転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
俺は、瓦礫の下へ隅々まで広げたスライム細胞での生体反応捜索を終了した。亡くなった人の遺体も含めても、瓦礫の中に取り残された人はいない。気が付けば少しずつ夕暮れに向かっていた。空が黄昏時を示すかの如くオレンジ色に染まって行く。
天気が良くてよかった。建物にダメージのあるところが多い。教会も倒壊してテントを張っていたしな。雨だと負傷者には辛いだろう。
俺は触手を使って埋もれていた財宝を掘り出す。
大事な物は持ち出されているようだが、それでも金目の物がたくさん残っているようだ。
これらは全てこの街の復興に当ててもらおう。
ワーレンハイド国王なら文句を言わないとは思うが、リカオロスト公爵の財宝を国で回収、管理すると言ったら、もう一度埋めてしまおう。これらはこのリカオローデンの街に住む人たちが享受すべき物だ。
それにしても、結構金塊や金貨が残っている。魔道具などのマジックアイテムを持って行ったのか?それとも美術品か? まあ、すでに木端微塵だか消し炭だか知らんが、この世にはないだろうから、どうしようもない。どちらかと言えば、金塊や金貨の方が使いやすいからありがたいと考えよう。
さて、重傷者の回復は対応済だが、軽症者は後回しにしていたしな。教会を訪問して様子でも見るか。
「どこへ行かれるのです?」
不意に声がした。
振り向けば、なぜかフィレオンティーナがそこにいる。
「フィレオンティーナ・・・? なぜここに?」
「ヤーベ、覚悟は出来ているか?」
フィレオンティーナの後ろからイリーナが横にズレて姿を現す。
「か、覚悟?」
「そうですよ、覚悟です」
「ふっふっふー、ヤーベさん、覚悟してね!」
見ればルシーナとサリーナの姿も。みんなが覚悟覚悟と迫って来る。何のコト?
「ふおお―――――!ご主人しゃま―――――!!」
いきなり俺の腰にトツゲキしてきたのはリーナだ。お前まで来たのか。
「ご主人しゃま! リーナはご主人しゃまをお救
しゅく
いするためにオシオキしゅることにしたでしゅ!」
「んんっ?」
俺を救うために、オシオキって、どういうことよ?
「旦那様、旦那様はご自身で全てを背負いすぎです。わたくしたちはそれほど頼りになりませんか? わたくしたちも旦那様のお力になりたいのです。癒して差し上げたいのです。危険を想定して安全な場所に置いていただけるのも旦那様の優しさですが、わたくしたちの知らぬところで旦那様が辛く苦しまれるのは、とても容認できるものではありません」
フィレオンティーナが泣きそうな表情で語る。
フィレオンティーナの顔を見ると、心が締め付けられる。俺は、何を間違えて彼女にこんなにも悲しい顔をさせてしまったのだろうか?
「ヤーベ、私はお前の辛さも、苦しさも分かち合いたいと言ったはずだ。それはダメなのか?私ではヤーベの力になれないのか?私たちではダメなのか?」
今にも泣き出しそうに眼を潤ませるイリーナ。
そしてルシーナとサリーナは腰に手を当ててプンプンしている。
「私たちにこんなに心配かけて」
「いーっぱい言う事聞いてくれないと許さないぞー」
如何にも怒ってマスとアピールする二人。
そして、俺の腰にガシーンと合体したリーナもお得意の高速顔グリグリで俺にアピールする。
「ご主人しゃまにはリーナが一杯オシオキするでしゅ!」
にへへーととてもいい笑顔で下から俺を見上げながら、くっついて離れない。
「そうか、俺をオシオキするのか。リーナも偉くなったな」
そう言ってリーナの頭をナデナデしてやる。
そうするとリーナは、にぱっとさらに輝く笑顔を見せたかと思うと、すっと俺から体を離す。
「ん?」
ヒュパーン! くるくるくる! ビシッ!
「はれっ?」
なにやら、いつのまにかムチでぐるぐる巻きにされていますが・・・
このムチの動きを見切ってリーナが俺の体から離れたのであれば、リーナ恐るべし!戦闘能力開花!?
「さあ、旦那様。わたくしたちの怒りがご理解いただけましたところで、O・SHI・O・KIタイムに移らせて頂きますわ」
「ええ――――! なんでなんで!?」
「何でもなにも、どれほどわたくしたちが旦那様を心配したと思っていらっしゃるのです?」
「そうだぞ、ヤーベ。私たちはヤーベを心配し過ぎて疲れてしまうくらいなんだ。その責任を取ってたっぷり私たちに尽くしてもらうぞ?」
そう言ってズルズルと引きずられていく俺。
「え――――!? よし、分かった黄金竜の皮で作ったハンドバッグをみんなにプレゼントしよう!」
ブランド物?で気を引く作戦だ! ところが・・・。
「「「「「・・・・・・」」」」」
全員がジトッとした目で俺を睨んでいる。
まさかのリーナまでジト目とは!?
これは心に来るものがある! ジト目ファンの自虐趣味は俺にはない! ただ辛いだけだ!
「旦那様は、物を与えればわたくしたちが喜ぶとでも?」
フィレオンティーナの底冷えするようなジト目にチビリそうになる俺。オシッコでないけど。
「ヤーベ様からのプレゼントはとても嬉しいのですが、今は違うと思いますよ?」
ルシーナが笑顔で教えてくれるが、その笑顔は死の天使を連想させた。
パシーン!
