転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第203話 折角だからカッシーナも連れて来る事にしよう

 

「あ、あれ? なんだここ!?」

「すごーい!」

 

カンタとチコは転移の門(どこ〇もドア)をくぐった先の世界に驚きを隠さなかった。

 

そしてザイーデル婆さんたちを連れて「転移の門」を再びくぐる。

そこはもちろんミノ娘達の村だ。戻れるように「出張用ボス」を置いていったからね。

ルシーナのリングをゲートにできなくもないけど、きっと驚くだろうからね。

 

でも大勢いきなり現れたからか、やっぱり驚かれた。

 

「ヤーベ・・・その人たちは?」

「どうして急に現れたのでしょう?」

 

イリーナとルシーナが首を傾げる。

 

「お、お婆ちゃん!」

 

「おお、サリーナ、でかしたね!」

 

「お婆ちゃーん!」

 

泣きながらザイーデル婆さんに抱きつくサリーナ。結構長い時間ザイーデル婆さんと離れていたからな。

 

「精霊神ヤーベ様の御心でいきなりお前に会うことが出来たよ。全くお前さんの旦那様はとんでもないお人だよ・・・あ、人ではないのかい?」

 

「もう・・・お婆ちゃんは相変わらずね! 見て見てお婆ちゃん! 私、こんなすごい人たちと一緒にヤーベさんの奥さんになれるんだよ!」

 

イリーナやルシーナ、フィレオンティーナを指して満面の笑みで微笑むサリーナ。

横でリーナも全力で手を振っているのはご愛敬だ。

 

「そうかい。ヤーベ殿にけしかけた私も間違っていなかったようだね。そしてサリーナもよく頑張ったね。だから、今の位置があるんだろうさ。誇っていい事だよ、これはね」

 

「お婆ちゃん・・・」

 

なんだかいい感じになっているな。ならばここでもう一人の奥さんズメンバーを呼んできた方がいいか。後で私だけ除け者に、キィィ!とイリーナ化されてもたまらんしな。

 

おっと、先にミノ娘達の受け入れを準備してもらうべく、王都の館に連絡しておかねば。

 

早速「どこ〇もドア」を取り出し、ガチャリと開けて扉をくぐる。

行先は俺の王都の屋敷の執務室だ。

 

執務室についた俺は執務室の扉を開け、廊下に出る。

 

「うおっ!」

 

いきなり俺が執務室から出てきたので、執事長のセバスチュラ・イクウィットが声を上げて驚いていた。。

 

「だ、旦那様、いつの間にお戻りに!?」

 

「はっはっは、驚かせてすまんね。今後は玄関から帰らずに、神出鬼没に帰ってきたり、いなくなったりするかも」

 

「はあ・・・心臓に悪いので、なるべく事前にご連絡を頂きたいものですが・・・」

 

「はっはっは、善処しよう・・・ところで、実はお客さん・・・というか、身内になる連中・・・というか、メイドさんのお友達・・・というか、30人以上の女性をしばらく屋敷に住まわせたい」

 

「・・・それはまた、何と申していいやら・・・」

 

執事長セバスの顔が困った人を見るような目になった。

うん・・・、俺もあまり言い訳できないから困るけど。

 

「実は、ミノタウロスハーフと言う亜人の少女たちが中心だ。双子を産んだばかりの女性や、5人くらいは小さな子供もいる」

 

「・・・だいぶお盛んな事で」

 

「いや、俺の子じゃないから!」

 

「・・・・・・」

 

ジトっとした目で俺を見るセバス。

コホンっと咳ばらいをして説明する。

 

「つらい境遇の子達でな。我が家でしばらく保護する。そのうち、彼女たちが仕事しながら生活できる村を構築するので、それまでの間借りのようなものだ。ただ、彼女たちは体が大きめなのでな、一階の奥の大部屋を開けてやってくれ。床に直接寝具を引く形で対応すればいいから、数が足らなければ買い足しておいてくれ」

 

「わかりました」

 

