転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
『ゼハッ・・・ゼハッ・・・ゼハッ・・・』
狼牙はよろよろと、それでも足を止めず数時間全力を超えるスピードで走り続けてきた。
ギリギリ視界にとらえている馬車は背後を大きな岩山に囲まれた城塞都市へ入って行った。
狼牙たちは知らぬことではあるが、ここがリカオロスト公爵家の領主邸がある領地最大の都市、リカオローデンである。奥に広がる岩山はミスリル鉱山であり、リカオロスト公爵家の資金源の根幹でもある。その岩山を守るように建てられたのが領主邸の名目ではあるものの、明らかにどうみても城としか思えないほどの巨大な建物であった。ここに住む人々はこれをリカオローデン城と呼んでいた。
『くっ・・・』
街まで追いかけて行きたかったのだが、慌てて近くの茂みに身を隠す。街には多くの軍属兵士が待ち構えていたのである。自分に万一のことがあればと、もう一頭狼牙に追走を命じていたが、隣で完全にダウンしている。すぐには動けそうもない。
『ヒヨコ殿!できるだけ高い位置から、少しでも街に入った馬車が向かう先を記憶してくれ!』
『了解!』
ヒヨコ自身ももはや碌に飛ぶ力も残っていないが、できるだけ高度を高くとり馬車を見失わないように目を凝らす。
街に入った馬車がスピードを落としてゆっくり移動していることも幸いした。
街中を奥の城らしき建物へ向かっている馬車を見逃さないようにホバリングしながら注視する。
どれだけ時間が経っただろうか、馬車は完全に建物の陰に隠れて見えなくなった。
『くそっ!』
ヒヨコは意を決して街に近づいた。その時――――
バシッ!
『ぐはっ!』
まるでバリヤーのようなものに触れてヒヨコがダメージを受け墜落する。ちょうど敵軍の真正面である。
「なんだぁ?ヒヨコが焦げて落ちて来たぞ?」
「こいつぁスライム伯爵とかいう敵の使役獣じゃなかったか?」
「敵か?なら殺すか」
ヒヨコはわずかに意識を残していたが、魔物除けの障壁でダメージを受け、完全に体力を失って全く動くことが出来なかった。
『無念・・・』
だが、槍で突かれる前にその体が咥えられた。
そして、ダッシュで離脱する。狼牙がヒヨコを助けに来たのである。
『狼牙殿!その体では!』
『最後まで馬車の行く先を見ていたお主を失うわけにはいかんのだよ』
そう言いながらできる限りのスピードで離脱を試みるが、当然のことながら精も根も尽き果てた状態の狼牙がいつものスピードで動けるわけもない。逃げる狼牙を討ち取るべく矢が放たれ、槍を持った兵士が大勢追いかけてきた。
『くっ・・・』
矢を躱しながらの離脱は思うようにスピードが上がらず、矢の雨を躱しきれなくなり、二本が突き刺さった。
『ぐはっ!』
『狼牙殿!』
『早くっ!ここから少しでも離れるのだ!』
『しかしっ!』
『貴殿の情報が命なのだ!』
だが、兵士たちは追いついてきた。
「ひっひっひ!やっと殺せるぜぇ」
「手間ぁ取らせやがって!」
槍を構える兵士たち。
だが、一陣の風が吹き、兵士たちは吹き飛ばされる。
『大丈夫か?』
そこには狼牙族リーダーのローガがいた。
『リーダー・・・!申し訳ありません!自分の失態でボスからの狼牙族全体の信頼を失うことに・・・』
『そのようなことはイリーナ嬢を無事取り返してからゆっくり考えればいいことだ。それより、追走は見事な対応だった。今はゆっくり休め。もう少しすれば回復薬をヒヨコたちが運んでくる』
『はっ・・・』
そう言って狼牙は気を失う。
『ローガ殿!申し上げます!イリーナ嬢を連れ去った馬車はあの町の一番奥にある城のような大きな建物に向かいました。途中で見失いましたが、まず間違いないと思われます! それから、何やら街には魔物除けの障壁が展開されており、私が街に入るのを妨害されました!』
『よく報告してくれた、ヒヨコよ、貴殿も仲間が来るまで休むがいい』
そういうと吹き飛ばした兵士の前に陣取るローガ。
『貴様ら・・・狩人などではないな?敵の兵士か?死にたくなければ道を開けろ!』
ウォンッッッ!!
咆哮一閃!
こちらに向かって来ていた多くの兵士が吹き飛ばされて飛んで行く。
『<
『突撃だっ!』
『『『おうっ!』』』
若い狼牙が数匹先陣を切り突撃していくが、
バシッ!
