転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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閑話23 王城に残された人々の悲喜こもごも

「トルネーディア・マグナム六連!!」

 

ドゴゴゴッ!!

 

宙を舞い、三頭黄金竜(スリーヘッドゴールデンドラゴン)に二発ずつコークスクリューパンチを喰らわすヤーベ子爵。

 

「<風撃圧殺衝(ストームボルテックス)>!」

 

体勢をぐらつかせた三頭黄金竜(スリーヘッドゴールデンドラゴン)に強力な風の魔法を放ち、王都の外へ吹き飛ばす。

 

「王都で暴れられると被害が出ちゃうんで、外で戦って来ますね。早めに首を狩って戻って来ます。それまでこの連中をよろしくお願いしますね」

 

そう言ってヤーベ子爵は自分で飛ばした三頭黄金竜(スリーヘッドゴールデンドラゴン)を追って行ってしまった。

 

 

 

「いやあ、言葉に出来ないね」

 

プレジャー公爵に短剣を首元に突き付けられていたワーレンハイド国王は少々呆れ気味に言った。間違いなくヤーベ子爵は稀代の英雄であり、自分の命の恩人であり、このバルバロイ王国の救世主でもある。だが、あまりの規格外さに、目の前で自分の命を助けてもらってさえ、実感がわきにくい。

 

ガシッ!

 

短剣を握っているプレジャー公爵の手首を思いっきり掴む。

 

「き、貴様ッ!」

 

プレジャー公爵が顔色を変える。

ワーレンハイド国王は素早く手首を捻り上げると、グルリと回し、プレジャー公爵を床に叩きつける。

 

「ぐはっ!」

 

さらに手首を背中側へ回すように織り込み、短剣を手放すように押し込む。

 

「ぐああっ!」

 

ワーレンハイド国王がプレジャー公爵を抑えたので、ドライセン公爵が素早く駆け寄り、プレジャー公爵を拘束する。そのまま衛兵に引き渡す。

 

「あなた!」

 

リヴァンダ王妃がワーレンハイド国王に抱きついた。

 

「心配かけてすまなかったね」

 

リヴァンダ王妃の頭を優しくなでるワーレンハイド国王。

 

「ご無事で何よりです」

 

心底ホッとした表情で笑顔を見せるリヴァンダ王妃。

 

「あの・・・あなた・・・」

 

「ん? 何だい?」

 

三頭黄金竜(スリーヘッドゴールデンドラゴン)の皮で作ったハンドバック・・・本当に買ってくださいますの?」

 

少々潤んだ瞳で下から見上げる様に国王様を見上げるリヴァンダ王妃。

確実にわかってやっている。

そして、ワーレンハイド国王がリヴァンダ王妃にこの体勢からお願いされたことを断れたことは一度もない。

 

「もちろんだとも。一番に予約したじゃないか・・・値段聞いてないけど」

 

最後の方の呟きは誰にも聞こえることは無かった。

 

 

 

「いいのう・・・ヤーベ子爵が戻ってきたら私も予約するかのう」

 

キルエ侯爵が抱き合う国王と王妃を見ながら羨ましがる。

 

「ふふふ、私はアローベ商会立ち上げ時に手続きを手伝ったからな。後で直接ヤーベ殿に融通してもらうとするか」

 

「おお、それは羨ましい。私も一つ妻に送りたいのですが口を利いて頂けますかな?」

 

コルーナ辺境伯がニヤつけば、ルーベンゲルグ伯爵も一口乗ろうとする。

 

「私よりもダレン卿の方が言いやすいのでは? ダレン卿の奥方はそれこそイリーナ嬢の母親な訳ですから、もはやプレゼントしろくらいの勢いで行けるのでは?」

 

「いやいや、それはさすがに・・・、と言うか、それはフェンベルク卿も同じことでは?」

 

「いや・・・私はまだ認めていないというか何と言うか・・・」

 

非常に諦めの悪いコルーナ辺境伯であった。

 

「ぐぐ・・・竜の盾は絶対欲しいが、妻のシスティーナへハンドバックもプレゼントしたい・・・。だが一体あれらはいくらになるのだろうか・・・。これはもうシスティーナの姉であるフィレオンティーナ殿を通じて分割支払いをお願いするか・・・」

 

タルバリ伯爵は腕組みをしながら思案を続けた。

 

そのタルバリ伯爵の悩む姿を見ながらコルゼア子爵も妻にハンドバックを贈りたいが自身の領の財務を圧迫するほどの費用が掛かるならば諦めねばと考えていた。

 

