転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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閑話24 エルフブリーデン公国 公女ブリジットは登場する ~ほのかなポンコツの匂いを漂わせて

「は・や・く~~~~、早く着かないかしら~~~~」

 

エルフブリーデン公国、ブリジット・フォン・エルフリーデン公爵令嬢はバルバロイ王国に向かう公国の馬車の中で思いっきりハシャいでいた。

 

「お嬢様! あまり暴れますと馬車が揺れます!」

 

「何言ってるの。我がエルフブリーデン公国が誇る長距離移動用馬車なのよ。風の精霊に守られたすごい馬車なんだから! 速くて揺れないんだからね!」

 

馬車の中でいきなり立ち上がり腰に両手を当ててフンスッとドヤ顔するブリジット。

ついて来たお付きのメイドの注意も意に介さない。

 

「いえ、だからと言って馬車の中で暴れていいわけではないですからね? 馬車が急に止まることだってあるんですから。ちゃんと座って大人しくしてください!」

 

「そんなこと言っても、年に一回しか行われないバルバロイ王国でスイーツのナンバーワンを決定する大会が開かれるんですもの!大人しく出来るわけないじゃない!」

 

バルバロイ王国で毎年行われる王都スイーツ決定戦。

ネーミングセンスはともかく、王都バーロンで行われる食の祭典として有名な催しであり、甘味が贅沢の一つであるこの世界において、国民を熱狂させるお祭りの一つとして数えられている。

 

その王都スイーツ決定戦の外部招聘特別審査員を担っているのがエルフブリーデン公国である。

 

 

 

 

エルフブリーデン公国―――――

 

文字通り、エルフ種を中心とした公国である。

代々一番力を付けた家が「エルフリーデン公爵家」を名乗り、大公として「エルフブリーデン公国」のかじ取りを行う。

昔は一定期間で「エルフリーデン公爵家」を名乗るための力試しがあったりして入れ替えがあった時代もあったようであるが、現在は人間国と同じ血の継承を重視し、同じ一族が長年「エルフリーデン公爵家」を名乗っている。

 

尤もエルフ種は長命であり、あまり「欲」というものに頓着しない者が多く、国を運営してくれるならどうぞどうぞという反応の者の方が多い様だ。

 

ちなみにブリジットの父親でありローランド・フォン・エルフリーデン公爵当主をローランド大公と呼び、公国トップとして約300年も君臨しているものの、その父親であり、ブリジットからすれば祖父に当たるソルフォール・フォン・エルフリーデンも健在である。ソルフォールも大公としてエルフブリーデン公国を400年間けん引して来ていた。いうなれば二人で700年もの間エルフブリーデン公国を仕切って来ている一族なのである。

 

地理的にはバルバロイ王国の東、ガーデンバール王国の北の大森林に位置し、「森の王」とも呼ばれている国になる。あまり対外的に付き合いの大きな国ではないが、自国の南に位置するガーデンバール王国、および食料事情および文化圏としても質の高いバルバロイ王国への貿易は積極的に行っている。そのような間柄であるため、バルバロイ王国王家ともつながりがあり、王家主催のパーティやイベントには呼ばれることも多々あった。

 

「特にこの王都スイーツ決定戦は、「スイーツ」と呼ばれる贅沢な甘味料理が中心に競われるんだから!何に置いても特別審査員の席に座って食べ尽くさないと!」

 

注意されているのに聞かず、立ち上がっては両手を振り回し熱く語るブリジット。

 

キキーッ!

 

「んきゃんっ!!」

 

馬車が急ブレーキをかけて止まる。

その勢いで立ち上がっていたブリジットは前側の壁に顔から突っ込んで強打した。

 

「いった――――い!」

 

「だから立ち上がっては危ないと言っているではありませんか」

 

そう言ってハンカチを取り出し、顔をぶつけて鼻血を出しているブリジットの鼻を拭く。

 

「何なのよ、もうっ!」

 

急停車した勢いで前に飛ばされたブリジット。

とりあえず口から出るのは文句であったのだが、元気ではあるようだ。

止まった理由はわからないが、通常ではありえない状況にメイドたちには緊張が走る。

 

「た、大変です!王都バーロンの北側に、ド、ド、(ドラゴン)の群れが!」

 

「な、何ですって!?」

 

ブリジットがメイドの止める間もなく馬車から飛び出る。

これが陽動だったり、何かの罠だったら一体どうするつもりなのか。そのような事はブリジットの頭の中には無い様だ。

 

「こ・・・、こんな事って・・・」

 

