転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第171話 スライム伯爵邸初めての食事会は賑やかに行おう

「びえぇぇぇぇぇん!!」

 

ドガシィ!

 

エントランスを出て正面の庭に出た俺に突撃を誰かがかましてきた。

 

「おわあっ! 誰だ・・・って、ミーナか!?」

 

そう言えば、取り調べが終わったら引き取るって話をしていたっけ?

すっかり忘れていたな。

 

「ご主人様―! 忘れてたでしょ!忘れてたでしょ!忘れてたでしょ!」

 

俺の胸に飛び込んできて顔をグリグリと押し付けて来るサキュバスのミーナ。お前はリーナか!

 

「いや・・・、忘れてたけど」

 

「ヒドイ!ご主人様ヒドすぎぃぃぃぃぃ!!」

 

さらに高速グリグリで俺の胸に顔を押し付けて来るミーナ。まだ顔だからいいけど! その豊満なバストを押し付けられた日にゃヤーベのヤーベがヤーベっちゃって危険なモードに!

 

「ふおおっ! ライバルでしゅ!ライバルが現れたでしゅ!」

 

見れば後ろでリーナが「ガーン!!」って顔してる。安心しろ、リーナ枠は誰にも奪わせはしないぞ?

 

「あら? いつの間に女狐が紛れ込んできたようですわ」

 

カッシーナが剣呑な雰囲気を出す。いや、出来れば一つ穏便に。

 

「ぬうっ! ヤーベの奥さん枠はもう一杯だぞ!」

「そうですよ!」

「満杯ですわ!」

「いや、サキュバスさんが奥さんってさすがにまずいんじゃ・・・」

 

イリーナ、ルシーナ、フィレオンティーナの奥さんズのトップスリーが奥さん満杯を告げる。

サリーナがとても正論を語っている気がするが。

 

「わふっ!(ボス!()りますか?)」

 

ぬっと横に現れたのはローガ。狼牙族のみんなもバーベキューに参加させるためにこちらに呼んでおいたのだ。もちろんヒヨコたちもこちらの屋敷に一度来るように連絡してある。

 

「ひいっ!なになに? この狼さん明らかにワタシを齧ろうとしてるよね!?」

 

「ああ、ローガ、一応お前達と同じ支配下枠?のお客さん?かな?」

 

『なんと・・・ボスの配下になるのですか?この魔族の女が』

 

多くの人間がいるため、会話ではなく念話で話しかけてきたローガ。

 

『あら、このワンちゃん、念話が出来るの? なかなか賢いじゃない。ご主人様のペット?』

 

サキュバスのミーナがローガに舐めた様な念話を送る。ああ、ミーナお前死んだぞ?

 

「グルル・・・(小悪魔風情が、我を愚弄するか!)」

 

ドンッ!

 

三メートルはあろうかと言うローガが一瞬魔力を高め、その殺気をミーナにぶつけ、威圧を掛ける。

 

「ヒイイッ!!」

 

腰が抜けて抱きついていた手すら力が入らずずり落ちて腰を抜かすミーナ。

 

「おいおいミーナ。ローガは俺の部下たちの中でも、名実ともにナンバーワンの実力を持っているんだぞ?昨日もローガと部下たちで約一万匹の魔物を狩り尽くしてきたばかりだしな」

 

「へッ!?」

 

『女、あまり舐めた態度だとその入ってなさそうな頭丸かじりにしてやるぞ?』

 

「ヒィィィィ!」

 

余りの威圧にガタガタと震えだすミーナ。

 

「ふふふっ、ローガ殿の洗礼を受けて少しは大人しくなるといいのですが」

 

カッシーナが腕を組みながらミーナを見下ろす。

 

「まあ、とにかく丁寧な対応で、先輩たちを敬うようにな。仲良くやってくれ」

 

「ううう・・・よろしくお願いしますご主人様ぁ」

 

泣きながらも挨拶を返してくるミーナ。

 

「わざわざ連れて来てくださったんですか、お手を煩わせて済みませんでしたね」

 

ミーナと一緒に館に来てくれたのは諜報部を統括するグウェインだった。

 

「陞爵の謁見が終わったら引き取るって話だったのに、邸宅の見学に行っちまったっていうからよ」

 

頭をボリボリと掻きながら説明してくれるグウェイン。

 

「よかったらこれからバーベキューという料理方法でこの庭で食事するんですよ。肉や野菜もたくさん用意してますから、よかったら召し上がっていかれませんか?」

 

「お、良いのか?」

 

「ええ、もちろん」

 

「じゃあ、遠慮なくご相伴に預かるとするか!」

 

嬉しそうに揉み手をし出すグウェイン。俺は準備中のメイドに声を掛けて飲み物を用意させる。

 

「さあ、飲み物を配ってくれ。そして竈に火を入れて肉を焼き始めようじゃないか。ア・レ・キュイジーヌ!」

 

「「「はいっ!」」」

 

メイドたちの何人かが元気よく返事をして小走りに準備しに行く。

ふふふ、スライム伯爵邸初めてのバーベキュー大会スタートだな!

