転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第184話 万全の準備で決勝戦に臨んでみよう

決勝戦当日―――――

 

 

早朝、俺は目を覚ます。

昨日はちょうど良く、と言っていいのかどうかわからないが、三つ目のスイーツを食べてリューナちゃんが気を失ったので、そのままベッドに寝かせてダウンした奥さんズとリーナを触手でぐるぐる巻きにしてから闇夜を忍びながらコルーナ辺境伯家に帰って来ている。王都警備隊とかに見られると事案になってしまうからな。

 

チュン、チュン、チュン―――――

 

「むっ!?」

 

俺は慌てて木枠の窓を開ける。

そこには、普通にスズメらしき鳥が鳴いていた。

 

「おおっ! ついに泣いていない鳴き声が!」

 

初めてこの世界で普通にスズメらしき鳥が鳴いているのを聞いたな。なにせ今までは強制労働だったからな。

 

俺は喫茶<水晶の庭(クリスタルガーデン)>へ行く前に、コルーナ辺境伯家の台所に向かった。

 

「あら、ヤーベ様。随分とお早いですね」

 

そこに居たのはメーリングメイド長であった。料理人たちよりも早いとは。

 

「これはメーリングメイド長、おはようございます。随分とお早いですね」

 

「ヤーベ様、メイド長とは言え、私はこの家のメイドにすぎません。丁寧な口調など不要といつも申しているではありませんか」

 

困った顔をしながらメーリングメイド長は俺にいつものセリフを言う。

メーリングメイド長はいわゆるアラフォーの女性だ。もちろん直接年齢を聞くような真似はしないから、正確なところは知らないが。

 

「すみませんね、どうも人生の先輩と素敵な女性は大事にしたくなる性分でして」

 

「もう!そう言ってすぐにお揶揄(からか)いになるのはいかがかと思いますよ?」

 

ちょっと頬を染めながらも文句を言うメーリングメイド長。

 

「別に普通に本心なんですけどね・・・、そう言えば先日はリーナにクッキー作りを教えてくださってありがとうございます。またお礼をしなくちゃいけませんね」

 

「お礼なんて・・・リーナちゃんがヤーベ様に置いていかれて捨てられた、なんて泣いていたので、一緒にクッキーを作ってヤーベ様をお待ちしただけですよ」

 

そう言って微笑むメーリングメイド長。

 

「ですが、もしよろしければ、僭越ですが今から試作されるスイーツの味見など・・・」

 

俯き加減から上目使いで若干モジモジしながら切り出してくる。

 

ははあ、それで料理人たちよりも早く起きてきたのか。

今日は王都スイーツ決定戦の決勝戦当日。正午開始だから、最終チェックで俺が台所で何かするかもと狙われたか。だとすれば、メーリングメイド長侮りがたし!

 

「ええ、いいですよ。ぜひ味見して頂ければ。それでは早速準備しますからお待ちくださいね」

 

そう言って俺は丸型魔導ホットプレートを取り出す。

 

「これは・・・まるで小さな腰掛椅子みたいに丸く磨かれていますね?」

 

「ですが、この丸い表面は魔導ホットプレートですから、熱くなるのですよ」

 

そう言って俺は横から取り出したように見せて亜空間圧縮収納から生地を取り出す。

 

「ホットケーキの生地・・・とちょっと違いますね。もう少しさらさらしているみたいです」

 

覗き込みながらメーリングメイド長は感想を漏らした。

 

「さすがですね。その通りです。これはこうやって焼きます」

 

そう言って木で作ったT型ヘラを取り出す。

生地を丸型魔道ホットプレートに垂らして薄く均一に伸ばす。

この木で作ったT型ヘラをくるりと綺麗に回転させるのがコツだ。

 

あっという間に薄い生地が焼ける。そう、クレープの生地が出来たのだ。

 

「わあ・・・とっても薄いですね!」

 

「食べてみますか?」

 

「はいっ!」

 

薄くてもふわふわもちもちなクレープの生地は美味しいはずだ。俺なら味無しで十枚はイケル!

 

「美味しいです! あったかくてふわふわでほんのり甘いですね!」

 

メーリングメイド長はとっても素敵な笑顔で喜んでいる。

 

「ではではもう一枚サービスしますか」

 

そう言ってもう一枚焼くのだが、今度は昨日から仕込んだ生クリームも取り出す。

 

焼けたクレープ生地の上に生クリームをポテッと乗せて、クレープ生地でくるくる包む。

 

「はい、生クリームクレープの出来上がり!」

 

「ほわっ!」

 

真っ白な生クリームをまるで花束の様に包んだクレープを差し出されてメーリングメイド長の声が裏返る。

 

「こ、こんな素敵なスイーツがあるなんて・・・」

 

なぜかまるで本当に花束を受け取るように両手で大事にクレープを受け取るメーリングメイド長。目は生クリームの部分に釘付けだ。

 

「さあ、ガブッとどうぞ」

 

「ええっ!? ガ、ガブッと食べていいのですか・・・」

 

あ、持ってかぶりつくような食べ物ってこの家ではなかなか無いか。

 

「ガブッといってOKです」

 

「は、はいっ!」

 

 

はむっ!

