転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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閑話18 闇に暗躍する者達①

「どうなっておるのだ!」

 

僅かな蝋燭の揺らめきだけが支配する部屋の中で、男の怒声が響き渡る。

 

「あの男が危険だからと、王都に来る前に始末した方が良いと言ったのはお前自身ではないか! それを悉く失敗しおって!」

 

怒声は収まる事無く、目の前に立つ()()()()()()()()に叩きつけられるが。ローブの男は微動だにせずに佇んだままだった。

 

「来る途中で魔物を氾濫させたりけしかけたりしたものは悉く叩き潰されたそうだな! バーレーンでは逆に英雄扱いだと! ふざけているのか!」

 

「別にふざけているわけではないんですがね・・・。ヤツの使役獣である狼牙があまりにも規格外なんですよ・・・。Cランクモンスターのはずなんですがね。特異種というか、変異種というか・・・」

 

「言い訳なぞいいわ! 王都の混乱に魔物を使うと言ってお前に用意した黒水晶は一体いくらしたと思っているんだ!」

 

「そう言われましてもね・・・お金には疎いんで」

 

「その上、キルエ侯爵の襲撃にも失敗しおって!」

 

「そっちは実行グループを指揮した者に言ってくださいよ」

 

「うるさいっ!」

 

男はローブの男に飲んでいたワイングラスを投げつける。

だが、ローブの男はひょいと躱してしまったので、後ろの壁に当たって乾いた音を立てて割れてしまった。

 

「王族の暗殺もうまくいっておらんのか!」

 

「王妃の毒殺は失敗したみたいですね。でも本命の第二王女はあの男が行ってますからね。そっちは間違いないでしょうよ。()()()の期待通りだと思いますよ」

 

やっと男の思惑に沿うような結果が想像できたのか、少し部屋の空気が緩む。

だが、

 

「大変です! ベルツリー様が大けがを負って戻ってこられました!」

 

「何だと!」

 

「ばかな・・・、最強の殺し屋ベルツリーが大けがだと!? 第二王女のカッシーナには大した護衛はついていなかったはずだか・・・」

 

ローブの男は信じられなかった。

ベルツリーという殺し屋は殺人そのものを楽しむ最低の殺し屋であった。

殺人そのものを楽しみ、女であれば犯してから残虐に殺すことを最上とするなど、依頼者側からも非常に使いにくい危険な人物でもあった。

だが、その殺しの技術は類に見ないもので、一度の失敗も無かった。

そのベルツリーが殺しに失敗して大怪我・・・にわかには信じられなかった。

 

 

 

殺し屋ベルツリーはリビングのソファーに寝かされていた。

 

「早くポーション持って来いってんだよ! 痛ェんだよ!」

 

「おい、一度も殺しを失敗していないお前が一体どうしたんだ?」

 

ローブの男は殺し屋ベルツリーがまるで子供がダダを捏ねているように見えるのを訝しげにしながらも聞いた。

 

「訳が分からねぇ! ダークナイトとかいうイカれた野郎が俺を邪魔しやがった! 野郎トンでもねぇ力を持っていやがる」

 

「ダークナイト? 聞いたことも無いヤツだな」

 

「ああ、見たことねぇヤツだったぜ。()()()()()()()()()()()を被っていやがった」

 

「黒いローブ・・・まさかな」

 

「アンタ心当たりでもあるのかよ?」

 

殺し屋ベルツリーは緑のローブの男が考え込んだのを見て尋ねた。

 

「・・・いや、違うだろう」

 

「とにかく、早くポーション寄越せよ!俺は自分で治療するような魔法は使えねーんだよ!」

 

「・・・オメー仕事に失敗しておきながらその態度はどーなんだよ? ポーションだってタダじゃねーんだぜ?」

 

「うるせぇよ!早く寄越せよ!回復したらぶっ殺してきてやんよ!」

 

「・・・あ、オメーマジで勘違いしてんじゃねーか? ()()()()()()()()()()()()?」

 

「あ・・・、いや、すまねェ、痛みで必死だったつーか・・・」

 

「まあいい、どうせ本命は明後日の王の謁見に来る冒険者だ。どんだけ使役獣が凄くても、王城に入れるわけにはいかねーだろーからな。当人の能力なんぞ大したことは無いだろうし、間違いなく殺れるはずだ」

 

「ああ、傷さえ治りゃ大丈夫だ」

 

ローブの男は懐からポーションを取り出し、殺し屋ベルツリーに渡す。

といっても両腕を負傷しているらしく、受け取るのも苦労そうだったので、ポーションの瓶を空けて飲ませてやった。

 

淡い光に包まれて傷が癒えていく。

 

「ふう・・・、助かったぜ。あー、むしゃくしゃするな。少し憂さ晴らしに出るか」

 

凶暴な笑みを浮かべた殺し屋ベルツリーの胸倉をローブの男が掴む。

 

「テメエが何やっても勝手だがな、次の仕事をしくじって見ろ、マジで殺すからな! 好き勝手するのは仕事をきっちり終わらせてからにしやがれ!」

 

ローブの男が吐き捨てる様に言う。

殺し屋ベルツリーがとてつもない殺しのスキルを持っていながら、まるで未成熟の子供のような精神を見せる事に苛立っていた。ただでさえ、あの男を王都に到着する前に仕留める予定が悉く失敗に終わっているのだ。これ以上の失態は許されるものではなかった。

 

「殺るのは、謁見直前だ。案内のメイドはすでに買収済みだ。謁見直前の間で武器などの携帯が無いか確認するためにあの男が一人で案内されてくる。そこを狙え」

 

「・・・わかった」

 

「謁見直前に殺されれば王家の失態は底知れぬものとなる。

計画が失敗続きとはいえ王都では魔物が急に暴れたりして不安が渦巻いている。そこへもう一押ししてやれば、今の王家への不安も高まるだろう。そうすりゃ公爵様の出番が来るってことさ。だから抜かるんじゃねぇぞ」

 

「ああ、任せとけよ。一撃で首を落としてくるさ」

 

殺し屋ベルツリーは不敵に笑うのだった。

 




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