見れば王都バーロンの北門の外にワイバーンの群れと雷竜サンダードラゴンが飛んでいた。

まさに絶望的な戦力であった。

 

「信じられない・・・」

 

ブリジットを追って馬車を出てきたお付きのメイドもその目で見た。

王都バーロンを雷の渦に巻き込んでしまうであろう恐るべき戦力を。

ブリジットをバルバロイ王国へ使者として立てているため、公国の精鋭騎士団が護衛についているが、その騎士たちも、贈り物を積んだ荷馬車を守る兵士たちも立ち止まり足がすくむ。そしてこの後起こるであろう惨劇を想像して身震いした。

 

「バロバロイ王国の人々が・・・」

 

お付きのメイド、ソルフィーナは胸の前で手を組み、祈る様に呟いた。

 

「このままじゃスイーツ食べられないじゃない!」

 

公女ブリジットはかなり残念な子であるようだった。

 

「て、撤退だ!万が一こちらに向かってきたらブリジット様をお守りできない!」

 

この部隊を任された部隊長は大声を上げる。

 

「いえ、ここは私の魔法であの竜を仕留めてあげましょう!」

 

「「「え?」」」

 

多くの騎士やメイドのソルフィーナはブリジットが何を言っているのか理解できなかった。

なぜなら、エルフのお嬢様とはいえ、ブリジットの魔力は実に大したことが無かったのである。

 

「ここでバルバロイ王国へ恩を売って、スイーツの優遇を受けるのです!」

 

一言で纏めればバカとしか言いようのない内容で気勢をあげるブリジット。

それに対して「テメエの仕事だろ、何とかしやがれ!」といった騎士団からの視線がメイドのソルフィーナに突き刺さる。ソルフィーナは今なら口から血が吐けると思った。

 

「ブリジット様、いくら何でもドラゴンを仕留めるのは・・・」

 

「何言ってるのよ! ドラゴンぐらいさっくり仕留めて、バルバロイ王国からスイーツをせしめるのよ!」

 

お前が何言ってるんだ!!という騎士団からの殺意が滾り過ぎた視線がソルフィーナにさらに突き刺さって行く。そしてスイーツは優遇される物からせしめる物へ変わっている。

 

「お嬢様・・・ブリジット様・・・ドラゴンは無理ですって・・・」

 

もうイヤ・・・と思いながらも、目に涙を浮かべても、仕事をほっぽり出すわけにはいかず、ブリジットを宥めようとするメイドの鑑、ソルフィーナ。だが、その時。

 

ズガガガガガ―――――ン!!

 

雷竜サンダードラゴンとワイバーンに何故か雷が降り注ぎ、ワイバーンが撃沈されていく。

さすがに雷竜サンダードラゴンは雷が降り注いでも墜落することは無かった。

 

「「「えええっっっ!?」」」

 

騎士団は元より、ブリジットもソルフィーナも同じように声を上げる。

 

そして雷竜サンダードラゴンからサンダーブレスが放たれるも、なぜか王都には被害が全くなく、逆に王都側から何かエネルギーのようなものが放たれ、雷竜サンダードラゴンが怯み、行動が止まる。

 

そして、信じられないほどの巨大な雷が天空を切り裂き、雷竜サンダードラゴンに直撃したのだ。そして轟沈する雷竜サンダードラゴン。

 

「な、なんだ? 何が起こっているのだ・・・?」

 

理解できない、と呆然とする部隊長。

 

だが、ソルフィーナはきちんと理解していた。わずか3手、雷撃に関しては2手で雷撃サンダードラゴンとワイバーンを屠る存在が王国にいるのだ。

正しく、恐るべき戦力、と言えた。

 

「竜が落っこちて行ったわよ? スイーツせしめられないのは残念だけど、これで王都スイーツ決定戦は問題なく行われるわね。さあ、早速出発よ」

 

ドーンと王都を指さして早速出発を指示するブリジット。

すさまじく頭を抱える部隊長。

そんな部隊長にそっと声を掛けるソルフィーナ。

 

「とにかく二名の騎士を先行させて王都が問題ないか調べて来てもらいましょう。その間は行軍速度を落としてゆっくり王都バーロンへ向かうのはいかがでしょう?」

 

「おお、それはいい。お前達、先に王都バーロンの様子を探って来い。こちらはゆっくり向かうから、問題なければこちらへ戻って来て報告をくれ」

 

「「了解しました!」」

 

二名の騎士が馬を駆り王都バーロンへ向かう。

意気揚々と馬車に戻るブリジット。

ソルフィーナは深い深い溜息を吐いた。

 




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