転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第196話 O・SHI・O・KIのために爆走しよう

時はしばらく遡る―――――

 

イリーナはローガの背に揺られてコルーナ辺境伯邸に帰って来た。

 

「イリーナちゃん!」

 

遅い時間でもあるのに、家の前にはルシーナたち他の奥さんズやリーナが出迎えに出て来ていた。

ローガの背から降りるイリーナをギュッと抱きしめるルシーナ。

 

「無事でよかったよぉ・・・」

 

サリーナとフィレオンティーナもさらに二人の肩を抱きしめるように手を回す。

足元をみれば、イリーナの腰にリーナがくっついている。

 

「ヤーベに助けてもらったんだ・・・。ヤーベにはたくさんの迷惑をかけてしまった。みんなにもたくさんの心配をかけてしまった・・・。私は最低だ」

 

「何を言っているのですか・・・。貴方が無事なら、何もいらないですわよ。きっと旦那様もそう言うはずです」

 

フィレオンティーナが優しく微笑んだ。

 

「ともかく家に入りましょう」

 

フィレオンティーナに促されてみんなはリビングへと向かった。

 

執事のグリードが温かい紅茶を用意してくれたので、ゆっくりと飲んで体を温めるイリーナ。コルーナ辺境伯も席につく。

 

そしてイリーナは自分がリカオロスト公爵の手の者に誘拐されたこと。ローガたちやヤーベが助けに来てくれたこと。リカオロスト公爵たちが魔導戦艦ヒューベリオンを復活させたこと。自領を攻撃して多大な被害が出ていること。三日後には王都に到着し、砲撃すると宣言したこと。この王国だけでなく、大陸全土を狙って戦争をする目的があることなどを話した。

 

「な、なんてことだ・・・」

 

コルーナ辺境伯が絶句する。

そこへ王城からの使いがやって来てコルーナ辺境伯へ早朝出仕の指示を伝える。

 

「多分、その魔導戦艦とリカオロスト公爵への対応を検討する会議だな・・・」

 

コルーナ辺境伯が出仕の説明をする。

 

「すでに、ヤーベは魔導戦艦の迎撃に向かったんだ」

 

「何ですって!?」

 

フィレオンティーナが驚きの声を上げた。

 

「ここへ戻らず、わたくしたちに相談も無くですの!?」

 

少し、フィレオンティーナが怒っているようだった。

 

「うん・・・、ヤーベはこうはっきりと言ったんだ。『朝日が昇る前に魔導戦艦を止めて土下座しないと、必ず殺す』・・・と」

 

「「え!?」」

「必ず殺す・・・ですか」

 

ルシーナとサリーナが声を上げてびっくりする。

フィレオンティーナが殺すと言う単語にひっかかる。

リーナは真剣に黙って聞いているようだ。

 

「魔導戦艦の破壊力を見たが、僅か三艦でこの大陸全土を火の海に変えたことがある伝説の兵器のようだ。そんなものが! 私が攫われたせいで復活してしまったんだ。今あの魔導戦艦を止めなければこの王都は間違いなく三日後に砲撃を受けて火の海になる。王様たちもそう言っていた。ヤーベしか止められないんだ。そして止めるということは魔道戦艦を破壊する事。それはすなわちリカオロスト公爵とその手下の男を殺すと言う事に他ならない」

 

奥さんズの面々に重く言葉が圧し掛かる。

奥さんズはヤーベがとても優しい事を知っている。自分たちを心から大切にしてくれている事も。そして思いのほか繊細で、自分たちに気を使ってくれている事も。

 

優しいヤーベが、人を殺す・・・。

 

それは途轍もなくヤーベの心に負担をかけるのではないか。

戻ってこないヤーベをみんなは心の底から心配した。

拠点防御とはいえ、ローガですら自分の手元から離脱させている。

自分一人で、人を殺す、そういうつもりだと奥さんズの面々は理解した。

 

「追いたくても、場所がわかりません。それに、魔導戦艦と戦うと言う事ならば、わたくしたちが近くにいては邪魔になる可能性が高いですわね。今は休みましょう。そして朝日が昇る前に起きます。旦那様が戻って来るのを起きて待ちましょう」

 

「そうね、イリーナちゃんも疲れているだろうし、今は休もう?」

 

