転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
それにしても、第一奥様とか・・・普通第一夫人とか言わないか?
王家ならば第一妃とか言うだろうけど。
「イリーナ、普通は第一奥様じゃなくて、第一夫人とか言わないか?」
「むっ? そうか? 私はヤーベの奥さんになりたくて仕方なかったから、つい第一奥様と言ってしまったぞ」
「でも、夫人の言い方の方がカッコイイですね! 第二夫人・・・なんか素敵です!」
ルシーナよ、第二夫人で素敵なのか? 揉めないならそれでもいいのだが。
「それにしても、私は一番最後に求婚したみたいですし、順番は最後でも仕方ないのですが・・・」
「実際そう言うわけにはいかないでしょうね。わたくしたちとは立場が違いますわ」
カッシーナの言葉をフィレオンティーナが否定する。
「申し訳ないのですが、対外的には私が正妻に収まる様にして頂かないといけなくなるかもしれません・・・、後から結婚を申し込んでおいて恐縮ですが・・・」
カッシーナは心苦しいと思っているのか、表情がゆがむ。
「ううう・・・私の第一奥様の立場が・・・」
ビリビリのハンカチで涙を拭うイリーナ。それ使えるの?
「イリーナちゃん、第一夫人って言おうよ」
ルシーナよ、気にするところはそこか?
「そうすると、カッシーナ王女が正妻の第一夫人に、イリーナさんが第二夫人、ルシーナさんが第三夫人、わたくしは第四夫人ですわね・・・」
「私が第五夫人ですね!」
順序を入れ替えるフィレオンティーナと、なぜか嬉しそうに言うサリーナ。
「ふみゅう・・・」
そしてリーナが落ち込んでいる。
どうも奥様!と言えないことが原因のようだが、そればかりはどうしようもない。
コンコン
部屋がノックされ、メイド姿のレーゼンさんが入って来た。
「姫様、勝手にいなくならないでください。国王様も王妃様も姫様がいなくなって心配していますよ」
「とはいえ、私はこのままヤーベ様について行きますし」
いけしゃあしゃあと宣うカッシーナさん。さすがにそれは許可されなくない?
「そんなすぐ行けるわけがないではありませんか・・・」
片手で目を抑えてやれやれと言った表情をするレーゼン。
カッシーナの入れ込みように辟易しているようだ。
「国王様がお認めになられたのは婚約です。一緒について行くなど、許可が出るわけありませんよ?」
「では私の部屋に人形か何か置いておいてください」
「そんな訳に行きますか!」
カッシーナの言い分にレーゼンは本気で頭を痛めている。
「!」
俺はすぐに精霊たちを呼び出す。
「ウィンティア、シルフィー、ベルヒア、フレイア」
「「「「はっ」」」」
俺のピリつく雰囲気を察して返事が短い。
「俺の思念を読んでくれ。無詠唱で展開する」
「「「「承知しました」」」」
そして姿を消す。
「どうした、ヤーベ?」
イリーナの問いかけに答えずに、指示を出す。
「みんな、少し俺から離れて部屋の奥へ移動してくれ」
「だから、どうした・・・」
「早くしろ!」
「! ・・・わかった」
イリーナとカッシーナ王女が俺の雰囲気が変わった事に早めに気づき、リーナの手を引いて奥へ移動してくれる。
レーゼンはすでにいつでも太ももに仕込んだダガーを取り出せるように重心を少しだけ低めにしている。
「ご主人しゃま?」
手を引かれて連れていかれたリーナが首をかしげる。
いつもの俺の雰囲気ではないため、どうしたのかと戸惑っているようだ。
ルシーナやフィレオンティーナ、サリーナも移動し、部屋の入口から最も遠い位置へ移動してもらった。
俺は部屋の中央に立つ。
ドカンッ!
部屋の扉が蹴破られた。
「なんだっ!?」
「何が!?」
奥さんズが驚いて声を上げる。
俺は少し前から<気配感知>と<魔力感知>で気が付いていた。この気配、魔力。
あのクソ野郎がここへ向かってきている事に。
「テメェ! 何で生きてやがる!」
堂々と扉を蹴破って入って来たのは殺し屋ベルツリーだった。
それにしても、この王城の警備どうなってるんだ?堂々と暗殺者が廊下歩いてますが?
