転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第195話 救済出来るなら、どんな形でも救済しよう

 

朝の王城は慌ただしかった。

名立たる上級貴族が朝一番から王城に出仕要請があり、何台もの馬車が列を成していた。

 

議場にはすでにワーレンハイド国王とリヴァンダ王妃、カルセル王太子、カッシーナ王女が揃っており、その横にドライセン公爵、キルエ侯爵も深刻な表情を浮かべていた。

 

そこへ、ヒヨコが手紙を咥えて飛んできた。

 

ワーレンハイド国王はヒヨコから手紙を受け取り、その内容を驚愕の表情で見つめた後、ホッとしたような表情を浮かべて、隣のリヴァンダ王妃に手紙を渡した。その後宰相ルベルグや宮廷魔術師ブリッツも手紙を確認して行く。

 

「一体どうしたというのだ・・・」

 

ルーベンゲルグ伯爵は首を捻った。

 

「なにやら随分と深刻な雰囲気だが・・・」

 

タルバリ伯爵も腕を組んでその空気のヒリつきに眉を顰める。

 

「昨日は平和なスイーツ大会だったって言うのによ」

「フェンベルク卿、お主は何か知っておるのか?」

 

フレアルト侯爵が昨日行われたスイーツ大会に思いを馳せれば、ドルミア侯爵はコルーナ辺境伯に情報を求めてきた。

 

「ええ、まあ・・・」

 

「歯切れが悪いの? 何か言えぬ事でも?」

 

横で聞いていたエルサーパ侯爵が続きを促す。

 

「詳しくは国王様より報告があるかと・・・。それにヤーベ卿・・・、スライム伯爵が昨日の夜から戻っておらんのですよ」

 

「なんだと?」

「どこへ行っているのだ?」

 

「それは私にも・・・、ただ、ヤーベ卿の奥方の一人、イリーナ嬢が攫われたという話があったのですが、夜遅くにイリーナ嬢だけが狼牙に連れられて戻って来たのですよ」

 

「誘拐だと!?」

 

にわかにざわつき始めた時、

 

「皆の者、よく集まってくれた」

 

ワーレンハイド国王が話し出した。

 

「今から極めて重要な情報を伝える。昨日スライム伯爵の奥方の一人であるイリーナ嬢が誘拐された。犯人はリカオロスト公爵とその手下たちだ」

 

「なんですと!」

 

ルーベンゲルグ伯爵が血相を変える。

 

「すでにイリーナ嬢は無事にスライム伯爵の手によって救出されているので安心して欲しい」

 

一同に安堵が広がる。イリーナ嬢の無事もそうだが、スライム伯爵が怒りのまま暴れれば大変なことになるのでは、という不安に駆られた者も多かったのである。

 

「だが、事を企てたリカオロスト公爵は古の戦略兵器である魔導戦艦を復活させ、この王都に向かって出発した。その際に自領のリカオローデンの町にある自身の館を魔導戦艦で破壊している。このため、町は大変な被害が出ている」

 

「なんだとっ!」

「馬鹿な!」

「魔導戦艦など、ただの伝説ではなかったのか!」

 

様々な声が上がる中、ワーレンハイド国王は手でそれを制した。

 

「ここに招集したのは伯爵以上の我が国内でも上級貴族に当たる者達だけである。それゆえに今から伝える事は口外まかりならん。みだりに情報を漏洩した者は家名取り潰しもあると心して聞け」

 

シンと静まる議場内。それほどまでに大事な情報をワーレンハイド国王がこれから口にするということだ。

 

「復活させた魔導戦艦でリカオロスト公爵は三日後・・・実質的には二日後に王都に到着、砲撃して王家を皆殺しにすると通告してきた。そのまま魔導戦艦の戦力で持って他国も侵略、この世界の王になると宣言した」

 

「ば、バカな・・・」

 

一人の貴族が呻くように言葉を漏らす。

他の貴族たちも絶句して言葉が出ない。

正しく世界の危機であった。伝説に謳われた魔導戦艦の力はそれほどの物であった。

 

「だが、結論を伝えると、もう魔導戦艦による侵略の心配はない」

 

「どういう事でしょう?」

 

コルーナ辺境伯が疑問を呈した。今しがた世界の危機を伝えられたばかりだと言うのに。

 

「スライム伯爵が魔導戦艦の迎撃に成功。魔導戦艦ヒューベリオン及び、乗り込んでいたリカオロスト公爵と魔導戦艦の復活を指揮したであろう右腕のファンダリルという男の二人も消滅した。諜報部が確認中だが、先にスライム伯爵の使役獣が報告書を持って来てくれた」

 

「げ、迎撃・・・ですか・・・」

「消滅・・・」

 

コルーナ辺境伯とルーベンゲルグ伯爵がそれぞれ呟く。

どちらもそれなりにヤーベの力を知っているだけに、全くの荒唐無稽な話ではないとそれなりに理解を示すことが出来た。

だが、それ以外の者達からは魔導戦艦の存在そのものが本当なのかという疑義の声も上がった。

 

