転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第183話 決勝戦のレシピを試して見よう

「あー、意味もなくシンドイ・・・」

 

偉い人に対応するのってパワーいるよね・・・

まして国王様って、この国で一番偉い人じゃん!

気軽に王城出ないで欲しいよね!

 

リューナちゃんもさすがにぐったりしている。

フィレオンティーナも椅子に座ってうたた寝している。

よっぽど疲れたんだろうな。俺は亜空間圧縮収納から、綺麗な一枚のショールを取り出して、フィレオンティーナの肩に掛けてやる。

 

「あ、素敵ですね、それ」

 

リューナちゃんがフィレオンティーナに掛けたショールを見て感想を述べる。

 

「ふふ、俺はいつも奥さんズのみんなに頼ってばかりだからね。ちょっとした時に何か買い込んだり作ってみたり・・・もっとゆっくりのんびり出来る時間が取れればいいんだけど」

 

向こうのソファーに山積みされているイリーナたちは軽く毛布みたいなのが掛けられているから、プレゼントは明日だな。

 

「すいません、私がスイーツ大会への協力をお願いしたばかりに・・・」

 

「リューナちゃんには逆に感謝しているよ。美味しいスイーツを作る事も出来たし、彼女たちも接客対応なんてあまりやったことなかっただろうし、いい経験になったと思うよ」

 

「私の方こそヤーベさんや奥様たちには感謝してもしきれないです。今日なんてとんでもない売り上げになったのに、みんなお給料いらないって、ホットケーキ頂戴って・・・ホットケーキの生地もバタールも蜂蜜も、全部ヤーベさんから貰った物ですよ。とにかく売り上げからちゃんと生地代とか払いますからね!」

 

腰に両手を当てて勢いよく俺を覗き込むリューナちゃん。

 

「生地代が払いたかったら、まずは自分一人でこのホットケーキの生地を仕込めるようになってからね?」

 

「テヘッ!」

 

リューナちゃんがペロッと舌を出して笑う。

リューナちゃんの作るホットケーキはまだ混ぜ方にムラがあるのか、俺の作るしっとりとした生地までは及んでいない。それでも十分おいしいんだけどね。

 

「それより、俺の出した課題、練習したかな?」

 

「はいっ! これを見てください!」

 

俺はリューナが出してきた果物を見る。

橙色の果実。オーレンと呼ばれるもので、俺のイメージはオレンジの硬めの奴だな。中々柑橘系のいい香りがする果物だ。

これをまるでリンゴの皮むきの様に皮を細めに切れない様にクルクル回して切る練習をさせた。

 

「うん、よく出来ているよ。皮も長く繋がっているね」

 

「最初は結構途中で切れちゃいましたけど・・・」

 

「いやいや、この完成したオーレンを見ればリューナちゃんの努力が十分わかる。見事なものだよ。それで、練習に失敗した果実や皮は渡したお酒の樽に浸けてあるかい?」

 

「はい、ここに」

 

リューナちゃんは小ぶりの酒樽を出してくる。透明な酒の中にオーレンの果実や皮が浸かっている。これはスペルシオ商会で買って来たスピリッツ(蒸留酒)だ。何が元になっているか説明を聞いたが忘れたな。ポイントは癖がなくすっきりしているところだ。これをベースにオーレンの果肉や皮を浸け込んでオレンジリキュールに似た物を作るのが狙いだ。

 

「よし、このオーレンも一緒にいれておこう」

 

「これも入れちゃうんですね」

 

「うん、実際に明日使うオーレンは、リューナちゃんにその場で素早く皮むきしてもらうから。何といってもむき立てが一番香りが良いからね」

 

「あ! 香り付けのためなんですか?」

 

「そうだね、香りは重要なファクターになるからね」

 

「ふぁくたー?ですか?」

 

「重要な要素、ポイントって事さ」

 

「わかりました!そこが大事なんですね!」

 

「明日はバニラアイスと呼んでいた物を『スノーアイス』と名前を変えて発表するよ。バニラエッセンスが手に入らなかったから、バニラの名前はちょっと使いづらくてね」

 

「そうなんですか? よくわからないですけど、目的の物が手に入らなかったなんて残念ですね」

 

ちょっとしょんぼりしちゃうリューナちゃん。

 

「だけど、とんでもない物が手に入ったんだよ! ちょっと飲んでみて」

 

そう言ってミノ乳の樽を取り出す。もうミノ(にゅう)って呼んじゃってるけど。

 

木のコップですくって飲んでみるリューナ。

 

「おいしいっ! 何ですか、コレ!?」

 

「すごいでしょ! 濃厚でコクがあって、それでいて口の中にあんまり味が残らなくて後味スッキリ」

 

「はいっ!」

 

「これで真っ白なアイスクリーム、その名も『スノーアイス』を作るよ」

 

「楽しみですね!」

 

「今から一緒に作ってみよう」

 

