い目をしてエリンシアが答える。

 

「ヤーベ様、助けて頂いてありがとうございます。それに、ヒヨコちゃん達にも助けてもらいました」

 

にっこりと微笑んでお礼を言ってくるシスターアンリ。

 

『シスターをお守りするのは当然の役目であります!』

 

「シスターを守るのは当然の役目だってさ」

 

敬礼するヒヨコたちの代弁をしてあげる。

 

「まあ、頼もしいナイトですね」

 

そう微笑みながらも、煙を上げている六人に目を移す。

 

「<癒し(ヒール)>を使おうかと思いますが・・・」

 

俺にそっと視線を移すと、再度暴漢たちを見つめながらそう言う。

 

「シスターならそう言うと思いましたよ。あまり元気になられても面倒ですから、それなりでお願いしますね」

 

「はいっ!」

 

シスターや子供たちを守るために戦った俺に対して、気を使いながらもケガ人を和らげてあげたい、たとえそれが自分たちを襲った暴漢であっても。

シスターとしては立派だろうとは思う。だが、その判断が甘すぎる結果を招いたりしないだろうか? 

 

(まあ、そんな心配しても仕方ない。その人の性根、根幹の部分だからな。優しい人はとことんまで優しいものだ。そんな人が傷つかない様に俺が出来るだけ頑張るだけだ)

 

「光にありし神々の御手よ。御身の慈悲なる両手を広げ、この者たちを癒し給う。<拡大する癒し(ワイドヒール)>!」

 

シスターアンリの手から柔らかな光が溢れ、その光が薄く広がって行き、暴漢たちの傷が癒されていく。

 

「暴れる前にひっ捕らえて連れて行く準備済ませてね」

 

「了解です。ヤーベ殿のおかげて教会の皆さんに被害が及ばずに済みました。感謝します」

 

エリンシアが頭を下げる。

 

「教会の門や壁を壊した罪に問われることになるのかな?」

 

「そうですね。シスターにも調書作成にご協力いただくようになると思います」

 

「ついでだから、今までこんな嫌がらせがありましたって、全部伝えておくといいよ」

 

「はい!」

 

俺がおどけてウインクしながら言うと、シスターアンリも笑顔で了承した。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

現在の時間は昼過ぎ。ランチには少し遅い時間だ。

まあ、教会での奮闘もあり、午前中が潰れてしまったのだが、致し方ない。

ランチは喫茶<水晶の庭(クリスタルガーデン)>にやって来ていた。

 

「いらっしゃいませ!」

 

狐人族のリューナが今日も出迎えてくれる。

狐耳ともふもふの尻尾は今日も元気そうだ。

 

「リューナちゃんこんにちは!オススメランチ一人前ね」

 

「はいっ! いつもランチは三種類あるんですけど、トリヤムガエルのタケノコ炒めが終わっちゃって・・・、オススメはアースバードのレモンソテーです。とってもさっぱりして食べやすいですよ!」

 

「おっ!いいね、それ頂戴!」

 

「畏まりました!」

 

元気よく厨房へ戻ろうとするリューナを呼び止める。

 

「リューナちゃん、一つ相談があるんだけど・・・」

 

「はい、何でしょう?」

 

「ここの喫茶<水晶の庭(クリスタルガーデン)>はカフェだから、おいしくて甘いケーキもメニューにあるよね?」

 

「もちろんです!どれも自慢の一品ですよ!」

 

「実はお世話になっているお得意さんが甘い物に目が無くてね・・・。出来れば箱にいくつか詰めて持っていきたいんだけど、可能かな?」

 

「もちろんですよ。この大きい箱と中くらいの箱、二つか三つくらいを入れる小さい箱とありますけど、どうしますか?」

 

「そうだね、中くらいの箱に五つか六つくらい入れてくれるかな。あ、せっかくおいしいケーキなんだし、お世話になってるコルーナ辺境伯にも持っていくか。大きい箱に二十個くらい入れて貰ってもいい? それくらいあれば執事さんや使用人の人たちにも行き渡るかな?」

 

しまった、何人くらいいるか聞いとけばよかったな。

 

「お客さん、コルーナ辺境伯様のお知合いなんですか?」

 

「え、うん、そうだね。コルーナ辺境伯の賓客として屋敷に逗留させてもらってるよ。ヤーベって言うんだ。よろしくね」

 

「ヤーベさんですね!これからもご贔屓に!」

 

俺はランチに舌鼓を打ちながらケーキが準備出来るのを待った。

 

 

 

 

 

「こんにちはー!」

 

俺は元気よく手作りパンの店マンマミーヤの扉を開ける。

 

「いらっしゃいませー!」

 

元気にマミちゃんが奥から挨拶してくれる。

 

「マミちゃん元気にしてた?」

 

「あ、この前パンを買い占めてくれたお客さんですね! 元気と言えば元気なのですが・・・」

 

元気と言いつつも俯いて寂しそうな顔をするマミちゃん。

 

「元気のない理由は、おいしいパンを焼いてもなかなかお客さんが来てくれない事かな?」

 

「ど、どうしてそれを?」

 

マミちゃんは驚いた顔を向けて来るが、見りゃわかるよな。ガラガラだし。

 

「お父さんも呼んで来てくれる?」

 

「は、はい・・・」

 

マミちゃんは店の奥へ父親を呼びに行った。

 

 

 

