転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
「「ばかなっ!!」」
カッシーナ王女・・・カッシーナ・アーレル・バルバロイからのストレートな求婚にヤーベが固まったところで、同時に声が上がった。
一人はここまでずっと無表情で反応を示さなかったリカオロスト公爵であり、もう一人はヤーベの後ろに控えていたイリーナであった。
「(イリーナちゃん! 王様の前で声出しちゃダメだよ!)」
「(許可も無く発言すると不敬罪を適応されるかもしれんぞ)」
ルシーナとフィレオンティーナが小声でイリーナに注意する。
「(ぐむむ・・・)」
イリーナが唸っている。
おいおい、本当にぐむむって言う人始めてだよ。
ギャフンと並んで、小説で見るけど実際言わないセリフ二大巨頭だと思ってたけど。
・・・イリーナならその内ギャフンって言うかもしれない。
「カッシーナ王女!そのような下賤な平民に嫁ぐとはどういう事ですかな! まして、私の息子が貴方に求婚を申し込んでいるはずですが!」
眉を吊り上げて大声を上げるリカオロスト公爵。
「リカオロスト公爵の御子息との婚姻についてはお断りのお返事をさせて頂いているはずですわ」
優雅に頭を下げて返事をするカッシーナ王女。
「だから、なぜ我が息子との求婚を断り、そのような下賤な平民に嫁ごうなどと酔狂な事をおっしゃられているのですかな?」
足を踏み鳴らし、苛立ちを隠せず態度に出るリカオロスト公爵。
「公爵の御子息との結婚になんの価値も見いだせないのですから、それは当然のことでしょう? 私はこれでもバルバロイ王国の第二王女になります。逆に王国の利になるのであれば例え平民であろうとこの身を捧げましょう」
滔々と語るカッシーナ王女。
ふと見れば王妃が「この娘もよく言うわ」みたいな目で生暖かく見つめている気がする。
塔で会った時は「私も連れて行って!」と言っていたはず。
つまり王国の事など考えていなかったと思われる。
それが、王国の男爵以上が揃っているこの場で、堂々と「王国のためこの身を捧げる」勢いで俺に嫁ぐと言っている。
「・・・・・・」
どんだけ俺にトツギーノしたいんだ?この王女。
悪い気は全くしないのだが、イリーナたちにも申し訳ない気がしてしまうのは男としての性か愛が深いのか。恋愛経験不足で初心者レベルの俺には判断がつかないな。
「(ヤーベはいつ王女様を口説いたのだ! もうすでに新しい女に手を出しているとは!)」
「(いや、口説いたっていうか・・・きっとヤーベ様の事ですから人助けがつながっているのでは?)」
「(ふおおっ! ご主人しゃますごいでしゅ! 王女しゃまもご主人しゃまにメロメロでしゅ!)」
イリーナがキリキリ怒っているのをルシーナが宥めている。リーナは興奮気味だ。
「(これは・・・わたくしの占いにあった今ヤーベ様に突撃しないとだめという理由・・・。まさか王女様が第一夫人に名乗りを上げて来るからだとは! この謁見より後にヤーベ様に言い寄ろうとしても、王女様がいたらその威圧感で近寄れなかったかもしれませんわ!)」
フィレオンティーナは得心が言ったとばかり、ものすごくドヤ顔でガッツポーズしている。
ちなみにサリーナは完全に固まっている。
「なんの価値もないとはどういうことですかな!カッシーナ王女!無礼にも程がありましょうぞ!」
激高するリカオロスト公爵。
「事実でしょうに」
冷たい視線を送るカッシーナ王女。
「焼けただれた半身で二目と見られぬような、女としては機能不全も甚だしい貴女を我が息子が娶ってやろうと言っているのだ!ありがたいと思うべきだろうが!」
あまりに無礼なリカオロスト公爵の言い分にさしもの国王も毛色が変わったのだが、それより先にヤーベに火が付く。
「随分な言い草ですな。二目と見られぬ容姿で、女として機能不全? 彼女をまったく見ていない証拠ですな。彼女を知ろうとすれば、そのような暴言が発せられるはずがない」
リカオロスト公爵に俺は言い放つが、リカオロスト公爵はさすがに貴族のトップにいる人物だ。俺の言葉など意に介さぬようだ。
