転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第176話 喫茶クリスタルガーデンを切り盛りしよう

「今日はきっとお客様がたくさん来ますわよ! 一日頑張りましょう!」

 

フィレオンティーナが何故かメイド姿で元気よく気合を入れる。

 

「「「「おー(でしゅ)!!」」」」

 

イリーナ、ルシーナ、サリーナ、そしてリーナまでもが気合を入れて返事をする。

 

「え?え?え~~~~?」

 

リューナは目を白黒させる。

 

(どうなってるの?)

 

前日夜、予選突破をお祝いする食事会で、まかないにホットケーキ五段重ねを要求しながらお店を手伝ってくれると言ってくれたフィレオンティーナさん。

でも、なぜか翌日朝になったら、その他の人たちも勢揃いしていた。

ちっちゃなリーナちゃんまで。

 

ヤーベさんは朝から城塞都市フェルベーンへ貴重な調味料を手に入れるために出かけているみたい。私の王都スイーツ大会に参加したいって我儘を聞いてくれて、本当に申し訳なくなる。でも、力を貸してもらっている以上、私も全力で頑張らなくっちゃ!

 

「リューナさん。きっと今日はとんでもなくお客さんが来ると思いますから、ホットケーキ死ぬほど焼く準備をしましょうね」

 

そう言って魔道ホットプレートをもう一台取り出すフィレオンティーナさん。

 

え? もう一台?

 

「最初、リューナさんが数枚焼いたら、イリーナとルシーナが後はずっとホットプレートでホットケーキ焼くから。リューナさんはおいしいコーヒーと紅茶の準備をよろしくね!」

 

「え?え?」

 

「ホットケーキはドリンクセットメニューだから。あの二人は朝一からホットケーキを焼く練習してきたから。コルーナ辺境伯家の皆さんにたくさん振る舞ってきて大喜びされてるから、腕前は大丈夫だよ」

 

「あ、はい」

 

返事をして、コーヒーの準備をします。紅茶の茶葉を確認して、コーヒー豆を挽く準備もして・・・。

 

見ればフィレオンティーナさんが陶器の細長い筒のような物を取り出しています。

 

「フィレオンティーナさん。それ、なんですか?」

 

「これですか? 後で説明しますわ」

 

出番まで内緒みたいです。

 

「本日のサンドイッチ、というメニューでサンドイッチの材料を用意してもらえます?一人前で三切くらいでしょうか。この木皿に乗るくらいで大丈夫ですわ」

 

見れば、簡素に削った木製のお皿みたいです。お皿の様ですがそれほど丁寧に作られている物ではなさそうですが。

 

「リーナちゃんは私と一緒にホットケーキを運ぶお仕事だよ?大丈夫?」

 

「ドーンと任せてくださいでしゅ! リーナは頑張るでしゅ!」

 

メイド服を着込んでエッヘンと胸を張るリーナ。

 

「わ~~~、相当気合が入ってるよ?」

 

サリーナちゃんが外を見ながら声を上げます。リーナちゃんの気合じゃないの?

 

「わっ、もう凄くたくさんの人が並んでるよ?」

 

サリーナちゃんの横に並んで外を見るルシーナちゃんも驚いています。

 

「ええっ!?」

 

私は慌ててお店の窓からそっと外を覗きます。

 

「ひええっ!?」

 

人が・・・人が・・・ずっと並んでいます・・・果てしなく。

 

「明らかに昨日の予選会トップ通過の影響でしょうね・・・。お店営業予定だし」

 

これ・・・みんなホットケーキを食べに来ているの!?

