転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第125話 王女の胆力に感心しよう

謁見の間は騒然となった。

 

リカオロスト公爵は開いた口が塞がらず、立ち尽くしている。

他の公爵、4大侯爵たちも呆気に取られている。

 

最も驚愕の表情を浮かべたのは外ならぬワーレンハイド国王であった。

国王は玉座から飛び上がる様に立ち上がった。

 

「こっ・・・これは・・・。まさかリヴァンダ、君は知っていたのかい?」

 

ワーレンハイド国王は隣に立つ王妃リヴァンダに話しかけた。

 

「ええ、実はあの娘は私にだけはそっと教えてくれたのです。私を味方につけるために」

 

「味方に・・・って、まさか!」

 

ワーレンハイド国王は王妃リヴァンダが言わんとしたことが理解できた。

 

「すべては、彼と結婚するために・・・?」

 

「彼と一緒にいられるなら、結婚にすらこだわらなかったと思いますけどね」

 

「そこまで・・・?」

 

「そこまでなんでしょうね。彼のそばにいることが大事なんだと思いますよ? きっとあの娘の傷を治したのは彼なんでしょうし」

 

「ええっ!? 本当かい?」

 

「それ以外に考えられないでしょう。カッシーナの見る目、大したものかもね。彼は『救国の英雄』なんて程度に収まらない人かも。元々叙爵すら断られていたところを男爵への叙爵を認めてくれるようになったし。これも全てカッシーナのお手柄よね」

 

「もしかして、影の殊勲賞かな?」

 

「そうですわね」

 

国王と王妃がこっそり笑顔で仲良く話している間も、謁見の間は喧騒が納まらない。

 

「どういうことなのです、カッシーナ姫!」

「一体、どうして傷が治られたのです?」

「元々無かったのか?」

「いや、私は過去傷を見たことがありますぞ」

「では、やはり傷が治ったのですか・・・」

 

ついには元から傷なんて無かったのでは説まで飛び出す。

求婚が面倒臭くて嘘の傷をでっち上げていた、なんて話まで広がってしまった。

 

「カッシーナ王女! やはり平民に嫁ぐのはいかがな物でしょうか!」

 

急に声を張り上げる男。

周りの貴族も注目して男を見た。

男は早くに父親を亡くし、当主の座を継いだ若い子爵であった。

 

ヤーベに抱きしめられて泣いていたカッシーナの雰囲気が剣呑な物に変わる。

 

「・・・カッシーナ?」

 

ヤーベが腕の中で泣いていたカッシーナの雰囲気が変わったので思わず声を掛ける。

そっとヤーベの胸に手を当ててひと呼吸つくと、声を上げた子爵の男を見た。

 

「今、ワーレンハイド国王からヤーベ様が男爵に叙されたのを聞いていなかったのですか?」

 

一瞬にして底冷えするほどの冷徹な目で子爵を睨むカッシーナ王女。

 

「いやっ・・・、それでもそんな男よりも私と結婚して頂いた方が王国のためになります!」

 

うわっ! ぶち上げたよ、コイツ。ノープランで。

今までアプローチしてたならともかく、今この時カッシーナの素顔がメチャ綺麗だからって婚約決まったとこにぶち込んで来るかね?

俺には無理だね。

 

「このヤーベ様より優れていると? 王国のためになると?」

 

「そうです! こんな男より私の方が貴女に相応しい!」

 

全く何の根拠も無くぶち上げる子爵に、カッシーナの目が氷点下まで下がっていく。

 

「では、ヤーベ殿の使役獣筆頭である狼牙族のリーダー、ローガ殿と決闘してください」

 

「・・・ええっ!?」

 

「ヤーベ様より有能なのですよね? では力を見せてください。ちなみにヤーベ殿の使役獣筆頭である狼牙族のリーダー、ローガ殿は単騎で20mを超えるダークパイソンを討伐される実力があるようですが」

 

シレッというカッシーナ。

あれ? 何でローガの事知ってるんだ? いつの間に情報収集したんだろ?

 

「いや、それはちょっと・・・」

 

「では、精霊と交信してみてください」

 

「へっ? 精霊と交信・・・」

 

てか、何で知ってるのカッシーナ。

どこから俺の情報漏れてるのかしら。

 

「私を抱きかかえて空を自由に飛んでみてください」

 

「いや、そのような事とてもできる事では・・・」

 

冷汗を流しながらしどろもどろになる子爵。

 

「何一つ出来ないんですね。彼は全て実現していますよ?」

 

「そ、そんなことが・・・」

 

「と、いいますか、不愉快です。下がってください。今このタイミングで私に求婚とか、空気読まないにも程があると思いますが?」

 

木端微塵になるくらい打ちのめすカッシーナ。

こんなタイミングで美人だと分かったからって手のひら返すような反応をする男、カッシーナでなくても打ちのめしたくなるか。それこそ本当に好きなら、もっと早くからアプローチしろって話だよな。

 

「あうう・・・」

 

よろよろと下がる子爵。カッシーナの圧力に負けて、しりもちをついた。

 

そしてカッシーナは再び俺の胸にふわりと戻って来る。

すごい心臓ですね、カッシーナさん。あれだけ子爵を冷たく追い詰めておきながら、再び俺の胸に顔を埋める。その胆力、俺にはないです。

 

「キィィー!」

 

ビリビリビリッ!

 

後ろで金切り声と共に何かが破れる音がした。

ついにハンカチも破れてしまったのか。

俺はイリーナに質のいいハンカチを買ってあげようと心に誓った。

 

 




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