転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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閑話15 王都のとある日常②

私はカッシーナ王女様に専属でお仕えするメイドです。

カッシーナ王女様は子供の頃、事故で左半身に大けがを負われてしまいました。

今では常にお顔の左半分を覆い隠す仮面をつけられ、毎日を過ごされています。

 

少し前までは手袋を常につけ、夏でも袖の長いドレスを着て、素肌を見せるようなことはありませんでした。

お風呂や体をお湯で拭く場合もその傷に目を背けたり、同情の目を向けてしまったりするメイドたちが多く、カッシーナ王女の専属は長くメイドを続けられるものが少ないのですが、今専属でお仕えしている3名は私も含めてカッシーナ王女の傷にも慣れ、不快な感情を与えずにお仕えできる者達ばかりです。

 

何年か経つうちに、塔から出る事は少なくなっても、私たちには少しずつ心を開いてくれるようになり、夏になれば、少し袖の短いドレスも着て頂けるようになり、袖から見える痛々しい傷も、決してそれを卑下せずに、笑顔を見せてくれるようになりました。

 

 

それが、ああ、何という事でしょう。

ある日を境に、ぴたりと笑顔が止み、すすり泣くような声が続くようになり、部屋の外へ出ることが無くなりました。お風呂への移動は元より、お湯で体を拭くことさえ私たちメイドに任せることは無くなり、お湯を入れた桶と布を置いておくよう指示があるだけになってしまいました。

とても心配していた私たちなのですが、あの日・・・

 

ドバーン!

 

カッシーナ王女様の部屋の扉がとてつもない勢いで開きました。

そして寝間着姿のカッシーナ王女様が飛び出してきました。

そして、どちらかに走り出そうとして、寝間着姿のままだとお気づきになられたのでしょうか。

 

「ひああっ!」

 

素っ頓狂な声を上げられて自身の部屋にすっ飛んで戻られました。

とてもびっくりしたのですが、表情が生き生きしているのが分かり、逆に一安心いたしました。

 

「城内に降ります!着替えをお願い!」

 

まさかの号令です。

これほどの声量で話されるカッシーナ王女様を私は知りませんでした。

 

「「「はいっ!」」」

 

私を含めた3人のメイドは勢いよく返事をしました。

ただ、服を用意したものの、着替えをお手伝いする事はかなわず、ご自身で準備するのでという事でお部屋に入れて頂くことはかないませんでした。

 

ですが、ご自身で着付けの準備が出来るようになるとは、カッシーナ王女様の成長にも感動してしまいます。

ですが、さすがに細かいところまで気が回っておらず、髪も整っていなかったのでお手伝いさせて頂きましたが・・・。

気になったのは、ほとんどしなかった首周りのスカーフです。

髪を整えさせていただいた時も、首筋を見せない様に気になさってるようで・・・。

少しだけ悲しくなりました。やっと私たちの前では傷の事を気にしないようになられたというのに・・・。

 

そして、準備出来たカッシーナ王女様は、すさまじい勢いで階段を下って行ってしまいました。

慌てて私たちも追いかけます。

 

「カッシーナ王女様!廊下を走るのははしたないですよ!」

 

ところがカッシーナ王女様はまるで聞こえないのか、すごい勢いで走って行ってしまいます。日長この塔に閉じこもっていらっしゃるカッシーナ王女様がどうしてこんなに足が早いのか、全く理解できません。

 

応接室前の扉に辿り着いた時には、廊下を横滑りしながら急停止しておりました。

とにかく意味は分かりませんが、めちゃくちゃ元気になられたようです。

その後も騎士団の食事場、訓練場などを回って、その場にいる人たちから情報収集を行っていました。

 

ずいぶんと走り回った挙句、がっくりと肩を落とすカッシーナ王女様。

いったいどうしたというのでしょうか?