「ついに扉を蹴破って正面から暗殺者が来るようになったな」
「うるせぇ! テメェが生きてるからコッチが殺されかけたんだよ!」
暗殺者が正面から来たぞと嫌みを言ってやったつもりなのだが、それを受け止めるほど余裕も無い様だ。
「誰に殺されかけたんだ?」
「あのクソブタ公爵とその右腕の<
すげー勢いでべらべらと大事な事喋ってくれたな。雇い主想像できちゃうし。
王都に魔物けしかけてたのも、来る途中で魔物の襲撃が多かったのも、もしかしてその<
そのせいで行く先々で殺人事件に巻き込まれる某少年探偵のごとく死神かなにかと間違えられるところだったぞ。
「いや、別にふざけてないし」
「大体、あの時テメェの首を確かに落としたはずだったんだ! 何でテメェ生きてる!」
「ふっふっふ・・・いつからあれが俺の首だと思っていた?」
「なん・・・だ・・・と・・・」
驚愕するベルツリー。いや、鈴木だろ、どうせ。
「いや~~~~~、一度は言ってみたいセリフシリーズの「いつから~だと思っていた」を使える時が来ようとは! 長生きはするもんだね! 多分一回死んでっけど」
「・・・き、貴様!転生者かぁ!!!」
「さあ?」
激昂するベルツリー、いやさ鈴木君を小ばかにするように首をかしげる俺。
「こ、殺す!」
両手に短剣を構えるベルツリー。
後ろでレーゼンが構えようとするのを手で制する。
「ところで鈴木君。名前の事なんだがね、ベルツリーはいくら何でもないわ~って思うんだが。そこんところ、どーなの?」
「テ、テ、テメェ!! ふざけるのもいい加減にしろ! 楽には殺さねーぜ!」
ベルツリー改め鈴木君は両手に持った短剣の先を合わせる様にして構える。
「よく見りゃあの時殺し損ねた王女様とメイドちゃんもいるじゃねーか。その他イカス女が何人もいやがるなぁ」
「だからどうした?」
鈴木の言葉に俺は少し剣呑な雰囲気が出てしまう。
「クククッ・・・テメェはもう終わりだよ! この部屋は俺のスキル<
カッシーナを庇って前に出ているレーゼンに緊張が走る。
イリーナたちも明らかに敵とわかる男に殺気を向けられてこわばっているようだ。
俺の体から渦巻く魔力が漏れ出ていく。
コイツのふざけたセリフがたとえ冗談だとしても許せないと俺のスライム細胞が沸騰するかの如く魔力を生成していく。
そして、コイツの言葉は決して冗談なんかではないのだ。
「で?」
俺は拳を握りしめながら務めて冷静に声を出す。
「ああっ?」
「だから、それで?」
今度は大きく首をかしげて少しバカにするように煽る。
「テメェ!ふざけやが・・・」
その時、初めてベルツリーは自分の右足が床にくっついて離れないことに気が付いた。
「な、何だこりゃ?」
「<
「な、なんだと!?」
ベルツリーは右足を何とか動かそうとするが、びくともしない。
俺の足元から細い触手を発射、ヤツの右足の裏を床とスライム細胞でくっつけているのだ。
ベルツリーは焦りながらも、それでも脅しをかけて来る。
「さっきも言ったろ! この部屋はすでに俺のスキル<
ベルツリーのわめき散らすような声に奥さんズの面々が体を固くする。
だが、みんなが顔を見回して、首を傾げる。
「・・・いや、別に何ともないな」
イリーナが呟く。
「はい、あの時のような影響はないようです」
レーゼンも影響がないと伝えて来る。
「どういうことだ・・・?」
ベルツリーの顔色が失われていく。
少なくとも自分のスキルが効果をあげていないことに不安を感じたようだ。
「一度見たスキルが通用するとでも?」
俺は懐から銀の仮面を出す。
「そ、それは! 貴様、ダークナイト・・・!」
この仮面は俺が塔にいたカッシーナを狙ったベルツリーを撃退した時に付けていた物だ。その時にダークナイトと名乗っている。
「すでにこの部屋は毒を除去する魔法を展開済だ。貴様の毒など小指の先ほども影響はない」
「ぐ、ぐそぉぉぉぉ!!」
「もう貴様に取れる手立てはない。大人しく捕まって洗いざらい吐くのならこの場で殺す事だけは留まってやるが?」
「あ、ああ・・・わかったわかった、大人しくするよ・・・」
そう言った瞬間、ベルツリーは自分の右足首を切り落とした。
「次に会ったら殺す!覚えていろっ!」
そのまま動けるようになったベルツリーは入って来た扉へダッシュした。
ドポォォォ!
