転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
四日目の朝、俺は朝日が昇ってしばらく、ゆっくりと目覚めた。
「ふああ~、懺悔室よりは広くて朝日も入る様にしてもらったから快適だけどね」
一人つぶやく。
もちろん周りにはとぐろを巻くように俺を中心に奥さんズとリーナが寝ているが。みんなイイトコのお嬢さんのはずなのに、俺なんかを好きになったせいでこんなところで雑魚寝を強いられて、辛くないのかと昨日の夜聞いてみたら、みんな揃って生活が楽しい、幸せだなんて言う。
もう足を向けて寝られない!と思うのだが、俺を中心に360度全方位でみんなが寝ているため、それすらままならない。いいベッドを買ってゆっくり休もうと思うのだが、カソの村のマイホーム(神殿)といい、王都の館といい、決まってすぐ次の所へ行って仕事ってなんなの?マイホームでゆっくりさせてよ!
一人でブツブツ言っていたせいか、みんなが目を覚まして起き始める。
「ふぁぁ・・・ヤーベおはよう・・・」
イリーナを皮切りにみんなが目を覚ましていく。
「おはようみんな。それじゃあ朝食の準備をしようか」
今は教会の懺悔室から出て、ベルヒア姉さんの力を借りて作った家で寝泊まりしている。
リカオロスト公爵の館跡の横にとりあえず立てて、ここを拠点にしているのだ。
「さーて、朝はマンマミーヤの炊き立てパンと、ポポロ食堂の揚げたてコロッケを使ったコロッケパンでも・・・」
「あら、朝から揚げ物ですの? 野菜も欲しいところですわね」
フィレオンティーナが俺の用意している食材を見ながら希望を伝えて来る。
ぶっちゃけ、炊き出しは保存のきく食材を煮込みにして作っているから、俺が亜空間圧縮収納から取り出した焼き立てパンや揚げたてコロッケなんで、超贅沢品に該当すると思われるのだが。さらに新鮮な生野菜もご所望ですか。ならば出しちゃおう。
「はい」
そう言って取り出したのは巨大なキャベキャベ丸ごと一玉とトマトマだ。
「でかっ!?」
フィレオンティーナがびっくりする。無理もなかろう。何といってもこれは今大人気のカソの村で取れた奇跡の野菜!
え、なんでカソの村の奇跡の野菜がこんなに新鮮な状態で手に入ったのかって?
先日、というかしばらく前に、ヒヨコの一団に出張用ボスを持ってカソの村に出向いてもらったからなのだ。もともと神殿が出来てからは奉納という形で野菜が神殿に運ばれていたのだが、倉庫もすぐ一杯になってしまった上に、俺達がすぐ戻れなくなってしまったので、村のみんなで食べる様にと伝えていたのだが、村長から何とかぜひ食べてもらいたいというお願いもあって考えたのが、ヒヨコたちに出張用ボスを持って行ってもらう事だった。
ローガ達の狩りに持たせていた出張用ボスだが、こいつは亜空間圧縮収納につなげる能力を持たせてある。そのためカソの村の倉庫に置いておけば、倉庫に運ばれて来た奇跡の野菜をどんどん亜空間圧縮収納に収納できる。
おかげでおいしい野菜が食べ放題だ。
「すごい野菜ですね・・・」
「精霊たちの加護がある野菜だからね」
「そうだ、旦那様。朝食につける飲み物はどういたしましょう?」
フィレオンティーナが俺に尋ねる。
初日は忙しかったから、奇跡の泉の水をそのまま飲んだな。
俺はコーヒー持ってないし、執事のグリードさんから教えて貰った紅茶セットは少々時間がかかる。
「あ、そうだ。朝にぴったりの飲み物があるよ」
そう言って俺は亜空間圧縮収納から大き目の樽を出す。
「お酒・・・の樽ですか?」
「そうなんだけど、中はお酒じゃないんだ。ミノ乳・・・いや、ミルクと呼ぶか。白い飲み物でね、栄養満点でおいしいよ」
そう言って奥さんズの面々がいつも使っているマグカップにそれぞれミルクを注いでいく。
マグカップに注がれた白い液体を不思議そうに覗き込みながらフィレオンティーナが一口恐る恐る飲んでみる。
「おいしいっ!甘くて爽やかで後味もスッキリです!」
「喜んでもらえてよかった」
イリーナやルシーナ、サリーナもおいしそうに飲んでいる。リーナもミルクを一気飲みで「お代わりを所望しゅるのでしゅ!」と元気いっぱいだ。
「たくさんあるから、どんどん飲んでいいよ」
そう言ってお代わりをマグカップに注いでやる。
「ああ―――――!!」
「ど、どうしたのです?」
突然叫び声を上げた俺にフィレオンティーナが怪訝な表情をする。
「ミノ娘たちの事を忘れてた!!」
「ミノ娘?」
不意に剣呑な雰囲気を出しながら問いかけてきたイリーナ。だが、俺はこの時ミノ娘達を完全に忘れていて、テンパってしまい、その雰囲気に気づけなかった。