 

「値段設定ですが、ホットケーキ2段重ね、ドリンクにコーヒーか紅茶のどちらかを選んでもらって銀貨一枚です」

 

「高っ!? いいんですか!?」

 

フィレオンティーナの説明にオーナーであるリューナの方が驚く。

 

「貴重な甘味ですからね。さらに、オプションで蜂蜜希望の方は追加で銀貨一枚です。この器で」

 

「小っちゃ!?」

 

フィレオンティーナさんの持っている陶器の小さな壺。タラーッてかけたら、終わり。

 

「旦那様のお話ですと、蜂蜜はまだ特別な物で超貴重なのです。これだけで、銀貨一枚でも安いくらいみたいですわ。しかも、限定数が決められています。一日当たり限定数に達したら本日分は売り切れとして終了になりますわ」

 

「ひえ~」

 

自分のお店の事なのに、何かどこか遠くの事みたい。

そんな特別な材料を扱うなんて・・・。

 

「でも、そんなにホットケーキばかりだと、ランチ営業やコーヒーを楽しみにしている常連さんがお店に入れなくなっちゃうかもしれませんね」

 

ちょっとだけ悲しくなります。たくさんお客さんが来てくれるのに、なんだか贅沢な悩みですね。

 

「もちろん、旦那様は言っていましたわ。一番大事なお客様はいつもこのお店を大事にして通ってくれる常連さんだって。だから、今日のサンドイッチというお土産メニューとあの筒を用意してくださったのですわ」

 

「あの筒・・・どうするんですか?」

 

「コーヒーのお持ち帰りです」

 

「ええ――――!?」

 

「あの筒でコーヒー三杯分が入ります。陶器の入れ物入りで銀貨二枚。次回お持ち帰りコーヒーを注文する時に筒を洗って持って来て下されば、銀貨一枚でOKですわ」

 

「ああ、銀貨二枚はコーヒーを入れる陶器の筒の代金も入っているんですね!」

 

すごい!とっても素敵なアイデアです!これならお店に入れない常連さんにもいつものコーヒーを飲んでもらえます!

 

「さ、そろそろお店開店ですわよ!頑張りましょう!」

 

「「「「「お――――(でしゅ)!!」」」」」

 

 

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

「奥のお席へどうぞ!」

 

「ご注文はホットケーキドリンクセットでよろしいでしょうか?」

 

「蜂蜜トッピングはお付けいたしますか?」

 

「ホットケーキお待たせしましたでしゅ!」

 

次から次へとお客さんが入ってきます。

 

「ひえ~~~~、焼いても焼いても・・・」

 

魔道ホットプレートでホットケーキを焼いているルシーナちゃんから悲鳴が上がっています。ルシーナちゃんファイト!

・・・イリーナちゃんは目が回っているようです。倒れないで!

 

「ねーねー、お姉さんすごい美人だけど、今日からここで働いてるの?」

 

「ありがとうございます。実は今日だけの助っ人なんです。お兄さんはとってもラッキーですね。今日しかいない私に会えるなんて!」

 

フィレオンティーナさん・・・接客がうますぎます。もう虜になってるファンの男の人が何人も出ています。今日だけなんて・・・たまにはアルバイトで助っ人に来てくれないかしら。

 

 

 

「これはどういうことだ! 貴族であるワシも並べだと!」

 

表が騒がしいです。どうやら何か揉めているようです。

 

「あら、どうなさいまして?」

 

メイド姿のままフィレオンティーナさんがお店の外に出て行ってくれました。

 

「貴様!貴族であるワシが食べてやろうと言っているのだ!こんな平民と同じく並べなどと、馬鹿にしておるのか!」

 

「馬車で乗り付けようと、例え王様であろうと、お店で食事をなされたい方はお並び頂きますわ」

 

「貴様!不敬罪だぞ!覚悟は出来ているだろうな!」

 

ああ、貴族様がすごく怒っています。フィレオンティーナさん大丈夫でしょうか・・・。

 

「不敬罪ですか・・・ちなみに貴方、どちら様?」

 

「キ、貴様!ワシを知らんのか! ボブスナー男爵である!」

 

「・・・うーん? 聞いたことないですわね・・・、貴方、先日の謁見の間にいましたかしら?」

 