ドプンッ!
「な、なんだこりゃ・・・なんなんだよぉぉぉぉ!!」
ベルツリーは出口に仕掛けたマット状に大きく広げた触手に突っ込んだ。
そしてスライム細胞で取り込むように包み込む。
喋ることが出来る様に顔だけ出しておく。
「<
「な、なんだこりゃぁぁぁぁ!」
「どうしてお前達のようなクズは自分の思い通りに行くと思っているんだ? なぜ逃げられると思っている? お前のような凶悪な殺し屋、逃すはずないだろう? ほおっておけば、また誰かを殺すんだろうからな。それを止めるためには・・・お前を殺すしかないな」
「ギャァァァァァァァ!!!!!」
取り込まれたベルツリーの体は手足の先からスライム細胞に消化吸収されている。
より具体的に言えば、手足の先から消えて無くなっている。
スライム細胞には「消化」の命令を出しているから、溶かすような処理をしているため、相当に痛いはずだ。例えるなら強力な薬品で手足の先から焼かれて溶かされているようなものだろうからな。
「お前、人殺ししてもなんとも思わないんだったな。その点だけは羨ましいな。俺はお前のようなクズですら殺すのに躊躇い心が痛む」
「ヤーベ! そんな男羨ましがる必要ない! 心が痛むのは人間なら誰しも当たり前だ! でも命を守るために相手の命を奪わなくちゃいけない時だってある。心が痛むなら、私がその痛みを共有するから! だから・・・そんな男を羨ましがるな!!」
イリーナが涙を流しながら俺に大声をだして伝えてくれる。
イリーナ・・・、俺には過ぎた奥さんだぜ!
「ありがとうイリーナ。こんな奴でも殺せば心が痛む。後でたっぷり甘える事にするよ」
「う・・・いっぱい甘えるといいにゃ」
イリーナの語尾が怪しくなる。
「あ、私も一杯癒します!」
「もちろんわたくしも癒しますわ」
「私も~」
「リーナも頑張りましゅ!」
「では僭越ではありますが私も・・・」
奥さんズが次々と俺を癒すと宣言してくれる。
いい奥さんや~。
「グギャアアアア!」
「今、奥さんたちと心の交流してるんだ、静かにしろよ、空気読めよ」
「ふっざけんな! 人を殺しかかっておきながら何いちゃついていやがんだ!」
「いや、お前がその存在を消滅させるのはもう決定だし」
「アガガガガ!た、たすけでぐでぇ」
「だが断る」
「そんなネタセリフでぇぇぇぇぇ!!」
ついに泡を吹いて意識が怪しくなるベルツリー君。
手足は付け根まで消化が進み、胴体と頭だけが残っている。
「ちょっと待っちゃくれねぇか?」
唐突に部屋に入って来たのは諜報部を統括するグウェインだ。
「殺し屋ベルツリーを連れて行くのか? 構わんが、情報を引き出すんなら後で俺にも教えて欲しいんだが」
「ああ、教えられる事なら教えてやるよ」
「後、ちゃんと
「当然だ」
「じゃ、任せる」
ドサッ!
俺はベルツリーを放り出した。
「恩に着るぜ!」
そう言ってダルマの様になったベルツリーを瞬時に縛って連れて行ってしまった。
手足の付け根部分は焼いて処理したので失血死はないはずだ。
そして再び部屋には俺と奥さんズとリーナ、レーゼンだけになった。
「みんな、大丈夫だったか?」
「ヤーベ!」
「ヤーベ様!」
みんなが俺に抱きついてくる。レーゼンも温かく見守っている感じだ。
「みんなも、助かったよ」
その言葉で、ウィンティア、シルフィー、ベルヒア、フレイアが姿を現す。
ウィンティア、シルフィーの力を借りて完全無詠唱で<
ベルヒアもフレイアも待機してもらっていた。もっとベルツリーが手ごわい奴だったら力を借りていただろう。
「みんな無事でよかったね!」
ウィンティアが笑顔で抱きついてくる。
そうだな、謁見も終わったし、大事なみんなが無事だった。
今日は帰ってゆっくりする事にしようか。
俺はみんなの笑顔を見ながらどうやって労おうか考えることにした。
今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!