転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第192話 大事なイリーナを取り返そう

「ま・・・まさかっ!」

 

壁際まで吹き飛ばされたドライセン公爵が声を上げる。

 

今まで、確かにヤーベ卿がいたのだ。目の前に。

魔力嵐が吹き荒れ、ヤーベ卿の魔力が極端に高まったと思ったら、ヤーベ卿が人差し指を突き出し、右手を大きく空間に四角を区切る様に動かす。

 

その瞬間、ヤーベ卿の姿が消えた。文字通り消えたのだ。

 

「ヤーベ卿?」

 

ワーレンハイド国王がきょろきょろと周りを見回す。

だが、ヤーベ卿の姿はどこにもない。

 

「ええっ!?」

 

カッシーナ王女が驚きの声を上げる。

カッシーナ王女が指を指したその先、魔導通信機の映像の中に、ヤーベ卿の姿が映ったのである。

 

「ど・・・どうしてっ!?」

 

リヴァンダ王妃が驚愕の表情を浮かべる。

 

明らかに映像の中にヤーベ卿がいるのである。

 

「こ・・・これは!? 伝説の空間転移なのか・・・?」

 

宮廷魔術師ブリッツが信じられないといった表情で魔導通信機の映像を見つめる。

 

だが、確かに映像の中にヤーベ卿は姿を現したのである。

 

 

 

 

 

目の前には鎖で繋がれたイリーナの姿があった。

俺が姿を見せた瞬間、「ヤベッ!」って感じで触手がしゅるるんと引っ込んで行く。

そしてその場にどさりと落とされるゲスガー。

・・・触手がどこに引っ込んで行ったかは見なかったことにしよう・・・。

 

そして、落とされたゲスガーが目を覚ました。

 

「な、何でテメエがここにいやがんだっ!?」

 

ゲスガーが俺を見て驚いている。足腰が立たないのか、震える指を俺に向けながらぎゃーぎゃーと喚くだけだ。人を指さしてはいけませんと親に教育されなかったのか。まあ、育ちの悪さが見えるというものだ。

 

「貴様・・・俺の大切な存在に手を出して、タダで済むと思ってねーだろうなぁ?」

 

こうして手の(触手?)の届く位置まで来られたんだ。

この俺がコヤツを断罪の一撃で屠ってやるのがイリーナの敵討ちになるだろう。

・・・イリーナが死んだわけじゃないけど。

 

「何故だ! 何故貴様がここに! さっきまで画面の向こうにいただろうが!」

 

「知らんっ!!」

 

俺は堂々と宣言する。

 

「無責任だろうが!」

 

「お前に対する責任なぞあるかぁぁぁ!!」

 

 

ドウンッ!

 

 

俺の魔力(ぐるぐる)エネルギーが溢れ出す。

ヤバいと思ったのか、ゲスガーが腰を抜かしたまま後ろにずり下がって行く。自分が持っていたのか、右手に地面に落ちていた大ぶりのナイフが触れた。

 

「おまえの次のセリフは『テメエ、ぶっ殺してやる!』だ」

 

俺は目に影を作って人差し指をゲスガーに向ける。

 

「テメエ、ぶっ殺してやる!」

 

いきなりナイフを拾って振りかぶり、俺に攻撃を仕掛けて来るゲスガー。だが、表情がハッとする。

 

「な、なんでわかったんだこの野郎!」

 

ゲスガーがナイフを俺に対して振り下ろす! もちろん、そんなナイフに刺さってやるほど俺は優しくない。ゲスガーの右手を捕らえて、肘を逆向きにへし折る。

 

「グギャァァァ!」

 

「さあ、断罪の時だ、覚悟はいいか?」

 

「ヒィィィッ!」

 

『いかん!ボスが結構キレ気味だ!早くイリーナ嬢を助けて退避するぞ!』

 

『『『おうっ!』』』

 

ローガがイリーナを捕らえている鎖を噛み切り、背中にイリーナを乗せて離脱する。

 

「貴様には某伝説の漫画の初代主人公が超初期に使ったと言われる必殺技を喰らわせてやろう」

 

「は、はあ?」

 

自分がやられそうになっているのだが、俺が何を言っているのかわからないという状況で混乱しているのかポカンという表情だ。

 

「某主人公のズームパンチはちょっと伸びるだけだが、俺のは一味違うぞ?」

 

ズグンッ!

 

「ヒ、ヒィィ!!」

 

折れた右手を庇う事も忘れ、後ろにずり下がっていくゲスガー。

 

 

 

 

魔導通信機の映像を見ていたワーレンハイド国王達は首を捻っていた。

 

「・・・どうしたのだろう?」

 

急にゲスガーがガタガタと震えて後ずさっていく。

 

「何があるんでしょう?」

「ここからでは見えませんな」

 

ワーレンハイド国王の疑問にも宰相ルベルグも宮廷魔術師ブリッツも答えが出せなかった。

 

魔導通信機の水晶が置いてある位置から見た映像のため、ビビッて後ずさりするゲスガーとヤーベ卿の背中のアップは映っているのだが、なぜゲスガーがビビっているのか理解する事ができなかった。

 

 

 

 

 

 

「な・・・何なんだテメエはよぉ!」

 

俺が高々と上げた右拳が、巨大に膨れ上がって行く。

そりゃ、スライム細胞で出来ているからね。大きさも自由自在。十倍くらいの大きさに拡大する。

 

「さあ断罪の時だ。生まれてからのテメエの罪を数えな! 尤も数えきれるほどの時間をやるつもりもないけどなぁ!」

 

さらに拡大して行く拳。

 

「ヒィィィィィィィ!!!」

 

「アディオス!ゲス野郎! くらいな!ズームパンチ!!」

 

ドッコンッ!!

