転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第165話 メンドクサイ男は排除しよう

「私とスライム伯爵の結婚ですが、今から三週間後に執り行いたいと思います」

 

堂々と宣言するカッシーナ王女。

三週間後ね。宣言前に相談してよね。

 

「六日後に王都スイーツ決定戦が開催されますが、その特別審査員にエルフブリーデン公国、ブリジット・フォン・エルフリーデン公爵令嬢をお呼びしております。ブリジット公女は昨日王都バルバロイに到着されました。二週間程度の滞在を予定しておりましたが、少し滞在を伸ばして頂いて、私の結婚式にご参加いただけることになりました」

 

おお、エルフの国があるんだ。それは初耳だな。ヒヨコたちに情報取って来てもらうか。

それに、公女様が来てるんだ。エルフを見るチャーンス!!

異世界に来た北千住のラノベ大魔王(自称)としては、エルフを見ずして異世界を語るなかれ!できる事ならその耳をモミモミしてみたいところだ。

・・・尤も耳を触ったら結婚とか、危険なしきたりがあるかもしれない。情報収集が命だな。

 

「また、結婚式には隣国のガーデンバール王国に嫁がれました私の姉であるコーデリア王女とその夫であられるセルシオ王太子にもガーデンバール王国を代表してご参列頂けることになりました」

 

重い!重いよカッシーナ!

人の結婚式に隣国代表も呼ばないでよ!

・・・といっても、第二王女と結婚するわけだし、そりゃそうなるか。偉い人ばっかりくるんだろうな。やっぱザイーデル婆さんやカソの村の村長は呼べないな、うん。別口で披露宴やろう。何なら神殿(マイホーム)ってちょうど結婚式にいいのでは?

 

「王都スイーツ決定戦の優勝者には結婚式のパーティにスイーツ料理を出せる権利も今回特別につけるように致します」

 

お、それは俺も食べたいな・・・って、その大会、リューナちゃんと俺参加予定ですけど?

 

「結婚式への参列は強制ではありませんが、多くの皆様に祝って頂けますと私、幸せです」

 

そう言って優雅に礼をするカッシーナ王女。

・・・まあ、カッシーナが嬉しそうだから、いいか。

 

 

 

 

 

「ああ、緊張した」

 

前室に戻り、背伸びをして肩を回す。

 

「ついにヤーベも伯爵でカッシーナ王女とも結婚か」

 

イリーナがちょっとだけ遠い目をする。

 

「それに、この王都にヤーベ様のお屋敷が出来るんですね」

 

ルシーナが嬉しそうに俺を見つめて言う。

今まではルシーナの実家であるコルーナ辺境伯家の賓客と言う立場というか、単なる居候だったからな。

居候を卒業して、自分の邸宅を持つと、両親のいない俺たちだけの生活が出来る、とでも思っているのか、なんだかルシーナのテンションが高い。

・・・まあ、コルーナ辺境伯家の大貴賓室を毎回利用させてもらうわけにもいかんしな。

そういう意味では我が邸宅も巨大な寝室に巨大ベッドが必要か!?

 

「まあ、この後宰相のルベルク殿がいくつか案内してくれるらしいから。実際に連れて行ってくれるのは別の人だろうけどね」

 

「楽しみですわ、旦那様」

「ふおおっ!ご主人しゃまの新しいおウチでしゅ!」

 

フィレオンティーナやリーナが嬉しそうに喜ぶ。

 

「ヤーベさん、出来れば館に錬金術部屋を作ってくれると嬉しいです」

 

サリーナが俺にお願いをしてくる。

 

「要望があれば出来る限り聞くよ。みんなも後で何かあったら遠慮なく言ってね」

 

俺たちが前室を出て、廊下を歩き出す。

すると一人の男が俺の前に立ちはだかり、行く手を遮った。

 

「おい貴様」

 

おー、今日陞爵したばかりとはいえ、伯爵となった俺にいきなり噛みつくヤツが出るとは。

誰だ、コイツ?

 

「どちらさまで?」

 

「貴様、今すぐカッシーナとの結婚を辞退して来い」

 

「はい?」

 

コイツ、何言ってんの?

 

「聞こえないのか? 今すぐカッシーナとの結婚を辞退して来いって言っているんだ!」

 

「だから、お前誰なんだ?」

 

怒気をはらんで睨み始める奥さんズを手で制しながら、再度問いかける。

 

「俺はバオーカ・フォン・リカオロストだ。わかったらとっととカッシーナとの結婚を辞退して来い!」

 

「・・・え?」

 

確かリカオロスト公爵本人は体調不良を理由に自領地に帰っているはずだ。

だいたい、男爵に叙爵された時に会ったリカオロスト公爵は当主のコルネリオウス・フォン・リカオロスト公爵だったはず。白髪の年のいった男だった。

だが、このバオーカと名乗った男はもっとずっと若く、黒髪をオールバックにしている大柄な男だ。

 

「お前、もしかしてリカオロスト公爵の息子か? 長男だか次男の」

 

俺は当たりを付けて聞いてみる。

 

「俺は次男だ。わかったら早く辞退して来い。もたもたするな!」

 

「おー、つまりお前、貴族の当主でもないのに、伯爵になった俺にイカれた命令をしているって事か? まあ伯爵じゃなくても人として間違ってるけど」

 

「これだから下賤な輩は始末に負えん。お前のような似非貴族が形だけ叙爵されても意味がないわ。俺のような高貴な血こそが貴族たる所以だ。お前のような汚れた血が王家に入ればこの国も終わりだ。俺のような高貴な血を持つこそがカッシーナの夫に相応しいのだ。だからさっさと結婚を辞退して来い!」

