転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
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どうして今まで気がつかなかったのか。
米に醤油。完璧な布陣じゃないか。
城塞都市フェルベーンにやって来た。
あの時の店、名前すら覚えていないが、あのうまいチャーハンの味だけは忘れない。
「店の名が、『ハラが減ったらココに来い』。ウン、何やってんだあの親父は」
もしかして、もしかするのか?
朝一から飛んできたため、まだ営業前だ。朝だからな。
でも、乗り込んじゃおう。
「親父さん、いるか?」
ガラガラガラ。
あ、開いた。鍵かかってなかったよ。
「うおっ、なんだ? まだ開店前だぞ・・・朝だし」
おお、この前チャーハンを作っていたガタイのいい親父さんだ。
「・・・って!何食べてんのよ!朝から!」
「朝からって、朝だから朝食だろうよ」
「朝食って・・・つやっつやに立った銀シャリぢゃねーか!! それに、ナニコレ!? 焼き魚!? どーいうこと!? 魚初めて見ましたけど!? お隣様はなんとまあ、お味噌汁様ではござーませんかぁぁぁ!!」
俺はあまりの衝撃に完璧なブリッジを決めてしまった。
「和食・ザ・パーフェクト!」
「おお、アンタ、和食を知ってんのかい」
いや、親父さんよ、なぜそんなに落ち着いていられる!
「魚どうしたんだ? 海ないだろ?」
「こいつは川魚だよ。魚の名前は知らんがな」
「てか、親父さん、転生者だろ? 名前教えて貰ってもいいか?」
「転生者・・・って、ああ、あれか、何かすごい別嬪さんに『貴方はお亡くなりになりました。これから別の世界で新しい人生を謳歌してください』って言われたんだよ」
「ええ! マジで!? とりあえず女神だったんだ、この世界」
「で、俺は
「ほう!それで?」
「俺は料理人だったから、料理しか作る事しか能がねぇって言ってやったんだ。そしたらその別嬪さんが『チート能力を差し上げます』って言ってたな」
「ぐおおっ! チート羨ましいっ! こんなオッサンでも貰ってるのに! なぜ俺にはチートくれなかったんだぁぁぁぁ! てか、俺にはチートどころか、姿も見せてねぇぇぇぇ!!」
俺は慟哭にむせび泣く。女神は俺に何か恨みでもあるのか!?
「いや、こんなオッサンってえらい言われようだが・・・」
「ああ、オッサン。俺は矢部裕樹だ。俺も地球時代、日本に住んでいたんだ。ちなみに俺はその別嬪さんにも会ってないし、チート能力ももらえなかったんでね・・・」
「そうなのか、にーちゃん苦労してんだな」
「オッサンはずいぶん年な気がするが、この異世界に来て長いのか?」
「うーん、約半年くらいかな?」
「え!?」
おかしくね? もういい年のオッサンなんだけど?
「お亡くなりになりました、で新しい人生がオッサンスタートなのか?」
「・・・言われてみれば、確かにもっと若返った方が得な気がするな」
「いや、得とかそういう問題か? それ転生じゃなくて、そのままこの世界に召喚されたって感じなのか?」
「うーむ、だが、あの別嬪さんは確かに『貴方はお亡くなりになりました。新たな人生を異世界で』って言ってたけどな」
うーん、そのまま死んだ時の年齢で転生って・・・全然得してない気がするが・・・。
「何、気づいたらオッサンの体でどこにいたの?」
「この店の中だ」
「ここ!? この店の中に居たの?」
「ああ、俺が料理人で料理しか出来ねぇって言ったから、店をくれたんだとばっかり思って、ここで食堂をやってるんだけど」
「じゃあもしかして無許可営業!?」
「あ、やっぱり許可とかいるのか?」
「いや、俺もよく知らんけど、商業ギルドとかはあるな」
「まずいかな?」
「ここの領主には顔が利くから、何とかしてもらうよ」
「マジか! そいつはありがたいな」
オッサンがやっと笑顔を見せる。
「で、チート能力もらったって言ってなかった? 良ければ教えてくれない?」
「いくつかあるが・・・」
うおっ!複数のチート持ちかよ・・・やっぱりうらやましぃぃぃ!!