ところが、どなたからかは不明ですが、有益な情報を貰ったらしくニマニマしながら部屋に帰ると宣言して帰ってしまいました。

 

一体どうしたというのでしょうか。メイドである私たちには理解できないことですが、何か感じることがあったのでしょう。

 

仮面から除く素顔は半分だけとはいえ、とても生き生きした表情で話すカッシーナ王女様を見て、私たちもやはり何かが変わったと感じるのでした。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「お母さま・・・お母さま・・・」

 

私はお母さまの執務室の扉をこっそりノックして扉をそっと開けます。

 

「あら、カッシーナ。すごく珍しいわね、貴女の方から来るなんて」

 

お母さまはこの国の王妃です。

でもとても優秀なので、父である国王のサポートを行っています。

 

「少々ご相談が・・・」

 

おずおずと相談があると申し出ます。

 

「貴方たち、少し下がってもらっていいかしら。カッシーナ、こちらに座りなさい」

 

そう言ってメイドさんたちを下がらせてくれます。

 

「それで? カッシーナから相談なんてすごく珍しいわね。出来る限りの事は聞いてあげるわよ?」

 

お母さまはすごく嬉しい事を言ってくれる。

 

「嫁ぎたい方がいるのです」

 

お母さまは目を丸くして驚きます。

 

「随分と唐突ね。貴女に来ている婚姻申込なんてリカオロスト公爵家のろくでもない物しかなかったんじゃなくて?」

 

「4日後にお父様が謁見を依頼した冒険者の方ですわ」

 

「それはまた唐突過ぎるわね。伯爵以上の家柄でないと降嫁させられないわよ?」

 

「たぶんヤーベ様は叙爵を進めてもお受けしないような気がします。それほど何物にも捕らわれない自由な方であると思います」

 

「その自由な人にどうして嫁ぎたいの?」

 

「建前ならば、この国のためです。叙爵も望まず、自由に旅をして生きて行きたいと言う英雄様は、この国に縛り付ける鎖を、持ちません。ならば、私という人材を楔として打ち込めば抑止力にはなるでしょう」

 

「本音は?」

 

「全力で愛しています。このすべてを捧げたいと思う程に」

 

お母さまがはぁ、と溜息を吐きます。

 

「大げさではありませんよ? 奇跡を操る方ですから。王国に牙を向けられたら誰にも止められないでしょう? ですから私という存在が楔となるのです」

 

「そのような危険な存在、先に消してしまった方が安全ではなくて?」

 

「虎の尾を踏むような真似は絶対にやめるべきと考えます。逆に身内となればこれほど頼りになる存在も無いでしょう」

 

「本音の方はどうして?」

 

「理由を説明するのは難しいですけど・・・。あの方は私の全てを叶えてくれましたから」

 

首を傾げる王妃様。

そして、はたと気づく。

カッシーナの姿に若干の変化があることに。

 

よくみれば、素肌を全く晒さない衣装は今までとあまり変わりがないが、左の乳房がきちんと盛り上がっている。元々は事故で大けがをした際、左乳房も大きなダメージを受け、無事な右乳房に比べてふくらみがほとんど見られなかったはず。

ところが、今はものすごく均整の取れた状態に見える。

今まで首周りはあまり気にせず、スカーフなども巻かなかったから、少し覗き込めば傷を見ることが出来たはず。だが、今は・・・。

いや、そんな事があるわけがない。あるわけがないのだ。とても悲しい事だけれど。

でも、カッシーナは何と言ったか?

 

『奇跡を操る方』

 

それは、一体・・・。

 

「王国としても、あの方を逃すことはとてつもない損失となるでしょう。個人的には全てを捨てても受け入れて頂きたい方になります」

 

王妃様がカッシーナの顔を凝視する。

 

「今は、他言無用でお願いしますね、お母さま」

 

そう言ってソファーから立ち上がり、仮面を少しだけずらすカッシーナ。

 

「カッシーナ、貴女・・・!」

 

跳ね上がるようにソファーから立ち上がり、涙を流しながらカッシーナを抱きしめてくる王妃様。

カッシーナも自身の母親を抱きしめ返す。

 

「4日後の謁見に来られるヤーベ様に嫁ぎたいのです。良い知恵をお貸しください、お母さま」

 

カッシーナはにっこりと輝くような笑顔で自分の母親を見つめた。

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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