 

「なんですの? このゲスは? 自分が貴族当主でもないのに、親の威光を振りかざして喚いているだけの雑魚ではないですか。自分が何を言っているのかわかっているのかしら?」

 

凄まじく剣呑な雰囲気を醸し出しながらフィレオンティーナがバオーカを睨みつける。

 

「完全に自分の都合だけで喋っているな。実に意味不明な男だな」

「ここまで自信満々にイカれていると気持ち悪いですね」

 

イリーナにルシーナが何かゴミでも見るような目でドン引きする。

 

「カッシーナ様の眼中に完全に入っていないのに、哀れですね」

「サリーナよ、そんなときは、『アウト・オブ・眼中』って言うんだよ」

「あうとおぶがんちゅう、ですか?」

「そう」

 

サリーナが眼中に入ってない話をしたので、イマドキの表現を教えてあげよう。

 

「貴様ら!この俺をバカにするか!」

 

「むしろお前のような馬鹿をバカにしなくてどうするんだ」

 

「ふざけるなっ!」

 

いきなり殴りかかって来たバオーカの右パンチを左に躱し、その右手首を掴んで折り曲げる様に下に引く。

 

「ぐわっ!」

 

手首の痛みに耐えかねて前に転がる様に倒れるバオーカ。その右手をそのまま離さず、捻り上げて胴体を足で踏みつける。

 

「あがっ!」

 

痛みに叫ぶバオーカ。

 

「衛兵!いるか!」

 

「「ははっ!」」

 

大声で衛兵を呼べば、バタバタと二人ほど奥から走って来た。

そして踏みつけている男を見ると、うっと声を漏らす。

どうやら誰の息子か、理解したらしい。

ならば、衛兵に引き渡すだけでは危ないかもしれんな。

 

「スマンが宰相のルベルクを呼んで来てくれ。それまでコイツはここで取り押さえておくから」

 

「貴様っ!俺にこんなことをしてただで済むと思うなよ!」

 

「殴り掛かってきたうえにあっさり無力化された口先だけで何の実力も無い、パパの権力で言う事きかすぞ、だけが取り柄のザコ君は俺が押さえておくから。早く偉い人呼んで来て。厳重に公爵家に抗議するし」

 

「ははは、はいっ!」

 

慌てて走って行く衛兵たち。

 

「貴様!必ず殺してやるからな!俺のカッシーナに触れてみろ!許さんぞ!」

 

・・・あ? 今、何て言った、コイツ? 俺のカッシーナ・・・だと?

 

「おい、今なんて言った?」

 

俺は俺の足元で這いつくばっているゴミに確認する。

 

「必ず殺す!俺のカッシーナに・・・」

 

メキメキメキッ!

 

「ギャアアアアアアア!!」

 

「ああ? 誰が俺のカッシーナなんだ? 俺の奥さんを誰の許可を得て呼び捨てにしてるんだテメエ」

 

ゴキゴキッ!

 

「ギィエエエエエエエエ!!」

 

床に這いつくばらせているバオーカの背中を足で踏みつけていたのだが、怒りでさらに踏みつけたのであばらが何本かイッてしまったようだ。まあどうでもいいが。

 

「お前のとち狂った頭も踏みつけて中身ぶちまけてやろうか? 俺のカッシーナなどと永遠に勘違いできないようになぁ」

 

殺気を飛ばして睨みを効かす。

あばらをやられたせいか、殺気を浴びたせいか、ガタガタと震えだすバオーカ。

 

「そこまでっ!そこまでにしていただけますかな!」

 

走って来たのは宰相のルベルクと王国騎士団団長のグラシアだった。

 

「どうされました、ヤーベ・フォン・スライム伯爵殿」

 

えらく丁寧に名前を呼んでくれるな、グラシア団長は。

まあ、この足元のゴミを片付けやすいようにという配慮だと思うけど。

 

「貴族の当主でもないこの男が、不敬にもカッシーナ王女を呼び捨てにした上で、俺の物だなどと世迷言を叫び出し、あまつさえ俺にカッシーナ王女との結婚を辞退して来いなどと喚き知らし、さらに殴り掛かって来るという暴挙に出たので、仕方なく制圧したところだ」

 

折角だから、ものすごく丁寧に説明しておこう。

 

「・・・バオーカ殿。貴方がリカオロスト公爵家次男としてカッシーナ王女に求婚をしていた事は存じております。ですが、カッシーナ王女は求婚をお断りしていたはずです。そして今回、王家はカッシーナ王女とスライム伯爵の結婚をお認めになりました。先ほどもカッシーナ王女ご自身から結婚式の日程について発表があったばかりです。あまり現実味のない話を喚かれるのは王国としても迷惑ですな。とりあえず頭を冷やしてもらいましょう。衛兵、連れて行け」

 

「「ははっ!」」

 

宰相のルベルクが指示すると衛兵たちがすぐに返事をして対応を始める。

二人の衛兵が倒れたままのバオーカを起こそうとすると「ぐわっ!」と叫び声を上げる。

 

「あばらをやっているかもしれませんので、回復ポーションか何かで少し手当てをしてやってください」

 

一応俺は説明してやる。

 

「わかりました、そのように対処しておきます」

 

グラシア団長が了承した上で連れて行くように指示を出す

連れて行かれるバオーカを見ながら、ああいう面倒臭い奴がこれ以上出て来ない様にと祈った。

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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