「なんだとっ! ・・・え? 謁見の間?」

 

ボブスナー男爵と名乗った貴族の人は目が点になっています。

 

その後ろにも馬車が何台もやってきました。

 

「貴族の我々も並べと言うか!不敬な連中だ!」

「平民と同じ扱いだと!ふざけるな!」

 

次々と貴族の人たちがフィレオンティーナさんに文句をつけています。

 

「これは何の騒ぎか?」

 

さらに後ろから来たのは、貴族の中でももっと偉そうな感じの人です。

 

「おお、これはコルゼア子爵殿!大変ご無沙汰しております」

「いやいや、コルゼア子爵ご健勝そうでなによりです」

「この平民が我ら貴族を平民と同じく並べなどと申しておりまして、貴族の何たるかと教えてやらねばと・・・」

 

「あら、コルゼア子爵様ではありませんか。一昨日ぶりですわね」

 

「おお、フィレオンティーナ男爵ではありませんか。どうしてそのような格好を?」

 

男爵!? コルゼア子爵はフィレオンティーナと呼んだ女の事を男爵と言った。周りの貴族は一体どういうことなのかすぐには理解できなかった。

 

「旦那様・・・ヤーベ・フォン・スライム伯爵が肝入りで肩入れしているのがこの喫茶<水晶の庭

クリスタルガーデン

>なのですわ。店主もよい腕をしていて、昨日の王都スイーツ大会では見事トップで予選を通過いたしましたわ」

 

「おお、その予選とトップで通過したというホットケーキなる物を食べてみたくて足を運ばせてもらったのですよ。ああ、それで王都住民が押し寄せていると言うわけですな」

 

コルゼア子爵様が長蛇の列を成す人びとを眺めます。

 

「そうなのです。もしホットケーキをご所望であれば、従者さん二人にお並び頂いて、お店に入れる少し前に一人が子爵様をお呼びにお戻りになる方法がよろしいかと。子爵様に限らず、貴族の方々は王国に住む民を守るためにお忙しい身でしょうから」

 

強烈な嫌味を含めてお店に入る方法を提案するフィレオンティーナさん。凄すぎます。

 

コルゼア子爵様は周りを見回してから、フィレオンティーナさんが何を言いたかったのか理解したみたいです。

 

「はっはっは、まさにフィレオンティーナ男爵のおっしゃる通りですな! そのようにさせて頂きましょう。お前達、悪いが早速並んでくれるか。お店に入れそうになったら呼びに戻って来てくれ」

 

「ははっ!」

 

フィレオンティーナさんの言うとおりにするコルゼア子爵様をポカーンと見る他の貴族たち。

 

「時にコルゼア子爵様。わたくし、どちらかと言えば人の顔を覚えるのは得意な方なのですが、この貴族を名乗るこの方たちは謁見の間で見覚えが無いのですが?」

 

コルゼア子爵様がジロリと周りを睨みます。

 

「この者達は騎士爵という貴族としては一番下の部類になります。まあ男爵もいるようですが、一部の男爵は騎士爵と同じ扱いの者もおりますので、謁見の場には呼ばれないのですよ。フィレオンティーナ男爵が叙爵された際に謁見の間にいなかったとしてもおかしくはないのです。逆に言えば、フィレオンティーナ男爵が見覚えのない貴族は、すべからくフィレオンティーナ男爵より身分が下の者と思ってもらって間違いないですな」

 

そう言って豪快に笑うコルゼア子爵様。フィレオンティーナさんって、貴族の中でも王様に呼んでもらえるくらいすごい人だったんだ・・・。

 

「そうなのですか、それで納得できました。それから我が主人のヤーベがまた屋敷のお披露目で食事会を開くことになるかと思います。その際にはホットケーキをデザートにご用意するように伝えておきますわ」

 

