転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第185話 波乱?の決勝戦を戦おう

 

「―――――それでは、決勝へ勝ち抜き駒を進めた勇者たちよ!その持てる技量の全てを尽くして奮闘せよ! ア・レ・キュイジ~ヌ!」

 

「なんで国王様いるのよ! ノリノリぢゃねーのよ! リヴァンダ王妃までいるじゃん!!」

 

俺は全身白ローブで顔を隠したまま、キィィッと地団太を踏んだ。

だいたい何でそのネタ知ってんの!?

この前案内受けたマイホームでいきなりバーベキューやった時の俺の掛け声ネタパクったよね?

 

「「「「「わああああああ」」」」」

 

観客も大盛り上がりだ。何せ国王と王妃が揃って姿を現したのだからな。普段なら揃って国民の前に姿を見せるのは正月の挨拶の時だけらしい。それに美しい姿を取り戻した『奇跡の美姫』カッシーナ王女、それになかなか姿を見せないカルセル王太子までいる。というか王家勢ぞろいじゃないですか!暗殺者さーん!今が大チャンスですよ――――!!

 

あ、後ろにグラシア王都騎士団長の姿が。苦り切った表情をしているところを見ると、急きょ決まったな、あれは。よく見れば周りにも護衛のために王都騎士団の面々が。宮仕えは大変ですな。

だいたい、決勝の審査員は予選の十五名から十名に厳選されると聞いていたのだが・・・。ああ、こちらも苦り切った表情のオッサンたちが。昨日予選の審査をしていた連中だな。元々五名が審査員から脱落する予定なのに、王家三名が急に名乗りを上げてしまったわけ・・・あれ?キルエ侯爵までいるじゃん!あんたら権力使いすぎでしょー!!四人も涙を流しているのかよ!

 

・・・もしかしてホットケーキのパワーか?優勝候補のドエリャのケーキも好評だったようだが、リューナのホットケーキの衝撃は凄かったらしいからな。ましてあの連中は昨日喫茶<水晶の庭(クリスタルガーデン)>に押しかけて来て、たらふくホットケーキ食べて行ったからなぁ・・・。

 

決勝審査員のメンツは・・・

 

国王ワーレンハイド・アーレル・バルバロイ十五世

王妃リヴァンダ・アーレル・バルバロイ

王太子カルセル・アーレル・バルバロイ

王女カッシーナ・アーレル・バルバロイ

侯爵シルヴィア・フォン・キルエ

侯爵マークナー・フォン・フレアルト

伯爵トレイ・フィン・コンデンス

枢機卿アンリ

聖女フィルマリー

エルフブリーデン公国公女ブリジット・フォン・エルフリーデン

 

あ、来場者貴賓席で商業ギルドの副ギルドマスター・ロンメルが泣いている。今度スイーツを差し入れしてやろう。リンダ統括官にもきっと喜ばれるはずだ。商業ギルドにも顔が売れるとは、スイーツ様様だな。

 

貴賓席の他にも上級観客席には貴族たちが多く詰めかけている。そして見渡せば一般観客席の最前列に奥さんズの面々とリーナも応援に駆けつけてくれていた。奥さんズの面々は貴族たちの集まる上級観客席にも入れるはずだけど、そういうとこが庶民的で気持ちいいね。一応ヤーベ・フォン・スライム伯爵としての参加は隠しているものの、俺への応援は欠かしたくないらしい。ありがたいね。

 

・・・?あれ?イリーナやルシーナがプンプンに怒っている? フィレオンティーナがショールを肩に掛けてドヤ顔だ。サリーナがショールを指さしている。

あ、なんでフィレオンティーナだけプレゼントがあるんだと怒っているのね。

それは貴女たちが昨日ダウンして山積みにされていたから渡せなかっただけだよ。ちゃんとみんなの分あるからね?