あ、ミノ乳を高速分離して生クリームとバター作らなきゃ。ぶっちゃけコレ、スライム細胞内で処理できるからメチャクチャ楽ちんだな。

 

「材料は、質のいい砂糖、ミノ乳、生クリーム、卵黄・・・コレ、アースバードの卵だっけ? それに塩と氷を用意しておくんだ」

 

「そんなにたくさんの材料じゃないんですね」

 

「だけど、この材料を質のいいまま準備して混ぜるのが大変なんだ」

 

俺のアイスの作り方・・・それは伝説の料理?漫画『美味し〇ぼ』の海〇雄山が作っていたアイスだ! コレは結構鮮明に覚えている。おかげでリューナちゃんにもアイス作りを教えてあげられる。何せこのために鍛冶師のゴルディン殿に金属の筒を作ってもらったのだからな!

 

「まず、魔導コンロに熱を入れて「弱」に設定、温めのお湯を作り、そのお湯を使って湯煎するんだ」

 

「湯煎ってなんですか?」

 

「直接火にかけずに、温める方法さ。こうやってね」

 

暖まって来た鍋のお湯の上に金属のボールを入れ、その中に砂糖と卵黄を入れる。

少しかき混ぜながらミノ乳を混ぜ合わせながらかき混ぜていく。

しっかり混ざったら今度は氷水で冷やしながらかき混ぜてやるのだ。

 

「<氷の弾丸(アイスバレット)>」

 

ちょこっと唱えた精霊魔法で氷をコロコロと出す。

今度は鍋に氷を敷き詰めてその中にボールを置いてかき混ぜる。

 

「私一人では作れないですね・・・」

 

氷の魔法が使えないリューナが悲しそうな顔をする。

 

「何言ってるの。魔導冷蔵庫を用意するから。その上の段には水を入れておくと氷になる場所があるから、氷はたくさん作れるよ」

 

「ええっ!? そんなすごい魔導具が!?」

 

「明日の決勝戦、そのままその魔導冷蔵庫持って行くから」

 

あれ、もしかして、コレまたアローベ商会で取り扱えば宣伝になるかな?うまくいけばまた一儲けできそうだ。でもこれ以上ゴルディン殿に仕事を振るとキレられるかもしれん。まああれだな、少数生産で1年待ちとか、大人気商品につき品薄ですパターンにすればいいか。

 

「なんだか、明日の決勝戦、すごい事になりそうですね!」

 

「持ち込む道具だけでも馬車二台分あるからね」

 

「魔導冷蔵庫、魔導ホットプレート、奇跡の泉の水の樽(これは現地に行ってから俺が亜空間圧縮収納から汲み出すけど)、専用調理器具を含む道具一式にスイーツ用の専用皿も必要だよ」

 

「それに食材や準備したお酒の樽ですね!」

 

「そう!それがキモだよ!」

 

そう言いながら氷につけたボールの中身に生クリームを加えてかき混ぜる。

 

「さて、固める準備をするよ」

 

そう言って木の桶にまた氷をコロコロ出して一杯にする。

その上に塩を振りかける。

 

「氷の上に塩を振るんですか?」

 

「そう、そうすることで、氷の周りが0℃よりも低くなり、マイナスの温度になるんだ」

 

「マイナス・・・?」

 

「えーと、すごく冷たくなるって事。それでね、かき混ぜたこのアイスの元を金属の筒に入れて・・・」

 

そのまま蓋をして桶の氷の中にぶっ刺してからくるくると勢いよく回転させる。

これ、漫画では海原〇山がジャッジャッと手でやってたけど、なかなかに重労働だな。

木工屋のドワーフの親父に筒をセットしてハンドルでくるくる回せるからくりを作ってもらおう。

 

一生懸命回してから、金属の筒の蓋を外して中を見る。

 

「あっ! 筒の内側に白く固まっていますよ!」

 

「ふふふ、これが『スノーアイス』だよ」

 

ぶっちゃけ普通のアイスクリームに仰々しい名前つけた様な気もするが、派手な方がイメージもいいだろう。このアイスは硬めだからクリームってイメージ無いしな。

 

「食べてみたいです!」

 

そう言うリューナちゃんの手にはすでに木の匙が握られている。

 

「用意がいいね、はい」

 

俺は筒を差し出す。

リューナちゃんが匙で周りにくっついたアイスを削り取って口に運ぶ。

 

「・・・!!」

 

匙を咥えたまま固まるリューナちゃん。

 

「冷たーい!甘ーい!おいしーい!」

 

狐耳と尻尾がピーンと真っ直ぐ逆立つ。すごい衝撃を受けたのかな?

