転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第189話 重なる油断を後で猛省しよう

どうして・・・イリーナが捕まっている?

奥さんズの面々やリーナは狼牙やヒヨコたちに護衛させていたはずじゃないか・・・。

いや、狼牙やヒヨコたちのせいじゃない。

 

俺が・・・甘かったのか?

 

どうして・・・俺の手の中にイリーナがいない?

 

どうして・・・俺の大切な存在が危険に晒されている?

 

どうして・・・何を俺は間違った?

 

ドウシテ・・・ドウシテ・・・ドウシテ・・・

 

マワリノ オトガ キエテイク―――――

 

 

 

 

 

時は少し遡る。

 

コルーナ辺境伯邸ではゲルドンの朝の訓練を見届けたローガが頭に小さなティアドロップ型の出張用ボスを乗せたまま大きなあくびをしていた。

 

『平和だな・・・』

 

今日は王都スイーツ大会決勝戦当日。昼からの決勝に出場するため、ボスであるヤーベと奥方たちは全員出払っていた。

 

常にヤーベのそばで護衛をしたいローガではあったが、四天王や部下たちの突き上げもあり、護衛対象はローテーションを組んで回している。

そのためローガは今日、コルーナ辺境伯邸での留守番となっていた。

四天王の一角、氷牙とヒヨコ将軍の一部隊がヤーベの新居の護衛に、同じく四天王の一角雷牙とその部下たちが教会の警護に、さらに四天王の一角であるガルボと何匹かが王都の全体警護に、そして四天王の最後、風牙とその部下たちがボスであるヤーベと奥さんズの護衛に出向いている。

 

現在、コルーナ辺境伯も出かけているため、この屋敷に残っている人たちは奥方のフローラ様とメイドたちが中心だ。

そのため、ローガは屋敷の警護をヒヨコたちにゆだねて自身は庭で昼寝を決め込むつもりであった。

 

『ボスからの急な呼び出しに応えるためにも、休める時に休んでおかんとな』

 

尤もたる理由を口にしてサボりを決め込むローガであった。

 

 

 

 

 

そのころ、スイーツ大会の決勝は圧倒的な観客で人がごった返していた。

 

『何という人の多さだ!』

 

風牙は辟易していた。しかも自分たち狼牙族は目立つため、人前に姿を現すことは避けたかった。

 

『ヒヨコ殿!大変申し訳ないが、お主たちの負担がでかくなりそうだ。何かあったらすぐ念話で連絡を頼むぞ』

 

『了解です!』

 

ヒヨコの将軍クラスは情報収集や直接ヤーベからの指示で動くことが多いため、狼牙のサポートはヒヨコの中でも一兵士クラスが担当している。

 

そして、風牙の心配は現実のものとなった。

 

『むっ』

 

それに気づいたのは風牙ではなく、部下の一匹であった。

 

「今のうちに食べ物を買ってこようか?」

「じゃああたしは飲み物買ってきますね!」

「今のうちにトイレに行ってくるとしよう」

「じゃあ、リーナちゃんとわたくしでここの場所を確保しておくようにしますわ」

 

そう言って奥さんズの面々が四つのグループに分かれてしまったのである。

 

この時風牙は会場の反対側に回っており、全体警護とボスであるヤーベの動向を観察していたため、奥さんズの監視を部下に任せていたことが裏目に出た。

 

『おい、それぞれ違う場所に移動するぞ?』

『ここにいるのは何名だ?』

『狼牙十一、ヒヨコ十二です』

『それではここに狼牙二、ヒヨコ三で残ってくれ。後は移動している奥様方を狼牙三、ヒヨコ三のグループで追う。移動している方が見失うリスクがあるからな』

 

『『『了解!』』』

 

そしてそれぞれに分かれて護衛対象を追っていった。

 

食べ物を買いに行ったルシーナ、飲み物を買いに行ったサリーナは問題なかったのだが、トイレに行くと言って離れたイリーナは、なぜか知らない人間に声を掛けられ、会場の外に連れ出されていた。

 

『会場の外まで出たようだが?』

『誰なのだ?あの人間は?』

『見たところ、険悪な様子ではないようだが』

 