「ミノタウロスハーフの娘達でね・・・可哀そうな境遇だったから助けたんだけど、お礼にその娘達のお乳をもらってね。それがこれなんだけどとってもおいしくて! そう言えば彼女たちを迎えに行くって約束してたっけ・・・」
「ほう・・・お乳をな・・・」
この時振り返ったらきっと夜叉のオーラが見えていた事だろう。だがテンパったままの俺はまだ気がつかない。
「その娘達、何人くらいいらっしゃいますの?」
フィレオンティーナががムチを取り出しながら聞いて来たのだが、もちろんテンパったままの俺はそちらに目を向ける余裕が無かった。
「30人くらいいたかなぁ。みんないい(素直な)子たちだよ」
「そうですか、みんないい(綺麗で順応な)子たちなんですの・・・」
俺は空を見上げながら言ったもんだから、フィレオンティーナの髪の毛が魔力オーラで渦巻いているのに気がつかなかった。
「このお乳って・・・その子達から搾るんですの?」
ふいに、無邪気を装い、バクダン級の問いかけを放つルシーナ。あくまでも、自然な流れの中で・・・。
隣でサリーナがものすごい顔をしてルシーナを見ていた。
リーナは何故かプルプルして泣きそうになっている。
だが、テンパり中の俺はその全ての信号
シグナル
を見落としてしまった。
「そうだよ? なんだか出が悪いと痛くて具合が悪くなって苦しいみたいでね。俺に助けを求められたから頑張ったんだけど、とっても上手だって褒められてね・・・」
俺は、
不意にイリーナが俺の左手を握手するように掴んだ。
「ん?どうしたイリーナ?」
グシャリ!
「ぎょわっ!?」
ち、千切れた!? 文字通り、俺の左手が親指を残して千切れた!
無敵スライムボディのこの俺の手を!?
というかイリーナよ。一般人だったら事案が発生しているぞ?
はたと見れば、ズラリと揃う夜叉の群れ、いや般若か?鬼か?まあその類のものだ。
「あ、あれ・・・? どうしたみんな・・・?」
千切れた指四本の組織がまるで般若から隠れる様に俺の手にひゅんと戻って来る。細胞がビビっているのが伝わって来る。
「お、怒っていらっしゃりますか・・・?」
「ヤーベ様・・・」
ルシーナが微笑む。だが、その目はハイライトが消えていた。
「ギルティです」
そうして後ろ手に持っていた巨大な死神の鎌を構える。
おかしいだろ!ルシーナの身長より長い死神の鎌が見えて無かったって!どっから出したの、それ!?
ブウンッ!
「うわっ!」
本気だ!本気で俺の首を狙って振ったよ、ルシーナちゃん!
「錬金!硫酸弾!」
ピュピュピュピュン!
ジュワ―!!
「うぎゃー!!」
俺の表面が溶ける!? ウソ!? サリーナちゃん何開発しちゃってるの!?
痛くないけど、感覚的恐怖が俺を襲う。
シュルルルル!
ムチが俺の首に絡まる。
見ればフィレオンティーナが、凍り付くような笑みで俺を見つめながらゼロ距離まで歩いてくる。
「やあフィレオンティーナ、ちょっとだけ話を聞いてもらえると・・・」
「<
俺の胸に手を当ててそんな呪文を放つフィレオンティーナさん。
「フギャギャギャギャ!!」
全身を駆け巡る稲妻のような衝撃!俺はうる星〇つらの主人公の気持ちが今、分かった!
プシュ~と煙を噴く俺の体。
「ご主人しゃまは・・・ご主人しゃまは・・・リーナを裏切って捨てるおちゅもりでしゅ・・・」
ポロポロと泣きながら何故か右手の手のひらを俺に向けるリーナ。
そしてリーナの中の魔力が溢れて爆発する。
ゴウッッッ!!
リーナの髪が逆立ち、魔力が溢れ出す。
「リーナ、誤解だよ? 俺がリーナを捨てるわけないじゃないか・・・」
だが、俺の声は今のリーナには届かないようだ。
「深淵に眠る闇の爆炎よ!黒き魔の力を持ちてその翼を広げ、敵を焼き尽くす業火となれ!!」
リーナよ! 俺は敵じゃないぞ! 後ソレ、すっごい闇の魔法臭いけど、大丈夫か!?
「<
ドゴォォォォッ!!
まるで竜巻のような炎の火柱が俺を包み込む。
「うっぎゃ―――――!!」
燃える!溶ける!蒸発する! リーナの放った<
だが、いや、マジでリーナよ、俺死んじゃうから! このままだとマジで死んじゃうから!
「<
辛うじて魔力を纏い一部の表面だけの蒸発に留める俺。
だが、全身からは黒い煙をプスプスと噴き、ボロボロになっている。
「ご、ごめんなしゃい・・・」
俺はぺこりと頭を下げると、ドウッと仰向けに大の字に倒れた。
異世界にて、初めての完膚なきまでの敗北。
俺の奥さん達は・・・強かった。ガクッ。
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