見ればフィレオンティーナがムチを振るっている。
あれ?俺をぐるぐる巻きにしているのもムチでしたよね?
もしかして二本目ですかぁ?
「さ、崩壊した教会でも、まだ懺悔室の一部が使えるそうですわ。そこをお借りしてきましたので参りましょう」
そう言って爽やかな笑顔を浮かべるフィレオンティーナ。だが俺は感じる、その爽やかな笑顔の下に極寒のブリザードが吹き荒れているのを!
「やめれ~~~~助けれ~~~~」
だが俺の慟哭も虚しく、ズルズルと引きずられていき、教会の懺悔室に押し込まれた。
これから恐怖のO・SHI・O・KIタイムの始まりらしい。
どうやら俺は一人で抱え込み過ぎたようだ。
自分が行動を起こす前に奥さんズに相談すればよかったかな。
でもいい奥さん達だから、きっと「自分も自分も」って言うんだよな。そんな奥さん達に精神的な負担や辛さ、苦しさを押し付けるなんて、やっぱり俺には出来ないな。だけど、説明しなかったら俺がいないことですごく不安になり、それが負担になる。
だから、これからはたくさんコミュニケーションをとって行く事にしよう。
俺の考えを伝え、奥さんたちの考えを聞く。考えが違っていてもそれでいい、妥協点や、変化点を探って、一歩一歩前に進んで行こう。この素敵な奥さん達と共に!
「さて、覚悟は良いですか? 旦那様」
フィレオンティーナがムチを持って俺に聞いてくる。
「あ、自分の中ではいい感じにまとまったんで、もう勘弁してもらえるとありがたいかな?」
「何が自分の中ではいい感じですか! 旦那様は勝手すぎます!」
そう言って一度ムチのぐるぐるを解除したかと思うと今度はフィレオンティーナ自身も巻き込んで俺を一緒にムチでぐるぐる巻きにする。フィレオンティーナに滅茶苦茶ギュッと抱きしめられているんですが?
「旦那様はわたくしたちをこんなに心配させて悪い人です・・・。だから、しっかりと拘束してもう悪いこと出来ない様に反省してもらいます!」
そう言って俺の横顔に自分のほっぺをすりすりしながら、そんなことを宣うフィレオンティーナさん。O・SHI・O・KI? GO・HO・U・BIの間違いでは!?
そう言って十分程度、耳元でフィレオンティーナからどれだけ俺の事が好きか、どんなところが好きか、延々と呟かれた。耳元で甘い吐息を混ぜながら呟かれると、確かにGO・HO・U・BIだけではなく、違う意味で攻められている気がしてくる。恐るべしフィレオンティーナ!
次にイリーナが抱きついて来た。サバ折りかますかの如くぎゅうぎゅう締め付けてきたので、マジで死ぬかと思った。無敵スライムボディーもなぜかイリーナにかかると死にかかるから不思議だ。
イリーナからは俺からやる事の相談が無いから、寂しいし心配すると文句を言われた。その後、自分が誘拐されたからヤーベが人殺しをしなくちゃいけなくなったから、全部自分のせいだと何故かイリーナがギャン泣きした。
・・・おかしくね? 泣きたいのはこっちだっつーの!
イリーナを宥めたら今度はルシーナが抱きしめてきた。
カッシーナ王女との結婚式も控えている事だし、ちゃんと両親に挨拶して欲しいとのことだが、逃げ回っているのはフェンベルク卿だからね?俺悪くないからね?
サリーナもぎゅっと抱きしめに来てくれたが、サリーナのハグは優しめだった。ありがたい。無敵スライムボディーでも死にかかるとか、マジで勘弁してもらいたい。
サリーナはカソの村のザイーデル婆さんに俺の奥さんになる事を手紙で伝えたらしい。そうしたら、先日ザイーデル婆さんから手紙の返事がきたとのことだ。結婚おめでとうの言葉の他、カソの村が奇跡の野菜で大儲けして空前の経済ブームが到来しているらしい。その他、村長の息子が結婚したことなども書かれていたようだ。神殿(俺のマイホームね)ではカンタやチコちゃん、そのお母さんが住み込みで働いてくれているらしい。ヒヨコ隊長からも自分の祖父であるヒヨコの長老を住まわせたいと相談もあって許可しておいたが、どうやらカソの村は大幅に発展しているようだな。コルーナ辺境伯もホクホクだろう。一度様子を見に行きたいものだ。
錬金のお手伝いを約束させられてサリーナが離れると、なぜかリーナが「ふおおっ!」と抱きついて来た。そういえばリーナも俺にオシオキするって張り切っていたからな。
抱きついてきたリーナはスルスルと俺の頭に登って肩車のような位置に座ると、俺の頭をギュッとした。
「今日は一日ずっとリーナと一緒でしゅ!」
「ん? 俺の肩にずっと乗ってるの?」
「ハイなのでしゅ! ご主人しゃまを癒しゅために、頭をギュってして、一杯なでなでするでしゅ!」
そう言いながら俺の頭だけでなく顔も撫で繰り回すリーナ。
「あらあら、リーナちゃんが一番旦那様と一緒にいられるわね?」
フィレオンティーナがしょうがないわね、と言った感じで俺の肩に乗るリーナの頭を撫でる。
「にへへー」
リーナはきっと笑っているだろう。
見れば奥さんズのみんなも笑っていた。
最初俺がここにいたのを見つけた時とはえらい違いだ。
俺はこの笑顔を守るためにこの世界で生きて行く。そう、思った。
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