それにしてもリーナがぴょんぴょんと飛んで全身で羨ましがっているな。

自分の気持ちを前面に出せる様になってオトーサンは感慨深いよ。ウンウン。

 

さて、この決勝戦は予選十位から一組ずつ順に製作、試食して点数が付けられる。

俺達は予選トップだったから大取りを務めるわけだ。明らかに王家の面々はこちらへの期待の視線が強すぎる。ドエリャから平等な審査を!とかツッコミが入らないといいけど。

 

スタートは予選十位の人からだ。

準備に最大二十分。三品を順次提示しながら、仕上げは目の前で行ってもいいと確認を取ってある。

だが、実際ほとんど準備時間を最大まで使う参加者はいない様だ。スポンジケーキや、クッキー、タルトなどの焼き系のお菓子が中心のため、基本的にすでに作り込んでみんな持ち込んでいるんだよな。

この場ではフルーツを切って盛り付けたりするパターンが多い。

 

予選十位の参加者から順々に見ていくが、手が込んでいるなと思ったのは予選三位の料理人が砂糖を温めて溶かした物をフルーツケーキに掛けてコーティングしていた技術だな。固まって表面がパキリとする触感が楽しいかもしれない。審査員たちにも受けが良い様だ。

 

そしてついに予選第二位、レストラン『デリャタカー』のオーナーシェフ、ドエリャ・モーケテーガヤーが登場する。

 

だが、ドエリャがスイーツを準備する前に声が掛かった。

 

「国王様、大会中に失礼致します。重大な違反が発覚しましたのでご報告にあがりました」

 

王都警備隊隊長クレリアが登場する。

 

「どうした?」

 

「こちらに捕縛した者どもですが、タチワ・ルーイ商会より依頼を受けて、予選第二位で通過したレストラン『デリャタカー』のオーナーシェフ、ドエリャ・モーケテーガヤー以外の参加者へ妨害工作を行っている事が判明しましたのでご報告申し上げます」

 

「「なんだとっ!」」

 

国王様と同時に叫んだのは当のドエリャであった。

・・・ああ、なるほど。ドエリャにとってタチワ・ルーイ商会は単なる金を出してくれるスポンサーであって、悪だくみはタチワ・ルーイ商会が独断で行ったって事かな?

 

「どういうことだっ!!」

 

クレリアが連れてきた捕縛されている連中に食って掛かるドエリャ。

 

「ちょ、ちょっと落ち着いてください!」

 

掴みかかってぶっ飛ばしそうな勢いで近づいて来たので、慌てて間に入るクレリア。

まあ、知らされていないとなると、ドエリャの腕が信用できないからライバルを蹴落とすという邪魔を行おうと思ったわけだからな。ドエリャからすれば俺が信じられないのかーってなるか。

 

「ふーむ、モーケテーガヤー氏は知らなかったのかね?」

 

国王様がドエリャに問いかける。

 

「ははっ! 誓ってこのドエリャ、料理に関しては嘘偽りを申しません!」

 

地面に片膝を付き、深々と頭を垂れるドエリャ。

 

「少なくともタチワ・ルーイ商会の息のかかったもの達が妨害工作を行ったのは事実です。特にこの氷漬けの者達は火矢を用いて喫茶<水晶の庭(クリスタルガーデン)>を襲撃しようとしていた者達で、あまりにも悪質であると思われます」

 

「なんと・・・」

 

国王達が絶句する。火矢で襲撃って、邪魔するレベルじゃないもんな。ほぼ火付け強盗じゃん。

 

そして引き出されたのは氷漬けの男たち、手には火矢と焚火の状況すら凍り付いている。

国王様たちも唖然としているな。

そりゃそうか、炎すら凍り付いているのだからな。

これ以上の証拠も無いか。

ちなみに<氷結棺桶(アイスコフィン)>は魔法解除すれば中の凍った生物は無事に元に戻る。殺さなくていいので有用な魔法だ。

 

「国王様に申し上げたき事がございます!」

 

おお、王様に直言とは。世が世なら打ち首もあり得る話だが。

 

「なにか?」

 

「私自身は何もやましいところがあるわけではございませんが、スポンサーとして費用のバックアップを受けていた商会が不正を働いていたという事、このドエリャ痛恨の極みでございます。私に不正があるかどうかは気のすむまでお調べ頂ければと思いますが、今大会では例え優勝してもその栄誉は辞退致しますので、私が作り上げるスイーツをお召し上がり頂けませんでしょうか!」

 

ほぼ直訴だな。ドエリャとすれば、意地とプライドか。

例え優勝を辞退したとしても、国王様からお墨付きの評価を得られたなら、それはそれでお店の箔が付けられる、ということだろうか。

 

「あい分かった。王都警備隊に調査は任せるとして、今はその技術の全てを決勝にぶつけてみよ!」

 

国王様の英断とも言える参加続行に観客が沸き上がる。

そしてドエリャがスイーツを準備し始めた。

 

見事な手際でケーキを二段に重ねて盛り付けている。さすがに決勝の舞台用に用意したスイーツだな。

 

