転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
俺の宣言が相当気に喰わず、リカオロスト公爵がブチ切れて暴れたためか、向こう側の魔導通信機が壊れたようで、映像が途絶えてしまった。
「・・・交渉の余地なく、お互い殺すと罵ったまま通信が途絶えてしまったが?」
ドライセン公爵が俺の方へ歩み寄って来る。
ワーレンハイド国王にリヴァンダ王妃が心配そうに俺を見つめていた。
「うむ・・・だが、元々交渉できるようではなかったような感じだったが・・・」
宰相ルベルクが頭を掻き毟る。
「元々、ファンダリルのヤツは権力志向が強かったですからな・・・」
宮廷魔術師ブリッツが髭を撫でつけながらボヤく。
「いや、志向の問題じゃないような? 魔導戦艦で世界を恐怖に陥れて蹂躙しようって話だよね?」
「いや、まあ、そうなのですが・・・」
宰相ルベルクに続いて、宮廷魔術師ブリッツも頭をガリガリ掻き毟る。
「それで? 貴公が交渉をぶった切ってしまったわけだが? どう責任を取るつもりか?」
さらに俺に詰め寄るドライセン公爵。
「責任? 貴方はアレと交渉して思い留まらせることが出来ると?」
「あ、いや、まあそうなんだが・・・」
ドライセン公爵も頭をガリガリ掻き毟る。
頭を掻き毟って苦悩するオッサン三名。むさ苦しい。
「それで・・・ヤーベ卿どうする? 世界の命運が君にかかってしまう事になってしまうが・・・」
心苦しいとばかりにワーレンハイド国王の表情に苦悩が浮かぶ。
「先ほどヤツらに伝えた通りです。明日の朝日が昇る前に魔導戦艦を止めて土下座しなければ・・・殺します」
俺ははっきりと伝えた。
「言うのは簡単だが・・・どうやって殺すのかね?」
ドライセン公爵の言葉に俺は睨み返した。
ビクリと体を震わすドライセン公爵。
俺にとってみれば、
実際に人を殺すと口にすること・・・。
地球時代でも俺はケンカをしたことは無かった。それでも口げんかで「殺すぞ」なんで冗談気味に言ったことはある。それは法で守られた世界の中で、人殺しが重罪で、実際に人を殺す事の恐ろしさが理解できているから、実際に行わない事を百パーセント前提として口にしている。
だが、この異世界は違う。もちろん基本殺人は重罪だ。だが、街道では盗賊も現れ、油断すれば殺されることもある。俺自身も暗殺者に命を狙われたこともある。
実際に命のやり取りが身近にある世界なのだ。
「俺が殺すと言ったんだ。奴らの死は絶対だ」
目を剥くドライセン公爵。俺の迫力にビビってる?
「魔導戦艦をどうするのかね?」
ワーレンハイド国王が俺に問いかけた。
「・・・まさか、欲しいとか言いませんよね?なにやら世界のパワーバランスを崩しかねないとてつもない兵器ですよね?戦争でもしたいんですか?」
「あ、いや、もちろんそういうつもりはないんだがね・・・」
ワーレンハイド国王も頭をガシガシと掻き毟る。
オッサンのフケが空気中に漂う率が高まってしまったか。
「消しますよ。きれいさっぱり・・・ね。その方が他の国に対しても刺激が少ないでしょう」
「そりゃまあ・・・確かに・・・」
ワーレンハイド国王がちょっぴり残念な表情を浮かべながら頭の掻き毟りを加速させる。
あの魔導戦艦を無傷で拿捕して、バルバロイ王国の戦力としてしまった場合、わずか三艦で大陸を滅亡寸前に追い込むほどの戦力の一角を保有すると言う事に他ならない。それは余計な緊張を生むことになるだろうし、かなり厳重に封印されていたところを見ると、復活させてしまったことを他国から責められるかもしれない。それならば、きれいさっぱり消してしまう方がいいだろう。
・・・決して亜空間圧縮収納にこっそり仕舞って後で乗ってみようとか思っていないぞ。
俺はローガ達にイリーナをコルーナ辺境伯邸まで連れて帰った後、待機するように指示を出す。