実のところ、これが誘拐でイリーナが抵抗していれば狼牙たちも異変に気が付き、救出を試みたことだろう。だが、男の言葉巧みな「ヤーベさんが決勝の料理で材料が足りなくて困っている。一緒に取りに行ってほしい」などという緊急性の高いウソ話に単純なイリーナがあっさりと引っ掛かってしまい、会場外に連れ出されてしまったのだった。

 

会場外には二頭立ての豪華な馬車が用意してあり、それにイリーナが疑いもなく乗り込む。

 

『馬車で移動するのか?』

『馬車の方が見失わずに済むな』

『それもそうか』

 

狼牙たちやヒヨコたちにとって、多くの人ごみの中で対象者をずっと見失わないよう気を張るよりも、馬車という大きな存在を見張る方がずっと楽であったため、馬車に乗り込むという異様さに気が付くものがいなかったのである。

しかも馬車にはリカオロスト公爵家の紋章が入っていたのだが、狼牙やヒヨコたちにそれに気づけというのはあまりにも酷であろう。きっとヤーベ本人でも興味がなく覚えてはいないのだろうから。

 

馬車は移動を開始したのだが、王都の北門近くで、いきなり王都の外へ出た。

しかも王都の外へ出る人たちが手続きで並んでいる門の横、貴族専用の門を一旦停止することもなくスピードを上げて飛び出して行った。

 

『な、なんだ?』

『様子がおかしいぞ?』

『急げ!』

 

ヒヨコたちは城壁の上を迂回して外へ飛び出して行く。狼牙たちは一瞬逡巡したが、馬車の通った貴族門を突破することにした。

後で怒られることになったとしても、イリーナ嬢の身の安全を優先したのである。

 

「な、なんだ?」

「と、止まれ!」

 

慌てて門番が狼牙たちに槍を向けるが、あっという間にその横をすり抜けて王都の外へ出る狼牙たち。

 

だが、その目の前で見た光景は、イリーナ嬢が無理やり別の馬車に押し込まれて乗り換えさせられている光景であった。

 

『ちっ!しまった!』

『救出するぞ!』

『おうっ!』

 

だが、それよりも早く乗り換えた馬車は出発して移動を開始する。

 

『逃がすか!追え!』

『『おうっ!』』

 

狼牙たちは自分の足に自信があったため、馬車に追いつかないという可能性を考えることはなかった。そして、自分たちの失態でイリーナが誘拐された今、敵を仕留めて取り返すという目的意識に集中したため、ローガやヒヨコ将軍などの上司に連絡を取ることを失念した。それも致命的な失敗につながる事となった。

 

 

 

『おかしい・・・』

『どういうことだ!?』

『我らが全力で走っても追いつかぬとは・・・というかだんだん引き離されて行っている気が・・・』

 

狼牙たちが追走しておかしいと思い始めたのはかなり時間が経ってから。すでに王都バーロンからは相当な距離が離れている。

 

『まずいっ!我らは嵌められたのだ!』

『どういうことだ!?』

『すでに相当の距離追走して来ている。念話が届く距離ではない。そしてこのままあの馬車に振り切られたら、イリーナ嬢の連れ去られた先もわからぬまま、ボスやリーダーに連絡さえつけられない状態となる』

『どういたしますか!?』

 

ヒヨコが焦りを隠さず狼牙に問いかける。すでに自分たちは取り返しのつかない失態を犯していることは間違いない。であれば、その傷を最小限に留めなければならない。

 

『ヒヨコ殿! 一匹は我と一緒にこのまま全力で追走してくれ! ヒヨコの一匹と狼牙の一頭はリーダーのローガ様へ報告を! 全軍でイリーナ嬢を取り返しに向かわないとヤバイほどの敵だと伝えてくれ! ヒヨコの一匹は近くのヒヨコへ念話を飛ばして、王都からこの北の先までできる限り念話の届く距離を保ってヒヨコを集めてくれ! ローガ様が手勢を引き連れてイリーナ嬢を取り返しに向かう時、少しでもロスの無いように向かう先を指示する必要がある!』

 

『了解!』

『わかりました!』

 

そして至急コルーナ辺境伯邸にいるはずのローガへ報告する者とヒヨコの部隊を集める者に分かれて散っていく。

 

『後は・・・我の体力がどこまで持つか・・・』

 