『ギャン!』
魔物除けの障壁に阻まれて吹き飛ばされた。そして、先ほどの<
『あれが魔物除けの障壁か・・・我ら狼牙族の突進をも防ぐとはな』
雷牙が跳ね飛ばされた若い狼牙たちを見ながら呟く。
『時間が惜しい!極大魔法をぶち込んでみるか?』
普段は冷静な氷牙も手段を択ばぬようだ。
だが、それより先にローガが動く。何よりもボスの信頼を裏切って一番苦しい思いをしているのがローガであろう。
今のローガの道を阻むものは死に向かうことと同義と言えた。
『お前ら・・・戦争である以上、死ぬ覚悟が出来ての蛮行であろうなっっっ!』
グルアアアアアアア!!
いきなりローガが雄たけびを上げる。するとその体がさらに膨れ上がり、倍くらいまでの大きさに変化した。その額の角が二本に増えている。
その体から魔力がスパークするように溢れ、周りの空気が振動する。
『こ、これがリーダーの真の力でやんすか・・・』
ガルボの呟きに他の四天王たちも息を飲む。
『<
ウォゴッッッッッ!!!!!
ローガの口から途轍もないエネルギー波が放たれる!
バキャァァァァン!!
あっさりと障壁を打ち破り、街を守る正面門を吹き飛ばし、さらに街の一番奥にあるリカオローデン城の正面扉と城壁をも破壊する。
すさまじい破壊音がして、城前からはもうもうと土煙が立ち込めた。
『リーダー・・・とんでもない戦略兵器でやんすな』
『リーダーだけは怒らせないようにしよう』
ガルボと雷牙がちょっと尻尾をプルプルさせながらビビっていた。
『突撃だ!! イリーナ嬢を取り戻す!』
『『『『おうっ!』』』』
『一般人は傷つけるな!兵士たちは殺す必要はないが、手加減する必要もない。容赦するな!今はイリーナ嬢を救い出すことが先決だ!行くぞっ!』
再びローガたちが疾風の如く街へ突入していく。
『<
『<
『<
「うわあ!なんだ!」
「止めろ!」
「ダメだ!」
狼牙族の突撃を全く止められずに吹き飛ばされ、また痺れ、凍り付き意識を失っていく兵士たち。
風牙、雷牙、氷牙も吹き飛ばし系や気絶系の魔法で敵の行動を阻害していきながら城を目指して疾走していく。
「バリスタ用意!」
城に肉薄するローガたちに向けて城の城壁から巨大な矢をつがえた二台の大型クロスボウが準備された。街中に設置されるバリスタを見て、いったい何から城を守るつもりだったのか、全くここに住む人々の事を考えていない話ではあるのだが、今はそのバリスタの位置が僥倖であったといえようか。
「発射!!」
バリスタから発射された巨大な矢が先頭を突き進むローガを襲う。
『<
ローガの正面に展開された風の障壁に阻まれ、巨大な矢が逸れて近くの教会と冒険者ギルドの建物に突き刺さる。
「うわあ!」
「助けてくれ!」
見るも無残に倒壊する教会と冒険者ギルドの建物。だが阿鼻叫喚ともいえる街並みを無視して疾走する狼牙たち。
バリスタ放ったのはリカオロスト公爵家の兵士たちだし、くらいの気持ちもあるのだろうか、その足を止めることなく、破壊された正面城門から城内へ突入していくのだった。
そのエントランスに到着したローガが地下から感じる自分のボスにも匹敵するような巨大な魔力に顔をしかめる。
『な、なんだこの魔力は!』
だが、ローガにヒヨコが声を掛ける。
『ローガ殿!イリーナ嬢は上の階、西側の塔付近に連れて行かれている模様です!』
『わかった!地下の異常は後回しだ!まずはイリーナ嬢の身を確保する!』
『『『おうっ!』』』
そして城を駆け上がり、敵兵士を吹き飛ばし、廊下を駆け抜けた先、塔の上層の一部屋に到着する。
『ここかっ!イリーナ嬢ご無事か!』
扉を破壊して部屋へ躍り込んだローガの目に飛び込んできたもの・・・それは。
「ぐ、ぐげげっ・・・だぢげてぇ」
両腕を鎖につながれ気絶したままのイリーナ嬢から、なぜか二本の触手が飛び出しており、ゲスガーの首に巻き付いて締め上げている光景であった。
ふふふ・・・まさかのイリーナ触手祭りには誰も気づくまい・・・(作者ニヤリ)
ちなみに当人のイリーナも気づいてません(苦笑)
今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!