「一番ありがたいのは、
「うおっ!スキルにレベルがあるんだ!って・・・米俵?」
「そう、米俵。一週間に一回のペースで出せるんだ。今レベル3になったんだが、米俵三俵出るぞ」
「すげ―――――!! 米が出せるのか! タイゾーのオッサン! 俺にも米売ってくれ!」
「そりゃいいけど」
「他には?他には何かあるのか?」
「調味料ってスキルもあるな。こっちもレベル3だ。今のところ、レベル1で醤油、レベル2で味噌、レベル3で昆布出汁だったな」
「アンタ神か!」
「いや、神じゃねーよ」
「調味料ガンガン売ってくれ。金ならある!御大臣アタックで買い込むぞ!」
「なんだ、こっちの世界で成功してるのか?」
「成功してるかどうかわからんが、魔獣を狩って金に換えてるから、そこそこ稼ぎは良いはずなんだ。後、昨日この王国の伯爵に叙された」
「ええっ! それすげーことじゃねえのか?」
「貴族なんてメンドクサイだけだよ。そういやオッサン甘い物好きか? 明日知り合いの女の子と王都スイーツ決定戦の決勝戦に出るんだ。よかったら今度スイーツ持ってこようか?」
「そりゃありがたいな。ここで店やっているのと食材調達に出かけるくらいしかやることないから」
「とりあえず、調味料全て売ってくれ。それからオッサン、ラノベとか異世界モノの小説とか好きか?」
「ラノベ・・・? なんじゃそれ? 異世界モノの小説とか、全く知らんな。何せ俺は料理人だったからな」
いや、料理人だからってことは無いと思うが。多分完全な職人気質の人だったんだろうな。
「そのチート能力、使えば使う程レベルが上がると思うから。米でも調味料でも使い切れない分は全て俺が買い取るから、とにかく日々全力全開で出してくれ。レベルが上がれば、よりたくさんの量を出せる様になったり、調味料の種類が増えたりすると思うから」
「なるほど、レベルとはそういったものなのか」
「調味料はどれだけ出せるんだ?」
「そこの樽に満タンくらいだな。醤油でも味噌でも一緒だ」
「マジか! タイゾーのオッサンは神か!」
「いや、神じゃねーし」
「とりあえず醤油が欲しくて来たんだけど、あるだけ買い占めて行くから」
「そりゃいいけどな。で、お前さんもこっちへ来たのはいつなんだ?」
「あまり詳しくはわからないが・・・俺も半年くらいか?」
「なんだ、同じようなタイミングなのか? じゃあ巨人が優勝したかわかんねーか」
「あ~、俺あんまり野球見て無かったからなぁ」
「そりゃ残念」
そう言って親父さんは奥から木で出来た大き目のジョッキを持ってきた。食堂で見たことあるな、エールとか酒を飲むためのジョッキだ。
カウンターの裏にある樽の下側にあるコルクを抜くと、白い液体が注がれる。
「え・・・? 何それ?」
「これか? まあ、牛乳・・・かな?」
「マジか!!」
「うわっ!」
俺は思わずカウンターを飛び越えてタイゾーのオッサンがジョッキに注いだ白い液体を見る。
「これ、マジで牛乳なのか!?」
「まあ、そんなようなモンかな」
「味見!味見させてくれ!」
「ああ、ほらよ」
そう言ってジョッキを俺に渡してくれる。
見れば、確かに牛乳だ。
俺は一気に煽って飲む。
「・・・ウマイッッッ!!」
なんだこの濃厚な牛乳! 明らかに地球時代の牛乳よりウマイんですけど!
コクのある濃厚な味わい。なのに後味は比較的スッキリで口の中にあまりミルク感が残らない。これでアイス作ったらパーフェクトだ!
「タイゾーのオッサン!これもアンタのチートスキルなのか!?」
だが、オッサンは首を振る。
「こいつは、たまたま森で知り合った連中から直接仕入れているんだ」
「この世界にも牛がいたのか! 牧場でもあるのか?」
「いや、この牛乳・・・と言っていいのか、まあこれは牛の乳じゃないんだ」
「・・・? じゃあ、何の乳なんだ、コレ?」
「これは、ミノタウロスの乳なんだ」
「ミ、ミノタウロス!?」
ヤッベー、さすが異世界!想定外の乳の出現だ!
今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!