 

「びっくりするでしょ?」

 

「びっくりしました!」

 

リューナちゃん素直だね。

 

「さらに、魔法の調味料でびっくり変身するよ?」

 

そう言ってタイゾーの親父から買って来た醤油を出し、アイスの上に少し垂らす。

 

「わっ!このソース黒いです!」

 

「これは醤油って言うんだ。試して見て」

 

「はいっ! ・・・うわわっ!甘じょっぱいです!これもおいしい!」

 

結構しっかりした醤油だったからな。アイスに合わせると、甘じょっぱい『みたらし味』に近くなるはずだ。

味の変化としてはインパクト十分だ。

 

「一品目から審査員の度肝を抜きに行くよ!」

 

俺はリューナちゃんにサムズアップする。

 

「そう言えば、一品目の『スノーアイス』、今練習してる二品目と、後もう一品必要ですよね?」

 

「そうだね、三品目はもう完成して、この特別な魔導冷蔵庫に入れて保管してある。これは明日、現場で最後にもう出すだけでいい」

 

「え~、私にまで内緒なんですか?」

 

「う~ん、器といい、モノといい・・・ちょっと特殊?なんだよね・・・」

 

「ズルいです!一緒に戦うのに、内緒は無しですよ!」

 

「う~~~ん、そこまで言うなら・・・」

 

俺はそう言って専用魔導冷蔵庫から予備のソレを取り出す。

 

「!!」

 

リューナが目を点にしている。

 

「な、何ですかこの器・・・! つ、冷たい・・・! こんなの見たことないです! まるで中のスイーツが宙に浮いています!」

 

「これはね、ガラスって言うんだ。冷たいのは魔導冷蔵庫で器ごと冷やしたからなんだよ」

 

そう、ガラス。

ラノベの世界ではなかなか重鎮な位置にいる事が多い。

これをチートで作れる者は大儲け出来ることが多いし、チート無しで狙おうとすると異世界の技術で苦労する事が多い素材だ。

例に漏れず、この世界でもガラスは見かけてない。窓もそうだし、コップ類も木製か金属のどちらかだ。

 

ガラス自体は石や砂の素材を混ぜ合わせて溶かせば作る事が出来る。

 

珪砂(石英)、ソーダ灰(無水炭酸ナトリウム)、まあソーダ灰は草木を燃やしてできた灰をさらに加工する事で完成するから比較的簡単だ。後は石灰(炭酸カルシウム)とかだな。

 

何といっても俺は亜空間圧縮収納にぶち込んで鑑定出来るからな。

ブルドーザーの如く石や土を喰らって亜空間圧縮収納にぶち込んで様々な素材に分離収納している。今はさながら歩く素材宝庫だな。地球時代の素材もあれば、異世界で初めて見る素材も結構ある。ゴルディン殿に相談すれば飛びついて寄越せと言われる素材もあったりしたな。

 

ガラスに関しては素材を高熱で溶かして固めればあっという間にガラスの完成だ。俺の場合、スライム細胞内で加工出来て、さらに不純物を取り除くことが出来るため、超クリアなガラスを作り出すことが出来た。ぐるぐるエネルギーで加圧圧縮するとものすごい強度のガラスも作ることが出来た。これ、地球時代の強化ガラスや防弾ガラス凌駕しているかも。まあ、これは副産物だ。普通に売るなら標準のガラスで十分だ。完全に不純物を取りのぞけば、まるで存在していないかの如く透明なガラスが出来上がる。これもアローベ商会で取り扱おう。

・・・なんだか商人っぽくなってきたな。

 

そしてリューナが()()を一口食べる。

 

「!!!」

 

あ、泣き出した。

目に涙を一杯に溜めたと思ったら、ぽろぽろと涙を零す。

 

「はふぅ」

 

バタン。

あ、倒れた。う~ん、()()ヤバいかなぁ。まあ、リューナは純粋な子だからと言う事にしておくか。

 

『ボス!聞こえますか?』

 

『どうした』

 

ヒヨコからの念話だ。序列二位のクルセーダーだな。

 

『クルセーダーです。タチワ・ルーイ商会の手の者が喫茶<水晶の庭

クリスタルガーデン

>に火をつけようと集結しております。その数15!』

 

『喫茶<水晶の庭(クリスタルガーデン)>の警護担当は誰だ?』

 

『我です、ボス』

 

氷牙か、丁度いい。

 

『火つけを行う連中が火矢を準備したら、()()()()()()()。それがそのまま証拠になる』

 

『ははっ!』

 

『クルセーダーたちはその後ばらついて逃げる連中を捕縛しろ』

 

『はっ!』

 

丁度疲れた?リューナちゃんが眠っているんだ。安眠を邪魔する者は・・・容赦しない。

さて、俺は明日の決勝戦の準備と確認をもう少しするかな。

そう言って倒れたリューナちゃんを抱き上げると、ベッドで休ませるために寝室に運ぶことにした。

・・・ちゃんとすぐ寝室から戻って来たよ!

奥さんズの面々もリーナもダウンしているんだから、その面倒見るのだってあるんだからね!

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!
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