転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第112話 盛大な舞台を盛り上げよう

ハーカナー男爵家の屋敷はそれほど大きくない。

その土地もそれほど広くはない。

それだけに偽の借用書を用意して土地と建物を巻き上げるほど価値のある場所でもないと思われる。

やはり、ハーカナー元男爵夫人自身を狙った犯行なのだろう。

 

 

フラウゼア・ハーカナー

 

 

彼女の名前である。準爵の上、現在は当主が亡くなってしまったため、フォンを付けずに呼ぶらしい。

貴族と言うのはよくわからないな。やはりなるもんじゃないな、貴族なんて。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「ようよう!金の準備は出来たのかよ!」

「金が無いなら土地と建物を貰っていくぜ!」

 

見れば10人くらいのチンピラのような男たちが屋敷の玄関前にやって来ていた。

 

「まあまあ、皆さん少し落ち着いてください。フラウゼア!助けに来ましたよ! どうか私の元へ来てください。もう何も心配する必要はありませんよ」

 

見ればチビデブハゲの三重苦を背負ったアブラギッシュなちょびヒゲ親父が立っていた。

 

「Oh・・・」

 

あれが噂のテラエロー子爵なんだろう。

ヤーベ自身は地球時代それほど外見に自信が無かったこともあり、チビデブハゲだからといってテラエロー子爵の外見を悪く言うつもりもないのだが、その嫌らしい笑み、滲み出る不快さ、姑息で卑怯な企みを忍ばせている表情、どれ一つとってもまともな感じがしない。嫌悪感しか抱かないその存在。

そしていかにももう俺の物だと言わんばかりのフラウゼアと呼び捨て。

隣に立っていたらすでに殴っている自信がある。

 

「これはアウトやなぁ~」

 

そっと窓から覗いていたヤーベはテラエロー子爵という存在が人として終わっていると感じていた。

 

玄関を固く閉ざしたハーカナー男爵家。

チンピラたちの怒声とテラエロー子爵の気持ち悪い声。

 

俺は2階中央の部屋の窓からそっと姿を隠し、横で待機していたフラウゼアさんにGOサインを出す。

 

コクリと頷くフラウゼア。

フラウゼアは窓際に立ち、窓を開け放つ。

 

「おおフラウゼア! もう心配しなくていいよ。ワシがお前を守ってやるぞ! さあ、ワシの胸に飛び込んでおいで!」

 

うおっ!マジキモい!

口からスライム吐きそうだ。

 

「私は疲れました・・・。私は誰の物にもなりません。彼の元へ行きます。もう終わりにします・・・さようなら」

 

そう言って窓枠から離れるフラウゼア。

そして次の瞬間、館の内部から火の手が上がった。

 

「ああっ! フラウゼア! お前ら!早くフラウゼアを救い出して来い!」

 

「へ、へいっ!」

 

「あーあ、ズブズブの関係丸出しじゃん」

 

俺は窓際からこっそり連中の様子を伺う。

 

『いいのか!? いいんだよな? 建物に火をつけて回れって言ったのヤーベだからな! 後でダメとか言ってももう遅いぞ?』

 

そう言って建物に火を放っている炎の精霊フレイア。

 

「大丈夫だよ。派手にやっちゃって。うまく燃えたら後でご褒美上げるよ」

 

『ヤーベのご褒美!よしっ頑張る!』

 

俺の言葉に気合が入るフレイア。

 

ボンッボンッ!

 

屋根や窓から派手に火が噴く。

 

「・・・やりすぎじゃね?」

 

『えっ!?』

 

マジで?みたいな顔でコッチ見られても。

 

「シルフィー、飛び火して周りの建物や木々に燃え移らない様に風でうまく遮ってね」

 

『任せておいて!』

 

風の精霊シルフィーがふわりと飛んでいく。頼りになるね。

 

「ベルヒア、壁の強度を高めて館が燃え崩れない様に注意して。後、玄関の扉は土魔法で内側固めちゃって」

 

『了解よ~』

 

土の精霊ベルヒアねーさんもいつものゆるふわ笑顔でOKサインを出してくる。

 

「ウィンティア、万一延焼が広がりそうだったら消火してね」

 

『いつでも消火準備OKだよっ!』

 

水の精霊ウィンティアも万全の態勢で見守ってくれている。

 

何をしているかといえば、精霊軍団フル活動でフラウゼアの人体消失マジックを行おうというわけ。

今日俺はテンコーになるっ!ってか。

 

「は、早くフラウゼアを助けろ!」

 

大きなハンマーなどで玄関の大扉を叩き壊そうとするチンピラたち。

だが、ベルヒアの土魔法で強化された玄関扉はびくともしない。

 

そして館全体に火が回り、大火事になる。

 

「あああ~~~、フラウゼア・・・」

 

両膝を付き、ワナワナしているテラエロー子爵。

チンピラたちも呆然としている。

 

やがて、消防団の人々がバケツに水を持って集まって来る。

彼らには申し訳ないが、仕事として頑張ってもらおう。

テラエロー子爵たちが引き上げたらウィンティアの一撃で消火しちゃうから。

 

そしてコルゼア子爵がやってくる・・・手筈通りに。

 

「なっ!これはどうしたことだ!ハーカナー男爵夫人は大丈夫なのか!? もしかしてお前たちが火をつけたのか!」

 

そう言ってその場にいたテラエロー子爵たちを糾弾する。

 

「馬鹿なっ!ワシたちではない!彼女が自分で館に火をつけたのだ!」

 

必死になって弁明するテラエロー子爵。

 

「では、貴様らが彼女を追い詰めたと言うのか!」

 

「うっ・・・」

 

コルゼア子爵には予定通り、テラエロー子爵たちを糾弾してもらう。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と周りにも認識してもらわなければならないからな。

 

やがて館は全体に火が回り、全焼した。

 

「あああ・・・ワシじゃない!ワシのせいではない!」

 

そう言って乗って来た馬車に乗り込んで逃げ出していくテラエロー子爵。

子飼いのチンピラたちも逃げ出していく。

火が落ち着いたところで、消防団の人たちも帰って行く。

様子を見に来た王都警備隊たちも見分は明日にすると言って帰って行く。

 

彼らが見えなくなるまで見送っていたコルゼア子爵は、一つ溜息を吐く。

 

そして、燃え落ちる寸前の館から、無傷のヤーベ達が姿を現す。

 

「<嵐の結界(テンペスト・バリア)>見事だったな」

 

水の精霊ウィンティアと風の精霊シルフィーの合体魔法<嵐の結界(テンペスト・バリア)>。強力な水と風の加護で火災の熱とガスから身を守っていたのだ。

 

「さて、これでコルゼア子爵にフラウゼアさんの死亡を確認頂いて完了だ。しばらくはコルーナ辺境伯家に匿わせてもらって、俺が王都からカソの村近くの自宅に帰る時に一緒に連れて行くから」

 

「・・・何から何までお世話になってしまって・・・私に新たな人生も下さって・・・」

 

涙を流すフラウゼアさん。

 

「テラエローの野郎も、きっと天罰が下りますよ。貴女は何も気にせずに、ゆっくりと静養されるといい」

 

「うむ、この王都にて、貴女は亡くなられたという事になったのだし。何も気にすることは無くなったわけだ。ハーカナー男爵の分まで貴女は幸せになるべきだろう」

 

俺の言葉にコルゼア子爵もその思いを伝える。

 

「・・・皆さん・・・ありがとうございます・・・」

 

涙をぽろぽろと流しながら頭を下げるフラウゼアさん。

顔を上げたその表情はほんの少しだけ笑みが浮かんでいた。

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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