「それについてはこの宰相ルベルク、それから宮廷魔術師ブリッツ殿、それにドライセン公爵とキルエ侯爵が証人である。我らはリカオロスト公爵が魔導戦艦を復活させ、自領を砲撃し、王都を攻撃、世界を手にするという宣言をこの目で見ておるからのう」

 

「それで・・・スライム伯爵は?」

 

コルーナ辺境伯がワーレンハイド国王に尋ねた。

 

「魔導戦艦を迎撃したその足でリカオロスト公爵領に向かったようだ。リカオロスト公爵は魔導戦艦の砲撃で自領を攻撃している。その映像も我々は目にしたのでな。人命救助に向かったようだ」

 

「なんと・・・」

 

コルーナ辺境伯はてっきり自分の妻であるイリーナ嬢がリカオロスト公爵に誘拐されたので報復に出たのだと思ったのだが、王国に反逆の意思を示したリカオロスト公爵を魔導戦艦ごと討伐し、そのリカオロスト公爵領で被害に苦しむ人々を助けに行ったという。

 

「どこまで英雄気質なのだ・・・あの御仁は」

 

「途轍もない人物ですな・・・」

 

コルーナ辺境伯の呟きにルーベンゲルグ伯爵も呟きを重ねた。

 

「対外的には魔導戦艦の復活を秘匿する。だが、その魔力波動は大きかったため、隣国でも異変を感知している可能性もある。外交として情報収集に来る可能性もある。その場合は王家で対応するため、現状は魔導戦艦の復活とその魔導戦艦を迎撃したスライム伯爵の行動は無かった事とする。ただ、リカオロスト公爵の王国への反逆行為及び、スライム伯爵の反逆者討伐の実績のみがあった事とする。よいか」

 

「「「「「ははっ!」」」」」

 

その場に集結した貴族一同は声を揃えて返事をした。

 

「それから、リカオローデンの町の復旧及び、旧リカオロスト公爵領の管理をスライム伯爵に任せる事にする」

 

それは途轍もない破格の恩賞にも聞こえたが、誰も異議は唱えなかった。下級貴族であればスライム伯爵の躍進を妬み反対も出たやもしれなかったが、上級貴族たちはスライム伯爵の実力をそれなりに感じ取ることが出来る者達ばかりであった。そのため、この場で大きな反対は出なかったのである。

 

「それではその後のリカオローデン救済における対応について議論する」

 

会議は、被災したリカオローデンの町の復旧と旧リカオロスト公爵領を任せるスライム伯爵との連携が必要な隣領を治める貴族たちの情報交換をメインに進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

「こりゃ酷いな・・・」

 

リカオロスト公爵領、リカオローデン城跡。魔導戦艦ヒューベリオンの砲撃を受け、崩壊した城はまさに瓦礫の山であった。

 

「生きている人は一分一秒を争うな・・・」

 

俺は足元からスライム細胞をゲル状化し瓦礫の山に浸み込ませて行く。

瓦礫の隙間から侵入して行くスライム細胞で瓦礫の下敷きになっている人たちを見つけては触手で掘り出して救出を進めて行った。

近くでも冒険者たちや、衛兵たちだろうか、多くの人が瓦礫の撤去作業及び人命救助に当たっている。

そんな人たちの横で、触手を振り回し、次々と瓦礫の下からケガ人を運び出しては、並べていく。

 

亜空間圧縮収納からたくさんの毛布を出して、地べたではなく、とりあえずでも柔らかい場所で寝かせてあげられるようにした。

クソデカい建物のせいか、かなりの人が下敷きになっているようだった。

俺はとにかく、触手を増やして出来る限り迅速に瓦礫の下にいる人の救出に全力を尽くす。

見つかった人を掘り出しては毛布の上に横たえていく。

 

「なんだ、魔物か?」

「特殊魔法の使い手か?」

 

だが、黙々と触手を使って人を掘り出していくので、気味が悪いのか誰も俺に近づいてこない。だが、それでもいい。触手が不気味で後から何か言われるかもしれないし、敵認定されたりするかもしれん。それでも助けられる命は助けたい。自重?何それ?おいしいの? 助かる命を助けられるならば、俺が触手を振り回して嫌われる事など些細な事だ。

 

助け出した少女は瓦礫に押しつぶされたのか、右腕を失っていた。

すぐさま触手を失った右腕部分にくっつけて、細胞から情報を吸収、右腕になる様命令して切り離す。

右足を失っていた老齢の執事さんも触手をくっつけて右足になる様命令だ。

お腹に穴が開いてしまった若い少女のメイドちゃんも触手からスライム細胞を投入、失われた組織の代わりになる様命令する。触手で大盤振る舞いだ。自重?何それ?おいしいの? 大事な事だから二度言おう。俺様がどう思われようが助かる命に比べれば些細な事だ。

 

・・・ローガ達の様に、ハイパワー仕様になってしまったら・・・ウン、見なかったことにしよう!