一品目に出してきたのは団子のような練り物のお菓子に甘そうなソースをかけたものだ。

イチゴなのかどうかはわからないが、赤色が映えている。

二品目はフルーツタルトだ。きっと三品目に用意しているだろう二段重ねのスポンジケーキを際立たせるために触感の違うタルトを用意したというところか。

 

そして三品目の二段ケーキの仕上げにかかるドエリャ。

 

「・・・なんだあれ?」

 

ドエリャが何か小さな木樽の中から果物を取り出す。

 

「あれは・・・ドリアンか!!」

 

緑色っぽいトゲトゲの果物らしき物を取り出す。

強烈な甘みと豊富な栄養を持つ、果物の王。但しその強烈な腐敗臭とでも言うべき臭いのために敬遠される事が多い果物だ。

 

「あれはドリリアン!」

 

なにその微妙な類似。三十五億とか体に書いてないよね?

 

「噂では強烈な甘みを誇る果物の王様とも呼ばれている果実ですが、凄まじく臭いのでほとんど食べる人はいないとも言われています」

 

あ、異世界(コッチ)でもそうなのね。

そしてドエリャが包丁を入れ、果肉を取り出して二段ケーキの二段蹴中央に盛り付けていく。

それにしても、ここまで甘い香りが漂って来るが、臭くないぞ。

 

「信じられない・・・全然臭くない・・・それどころかとても甘くいい香りが・・・」

 

多分、何か漬け込んであったようだから、臭みを抜く特殊な方法を考え付いたんだろう。

それだけでも称賛に値するな。やりやがるぜ、ドエリャ!

 

「それでは最後の三品目となります。仕上げをとくとご覧ください!」

 

大皿に飾り付けられた二段になったドリリアンケーキ。

 

「今から舞い散る雪景色をご覧に入れましょう!」

 

そう言うと、後ろの助手が魔法を唱える。風魔法か?

そして、ドエリャの持っていた壺から白い小さな竜巻のような風が吹いたかと思うと、二段ケーキの上から雪の様に降り注いだ。

あれはシュガーパウダーか・・・。この世界なら、砂糖を目の細かいスリコギで相当細かくしたのか?

シュガーパウダーがまるで粉雪の様に降りそそぐ。

 

「さあ、降り積もる雪に埋もれる宝石のごときドリリアンケーキをお楽しみください!」

 

やべぇ・・・マジで手ごわい演出だ。

 

ケーキが切り分けられて審査員たちに配られていく。

 

「ウ、ウマイッ!」

「おいしいっ!」

「ドリリアン・・・初めて食べましたけど、こんなに甘いなんて!」

「すごいね、感動するよ」

 

王家の皆さん大絶賛だ。

 

「ウマ―――――ッ!!」

「本当に美味しいです・・・」

「最高ね、コレ!」

「これは手強いのぅ」

 

公女ブリジットに、アンリ、フィルマリー、キルエ侯爵と女性陣に大好評のようだ。

 

野郎ども(フレアルト侯爵とコンデンス子爵)は無言で爆食いしている。

 

そして、その評価は当然のことながら今までの最高点を叩き出す。

 

大きな拍手を受け、気障な礼をかまして悠々と下がるドエリャ。コイツ・・・腕だけは本物だ!

 

「す、凄いです・・・」

 

見ればリューナちゃんが震えている。これから決勝戦のスイーツを作る緊張に加えて、本当のプロの料理人の底力を思いっきり見せられてしまったからな。

 

だが次は大取り、やっと俺たちの出番だ。

本命は最後に現れるってね!

予選トップの底力、今度はこちらが見せつける番だ!

 

俺はリューナちゃんの背中をバシッと叩く。

 

「さあ、今度は俺達の番だ!行くぞ!」

 

目をぱちくりさせたリューナが俺を見る。

 

「はいっ!」

 

「いざ参らん!異世界のキュイジーヌ!!」

 

「・・・ヤーベさん、なんですか、それ?」

 

リューナちゃんがキョトンとした表情で俺の顔を覗き込んだ。テヘッ。

 




ドエリャをタチワ・ルーイ商会の悪だくみから完全に外したため、ドエリャ自身は鼻持ちならなくても一流の料理人という流れになってしまったので、なぜか決勝でドエリャが奮闘する姿を書かねばならず、どうでもいいキャラに苦労させられました・・・どうしてこうなった?

今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!
よろしければしおりや評価よろしくお願い致します。

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