 

 

口が小さめなのか、大きくかぶりつけなかったため、生クリームがはみ出て口の周りに飛び散る。

 

・・・イカン!男として変な想像をしてはいけない!せっかく新作スイーツの試食をお願いしているのだ!口の周りが白くドロドロに汚れてしまったら、優しくハンカチを貸してあげるのがジェントルヤーベの真骨頂だ!心のシャッターを切る事は別にして。

 

「あ、甘い! クリームがふわふわ過ぎです! 蕩けますぅ!」

 

まさかの腰砕けでその場で女の子座りしてしまうメーリングメイド長。。

でもクレープを手放すことは無く、はむはむと食べ続けている。

うん、クレープ効果高し。

 

俺はメーリングメイド長のもっともっとを振り切って喫茶<水晶の庭(クリスタルガーデン)>に向かった。

 

 

 

 

「リュ・ー・ナちゃん!オー・ハー・ヨー!」

 

店の玄関前に立ってデカイ声で挨拶する。

一応紐を引くと店内のベルが鳴る呼び鈴もあるのだが。

ちなみに、昨日リューナちゃんをベッドに寝かしつけた後、奥さんズとリーナを触手でぐるぐる巻きにして運んで帰る時に、ちゃんと扉の内側の閂を戻してあげてある。防犯にちゃんと気を使っているのだ。

外から触手をにゅるりといれて内側の閂を掛けて帰ったからな。

 

そう考えると、よく真実は一つしかないって言っている子供や、じっちゃんの名をよく掛けている少年とかに密室殺人を疑われても、バリバリ密室にできちゃうな、俺。スライムの触手があれば、閂でも鎖でもレバーの鍵でもにゅるりんとロックして密室を作り放題だ。密室トリックも真っ青なスライムパワーなり。

 

急に真面目な話をすれば、今の俺は結構どこでも侵入できる体だ。

悪い事を考えれば、いろんな女性の部屋に無断で侵入し、襲ったり、商人の家などに忍び込みどこぞの怪盗よろしく泥棒したりし放題な能力がある。もちろんノーチートな俺だが、異世界で頑張ればこれくらいは出来るようになるのだ。

だが、この力を悪に使ってはいけない。いつぞやの殺し屋ベルツリー君などは異世界転生の最悪パターンだろう。相手の嫌がる事をしないで、相手の気持ちを大切に。みんながハッピーになるように。今の俺様のモットーだ。

 

そんな意味では、この王都スイーツ大会でこの世界にないスイーツを広めて食べてくれる人をハッピーにする。そんな心づもりで大会に望むことにしよう。ちょっと高尚な気がしてきたぞ。

 

「はーい! ヤーベさんちょっと待ってくださいね!」

 

パタパタと走って来る足音が聞こえたかと思うと、ガタガタと内側の閂を開ける音も聞こえる。

 

「おはようございます、ヤーベさん」

 

お店の入口扉を開けて、リューナちゃんが俺を迎えてくれる。

 

「どうぞ」

 

「おはよう、リューナちゃん」

 

挨拶しながら俺は店の中に入った。

 

「あ、あの・・・ヤーベさん・・・」

 

ん? 見ればリューナちゃんは何故か尻尾を自分の股に挟んで前に持ってきて自分の手で掴んで毛先をイジッている。ケモニスタが見たら垂涎モノのシチュエーションだろう。

 

「どうした? リューナちゃん」

 

「あ、あああ、あの・・・昨日、私・・・気づいたらベッドだったんですけど・・・」

 

股に挟んだ自分の尻尾の毛先をくるくるイジるリューナちゃん。カワイイ。

 

「昨日リューナちゃんは疲れてたからね。早めに休んだんだよ。僕も奥さん連れて帰ったから」

 

「そ、そうですよね。寝ぼけてしまってすみません」

 

ぺこりと頭を下げるリューナちゃん。ちょっと胸がチクッとするけど、とにかく今は決勝レシピの最後の練習だ。

 

「さあ、もう時間が無いよ。早速最後の練習だ!」

 

そう言って俺は丸型魔道ホットプレートを取り出し、クレープの焼き方を教える。

 

「わあ、うすーい!」

 

食べてみればもちもちほのかな甘さが癖になるだろう。

 

「おいしー!」

 

更に昨日練習したオーレンの皮むき、その他手順を確認する。

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

「よしっ!完璧だ!」

 

「・・・すごいです、こんな・・・こんなすごいスイーツが作れるなんて・・・」

 

このレシピはリューナちゃんだけで対応可能だ。ホットケーキのように手軽ではないから、お店で出すなら、ディナータイム専用で、それもディナーコースの最後のデザート専用とか。そうなるとも予約営業オンリーになっちゃうかもな。高級店に様変わりするのもリューナちゃんの営業イメージに合わないかもしれない。これは要相談だな。

 

「わふっ!(ボス!準備出来ました!)」

 

店の外に出れば、ローガが荷車を引いている。

昨日馬車二台分かな、と言っていた荷物も、俺に任せろとばかり大型の荷車を自分一人で堂々と引いて来たな。

ていうか、いつの間にこのデカイ荷車を用意したのか。いつぞや子供たちをたくさん乗せてポポロ食堂に食べに行った時に使って以来、コルーナ辺境伯家の厩舎にほったらかしにしていたヤツじゃないか。

コレは、きっと厩舎担当のおやっさんに無理言って迷惑かけたな。後で甘味を差し入れしておかねば。

 

まあいい、丁度荷物は積み始めねばと思っていたところだ。

俺は次々にローガの持ってきた大型の荷車に道具を積み込んで行く。

魔導冷蔵庫、冷蔵庫の中には氷やスノーアイス、ミノ乳などがすでに冷やされている。魔導ホットプレート、丸型魔導ホットプレート、酒樽、そして第三のスイーツを冷やした専用の魔導冷蔵庫も積み込む。

料理道具に、オーレンなどの果物、奇跡の泉の水を入れる程の空樽も積み込まねば。

 

「リューナちゃん、準備はいい?」

 

「はいっ!」

 

「じゃあ横に乗って!」

 

「はいっ!」

 

「さあ、出発するぞ!ローガよ頼むぞ!」

 

「わふっ!(お任せください!)」

 

俺達は決勝の会場へ出発した。

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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