転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第169話 とりあえずどこで眠るか考えてみよう

「まず応接室! 応接室をチェックだよ~~~~!」

 

イリーナが右手を高くつき上げて元気に宣言する。

 

「いいですね!お客様をお迎えする応接室は大事ですよ! スライム伯爵のイメージが決まりますです!」

 

ルシーナも両手をぶち上げた。

それを合図に奥さんズとリーナがバタバタと応接室の方に走って行く。

その後ろ姿を見ながら、先ほどのメイドたちの事を考える。

 

俺は彼女たちに一生働かなくてもいい金を渡すと言った。

だが、誰も首を縦に振らなかった。

ここで働いてもいいと伝えた時の本当に安心した顔。

 

・・・俺はまだここが異世界なのだと心の底で理解していなかったようだ。

 

俺が日本にいた時なら、一生遊んで暮らせる金をくれるといったら、喜んで仕事を辞めただろう。好きな趣味に没頭して背徳な人生を送ったかもしれない。

だが、ここは異世界だ。法の効力も薄く、力ある者に正義がなければ弱者を蹂躙出来る世界だ。

 

彼女たちが大金を持ってこの屋敷を出て、果たしてどこへ行くのか?

まず、実家がある者は戻る家があるだろう。だが、孤児だったものはどうか。金が有るからと言って一人で安心して暮らして行けるだろうか? その金を狙って悪いヤツが寄ってくるかもしれない。

それに実家だからと言って安心できるだろうか? その家族が非情な人間で、金だけ巻き上げてまた働かされに出されるかもしれない。その時、俺の伯爵家よりも条件が良い働き口がどれほどあるだろうか?

 

・・・彼女たちにとって、一度に金を得ることが幸せにはつながらないのだろう。

必要なのは、安心していられる「場所」なのかもしれない。

ならば、少なくとも知り合えた彼女たちだけでも、俺がその「場所」になろうじゃないか。

奇しくも伯爵、なんてものになっちまったんだからな。

 

「いよーっし! お前達!俺の屋敷で働く覚悟は出来てるか―――――!!」

 

いきなり叫び出した俺にその場にいた全員が驚き俺を見る。

 

「ヤ、ヤーベ、どうしたんだ? いきなり・・・」

「ヤーベ様?」

「どうしたのですか?旦那様?」

 

奥さんズが目をぱちくりして俺を見る。

 

「俺の屋敷で働く以上、誰よりも幸せにするぞ! 今までよりずっと幸せにするぞ! 幸せになる覚悟は出来てるか―――――!!」

 

一瞬ポカーンとなるメイドたち。だが、次の瞬間、

 

「「「「「ハイッ!!」」」」」

 

涙を浮かべて元気にメイドたちが返事をした。

後ろでオッサンや爺さんも元気よく「おうっ!」返事をしていた。

 

「よし、今日の夜はバーベキューだ! 準備するぞ!」

 

「ええっ!? 館の内覧はどうするのだ?」

「そうですよ、館のチェックをしないと」

 

俺は戸惑う奥さんズの面々をスルーしてぶち上げる。

 

「フフフ・・・材料は亜空間圧縮収納にたっぷり入っている。調理場に案内するのだ! 材料を渡しておくから料理人とメイドたちで仕込みを頼む。それから、外の庭で食事するから、皿や飲み物の準備も頼むぞ」

 

「「「ハイッ!」」」

 

元気よくメイドや料理人たちが散っていく。

 

「俺は先に材料を出してくるから、先に応接室を見に行ってくれ」

 

ここで奥さんズに館の見学を指示する。おうちの中、気にしてるだろうしね。

 

「わかった。早く来てくれよ」

 

そう言ってイリーナ達は先に応接室に向かった。

 

 

 

 

 

「さて、ここに肉と野菜を出して行くから」

 

そう言って俺は亜空間圧縮収納からポンポンと食材を出して行く。

 

「ワイルドボアでしょ・・・フレイムバードでしょ・・・ダークパイソンでしょ・・・」

 

「ダークパイソン!? あんな高級なお肉・・・こんなに!?」

 

驚くメイドや料理人たちをしり目に、俺はドカドカと大きな塊で食材を出して行く。

 

「野菜もね。キュキュウリ、ナナース、トマトマ、ピピーマン、ジャガーイモ・・・」

 

「デ、デカイ!」

「な、なんでしょうこの野菜・・・通常よりもずっと大きいです・・・」

 

「これ? カソの村で取れた野菜なんだよね。すごく元気よく育っててね」

 

「ま、まさか・・・カソの村の奇跡の野菜ですか!?」

 

料理人のおっさんが驚く。カソの村の野菜って、奇跡の野菜って言われてるんだ。確かにデカいよな~、ナナースなんて、普通の十倍くらいの大きさがあるぞ。

 

「こ、こんなにたくさんの量・・・旦那様と奥様方の量としては多すぎますよ?」

 

手伝いをしているメイドの一人が呟く。

 

「何を言う、君たちも一緒に食べるんだよ」

 