「黙れ下郎! 貴様のような下賤な輩がこの高貴な血を持つワシに口を挟むな! 大体貴様も王女がとち狂って貴様に求婚して来ているんだ! 平に伏して断りを入れるのが筋じゃろうが!そんなこともわからんか馬鹿め!」
血管切れそうなほど顔を真っ赤にして怒り狂うリカオロスト公爵。
「自国の王女をとち狂ってるとか・・・お前がとち狂っているとしか思えんがな。カッシーナは周りの人々の心を汲み取り、思いやる事が出来る素晴らしい女性だ。そのような女性に妻として娶れと言われるのは途轍もなく光栄なことだ」
わざとニヤリと口角を上げてリカオロスト公爵を見る。
「ぐぬぬ・・・」
おいおい、言ったよ!ここにもいたよ、実際にぐぬぬって言う人。
「お待ちなさい」
声を発したのはワーレンハイド国王の横に立っていた王妃だった。
「リカオロスト公爵。今の言い分はバルバロイ王国の貴族トップとしていかがなものかと思いますよ。公爵であるならば、まず自ら襟を正したらいかがですか。少なくとも先の言いようをするリカオロスト公爵家に大事なカッシーナを嫁に出すなどありえませんわ」
刺すような視線でリカオロスト公爵を睨みつける王妃様。
「『救国の英雄』ヤーベ殿。先に宰相ルベルクより男爵への叙爵の話がありましたが、まずはこの叙爵をお受け頂きます。その上でカッシーナと婚約頂きましょう。ただし、カッシーナを娶るにあたっては最終的には伯爵まで陞爵することを目標にして頂きます」
俺は目を丸くする。
すでにカッシーナを娶る流れな上に、伯爵になるまで頑張れと言われた気がする。
その上で、この場では少なくとも嫌とは言えないのだ。
言えばカッシーナの申し出を断るに等しく、カッシーナの顔を潰してしまうのだから。
やべー、やべちゃんヤッベー!久々に!
これ、最初から狙っていたのか!?
イリーナたちが後ろでブチ切れていないことを祈るだけだ。
「はっ!勝手にするがいいわ!身の崩れた化け物じみた女は下賤な男がふさわしいのであろう!」
よくもまあ父親である国王と母親である王妃の前でそこまで暴言が吐けるもんだね。リカオロスト公爵もさ。
「ヤーベ殿、それでは叙爵の件、受けてくれるんだね?」
ワーレンハイド国王が立ち上がって直接発言して俺の叙爵に対する意思を確認してくる。
「謹んでお受けいたします。非才の身ではありますが、少しでも王国の平和に貢献できるよう力を尽くす所存です」
改めて片膝を付き、胸に手を当てて答える。
「叙爵の件、承諾を承りました」
宰相ルベルクが宣言する。
「国王ワーレンハイド・アーレル・バルバロイの名において、ヤーベ男爵と第二王女カッシーナの婚約を認めるものとする!」
ワーレンハイド国王直々の宣言により、俺はバルバロイ王国の男爵に叙せられ、第二王女のカッシーナを娶ることになった。まだ婚約だけど。
「ヤーベ様、あの日初めてお会いした日から、一日たりとも貴方様を忘れたことはありませんでした」
そう語るカッシーナの後ろに、いつの間にか王女付きのメイド、レーゼンの姿を見る事が出来た。
「今こそ、私の全てをヤーベ様に差し出す所存にございます。お受け取り頂けますでしょうか?」
にこやかにほほ笑みながら俺を見つめるカッシーナ。
「ええ」
カッシーナの迫力に押されて、OKの返事をしてしまった。
カッシーナは銀の仮面をその場で外し、後ろに控えるレーゼンに渡した。
「「「「「えええええっ!!!!!!」」」」」
謁見の間は絶叫に包まれる。
カッシーナの顔の半分を覆っていた半分の銀仮面を外すと、そこには傷一つない愛くるしいカッシーナの笑顔があった。
そして両手袋も外してレーゼンに渡す。
その左手にも傷どころかシミ一つなかった。
「ヤーベ様・・・、この日を心の底からお待ち申し上げておりました・・・」
涙をぽろぽろ流しながら、俺の胸に顔を埋めて泣いた。
俺はカッシーナの背中に手を回して抱きしめる。
すぐ後ろから「キィィー!」っと悲鳴らしきものが聞こえて来た気がしたが、気のせいだと思い込むことにした。
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