追走する狼牙は命に代えてもあの馬車を見失いはしないと誓った。

 

 

 

 

 

『リーダー! リーダー!』

 

『んんっ?』

 

昼寝をしていたローガはけたたましい念話に急速に意識を覚醒させていく。

 

『どうしたっ! 何があった?』

 

だが、返答は念話ではなく、当該の狼牙が敷地に飛び込んできた。息も絶え絶えだ。

 

『申し訳・・・ありませんっ! イリーナ嬢を攫われました!』

 

『なんだとっ!? どういうことか!』

 

ローガは瞬時には理解できなかった。ボスより力を賜った自分たち狼牙族を出し抜くものがいるなど信じられなかった。だが、常々ボスであるヤーベが言っていたことを思い出す。

 

「魔物はだいたいのランクが決まっている。上位種や特別変異などもあるが、それほど大きな個体差はあまり見られない。極端に言えばゴブリンより弱いマンティコアも、ドラゴンより強いマンティコアもいないということだ。だが、人間は違う。人間は弱く、そして強い。とても愚かなのに賢いのだ。人間は千差万別だ。人間という枠一つでくくってはいけない。痛い目を見ることになる。教会で人のために働く者もいれば、盗賊になって人から物を盗む者もいる。ゴブリンに殺される人間もいれば、ドラゴンを殺す人間もまたいるのだ。もう一度言うぞ、人間をひとくくりにするな。人間と対する時は、相手を見て判断するのだ。手強いかどうかをな」

 

そう、人間とは敵に回れば恐るべき存在になりうるとボスから教えられていたのだ。

 

『敵は我らの能力や力量を把握して誘拐する作戦を立てていたようです。現在は我らでも追いつけぬほどの高速移動する馬車でイリーナ嬢を誘拐し北へ向かっております! その道すがらはヒヨコ軍団にできるだけ集まってもらって、北への正しい道がわかるよう協力をお願いしております・・・』

 

『くっ・・・してやられたという事か!』

 

ローガは悔しさに塗れるが、頭を振ってすぐに意識を再覚醒させる。

部下の狼牙はだんだん喋ることも辛くなってきたのか、声が途絶え途絶えになってきている。

 

『お前は休んでいろ。聞けっ! 今から全軍出る! 王都に散らばる我が同胞(はらから)よ! イリーナ嬢が誘拐された! 四天王とその部下の半数は北門から北へ逃げた敵を追うぞ! 我に続けぇ!!』

 

王都全土に広がるような強力な念話。

王都中に散っていたローガの部下たちも未曽有の危機に体が震える。

 

『『『『『おうっ!!』』』』』

 

そして、即時移動を開始する。

 

『ゲルドン殿、申し訳ないがこの屋敷の警備は御身にお任せする。すまん』

 

『任されただよ、気にせず急いで行ってけれ』

 

 

シュバッ!

 

 

風のように消えるローガ。その後を部下の狼牙たちもすさまじいスピードで追う。

 

 

「キャア!」

「なんだっ!」

「うわわっ!」

 

一秒でもロスを減らすべく、ローガが取ったルートは北門へまっすぐ向かう大通りだった。

そこを超スピードで狼牙たちが駆け抜けたので、屋台に積んで販売されていたリンゴや野菜が竜巻のような風にまかれ崩れ落ちたり、煮込み料理屋の鍋がひっくり返ったりしていた。けが人は出ていないようだったが、とてつもないつむじ風が大通りを襲ったと人々はささやきあった。

そしてローガたちは北門のうち、貴族用の扉が開かれたままの門を目に見えぬほどのスピードで駆け抜ける。

 

「うわわっ!? なんだっ!?」

 

門を守る兵士たちはあまりの突風にくるくると体を回して倒れこんだ。

ローガが北門を突破する頃には四天王たちも合流した。

 

『我が持ち場から誘拐されるとは・・・申し開きもございませぬ!』

 

超高速移動を行いながらも風牙がローガに念話を入れる。

 

『すべてはイリーナ嬢を傷一つなく取り返してからのことだっ!それまでは救出に全力を注げ!』

 

『『『『ははっ!』』』』

 

ローガたち一団は疾風という表現では生ぬるいほどのスピードで北へ向かって駆けて行った。

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!

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