「おお、その時にもいただけるのですな。実に楽しみな事です。ですが、それまで待てそうにもありませんので、また後で順番が来たら参上する事に致しますぞ、それでは」

 

「ええ、お待ちいたしております」

 

優雅にフィレオンティーナさんがお辞儀をします。

 

「それで? 貴方がたはどうなさるおつもりで?」

 

わっ、フィレオンティーナさんが睨みを効かせてる~。

 

「わ、我々も従者を並ばせることにしようか」

「お、そうであるな、早速並ばせることにしよう」

 

あ、貴族さんたちがわらわらと散っていきます。

 

またもフィレオンティーナさんが八面六臂の活躍です・・・もうフィレオンティーナさんに足を向けて眠れません。というか、フィレオンティーナさん男爵様で、伯爵様の奥さんなんですね・・・私、そんな人にバイトに来てくれないかな~なんて思ってました。不敬罪だけは勘弁してください・・・。

 

 

 

「お店でホットケーキを召し上がりたい方はお並びくださーい。コーヒーとサンドイッチはお持ち帰り注文できまーす!お持ち帰りの方は並ばずにこちらでお買い求めください」

 

ああ、またもフィレオンティーナさんが大活躍です。

常連さんたちにコーヒーが飲めるように配慮してくれるみたいです。

 

「おお、コーヒーだけなら並ばなくていいの?」

 

「はい、コーヒーを専用の容器でお持ち帰りできますよ」

 

「やった、リューナちゃんのコーヒー飲める!」

 

5~6人の人がお持ち帰り受付に来る。

 

「あ、いつも来て下さるサンディさん、ジムさん、トムおじさんも!」

 

「リューナちゃん決勝進出おめでとう!」

「コーヒーお持ち帰りはファンとしてはありがたいよ」

「お店でゆっくり飲めないのは残念だけどね」

 

そう言いながらもコーヒーのお持ち帰り容器ごと買ってくれる。ホントにありがたいお客様たちです。

 

「サンドイッチもお持ち帰りできますよ?」

 

「おお、それはありがたい!」

 

あ、その木皿ごと渡しちゃうんですね。だから、木のお皿も安い物を大量に用意したんですね。ヤーベさん、本当にアイデアマンです!

 

 

 

 

 

「テメエらドケドケ!」

「俺たちが先に入るんだよ!」

 

・・・またトラブルでしょうか?

 

フィレオンティーナさんが外を覗きに行こうとしたのですが、

 

「わふっ!(ちゃんと並ばないとブッ殺すぞ!)」

「わふっ!(そのドタマ齧られたくなければ大人しく並べ!)」

 

見れば狼牙族が数匹、暴れていたと思われる男たちを咥えて列の後ろに運んでいます・・・頼もしいです。

その後も、お店の入口に二匹ほどビシッとお座りしています・・・あ、扉開けてくれるんだ。賢い・・・。

 

そんなこんなで、時間はもう午後三時過ぎ。

最後のお客様を送り出してお昼の営業を終了する。

 

「終わった~~~~」

 

イリーナさんが床に突っ伏しています。

ルシーナさんもサリーナさんもぐったり。

 

「ふみゅ~」

 

リーナちゃんはテーブルに頭を乗せて寝ています。

 

「どうでした?今日の営業は」

 

フィレオンティーナさんが笑顔で話しかけてきます。この人、本当にタフな人だ・・・。

 

「信じられないくらいのお客さんが来ましたね・・・」

 

「きっと、売り上げも信じられないくらいありますよ?」

 

あ、そうだ!売り上げ・・・とんでもないくらいの金額になってます。

 

「明日の決勝に勝って優勝したら、もっとすごいことになるかもね」

 

「うわ~~~、優勝したくないかも!」

 

私はフィレオンティーナさんと一緒に笑います。

 

「それはそうと、早速まかないをお願い致しますわ! わたくし、五段重ねでお願い致しますわ!」

 

フィレオンティーナさん、ブレないですね~。

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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