「さて、マミちゃんとお父さん。奥さんが急にお亡くなりになり、大変だとは思いますが、商業ギルドの付き合いや、この界隈の集まりを奥さんに任せっきりにしてましたよね?」

 

「ああ、俺ぁパンを焼くことしか出来ねぇ・・・、てか、アンタ何なんだ?」

 

「お父さん!この前パンを全部買ってくれたお客さんだよ!」

 

「パンを気に入って買ってくれたことにゃ感謝するが、余計な事に口出しして欲しくねぇな」

 

「お父さん!」

 

マミちゃんが父親に声を荒げる。

 

「アンタが職人気質を振り回して苦労するのは勝手だが、この店が潰れたらマミちゃんはどうなるんだ? 自分の娘を食わしてもやれないような親父になんの価値がある? 死んだ奥さんも落ち着いて天国で休めないよ」

 

「何だと!」

 

「商売ってのは、人脈だろ? あんたはこの店を開くにあたってこの王都で商業ギルドに所属しているんだろ? 税金支払うだけで済むほど人間の付き合いって簡単なもんじゃねーだろ?」

 

「むっ・・・」

 

「実は商業ギルドの本部でこの一帯の情報を仕入れて来た。このお土産のケーキを持って今から挨拶に行くから、二人ともついて来て」

 

「え? 今から行くんですか?」

 

「店開けてる最中なんだが?」

 

「どーせ誰も来ないでしょ」

 

「「うっ・・・」」

 

俺の鋭いツッコミに二の句が継げない親子。

 

「それじゃ行くぞ。目的地は『精肉屋のジョン』だ」

 

「ジョンの店へか?」

 

「親父さん、ジョンはこの一帯を取り纏めてるんだよ。きっと奥さんはギルドの寄り合いにもちゃんと出ていたし、まとめ役のジョンにも挨拶を欠かさなかったと思うよ。もちろん今の現状が正しいとは思わないが、人間関係を潤滑にしておかないと、うまくいくものもいかなくなるよ?」

 

「う、スマン・・・」

 

目に見えて落ち込む親父に、マミちゃんが背中に手を当てて謝る。

 

「お父さん、私こそゴメンね。お母さんのやってることは私がみんな受け継がなきゃいけなかったのに・・・」

 

正直、流行り病で亡くなったと聞いたし、唐突に亡くなられたら困る事が多いよな。

ジョンの店は一区画隣なので、歩いて数分で着いた。

 

「まいど~」

 

「らっしゃい!」

 

威勢よく挨拶を返してくれるが、俺の後ろにマンマミーヤの親父とマミちゃんがいるので、少し目を細めた。

 

精肉屋のジョンと名打つだけあって、なかなかいい肉を取り揃えているようだ。

 

「おおっ! これは肉に辛みがあるって噂のフレイムバード!? コレ在庫三羽だけ? 全部貰うよ!」

 

「お、おお! 毎度! フレイムバードは希少だから値が張るけど、大丈夫か?」

 

「もちろんだよ! いい肉には妥協したくないしね! そのグラベルポークもいい色してるね~、五キロくらいもらっちゃおうかな!」

 

「わおっ! 御大臣だね、お客さん王都に住んでるの? 見ない顔だけど」

 

肉を包みながらジョンが俺に問い掛けてくる。

 

「先日来たばかりだよ。コルーナ辺境伯に賓客として呼ばれていてね。今回の肉もコルーナ辺境伯邸に持っていくんだ。辺境伯ご一家に食べてもらおうと思ってね」

 

そう言って代金分の金貨をカウンターに積む。

俺の説明にジョンは驚いた。

 

「コルーナ辺境伯に食べてもらえるのか? そりゃ光栄だな!俺の店にも箔が付くってもんだ」

 

ジョンが上機嫌で肉の準備をしている。頃合いかな?

 

「そりゃよかった。ああ、ところでマンマミーヤのお二人が遅くなったけど挨拶だって。とっておきのスイーツがお詫びの品だってさ」

 

「ええっ!?」

 

そこで俺はスッと横に避けるとマミちゃんが俺が渡しておいたケーキの箱を差し出しながら挨拶する。

 

「マンマミーヤのマミです。その・・・ご挨拶が遅くなって大変申し訳ありません。これ、よろしかったら召し上がってください」

 

「ジョンさん、挨拶が遅れてすまねぇ。マミに責任はねぇ。俺の落ち度だ」

 

そう言って親父さんも頭を下げる。

 

「奥さんが急に亡くなって大変だとは思うけど、ギルドの寄り合いは店をやって行く上では重要な事なんだ。ちゃんと顔を出してくれよ」

 

「本当に面目ねぇ」

 

「私が出させて頂きます!不勉強ですが頑張りますので」

 

二人して頭を下げる。

ジョンも少しホッとしたようだ。

寄り合い仲間とすりゃ、声を掛けてたのかもしれないがちっとも寄り合いに出て来ずに独自にやられちゃ、仲間としての協力体制も維持できるかわからなくなるってことで心配してたのかもな。

 

「今度の寄り合いは三日後だ。俺から他のみんなには伝えておくから、顔出してくれ。また、みんなもお前さんのパンを気兼ねなく食えると喜ぶと思うぜ」

 

「ジョンさん・・・」

 

「すまねぇ」

 

俺は親父さんの肩をポンポンすると、マミちゃんの頭を撫でた。

とりあえず、手作りパン屋のマンマミーヤのピンチはこれで回避できそうだ。

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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