俺はセバスに受け入れの準備を任せると、執務室から次の行動に移る。

 

『カッシーナ、聞こえるか?』

 

カッシーナに念話で連絡を取る。

 

『は、はははいっ!聞こえます!』

 

バタバタ、ドタンとまるでベッドから落ちるような派手な音が聞こえたかと思うと、カッシーナからの応答があった。

 

『今は自室か?』

 

『はい、もうすぐ夕食ですので、食堂に出る準備をしようかと・・・』

 

『無理ならばいいのだが、今奥さんズの面々やカソの村の数人、その中にサリーナの祖母もいるんだが・・・、まあ後、他に俺の仲間になるメンツも含めて、バーベキューの準備をしていてな』

 

『う、羨ましいですぅぅぅぅぅ!! 私も!この籠に捕らわれた小鳥を助け出してくださいまし!籠の鳥もちゃんとエサをやらないと死んでしまうと思うんです!』

 

意味不明な事を捲くし立てるカッシーナ。だいぶストレス溜まってる?

 

『それで、よければこっそり抜け出せないかなと。俺が迎えに行くから』

 

『わかりました!大丈夫です!』

 

そう叫んだかと思うと、ドタドタとけたたましいし音がして、ドバンと扉が開けられた音が聞こえる。

 

「レーゼン!レーゼン!」

 

「はっ!いかがしました姫様?」

 

「今から瞑想に入ります」

 

「・・・はっ?瞑想・・・ですか?」

 

「そうです、瞑想です。非常に重要な事です。私の瞑想が終わるまで何人たりともこの扉を開けてはなりません。私の瞑想を邪魔する者は処罰すると伝えなさい」

 

「また、急にどうしたのです?夕食はいかがなさるおつもりですか?」

 

不審に思ったレーゼンではあったが、姫の話の続きを聞きながら今後の流れを確認する。

 

「夕食も不要です」

 

「は?夕食を召し上がらないのですが?」

 

「ええ、不要です。とにかくこれから瞑想に入ります!絶対に邪魔をしない様に!」

 

そう言って扉を閉めようとするカッシーナを引き留めるレーゼン。

 

「それで? いつまで瞑想されるおつもりですか?」

 

ジトッと睨むレーゼン。どうやらカッシーナの瞑想には何かあると感づいたようだ。

 

「い、いつまで・・・?」

 

カッシーナは頭の中で素早く計算する。

バーベキューに呼んでくれると言う事は、大勢で夕食をとるつもりだろう。

食事が終わったら帰してもらえれば、遅くとも日付が変わることは無い。

だが・・・

 

「うっ!」

 

思わずレーゼンが呻く。それほどにカッシーナはその端整な顔を大きく歪めてニヤリと笑った。

 

「(食後に、ヤーベ様と二人だけで、会いたいと・・・いや、寝室で逢瀬すれば・・・!)」

 

並々ならぬエネルギーを漲らせながら、歪めた顔を戻し、端正な王女の顔立ちに戻る。

 

「明日の朝日が昇るまでです」

 

「アウトォッ!」

 

レーゼンがカッシーナの右手を掴む。

 

「きっとどういう方法かは知りませんが、ヤーベ様に夕食でも誘われたのでしょう! だから抜け出したのがバレない口実に瞑想するから部屋に入るなと言ったんですね!」

 

後ろに控える王女専属のメイド、エマとメイもやっと得心が言った。

カッシーナ王女がいきなり瞑想をして部屋に引きこもるから扉を開けるなと言い出したので、どうしたらいいか悩んでいたのだが、レーゼンの看破した内容に納得できたのだ。婚約者である愛しのヤーベ様に会いに行くつもりだったのだと。

 

「いいい・・・いや・・・、そ、そんなことは無いですよ?」

 

目を挙動不審なほどくるくると回しながら、脂汗をダラダラと掻くカッシーナ。どこからどう見てもアウトである。

 

『すまんな、レーゼン。俺がカッシーナを食事に誘ったばかりに』

 

脂汗を流しまくるカッシーナ王女の頭からヤーベの声が聞こえて来た。

 