 

「ウギャァァァァ!!」

 

上から振り下ろした超巨大な拳に押しつぶされ、床に埋まるゲスガー。

 

『ボス!塔が崩れますぞ!』

 

俺は瞬時に周りを確認する。

確かに塔にはダメージが無いことは無いが、十分にズームパンチは手加減した。建物の破壊はおろか、ゲスガーの命もちゃんと残っている。

 

「この波動・・・地下からだな。だが、まあ俺には興味ないな」

 

そう言うと俺はイリーナとローガ達、ヒヨコ達の位置をすべて把握した後、全員に細い繊維のような触手を張り巡らせる。

 

もう一度、あのチカラを使おうか・・・イメージを高めていく。

 

 

 

 

 

「うわっ!」

「きゃあ!」

 

ワーレンハイド国王とリヴァンダ王妃が同時に驚く。

俺がカッシーナのすぐ後ろに現れたからだ。しかもイリーナを抱いて、ローガ達もヒヨコ達も引き連れて王城の間に現れたのだから。

 

俺は左手にイリーナを抱きしめたまま、カッシーナの頭を撫でてやる。

その頭には俺が贈った髪飾りが付いている。

薄いグリーンの細長い装身具はバレッタのようなイメージで、スライム細胞で製作したものだ。ローガ達に貸し出ししている出張用ボスと同じ効果を持つ。

 

それ以外にも長距離でも念話通信ができるようになるので、渡した当初はのべつ幕なし話しかけてきたカッシーナに閉口した。しまいには通信をブロックしたら泣かれたので、朝と寝る前の挨拶と緊急事態以外は念話連絡しないように約束させたのだが、結構「綺麗なお花を見つけました!」とか、「今日の昼食のメニューが美味しかったので是非今度一緒に!」とか、どうでもいいことを・・・いや、これくらいは会話に付き合った方がいいのか?

 

その髪飾りを撫でながらカッシーナに「ただいま」と告げる。

 

「おかえりなさいませ、ヤーベ様」

 

カッシーナがニッコリと微笑んでくれる。

そして俺は、膝をついてイリーナを床に寝かせると、上半身を支えて、ほっぺたをぺちぺち叩く。

 

「イリーナ、イリーナ、いい加減起きろ」

 

「うーん、ムニャムニャ」

 

「こら」

 

そう言って鼻をつまんで塞ぐ。

 

「・・・ぶはっ! ヤーベ殺す気か!」

 

イリーナが飛び起きた。

 

「あ・・・ヤーベ、助けに来てくれたんだな!」

 

イリーナが目にちょっと涙を溜めて俺を見る。

 

「・・・ヤーベ?」

 

俺はギュッとイリーナを抱きしめた。

 

「ひょわっ! どうしたのだヤーベ?」

 

「・・・すまない・・・怖い思いをさせたな。俺は大切な者達を絶対に守ると決めていたのに・・・」

 

そして一層力を入れてイリーナを抱きしめる。

 

「ううう・・・ヤーベ!怖かったよ~!怖かったよ~!助けに来てくれてありがとう!」

 

『ボス・・・我らの失態によりイリーナ嬢を危険な目に合わせてしまうことになり、誠に申し訳ございませぬ』

 

『『『申し訳ございませぬ!』』』

 

狼牙達が一斉にひれ伏して謝罪する。

ヒヨコ達もそれに習う。

 

ワーレンハイド国王達は狼牙達やヒヨコ達が一斉にそろって伏した事に驚いた。

 

「よい、お前達の責任ではない。俺が甘かったんだ。敵意を向けてくる者に対しての対応を甘く考えていた」

 

俺はイリーナを立たせながら、自分も立ち上がった。

 

「それはどういう・・・」

 

だが、ワーレンハイド国王は言葉を続けられなかった。

魔導通信機の映像の向こうに映っていたリカオローデン城の塔が崩壊し始めたのである。

 

「た、助けてくれえ!」

 

瓦礫に埋まったゲスガーの叫び声が聞こえてくる。だが、次の瞬間、

 

「ちゃぶっ!」

 

吹き上がった瓦礫にその身を潰されるゲスガー。城が崩壊する映像が未だに映し出される。遠くから映していないため、全体が分かりにくいが、完全に城が崩壊しているようだ。

 

その崩壊は地下から何かがせり上がって来たからだと思われた。

 

そして、その姿の一部が現れる。

 

まるで船のような全体が映り出したかと思うと、空に浮かび上がって行く様子が見て取れた。

 

「・・・ま、まさか・・・まさか!!」

 

宮廷魔術師ブリッツが大声を上げる。

 

「どうしたのだ。あれが何か知っているのか?」

 

ワーレンハイド国王に即された宮廷魔術師ブリッツが顔面を蒼白にしながら答える。

 

「あ、あれは・・・もしかしたら、伝説の大陸間戦略兵器『魔導戦艦』かもしれません・・・」

 

宮廷魔術師ブリッツの説明にワーレンハイド国王達が息を呑む。

 

魔導戦艦・・・って、なに?

 




ゲスガーのヤツ、5話も引っ張ったくせに一発か・・・(5話の内1話は出番すら無し)

今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!
よろしければ評価よろしくお願い致します。
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