俺は料理人やメイドたちも一緒に食べると伝える。

尤もローガ達も一緒に食べるから、相当食材いるからな。

 

「ええっ!? と、とんでもありません。旦那様方と一緒に食べるだなんて・・・」

 

「料理する者や給仕する者もいるが、交代で食べてもらう。というか、バーベキューと言うのは外で竈を作り、焼いただけで食べられる材料を事前に用意しておく料理方法だ。準備を事前に済ませておくことにより、外で炭火を使って焼いた食材をすぐに食べられるから調理人もその場で食べられるし、給仕する人も少なく済むし、交代でその場で食事が出来る」

 

「そ、そんな料理方法が・・・」

「でも、旦那様とご一緒に食事なんて・・・」

 

「むう、なんだ、君たちは俺と一緒に食事をするのは嫌か?」

 

ちょっとイジけてみる。

 

「ととと、とんでもない!」

「そんな光栄なことがあってもいいのかと・・・」

 

料理人たちもメイドたちも緊張して恐縮しているようだが、ここは今日からスライム伯爵の邸宅だ。俺の方式に従ってもらうぞ。

 

「いつもとは言わんが、今日のような初めての食事といった記念の日は、みんなで食事をして、楽しさを分かち合うぞ!」

 

「「「ははは、はいっ!」」」

 

それでは彼らに食材の準備を任せよう。

 

 

 

 

 

「あ、ヤーベ、お疲れ」

 

俺が応接室に入るとイリーナが声を掛けてきた。

応接室はやたらと豪華な調度品が置いてあった。よくわからん絵やら壺やら。

テーブルとソファーは高級そうだ。これくらいは使ってもいいか。

 

「この絵や壺は品がないから、引き取りに出してお金に替えて、別の調度品に変えた方が良いかと思う」

 

「任せるよ、イリーナ。俺は絵とか壺に詳しくないから」

 

「それなら王城に飾ってある物をもらって来ましょうか?」

 

さらりととんでもない事を言うカッシーナ。いや、それ普通はくれないだろ。貰っても困るけど。

 

「いやいや、王城からなんていいよ、気を使っちゃうから」

 

「そうですか?」

 

「うん、別に絵も壺も興味ないしね。ウチに来客とかあんまりないんじゃない?」

 

「そうでしょうか・・・きっとキルエ侯爵とか頻繁に来そうですよ。キルエ侯爵邸はすぐ近くですから」

 

え、マジで? ルシーナよ、その情報いつ手に入れたの?

 

「それに、我が父や母も来たいだろうし」

「ウチもそうでしょうね」

 

イリーナとルシーナは両親が来るだろうと話す。もちろん来てもらっても問題ないけど。

 

「きっとタルバリ伯爵や妹のシスティーナも一度は挨拶に来ると思いますわ」

 

フィレオンティーナも関係者が来るだろうと話す。

こりゃ立食パーティですな。

 

「よし、二階の部屋を見に行こう!」

 

イリーナ達がエントランスに戻り元気に階段を上がっていく。

 

二階に上がるとそこそこの広さの部屋がいくつもある。

 

「これなら奥さん達が一人一人部屋を持てるな」

 

俺は部屋を見ながら納得する。10部屋くらいはあるな。

 

「ヤーベ来てくれ!」

 

一番端の角部屋からイリーナが俺を呼んでいる。

 

「どうした?」

 

「ここを寝室としよう! ルベルク殿!王都で一番デカイベッドを頼む! 10人くらい寝られるヤツでな!」

 

いやイリーナよ。そんなにデカイベッドどーするつもりだ?

 

「いいですね!ウチの貴賓室より大きいですね!」

「これならみんなで一緒に寝られますわ!」

「ちょっと恥ずかしいけどね~」

「ふおっ!みんなでオネムネムでしゅか!」

 

ルシーナ、フィレオンティーナ、サリーナ、リーナがそれぞれ肯定の意見を述べる。良いのか君たちよ。それにしても毎回全員で寝るのか? 一人で寝たい日は無いのか?

 

「どどど、同衾・・・同衾・・・ついに私もヤーベ様の奥さんとしてその末席に・・・!」

 

カッシーナが後ろで静かに燃えている。

だが、カッシーナよ。多分君は連れて帰られると思うぞ。きっと泊ってはいけないだろう。レーゼン辺りが回収に来るだろう。合唱。

 

「ルベルク殿」

 

「なんでしょう、ヤーベ卿?」

 

「一階の奥の4部屋は来客用に使いますので調度品とベッドをお願いします。それからこの二階の10部屋も個人別に使用できるようにそれぞれ調度品とベッドをお願いします。彼女たちの希望を直接聞いてやってください」

 

「個室として使うのですか?」

 

「ええ。私も個室が欲しいですしね。執務室は一階の予定ですし」

 

「僭越ですが・・・寝室は奥方様たちが巨大ベッドで全員そろってお眠りになると・・・」

 

「いや、いつもってわけにもいかないでしょうから、個室は用意しますよ・・・一応巨大ベッドもお願いしますけど」

 

一応お願いしておこう。巨大ベッド。あくまで一応だけどね!

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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