転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第122話 ラノベ的お約束の衝撃を受け流そう

「んで? 転生者の暗殺者って他にもいるのか?」

 

俺の問いかけに「フカシのナツ」は首を傾げる。

 

「私は他には知らない。それに、ベルツリーより凄腕の殺し屋は知らない。暗殺者集団『黒騎士(ダークナイト)』の首領カイザーゼルでもベルツリーには勝てない」

 

・・・あ!? この前黒ローブで銀貨面被ってカッシーナ王女を助けに行った時に、ダークナイトって名乗っちゃったな。暗殺者集団『黒騎士(ダークナイト)』とは一切関係ありません。

 

そこへどやどやと衛兵とその上司みたいなのがやって来た。

 

「どうした!?」

 

「おい、ナツは逃げなくていいのか?」

 

ナツに確認するが、

 

「私はこの国の諜報部に雇われた。だから大丈夫」

 

「ええ――――!? なんでなんで!? この前襲って来た時はフリーランスの暗殺者っで言ってたじゃん!」

 

納得いかねー!! なんでナツが王国の諜報部に雇われてるんだ!?

 

「『救国の英雄』ヤーベの情報を持ってるって言ったら、高く買ってくれた上にスカウトされた」

 

「何でぇ!?何でぇ!? しかも俺の情報勝手に売ってんじゃねーよ!コンプライアンスどこいった!?」

 

「異世界にコンプライアンスはない」

 

ドヤァとくそムカつくぐらいのドヤ顔で宣うナツ。

 

「お、お前さんが『救国の英雄』ヤーベ殿か?」

 

「え、『救国の英雄』ってのはよくわかんないですが、ヤーベと言えばヤーベです」

 

「ははっ、面白い奴だな。俺は諜報部を統括するグウェインだ。んで、そこで転がってるのは何だ?」

 

諜報部を統括するグウェインという男、王国の諜報部トップらしい。

 

「・・・というわけで、このメイドは俺をハメるために案内したんですよ。殺し屋はベルツリーって名乗ってました」

 

「・・・そうか、殺し屋ベルツリー、厄介な奴だな。それから、このメイドはこっちで預かるぜ。アンタは謁見の準備を急ぎな」

 

そう言えばそうだ。着替えないとまずいよな。

 

「わかりました。このメイドはお任せしますのでよろしくお願いしますね」

 

そう言って、俺は着替えをするために急いだ。

 

「・・・どこへ行けばいいんだ?」

 

迷子の俺を探しに来たメイドが見つけて連れて行ってくれた。

 

 

 

 

 

 

「国王ワーレンハイド・アーレル・バルバロイ15世、入られます!」

 

厳かな雰囲気の中、国王ワーレンハイドは王妃を伴い謁見の間に姿を現す。

会場にはすでに3公爵家であるリカオロスト、プレジャー、ドライセン、4侯爵家であるエルサーパ、フレアルト、ドルミア、キルエの各当主が王座の近い位置に揃っている。

その他コルーナ辺境伯、ルーベンゲルグ伯爵他、子爵、男爵に至るまで男爵以上の貴族当主が勢揃いしていた。

 

「ふんっ、それにしても最近の王都は物騒でいけませんなぁ、キルエ侯爵」

 

プレジャー公爵は先ほどから王都の治安が悪いとぐちぐち言い続けている。

その矛先はつい先日王都内で馬車に乗っているところを襲撃されたキルエ侯爵に向けられた。

 

「襲撃者は王都警備隊によって排除された。私としては王都警備隊のおかげで命が助かったのでな。よくやっていると思うが。それよりも侯爵家の馬車を襲撃したり、王都で魔獣を召喚したりと、あまりにイカれた奴らが急に出過ぎではないか?」

 

ジロリとプレジャー公爵を睨むキルエ侯爵。

 

「何だ!? ワシが何かしたとでも言うのか!」

 

「別に公爵が何かしたなどとは一言も言っていないが?」

 

「なんだと!」

 

「少し声が大きいのではないか?」

 

しれっとすましたように言うキルエ侯爵に激高するプレジャー公爵。それをドライセン公爵が窘めた。

 

「ふんっ! 王家が呼んだ『救国の英雄』も遅いじゃないか? この城で何かあったら王家の威信に傷が付きかねんぞ?」

 

「随分と不穏な発言ですな。何か思い当たることでも?」

 

ドライセン公爵の問いかけにもニヤニヤとした表情を浮かべるだけのプレジャー公爵。

 

公爵、侯爵の集まる最前列は恐ろしいほどのピリピリとした空間に支配されていた。

 

 

 

 

「コルーナ辺境伯殿、いろいろと情報かたじけない」

 

「いやいや、これから協力体制を作って行かなくてはならんでしょうからな。こちらこそよろしくお願いしますよ」

 