「うん・・・」

 

「イリーナおねえしゃま!今日はリーナと一緒に寝るでしゅ!リーナとギュッして寝れば元気モリモリでしゅ!ご主人しゃまもよく褒めてくれましゅ!」

 

元気のないイリーナをリーナが励まそうとしているのか、みんながほっこりした。

若干、ヤーベがリーナに対して寝る時に何をして褒めているのか、後でキッチリ問い詰めようと思いながら。

 

 

 

 

夜明け前―――――

 

奥さんズの面々は揃って目を覚ましていた。ゆっくり眠れている者は一人もいなかった。

すでにコルーナ辺境伯は先ほど王城へ出立して行った。

 

「ヤーベ・・・」

 

イリーナがまだ太陽の昇らぬ暗い北の空を見つめて呟く。

ヤーベは魔導戦艦の迎撃に向かった。であるならば、ヤーベは北に向かったはずである。リカオロスト公爵領が北にある以上、魔導戦艦は北からこの王都に向かっているはずだからである。

 

全員は二階のバルコニーに出ていた。夜明け前なので、まだ空気は凛として肌寒さを感じる。だが、誰も部屋に戻ろうとは言わなかった。

 

皆が固唾を飲んで帳が晴れぬ東雲の空を見つめている。

 

ふいに、

 

「こ、これはっ!?」

 

フィレオンティーナが感じた魔力の圧倒的な波動!

 

「旦那様の魔力!これほど離れていても空気を震わせて伝わって来る・・・?」

 

余りの規格外さに、なぜ感じられるのかわからないほどに混乱しながらも、感じた魔力が間違いなくヤーベのものだと確信するフィレオンティーナ。

 

そして、まばゆいほどに溢れ出る光、そして閃光。

やがて、それらはカスミのように消えて失われた。

代わりに暁の空に、緩やかに朝日が昇って行くのが見えた。

 

「さすがは旦那様ですわ・・・」

「どうしたフィレオンティーナ?」

 

フィレオンティーナの呟きにイリーナが反応する。

 

「たぶんですが、もう終わりましたわ」

 

「「え!?」」

 

ルシーナとサリーナが声を揃えて驚く。

 

「もう・・・魔道戦艦を打ち墜としたと言うことか?」

 

「ええ」

 

フィレオンティーナがにっこり微笑んだ。

 

 

 

 

だが、事態は思わぬ展開を迎えた。

 

「・・・旦那様が戻ってこない?」

 

戻って来たのはヒヨコ隊長とその部下だけであった。

 

「・・・どういうことですの?」

 

だいぶ剣呑な雰囲気を出し、ヒヨコ隊長に詰め寄るフィレオンティーナ。

ヒヨコ隊長がビビり始める。

 

「魔導戦艦ヒューベリオン発進時にリカオロスト公爵領の主都リカオローデンの自身の館を砲撃、多数の死傷者が出ていると見込まれております。その救援に向かったものと・・・」

 

「貴方やローガ達を置いて?」

 

「ははっ・・・」

 

ヤーベはヒヨコ隊長たちにもついて来るなと命令して、一人でリカオロスト公爵領に向かったと言う。

 

「ふみゅう・・・ご主人しゃまには助けが必要でしゅ!」

 

見れば、リーナが握りこぶしを掲げて力強く宣言していた。

 

「ど、どういうことです?」

 

ルシーナが首を捻る。

 

「たぶん、旦那様はイリーナさんのため、わたくしたちのため、この国の人々とのため、ひいては世界のために、魔導戦艦の迎撃しました。すなわち、リカオロスト公爵とその部下の二人を殺したということ。今まで話に聞く限り旦那様は人を殺したことは無かったはずです。どうも旦那様はとても甘いところがあり、人殺しというもの自体に嫌悪感を抱いておられる所がありましたから」

 

「確かにな・・・」

 

イリーナもそれは感じていた。自分を助けに来てくれた時、それでもゲスガーを殺さなかったヤーベをとても好ましく思えた。

 

「ですが今、二人を殺したことを自分のせいの様に感じているのでしょう」

 

「そんな!」

 

「そして、自分の使役獣やわたくしたちを遠ざけて一人でリカオロスト公爵領に向かったということは、人を殺したと言う結果だけを罪として感じ取り、自分の心だけで背負う事にしようとしているのでしょう。わたくしたちを心配させない様に」