『僭越ながら・・・ボスはどうなさるおつもりで?』
「言った通りだ。朝日が昇る前に魔導戦艦を止めてヤツらが土下座しなかったら、言葉通り殺す。だから、一応仕留められる位置まで移動しておく」
『ならば、我もお供に!』
「いや、お前は拠点を守れ。魔導戦艦以外に敵戦力があるとは思えんが、念のためだ。任せるぞ」
『・・・はっ』
力無く承諾の返事をして引き下がるローガ。せめて自分だけでもお傍に・・・と言いたかったのだが、イリーナを攫われている失態を犯している以上、拠点の防衛を任せると言われて、ノーとは言えなかった。
そのまま俺は王城を後にして<
「行ってしまったな・・・」
ワーレンハイド国王はヤーベが出て行った扉を見つめる。
「国王様、本当にどう対処致しますか?」
ドライセン公爵がワーレンハイド国王の前に歩みより、相談する。
「今はヤーベ卿に頼るしかないか・・・」
ワーレンハイド国王は頭を掻き毟りながらボヤいた。
「そうですな、先ほどの報告では魔導戦艦の王都到着が約三日後。ヤーベ卿は明日の朝までにと期限を区切っております。であれば、まずは明日の朝まで様子を見てみてはいかがでしょうか」
宰相ルベルクがワーレンハイド国王に進言する。
「そうだな・・・とにかく朝まで待つとしよう。朝から主な貴族を集めて会議を開く。皆を招集してくれ」
「ははっ!」
そしてその場は解散となった。
『魔導戦艦はどの位置にいる?』
俺はヒヨコ隊長に念話で問いかけた。
『ボスの位置からですと、北北東、距離は推定・・・』
ヒヨコ隊長から報告を受ける。予定通りの位置取りだな。
この場所へ魔導戦艦が飛んでいるのが見えた時、それはヤツらが日の出までに魔導戦艦を止めて、土下座をする意思がないと言う事になる。
『艦内に捕らわれている人間は?』
『すでに潜入したヒヨコたちが脱出してきましたが、本当にあの魔導戦艦の中にはあの二人しかいないとのことです。積み荷は大量の食糧と財宝、生活品だけです』
『そうか・・・馬鹿で助かったな』
魔導戦艦は圧倒的に高性能で、基本設定を済ませれば自動運行プログラムが作動するのだろう。誰も信用せず、己だけを信用して世界征服に乗り出したんだろうな。その魔導戦艦の威力を見せつけてから、自分たちに順応な人間を集めるつもりだったのか。
それだけ、今のリカオロスト公爵には人望が無く、信頼を置ける部下がいなかったということに他ならない。それはあの二人と共に道連れになる人々が出なくて済むと言う事だ。リカオロスト公爵の人望の無さに感謝する事としよう。
『みんな・・・よろしく頼む』
四大精霊がその姿を現す。
水の精霊ウィンティア、風の精霊シルフィー、土の精霊ベルヒア、炎の精霊フレイアである。だが、それ以外にも二人の姿があった。
「なんだかとんでもない事をしそうだね」
「その力・・・深淵に届くかもしれませんことよ?」
光の精霊ライティールと闇の精霊ダータレラまでもが顕現していた。
ここに六大精霊が顕現したことになった。
「なんだか、魔導戦艦ヒューベリオンっていう、世界を脅かすクラスの兵器が現代に蘇ってしまったみたいだ。仕方がないので、フルパワーで吹き飛ばす。万一暴走したら助けてくれると助かる。後、周りの影響も心配だから、一応気を付けておいてね」
「貴方自身は気を付けないのね・・・」
闇の精霊ダータレラは呆れる様に言った。
「今までフルパワーってあんまりやったことないんだよね。ダンジョン無双した時も、実際60%くらいのパワーで十分だったしな」
「うわ~、キミは本当に規格外だな!」
光の精霊ライティールが驚いている。
「確かに、あの魔導戦艦は人の手に余る代物です。ヤーベ様、きれいさっぱり処分してしまうのがよろしいかと。有り余る力は人を狂わせるのに十分です」
ベルヒアが畏まってそう言った。
・・・そう言われると、俺も狂ってしまってもおかしくないのだろうか?