まあなんだ、ハイパワー過ぎて就職先が無ければウチの館に来てもらってもいい。というか、ハイパワーメイドさんや執事さんの需要って!? そんなことが無いように祈る事にしよう。

 

そんなこんなで、リカオロスト公爵の館の下敷きになった人々は全員助け出した。

・・・残念ながらすでに亡くなっていた人や、即死だった人も何人もいた。遺体も掘り出して安置してある。

 

俺がイリーナを攫われなければ、この人たちは死なずに済んだのだろうか・・・。心がキリキリと痛む。万能なスライム細胞でも、死者ではどうしようもない。クソッたれの女神野郎が俺にチートを寄越さなかったから、どうにもならない。ラノベでよくある、チート魔法の代名詞<死者蘇生

リザレクション

>とか、使わせてくれよ、女神様。そうしたら理不尽に命を失ってしまった人たちだって笑って生き返ってくれるじゃないか・・・。きっとこの人たちだってもっともっとたくさん生きたかったはずなんだ。だけどこんなことになってしまって・・・。

 

「貴方様に感謝を・・・」

 

ふと声がした。振り返れば、若い神官がいた。

 

「多くの人々が貴方に救われております。中には瀕死だったり、手足を失っていた人々も大勢おりました。ですが、貴方の奇跡の御業で本当に多くの人が助かったのです。貴方には感謝してもしきれません」

 

そう言って膝を付き、俺に祈るように感謝を述べる。

 

「俺は、自分が出来る事をしただけだ。ただ、それだけだ。それに助けられなかった命もたくさんある」

 

俺の返答に、静かに神官は首を振った。

 

「ただ、自身が出来る事を粛々と行う事こそが尊いのです。人間誰しもが出来る事をやれるわけではないのです。むしろ、いろいろな事情や、心の持ち様で出来る事をやらない、もしくはやれない人の方が圧倒的に多いでしょう。だからこそ、貴方様の行いは尊いのです」

 

そうして、にっこりと微笑んで再び祈る様に感謝を述べる神官。

 

「お兄ちゃん、ありがとう!」

 

いつの間にか、神官の横には幼い少女が立っていた。

この子は・・・先ほどがれきの下から救い出した子か・・・右手を失っていたから、スライム触手で右手を修復したのだったな。

 

「右手の調子はどうだい?」

 

「全然痛くないよ!お兄ちゃん凄いね!倒れてきた柱に右手を挟まれて、気が付いたら右手が無くなっちゃって、すごく痛くて・・・もう死んじゃうんだって思ったら、なんだかぐるぐるーって包まれてぶよぶよーって連れ出されて、気が付いたら右手が元通りになってて、全然痛くなくて・・・お兄ちゃん凄い!本当にありがとう!」

 

ぺこりとお辞儀してお礼を伝えてくれる少女。

 

「気にしなくていいよ。俺は出来る事をしただけだから」

 

「うん、でも本当にありがとう! 私は助けてもらってとっても嬉しかったから!」

 

そう言ってとびっきりの笑顔を少女は見せてくれた。

 

「助けられた者は、みな感謝しています。なぜ、こんな事になったのか、どうしてこんな目に合わなければならないのか、思う事はあるかもしれませんが、それでも貴方に感謝しているのです」

 

俺は瓦礫の山となった館に目をやる。

 

「息子の体を掘り出してくれてありがとうございました・・・」

 

遺体を安置してある方にちらりと視線を送ると、一人の男性の遺体の横で涙を流す老夫婦がいた。

 

「息子は公爵様のお城で働けることに誇りを持っておりました。お城の倒壊で、もう二度と息子に会えないとばかり思っておりました。ですが、貴方様のおかげで、息子に最後の挨拶をすることが出来ます」

 

だが、俺は老夫婦の方へ顔を向けられなかった。

 

イリーナを攫われなければ、彼は死なずに済んだのではなかったか。

イリーナを奪われた時に、もっと冷静に対応していれば、城への砲撃などさせなくて済んだのではないか。

イリーナを取り返しに来た時、リカオロスト公爵たちを仕留めていれば魔導戦艦が起動する事も無く、館の倒壊も防げたのではなかったか。

 

俺の心の中で様々な思いが渦巻く。

 

「多くの人々が貴方様への感謝を口にしています。心優しき貴方様が心を痛められ、涙を流される事も理解は出来ますが、どうぞ胸を張り、笑顔でお救いなされた者達からの感謝をお受け取りください」

 

俺が・・・泣いている?

 

神官の言葉に初めて自分が泣いているのに気付いた。

俺はスライムだぞ? 涙なんて出るわけないじゃないか・・・。

 

俺は自分の頬に伝う液体を指で拭いながら、それでもこれは涙ではない、そう思った。

 




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