 

フィレオンティーナが断定するように言う。

 

「ヤーベ・・・」

 

イリーナが北の空を見つめる。

 

「ですが!」

 

いきなり大きな声を上げるフィレオンティーナ。

 

「ど、どうした?」

 

「それは優しさを通り越して少々傲慢ではありませんでしょうか? つまりはわたくしたちの力を信じず、わたくしたちに頼らず、自分だけの心で処理しようとなさっていらっしゃる。なぜわたくしたちを頼って頂けないのでしょう?なぜわたくしたちと共有していただけないのでしょう?」

 

「確かに・・・そうだ」

 

イリーナの目も細く剣呑な雰囲気を醸し出す。

 

「かつてイリーナ様は王城で暗殺者に襲われた時、わたくしたちも共に重荷を背負うと宣言されたではありませんか」

 

「ああ、そうだ」

 

「それをないがしろにされているとは思いませんか?」

 

「思う・・・思うぞ!」

 

段々ボルテージが上がってくるイリーナ。

 

「これは・・・O・HA・NA・SHIが必要ですわね・・・」

 

そういってどこからかムチを取り出すフィレオンティーナ。

 

「生ぬるいぞ、フィレオンティーナ!」

 

「え?」

 

「必要なのはO・HA・NA・SHIではない! O・SHI・O・KIだ!」

 

「「ふえっ!?」」

 

イリーナの豹変にフィレオンティーナが目を丸くし、ルシーナとサリーナが驚きの声を上げる。

 

「ご主人しゃまにオシオキでしゅ!」

 

だが、まさかのご主人様命であるリーナがオシオキ敢行にGOサインを出したことで、奥さんズ全員に結束の輪が広がる!

 

「「「「「お―――――!!」」」」」

 

今ここにヤーベO・SHI・O・KI隊が結成された瞬間であった。

 

 

 

「さて、後はどのようにリカオロスト公爵領に向かうかですわね」

 

フィレオンティーナが顎に手を当てて考え込む。

真面に普通の馬車で向かえば一週間近くかかる距離だ。

 

「ローガ、我らを乗せて行け」

 

イリーナがいきなりローガに命令する。

 

『乗せて行くのは構わぬのですが・・・、飛ばせばその風圧は途轍もない力となりますぞ?』

 

「むう・・・」

 

なぜかコミュニケーションが取れているイリーナとローガ。

 

そこへ

 

「おう、早いの、嬢ちゃんたち」

 

やって来たのは鍛冶師のゴルディンであった。

 

「ゴルディン殿・・・そのデカイ馬車はなんだ?」

 

「これか? これはヤーベに頼まれた特注馬車だよ。すごいな、アイツは!この板バネ?って奴か、金属の板を何枚も重ねて弾性を生むなんざ、とんでもねえアイデアだ。フレームとその補強に金属を使っているが、金に糸目を付けねぇってんで、軽量化のためにミスリルを使っているぜ。強度も抜群で、風の魔石によって空気抵抗を減らしスピードが出やすいようにもしてあるぞ」

 

「それをくれ!すぐにくれ!」

 

イリーナに胸倉を掴まれ咳き込むゴルディン。

 

「く、くれもなにも、ヤーベの発注だから、納品に来たんだよ。金貨二千五百枚も前払いで貰っているしな。出来たら早く持って来てくれって言われていたから、日が昇ったならいいかと持ってきたんだ」

 

「ローガ!牽けるな!」

 

『もちろんです! これなら夕方までについて見せましょうぞ!』

 

「みんな乗り込め!ヒヨコ隊長!部下に先行させて、道の状況を確認してこちらに情報を流せ! 行くぞ!」

 

「「「「「お―――――!!」」」」」

 

ローガに特注馬車(ローガが牽くので狼車だが)をつなぎ、バタバタと乗り込む奥さんズとリーナ。

 

「さあ、ヤーベをO・SHI・O・KIに出発だ!」

「「「「お―――――!!」」」」

 

凄まじいスピードで特注狼車が走り出して行く。

 

「な、なんじゃったんだ・・・」

 

ゴルディンはその場に呆然と立ち尽くした。

 




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