「ヤーベ、貴方は大丈夫・・・狂いたくなったら、まず私が貴方を狂わせてア・ゲ・ル・・・快楽で♡」
そう言って俺の後ろから抱きついてくるベルヒア。
「オッフウ!」
確実に鼻血が出そうな感じだが、俺に血は無いのだ。
『ボス!地点到着まで後五分です!』
ついにヒヨコ隊長が俺の元へ帰って来た。
結局あいつらは改心することなく、世界を恐怖に陥れようとしている。
「そうか・・・それがお前らの答えなんだな」
俺はばさりとローブを脱いで収納する。そして、その形態をデローンMk.Ⅱに切り替える。
「わあ、ヤーベその恰好を見るのは久しぶりだね!」
ウィンティアが俺の頭頂部?をペタペタする。
ドウンッ!!
「「「「わあっ!!」」」」
精霊たちが驚いて宙を舞う。
「少し離れていてくれ。
俺は掛け値なしにパワーを上げていく。
そしてその体を変えていく。
デローンMk.Ⅱの基本ボディーをそのままに、砲身を製作。その長さ約十メートル。途中に砲身を支える様に地面に支えを突き刺す。
「<
キュィィィィィィィィン!!!!!
「うわわわわっ!」
「こ、これほどの魔力圧縮が・・・」
「お兄さんだ、大丈夫でしょうか・・・」
「ヤーベ、頑張って!」
四大精霊たちがヤーベを心配する。
「ま、まだ総エネルギーが高まりますの!?」
「すごいね!本当に規格外だよ。魔導戦艦を仕留めたらボクも加護をあげようかな」
闇の精霊ダータレラも光の精霊ライティールもヤーベを見つめる。
「
俺の周りの空気が振動し出し、ついに俺を中心に渦を巻き始める。
「わわわっ!ヘタするとヤーベに取り込まれちゃうよ!」
「お兄様と一つに・・・」
ウィンティアの叫びにシルフィーが恍惚の表情を浮かべる。
「バカ!お前が風の防御魔法を展開しなきゃダメだろうが!」
フレイアがシルフィーの頭を叩く。
「あ、はいはい、<
シルフィーの後ろに集まる精霊たち。
「
「うわわ・・・ヤーベ大丈夫かよ・・・」
「大地が・・・空気だけでなく大地が震えています・・・」
フレイアの心配にベルヒアが大地までが震えていると言う。
「こ、ここまでとは・・・」
光の精霊ライティールが呆然としている。闇の精霊ダータレラはすでに言葉を失っている。
「
今、俺が放てる全てのエネルギーが準備出来た。
「<
キュバァァァァァァァァァ!!!!!!!!!
ゴウッッッ!!
余りの衝撃波に風の防御すら破壊され精霊たちが吹き飛ばされる。
圧倒的なエネルギーはまばゆい光を放ち、そして消えた。
「・・・ふうっ」
俺は矢部裕樹の姿に戻ってひと呼吸吐いた。
「ぐははははっ! 奴らを殺せると思うと楽しみじゃのう!」
夜通し魔導戦艦を進めているが、リカオロスト公爵は寝る気配を見せなかった。興奮が収まらないのだろう。
ファンダリルはその姿を横で見ながら一抹の不安を覚えていた。
この魔導戦艦ヒューベリオンは三艦ある魔導戦艦の中でも最強の能力を持つと言われている。この魔導戦艦を打ち破る方法など、この世にない。
だが、あの男ははっきりと言った。
「朝日が昇る前に魔導戦艦を止めて土下座しろ。そうすれば命だけは助けてやる」
いったい何があると言うのか。こちらが王都に到着するのは約三日後。なのに、奴は朝日が昇る前に、と言った。
何か、自分の理解の及ばない何かがあるのか・・・。
「おお!見ろ!朝日じゃ!ヤツめ!何が二度と朝日を拝むことは出来んじゃ!笑わせよるわ!」
艦橋から見れば、地平線の向こうからまばゆい光が見えてきた。
「正しく!美しい朝日ですな・・・やはりヤツの言うことなど唯の世迷言・・・」
だが、ファンダリルは気づいた。今自分たちは南に向かって向かって魔導戦艦を進めている。
「ま、まさか!?」
目の前がまばゆい光に包まれていく。これは、まさか、もしかして!
ファンダリルの髪がさらさらと抜けて行った。
人は絶望すると体に急激な変調をきたすことがあるようだ。
「おお、ファンダリルよ? お主、ハゲておるぞ?」
ゴウッ!!!!!!
そして、まばゆい光が消え去った後、魔道戦艦はその姿の一片をも残すことは無かった。
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