転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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閑話16 王都のとある喧騒①

「一体どうなっておるのだ!」

 

王国騎士団団長のグラシア・スペルシオは机を拳で叩いた。

 

「貴殿の妹殿が王都を警備しきれていないのでは? 責任問題ですな」

 

王国騎士団第三部隊長のカーフェスが口を開く。

この男、プレジャー公爵派の人間であるため、グラシア団長の妹であるクレリアが王都警備隊隊長についている事を快く思っていなかった。グラシアの目が鋭くなる。

 

「馬鹿か貴様!この王都の至る所で魔物が現れ暴れ出すなど、警備隊がどうとか以前の問題だ!この異常事態、まずは何が起こっているのか把握する必要がある!」

 

カーフェスを怒鳴りつけるグラシア団長。

 

「それにしても、王都内に魔物が発生するなんて、想定外もいいところだな」

 

宰相であるルベルク・フォン・ミッタマイヤーが天を仰ぐ。

 

ルベルクは宰相という立場から、事前にグラシア団長からプレジャー公爵派がキルエ侯爵殺害計画を企て、その準備段階として王都の警備隊を混乱に陥れるべく、騒ぎを起こすと情報を貰っていた。

その情報はコルーナ辺境伯家からの手紙であり、内容はコルーナ辺境伯家の賓客として招かれているヤーベという男からのものだった。

だが、王都で騒ぎを起こすと言う情報はあったが、具体的にどのような事を起こすとは書いていなかった。まさか、王都内で魔物を発生させるなどという事がありえるとは・・・。

 

「それで? グラシア団長はどう対処するおつもりか?」

 

宰相のルベルクは今後の対応をグラシア団長に問う。

 

「事前の情報から各騎士団員には第一線級臨戦態勢を布いています。王城を空にするわけにも行きませんが、各部隊をピンポイントで騒動に対処するために出動させる準備は整っています」

 

「さすがはグラシア団長だ。それにしても、魔物が突然に発生・・・一体どういう事なんだろうな?」

 

横のローブを羽織った男に意見を求める。

 

「そうですな・・・。魔物の発生には<召喚師(サモナー)>の能力を持つ者が関与していると思われますな」

 

「ふむ、宮廷魔術師のブリッツ殿は<召喚師(サモナー)>が関わっていると申すか」

 

ルベルクは顎を擦りながら考える。

 

「それでしたら、コルーナ辺境伯家の賓客とやらが犯人ではないですか」

 

再び王国騎士団第三部隊長のカーフェスが口を開く。

プレジャー公爵派のこの男はコルーナ辺境伯をも追い落とそうとしていた。

 

「その人物は<調教師(テイマー)>ではなかったか?」

 

宰相のルベルクが首をかしげる。

 

「似たようなものでは?どちらも怪しいものですな」

 

随分と勝手な偏見を語るカーフェス。

 

「いや、彼の召喚というのはありえんな。今回の騒動は唐突に魔物が発生している。魔封石か、スキルかで封じていた魔物を解き放っていると思われるからな。この方法が使えるのであれば、コルーナ辺境伯家の賓客とやらは狼牙族を何匹も引き連れてはいないだろう。切り札として封じたままにしておくはずだ。戦力は隠せるなら出さない方がいいに決まっている」

 

宮廷魔術師のブリッツははっきりと断言した。

 

「そう判断されるように実はフェイクで普段から使役獣を出しているのでは?」

 

「それはありえないな。使役獣を封じておけるならば出しておく意味はない。今回は明らかに<召喚師(サモナー)>としても<調教師(テイマー)>としても質の違う者が関与していると思われる」

 

食い下がるカーフェスの言葉にもさらに断定して回答するブリッツ。

そこまで言われてしまい、次の言葉が無くなりカーフェスはむっつりと黙り込んだ。

 

「報告します!」

 

そこへ騎士が飛び込んでくる。

 

「どうした!」

 

「はっ! 王都の東西南北にある外壁門近くで魔物が大量に発生しております!」

 

「と、東西南北全ての外壁門でか!」

 

「はっ!」

 

グラシアは状況がより厳しい事を察した。

この前の第一報では魔物が急に現れて混乱を生じているというものだった。

それが、王都の東西南北にある外壁門近くで同時に魔物が発生しているとなると、その対処も変わってくる。

 

「第四部隊、第五部隊をそれぞれ二手に分け、東西南北の4か所に急行させよ!」

 

「ははっ!」

 

すぐに飛び出て行こうとする騎士とは別の騎士が次の報告を持ってきた。

 

「報告します!」

 

「何だ?」

 

「東西南北の外壁門近くで魔物が現れた件ですが、どの場所もどこからともなく狼牙が何匹も現れ、魔物を駆逐し始めております! 現在一般人への被害は食い止められているとのことです!」

 

狼牙が何匹も急に現れるわけはない。

もちろんあの男の使役獣であることは明らかだ。

 

「うむ!大変助かる情報だ!だがこの王都を守る者としては、狼牙だけに良い格好をさせておくわけにもいかん。第四部隊、第五部隊は出撃せよ!」

 

「「ははっ!」」

 

「グラシア団長は出撃なさらぬのですか?」

 

カーフェスはグラシアに聞いて来た。

 

「全体の把握をするために、もうしばらく情報を待って精査してから判断する。大体俺が出撃する前にお前を出撃させるぞ」

 

「・・・はっ」

 

一瞬間があってから返事をするカーフェス。

 

グラシアはヤーベからの手紙の最後に書いてあった内容を思い出す。

 

『・・・ないとは思うが万が一キルエ侯爵の殺害計画自体が囮で、本当の狙いが王国騎士団を出撃させて王城を手薄にすることだとしたら、狙われるのは王家の人間だ。騎士団の出撃は半数程度に留めて王族の警護は怠らない方がいいだろう。王都の混乱は少なくとも一般人に被害が及ばない様に手を打つつもりだ。キルエ侯爵の襲撃犯の撃退はクレリアとその手勢と俺が対応する。だから心配はいらない。それより、絶対に王族を一人にするなよ。内部に手引きしている人間がいる可能性だってある。必ずグラシア団長の信頼できる人間を護衛に付けてくれ』

 

(この予測が的外れであってくれればどれだけ良い事か・・・)

 

グラシアは拳を握り締めた。

 




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