「何はともあれ、いくらで販売するつもりか確認をせねば・・・」

 

ヤーベ子爵は「限定販売だ」という。三頭黄金竜(スリーヘッドゴールデンドラゴン)の皮と言う貴重な素材を使うのだ。材料が無くなれば製造できないというのは容易に想像出来る。

 

「いくつぐらい作れるのであろうか・・・」

 

コルゼア子爵はあの巨大な竜の姿を思い出し、存外に結構な数が作れるのでは?と楽観的な気持ちになった。

 

 

 

プレジャー公爵が連行され、コルーナ辺境伯に抑えられていたゴルドスターも衛兵に連行されている。

残っているのは、ヤーベ子爵の魔法?でぐるぐる巻きにされているサキュバスのミーナだけである。

 

「さて、この魔族をどうやって殺す?」

 

「コロシが前提!?」

 

フレアルト侯爵の言い様にサキュバスのミーナが悲鳴を上げる。

 

「当たり前だろうが! 魔族を生かす理由などないわ!」

 

「待て、この魔族はすでにヤーベ子爵が捕獲済みだ。我々には生殺与奪の権利がない」

 

テンションを上げるフレアルト侯爵をキルエ侯爵が窘める。

 

「はあっ!? 魔族だぞ! 関係あるか!」

 

「本当にお主は直情的だの。すでにその者は拘束されて無力化されておる。その後ヤーベ子爵がその者を何か利用する計画でも立てていた場合、お主は責任を取れるのか?」

 

ジトッと睨みを効かすキルエ侯爵。

 

「子爵ごときが侯爵に楯突くなら、相応の対応をするまでだ!」

 

「ほう? 絶体絶命の状態が回避され、敵が駆逐されると随分と強気になるものよな」

 

フレアルト侯爵の反応に小馬鹿にしたように鼻で笑うキルエ侯爵。

 

「なんだとっ!」

 

「少しは現実を見つめた方がよいのではないかな? フレアルト侯爵」

 

そう話したのはワーレンハイド国王であった。

 

「国王様・・・」

 

「彼は一人でこの王国の滅亡を救った。絶体絶命だった窮地を救ってくれた。その敵がいなくなった瞬間に貴族の階級を持ち出して彼を押さえつけるのはあまり感心しないね。彼がその気になればプレジャーやゴルドスターなぞよりもあっさりとこの王都を平地にしてくれるだろうさ」

 

「う・・・」

 

「別にヤーベ子爵にゴマをすって気を使う必要などないし、ヤーベ子爵が王国に仇名すような事をすれば、私はこの命を懸けて止めるようにするさ。止められるかどうかは別にしてだが」

 

自虐的に話すワーレンハイド国王。

 

「ヤーベ子爵が規格外なのはもう説明する必要もない。だが、彼を特段持ち上げる必要もないと考える。だが、規格外ゆえにこちらの常識で勝手に判断する事は避けた方がいいような気がする。その魔族も、あっさり自分の使い魔にでもしてしまいそうな気がするしな」

 

「そーなんですよ! さっきの男に呼び出された私ですが、あっさりヤーベ様にその契約を解除されまして、こうしてぐるぐる巻きにされて捕まってしまったわけでして。その時に魔力を限界まで吸われてしまいまして魔界に帰る事が出来なくなってしまったんです。これはもうヤーベ様に責任を取ってもらうしかないですよね!私はすでにヤーベ様をマスターとして一生ついて行く所存でございますぅ!」

 

一気にまくしたてるサキュバスのミーナ。

 

「責任を取ってもらう・・・? ならば後腐れ無い方が良いか・・・?」

 

さっきまで庇っていたのに、急に剣呑な雰囲気を出すキルエ侯爵。

 

「何で何で何でぇ!?」

 

急に手のひらを返されて涙目になるサキュバスのミーナ。

 

「あらあら、どこの泥棒猫がヤーベ様に紛れ込もうとしているのかしら?」

 

キルエ侯爵よりさらに剣呑な雰囲気を出してきたのが王女カッシーナであった。

腰に両手を当て、座り込むサキュバスのミーナを仁王立ちで見下ろす。

 

「ひいいっ!」

 

涙目は決壊しちょちょぎれる。

 

「ヤーベ様早く帰って来て~~~~~!」

 

サキュバスのミーナは泣きながらヤーベの帰還を願った。

 

空を飛んでヤーベが帰って来たのはそれからすぐの事であった。

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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