 

「おお、何やら賑やかじゃな?」

 

ふとみれば・・・あ、キルエ侯爵だ。

 

「ここは我が屋敷から近いの。いつでも遊びにこれそうじゃな」

 

ニコニコしながら右手には何やら高そうな酒瓶を持っている。

 

「引っ越し祝いの軽い挨拶じゃな。正式には別途祝いの品を送らせてもらうがの」

 

「お気を使って頂かなくても大丈夫ですよ?」

 

「何を言うか。お主と懇意だと知らしめるためにも親しげに祝いの品を送るのじゃ。遠慮せずに受け取るがいい」

 

「そういうものですか」

 

その後、コルーナ辺境伯家の皆さんやルーベンゲルグ伯爵ご夫婦、タルバリ伯爵ご夫婦、コルゼア子爵と知り合いの貴族が続々と集まって来る。何故に俺がバーベキューをするって事を知っているんだ?

 

「やあ、ヤーベ伯爵、元気かい・・・って、なんだこのメンツ!?」

 

んっ?誰だって・・・おお、商業ギルドの副ギルドマスターであるロンメル殿ではないか。

 

「ロンメル殿、わざわざ会いに来てくれたのか?」

 

「ああ、そうなんだが・・・伯爵に陞爵おめでとう・・・って、この集まってるメンツ凄すぎないかい?王国の錚々たるメンバーが集まってるんだが・・・」

 

ロンメルがキョロキョロ見回しながら言う。

 

「そう? よくわからんけど」

 

「なんで君がわからないのかね」

 

ロンメルが苦笑しながら突っ込む。

 

「ヤーベ殿!伯爵への陞爵おめでとうございます!」

「ヤーベ様、伯爵おめでとうございます」

 

振り向いたロンメルがさらに驚く。

 

「王国騎士団の騎士団長グラシア殿に、王都警備隊隊長のクレリア殿・・・」

 

「やあ、お二人とも昨日は大変でしたか?」

 

「ははは、最初の情報ではもう王都も終わりかと思いましたが、ヤーベ様さまさまですよ。また王国を救って頂きましたね」

「えっ!?そうなのですか?またヤーベ様がご活躍を!?」

 

クレリア隊長はあまり詳しい事を知らなかったようだ。

 

「その話、詳しく聞かせてもらいたいですな」

 

ロンメルも食いつく。

その反応になぜか気を良くしたグラシア団長がまるで英雄譚の様に語って行く。

これは恥ずかしいぞ。ちょっと場所を変えるか。

 

 

 

 

「君、名前は?」

 

「あ、アリスと申します。よろしくお願い致します、旦那様」

 

俺は顔にやけどの傷があるメイドに声を掛けた。

 

「そうか、ちょっとこっちに来てくれるか?」

 

「はい」

 

そう言って廊下の陰に連れて行って、いきなりハグをする。

 

「キャッ・・・だ、旦那様いけません・・・。このような醜い私などお相手になさっては・・・」

 

俺はギュッと抱きしめる。

 

「つらかったか? でももう大丈夫だ。これからは毎日笑って楽しく生きて行けるような環境を用意する。だから、自分の生きたいように生きていいんだぞ」

 

そう言って頭を撫でながら顔を胸に押し付ける。

その時に俺は逆の手を触手にして傷のある顔に伸ばしていく。

いつもの「同化」を使ってカッシーナの傷を治したようにアリスの顔の傷をスライム細胞で治していく。

 

治療が終わったら体を離す。

 

「これからも頑張ってくれ」

 

そう言って肩をポンと叩く。

 

「はい!」

 

元気に返事をして笑顔を見せてくれたアリスの顔に、もう傷は無かった。

 

 

 

それから、次々と目に見えて傷のあるメイドを見つけては廊下の端に連れて行ってハグしまくる。驚いて顔を胸に抱くようにして視界を遮っているうちにスライム細胞で傷を治していく。腕に傷のある者、顔に傷のある者もみーんな治しちゃう。

 

最後に左手が無かった少女だ。

 

「君、名前は?」

 

「あ、旦那様、私はリオーヌと申します」

 

「ちょっとこっちへ来てくれる?」

 

「あ・・・はい・・・」

 

少し俯きに暗い返事をする。

廊下の端の方へ連れて来て、いきなりハグをする。

 

「あ・・・」

 

なんだが、俯いて元気がないリオーヌ。もしかしたら、欠損しているからメイドとしての力が足りない分、体で払ってもらおうか、的な悪い貴族をイメージしているのかもしれない。

 

だが、ギュッとリオーヌの頭を胸に抱きよせて、その視界を奪う。

 