「ヤーベ様・・・カッシーナ王女様は大変大切な身でございます・・・みだりにこっそりお誘い頂くのはご遠慮願いませんでしょうか・・・」

 

溜息を吐きながらボヤくレーゼン。

 

『すまんすまん、それにしてもこれほどカッシーナの言い訳がポンコツだとは・・・』

「ええ・・・私もそれは教育の不明を恥じいるばかりではございますが・・・」

 

「な、なんです二人して!」

 

溜息を吐く俺達にプリプリするカッシーナ。

 

『レーゼン。ちょうどサリーナの祖母であるザイーデル婆さんと会えることになってな。その他俺の仲間がたくさん集まって今からバーベキューで夕食を取ることになってね。それでカッシーナもみんなに紹介しようかと思ったんだ』

 

「そういう事情がお有りだったのですね」

 

『どうだろう? 夜少し遅くなっても必ず日が変わる前までにカッシーナは部屋に俺が責任を持って送り届けるよ。ちょっとばかし目を瞑ってはもらえないか?』

 

ふうう~、と盛大に溜息を吐くレーゼン。

 

「・・・わかりました。ヤーベ様を信用させて頂きましてカッシーナ王女をお預けいたします。但し!必ず日が変わる前にこの部屋にカッシーナ王女をお返しくださいね!約束を決して違えぬようにお願いします」

 

『ああ、分かった』

 

「それと・・・お願いが」

 

『なんだ? 無理を聞いてもらうんだ。出来る限りのことはするよ?』

 

「姫様が先日のスイーツ大会後に「ホットケーキ」なるスイーツが素晴らしいと繰り返し語られておりまして・・・、ですがそのホットケーキを販売する喫茶<水晶の庭

クリスタルガーデン

>は連日長蛇の列ができ、なかなかホットケーキが食べられないそうです。出来れば私やメイドのエマやメイにも食べさせていただけるとありがたいのですが・・・」

 

「「レーゼン様!!」」

 

歓喜の声がダブルで聞こえる。控えていたメイドさんかな?

 

『お安い御用さ。たっぷり三段重ねのスペシャルバージョンで用意するよ、出来立てでね!』

 

「「やったぁ!!」」

 

エマとメイが飛び上がってハイタッチして喜びを爆発させる。

王城の中のメイドたちの間では何とか食べられないかと話し合いを行うものが続出しており、つわものは平日に無理やり休みをもらって朝から並んで食べたと言う。そのわずかな食べた者達の自慢話がホットケーキ神話を加速させていた。

 

「それでは、出かけて来てもよいのですね!」

「ちゃんと日が変わる前に帰って来てくださいよ」

 

そう言ってレーゼンはカッシーナ王女の耳に顔を寄せる。

 

「・・・同衾はまだダメですからね?」

 

「はうっ!?」

 

完全にぶっといクギを刺された形となったカッシーナ。

だが、自分の護衛であるレーゼンから許可が出たのだ。

 

「では、また夜中に」

 

そう言ってバタンと扉を閉めてしまうカッシーナ王女。

 

「あ、ヤーベ様にホットケーキにかける蜂蜜もお願いしておかないと!」

 

手をポンッと打ってエマが思い出したように言う。

 

「蜂蜜の掛かっていないホットケーキなんて、神父様のいない結婚式のようなものでは?」

 

メイが唇に人差し指を可愛く当てて蜂蜜の重要性を説けば、エマもさもありなんと激しく頷き返す。

 

コンコン!

 

ノックの後、カッシーナの返事も待たずにエマが扉を開ける。

 

「姫様!ヤーベ様にホットケーキに掛ける蜂蜜もたっぷりサービス頂きたいと・・・」

 

だが、その部屋はすでにもぬけの殻であった。

 

目を丸くするエマとメイ。

 

「・・・本当に神出鬼没だな。あの御方が敵でなくて本当によかった・・・」

 

レーゼンは心底ほっとしながらも大きく溜息を吐くのであった。

 

 




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