転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
「ギャ――――ハッハッハ!! テメエらは何もできずにそこで指を咥えて見ていることしかできねぇんだよぉ! このイ〇ポ野郎どもがぁ!」
悦に入りまくってゲスい顔を歪めるゲスガー・フォン・リカオロスト。
リヴァンダ王妃やカッシーナ王女がいてもお構いも無く罵る言葉はイ〇ポ野郎である。
「で、人質を取って何が望みなのかね?」
ワーレンハイド国王はゆっくりと落ち着いた声でゲスガーに問いかけた。
魔道通信機での会話のため、相手が正確にどこにいるのかはわからない。多分リカオロスト公爵領だろうとは思われるが、そうだとすれば距離にして相当遠い。今すぐ助けに行けるわけではない。となれば、イリーナ嬢に危害を加えさせないためにも、考慮して猶予を引き出す必要があると考えた。なにより、先ほどイリーナ嬢が捕らえられた映像を見てから、ヤーベ卿の反応がおかしいのだ。何度も王国の絶体絶命の危機を救って来た英雄にピンチが訪れているのならば、今こそ国王として力にならなければならないと思っていた。
「望みぃ? そりゃ国王の座に決まってんだろーがよぉ! 親父が国王の座に座れば、次期国王の座は俺のモンだからなぁ!」
愉悦に浸り切った顔からは涎すら垂らしていた。まさに見るに堪えない顔であった。
「そうかね、それではリカオロスト公爵と国王の座について話し合わねばならないようだね。で、お父上はどこにおられるのかね?」
「ギャ――――ハッハッハ! そんなモンもう手遅れだよぉ! テメエらは死ぬ! この女は犯されて死ぬのさぁ!」
「手遅れ?」
リヴァンダ王妃が首を傾げた。何が手遅れだと言うのか?
「カッシーナよ! どうせならテメエをヒーヒー言わせてやりたかったぜぇ! 傷の治ったテメエなら大歓迎だったのによぉ!」
唾だか涎だかをまき散らしながら魔道通信機に近づいて喋ったため、画面にドアップになるゲスガー。誰しもが見るに堪えないと感じていた。
「あら、高い評価だこと。ならばここにいらっしゃいな。貴方の力でそれが可能ならね?」
ワーレンハイド国王の隣に歩み出て、挑発的な笑みを浮かべるカッシーナ王女。
少しでもイリーナからゲスガーの意識をこちらに向けようと必死だった。
「カッシーナぁ・・・本当にテメエを
下種が下種な要求を出すのは当たり前のこととはいえ、この場にいる者達はすべて王族か上級貴族である。人がここまで下種になり切れることに憐憫の情すら感じていた。
「チェックしたところで、お前は触れられんだろう?」
小馬鹿にしたような表情を浮かべるカッシーナ。
だが、腕組みしたその手先は震えていた。生まれた時から傷を負って憐みの目を向けられたことはあっても、これほどの悪意に晒されたことなど無い。恐怖で体の震えが止まらなかった。だが、恐怖に負けている場合ではない。愛する旦那様の第一夫人の命が危機に瀕しているのである。持てる力の全てを使ってでも一分一秒を稼ぐ――――きっと、旦那様がこの状況を打破してくれると信じられるから。
「うるせーんだよ!ほらぁ、さっさと脱げよ!でねーとこの女をひん剥いてブチ殺してやるぜぇ?」
「くっ・・・」
「さっさとしろぉ!」
カッシーナ王女が自身のドレスの肩口に手を掛ける。
「カッシーナ!やめなさい!」
すぐにリヴァンダ王妃がカッシーナを止める。
「邪魔すんじゃねぇよ! 丁度いい、テメーも一緒に裸になれや!親娘まとめて股開けや!ギャ――――ハッハッハ!」
「おのれ!男子の風上にも置けぬゲスめが!」
リヴァンダ王妃が怒声を上げる。
「ああ!ふざけんなよ!この女が死んでもいいってのか!」
そう言っイリーナの肩口を掴んで引っ張ろうとしてゲスガー。
だが・・・
にゅるん。
「うわっ!? なんだ?」
確かにイリーナの肩口に手を伸ばしたはず。だが、触った感触はまるでぶにょぶにょした何かであった。
もう一度イリーナの肩に手をやるが、やはりイリーナに触れる事は出来ず、その表面にはコーティングされたように柔らかい被膜があった。
「何だこりゃ!テメエ何なんだよぉ!」
激高してナイフを振り上げるゲスガー。
「危ない!」
思わずワーレンハイド国王が画面に向かって叫び声を上げるほど逼迫した状況だった。
だが、次の瞬間、
「ぐえっ!」
いきなり触手がゲスガーのナイフを振り上げた右手首と首に巻きついたのである。
映像からはイリーナの上半身しか映っておらず、触手がどういうものなのかうかがい知る事は出来なかったが、
「ぐるちい・・・し、死ぬ・・・だ・・・だぢげでぇ」
泡を吹き始めるゲスガー。足元は映像に映っていないが、もしかしたら触手に首を絞められたまま吊り上げられているのかもしれなかった。
『イリーナ嬢ご無事かっ!』
そこへ破壊音が聞こえ、画面にローガの姿を映し出す。
ついにローガ達が到着したのである。
ドウンッ!!
強烈な魔力の高まりを感じ、エネルギーが急速に収束していく。
見れば、ヤーベを中心に空気が振動し、渦を巻き始める。
「ヤーベ卿!」
ワーレンハイド国王が叫ぶが、ヤーベに意識がないのか、力が暴走しているようにも見えた。
「こ、これはっ!?」
オトガ―――――キエテイク―――――
セカイガ―――――キエテイク―――――シロク―――――
イリーナを奪われて真っ白になってしまった俺だが、その画面にローガの姿を見た瞬間、世界に色が戻った。そしてパーンとはじける様に音が戻る。
そうだ、何を絶望しているヒマがある!最後の一秒までイリーナのために足掻いて足掻いて足掻き続けなきゃいけなかった!それが俺のやるべき事だった!
見ろ!画面のローガを!体中傷だらけで血を吹いている。きっと建物内を壊して暴れながらイリーナを探してくれたんだろう。諦めなかったから、イリーナのそばに辿り着けたんだ。ローガは諦めなかったから間に合ったんだ。さすがは俺の相棒だ!主人たる俺がこんなところで沈んでいるわけにゃいかねーぜ!
「イリーナァァァァァ!!!!!」
そして、会場内にとてつもない魔力嵐が吹き荒れる。
「うわっ!」
壁際に吹き飛ばされるドライセン公爵。ワーレンハイド国王はリヴァンダ王妃を庇って床に伏せている。カッシーナ王女とキルエ侯爵も魔力嵐に吹き飛ばされない様床にへばりつくように身を屈めた。
「ヤーベ卿!一体どうしたんだ!?」
ワーレンハイド国王が再びヤーベに声を掛けるが、その声は聞こえていない様だった。
ヤーベが右手を伸ばし、その指先でスクウェアの形を示す。次の瞬間―――――
「き・・・消えた!?」
ヤーベの姿は忽然とその場から消えたのである。