「今までとても辛い思いをしたな。だが、もう大丈夫だ。お前は絶対幸せになれる。だから、この屋敷でしっかり仕事を頑張ってくれるか?」

 

そう言いながら押し付けた頭を撫でながらリオーヌの顔を覗き込む。

その隙に触手で失った左手の付け根部分に「同化」して細胞の情報を引き出す。腕の組織情報を拾ったらその情報を元に「再生」させる。するとあら不思議。失われた腕が元通り・・・というか、スライム細胞で代用するんだけどね。神経に接続するから、自由に動かせるはずだし。

 

すっと肩を押して体を離す。

 

「しっかり仕事、頑張ってくれよ?リオーヌ」

 

「はいっ!頑張ります!」

 

そう言って両手で拳を握り、ふんすっと力を入れる。

 

「えっ・・・?」

 

そしてリオーヌは、何故か自分が両手で拳を握っている事に気が付いた。

 

「え、あれ? どうして・・・? これって・・・」

 

みるみる目に涙を浮かべながら俺の方を見る。

 

「しーっ、内緒だぞ?」

 

俺は唇に人差し指を当て、内緒だぞって伝えてみる。無くなった腕が元通りになっているのに、内緒もくそも無いのだが。

 

「だ、だんなさば―――――!!」

 

リオーヌが号泣して抱きついて来た。まあ、無くなった腕が元通りになったらこうなるか。

俺はリオーヌの背中をポンポンとしながら抱きしめた。

 

 

 

 

その頃、庭では―――――

 

「え、ええ―――――!?」

 

「なに、どうしたの?」

 

給仕していたメイド仲間がアリスの顔を見て大声を上げる。

 

「アリス、貴方顔の傷どうしたの?」

 

「ど、どうしたのって?」

 

「傷が治ってるよ!すっごく綺麗な顔!」

 

「う、うそ!」

 

アリスがお盆を置いて自分の顔をペタペタと触る。

 

「ほ、本当に傷がない・・・ど、どうして?」

 

「そう言えば私も腕の傷が無い!」

「ああ、私もだ!」

 

何人ものメイドが自分の傷が治っていると騒ぎ出した。

 

「なんだ、どうした?」

 

イリーナが騒ぎ出したメイドに声を掛ける。

 

「あ、奥様!実は私たちの傷がいつの間にか無くなって消えてしまったんです!」

 

メイドのアリスが代表してイリーナに答えたのだが、

 

「お、おくしゃま・・・」

 

顔を真っ赤にしてへにゃへにゃしてしまうイリーナ。

 

「皆さん、傷が治ったんですの?」

 

代わりにフィレオンティーナがメイドたちに声を掛けた。

 

「はい、きれいさっぱり」

 

「そう言えば貴方顔にやけどの傷があったわね」

 

「はい、そうなんです。その傷がすっかり消えて治ってしまったんです・・・」

 

不思議そうにアリスが首を傾げる。

 

「何か変わったことがあったかしら? 例えば旦那様に何かされた?」

 

「あ、旦那様に抱きしめられて、お仕事頑張ってくれと・・・言われました」

「あ、私も旦那様に抱きしめられました・・・廊下の隅に連れて行かれて」

「私も! 優しく旦那様に抱きしめてもらいました!お仕事頑張れよって!」

 

傷が治ったというメイドたちはすべて旦那様に抱きしめられたようだ。

 

(なるほど。抱きしめて視界を奪っておいて、その内に治療なさったのですね・・・さすが旦那様ですわ!)

 

「旦那様の奇跡ですわね。良かったですね、旦那様の元で働けて。旦那様に十分感謝なさい」

 

フィレオンティーナは我が事の様に自慢そうに話すととびっきりの笑顔を見せるのだった。

 

「なにっ! ヤーベがもうメイドに手を出しだだとっ!」

「由々しき問題です!」

「私たちもメイド服で寝室にトツニューだよっ!」

 

なんだか横でイリーナ、ルシーナ、サリーナがテンションを上げている。

 

(わたくしまでメイドの格好をしろなんて言いませんわよね・・・?)

 

フィレオンティーナは溜息を吐いた。

 

 

 

『これがダークパイソンの蒲焼か!』

 

ローガが念願のダークパイソンの肉にかぶりついていた。

 

『なかなかに美味ですな』

『脂分が少なくて食べ応えがありますな』

『低カロリーで高タンパクですな』

『なにやら会話が美食と健康に溢れているでやんす・・・』

 

四天王たちもダークパイソンの肉を堪能している。

その他の狼牙族たちも肉にありついていた。よく見ればヒヨコたちも食事している。

スライム伯爵邸での初めての食事会は日が暮れるまで賑やかに行われたのだった。

 

・・・ちなみに、レーゼンとメイド隊がやって来てカッシーナをなんとか馬車に押し込んで王城に帰って行ったのは言うまでもない。

馬車の去り際、カッシーナの慟哭が響き渡った・・・合唱。

 




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