ルーベンゲルグ伯爵からの挨拶ににこやかな笑顔で返すコルーナ辺境伯。

 

「・・・それほどの男ですか?あのヤーベという男は」

 

「昨日会われたんでしょう?どうでした?」

 

「・・・一言で言うと、掴みかねております・・・。尤も手が早いのは実感せざるを得ませんでしたが」

 

苦笑、というよりは苦々しいレベルの表情を見せるルーベンゲルグ伯爵。

 

「(存外に手が早いのだな・・・)」

 

コルーナ辺境伯は意外な感じがした。そんな感じは今まで見せていなかった。

どちらかと言えば女性陣のアプローチを躱していた感もあったのだが。

なぜヤーベが急いだのか。ヤーベでさえ想像だにしなかった展開へと発展して行くのだが、今は知る由もない事であった。

 

 

 

 

「みな、よく集まってくれた」

 

ワーレンハイド国王が玉座に座り声を発した。

王妃様はワーレンハイド国王が座る玉座の左横に立っている。

右隣には宰相であるルベルク・フォン・ミッタマイヤーが控えている。

宰相ルベルクが口を開いた。

 

「本日は市井で『救国の英雄』と呼ばれている男を呼んでおります。彼の者の功績は正しくこの王国を救うにふさわしい物ばかりであり、その功績に王家として報いるべく謁見の場を設けた次第であります」

 

「はっ!どれほどのものでもあるまい」

 

プレジャー公爵が悪態を吐く。

その横ではリカオロスト公爵が無表情なまま、視線を動かすことなく、微動だにしていない。

じろりと宰相ルベルクが睨んだ。

 

「コルーナ辺境伯領ソレナリーニの町では<迷宮氾濫

スタンピード

>で発生した約1万もの魔物の大群を退けました」

 

「ばかなっ!」

「1万だとっ!」

「どれほどの軍勢だというのだ!」

 

ざわつく会場。

それほどまでに1万もの魔物を討伐するという事が信じられない事であった。

 

「ソレナリーニの町、城塞都市フェルベーンではテロ行為の未然摘発、およびテロ行為の鎮圧、テロ行為によって拡散された毒による大勢の体調不良者の救助、回復」

 

「なんだそりゃ?」

「街中でも活躍出来て、回復もだと!?」

 

「タルバリ伯爵領では、悪魔の塔に封じられた悪魔王ガルアードの討伐」

 

「な!なんだとぉ!」

「あれは単なる伝説だったのではなかったのか!?」

「あれはアンタッチャブルだったはず!」

 

「その他バハーナ村で起こったダークパイソンの大量発生を使役獣で討伐、商業都市バーレールではオークの軍勢1500匹を殲滅してそれぞれ村や町を救っております」

 

「そ、それは本当なのか・・・」

「その男の戦力は王国の軍隊に匹敵するのでは・・・」

 

さすがにざわつきが大きくなってくる。

宰相ルベルクは声を大きめにして続ける。

 

「ヤーベ殿の活躍が無ければソレナリーニの町、バハーナ村、商業都市バーレールは壊滅の危機、城塞都市フェルベーンでは毒による1000人以上の死者が出ていたでしょう」

 

「なあっ!?」

「マジかっ!?」

「どれだけ助かってるんだ!」

 

謁見の間は騒然となる。

 

「皆も聞いての通りだ」

 

ワーレンハイド国王の声に謁見の間は一瞬にして静かになる。

 

「これほどの功績に何も報いないのであれば、それこそ王国の威信に関わる。彼の者の功績に十分報いたいと思う」

 

「それでは、『救国の英雄』ヤーベ殿!ご入場!」

 

 

パパパパーン。

 

 

トランペットのような楽器で音が流れ、謁見の間の大扉が開く。

 

「(うわ~~~、滅茶苦茶いっぱい人がいるじゃん!)」

 

俺は目の前の大扉が大きく開いていき、謁見の間が目に飛び込んできた瞬間そう思った。

 

「さあ、ヤーベ、行こうか」

 

緊張している俺にイリーナが男前な発言をする。頼もしい奴だな。

 

俺は謁見の間に歩みを進めていく。

 

その後ろからイリーナ、ルシーナ、フィレオンティーナ、サリーナ、リーナの五人が横並びで続いていく。

 

教えられた指定位置まで来ると片膝を付く。

 

「表を上げられよ」

 

宰相ルベルクが声を掛ける。

俺はその声に従い顔を上げて玉座を見た。

 

そこには、数日前に遠慮なしに王国談義を繰り広げたチョイ悪親父風の金髪のイケメンロン毛がいた。

 

「(アンタやっぱり王様だったのかよ―――――!!)」

 

ありそうで無さそうでやっぱりあった、ラノベ的お約束に声を上げなかった俺は自分で自分を褒めたいと思った。

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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