転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第206話 薬草採取は仲良く行おう

 

扉を開けて入ってきたのはゾリアだった。

 

「ゾリアじゃねーの。まだ王都にいたのか」

 

「おいおいつれねーなぁ。引っ越し祝いのバーベキューパーティに呼ばれるの楽しみにしてるのによぉ」

 

「バーベキュー狙いかよ!?」

 

ガッハッハと笑うゾリア。

 

「まあ、それだけじゃねーよ。何といっても冒険者ギルドの本部がお前さんをSランクに認定したからな。お前が断った際の交渉補佐に俺を残すよう言っておいたんだよ」

 

「そんなことで副ギルドマスターのサリーナちゃんの負担を増やしてるのか?後で相当文句言われそうだな」

 

「怖いこと言うなよ・・・マジで早く帰って来いって矢のような催促の手紙がきているんだから」

 

「じゃあ帰れよ」

 

「お前さんがちゃーんとSランクの冒険者認定を受けたらな」

 

「だから、メンドクサイってあれほど言ったじゃないか」

 

俺は盛大に溜息をつきながら肩を落とした。

 

「じゃあ、あれほど目立って活躍してくれるなよ。どうせなら謎の仮面勇者とかで正体不明のまま国を救ってくれていればこんなことにはならなかったのに」

 

「アホか! それこそメンドクサイわ!」

 

そう文句を言いながらも実際銀の仮面をつけて暗殺者に対峙したこともあったなと俺は思い出す。

 

「事情はどうあれ、お前さんはもう『救国の英雄』として認知され、実際に王国から爵位を賜っているわけだからな。そのお前さんが冒険者ギルドの発行する冒険者タグのランクがFランクのままでは体裁が悪すぎるってことさ」

 

「むうっ」

 

俺は腕を組んで唸る。そう言われれば返す言葉もない。

 

「まあ、SランクになってAランクのゴールドタグを上回るプラチナタグになるだけってもんだ。うまく隠しながら見せればBランクのシルバータグに見えなくもねーぞ?」

 

「そんなもんかな?」

 

「そんなもんさ」

 

「(そんなモンなわきゃないでしょうがぁぁぁ! アンタ一体何を言って・・・!)」

 

「(とにかくSランクの受諾をさせるのが先だって)」

 

ゾリアとモーヴィンが何やらモメている。

 

「どした?」

 

「いんや、何にも」

 

「まあいいか、SランクならSランクでいいから早く処理してくれ。俺は薬草採取という初めての冒険に旅立たねばならんのだ」

 

「や、薬草採取?」

 

ゾリアがきょとんとした表情で俺を見つめる。モーヴィンもこの人何言ってるの?的な視線を向けてくる。

 

「そうだ、薬草採取だ。冒険者ギルドで初めての依頼受理を行うんだ。まずは薬草採取依頼をこなして冒険者活動を始めるのだ!」

 

俺は力強く宣言した。

 

「ギャーハッハッハ! ハラ痛ぇ! エ、Sランクになってもまずは薬草採取からって・・・ア――――ハッハッハ!」

 

大爆笑するゾリア。

 

「あ、お前薬草採取馬鹿にすんなよ! こういった採取系の仕事を地味にこなしてこその冒険者というものだろう! 地元の一般人にも貢献できるというものだ!」

 

俺は腕を組み、うむうむとう頷いて見せる。

 

「ず、ずいぶんと殊勝な心構えだなぁおい!」

 

まだ笑い転げているゾリア。失礼な奴だ。

 

「しかしスライム伯、適材適所という言葉もございますれば、<竜殺し(ドラゴンスレイヤー)>にFランクの薬草採取などを担当して頂くわけにもいきませんので・・・」

 

モーヴィンも反対してくる。

 

「俺はドラゴンを仕留めたが、冒険者としては新米だ。冒険者としての経験値と戦闘力は比例しない。薬草と間違えて毒草で死ぬかもしれんし、<迷宮(ダンジョン)>の罠にかかって命を落とすかもしれん」

 

どちらも100%ないですけどね。亜空間圧縮収納に放り込んで鑑定するし、<迷宮(

ダンジョン)>は基本的に“ダンジョン無双”するからね。

 

「まあ、戦闘力以外の能力が冒険者に必要だってのは間違いないけどな」

 

急にゾリアが真面目な顔をして俺を見る。

 

「まずはFランクの薬草採取! そして次にEランクのゴブリン討伐だ!」

 

「スゲー初心者冒険者の王道依頼だな」

 

「そうだ!初心者冒険者の王道依頼を満喫せずに何が異世界か!」

 

「あ?お前今初心者の依頼をマンキツって言いやがったか!?」

 

「えっ!? ああ、気のせい気のせい!じゃ、薬草採取に出かけてくるから!」

 

そう言って俺は扉をバーンと開けてダッシュで逃げる。

 

 

 

 

 

「いやいや、全く危ないところだった」

 

あれから王都バーロンを北に出て少し西に移動した場所。通常であれば徒歩三~四時間くらいかかるだろうか。俺は<高速飛翔(フライハイ)>ですぐだったけどな。

 

うっそうと茂る森には、奥に入るとある程度希少な薬草なども生えているという。

俺は周りに誰もいないことを確認するとデローンMk.Ⅱの体形を取る。

 

ドザザザザザッ!

 

まるでブルドーザーのように草を根こそぎ亜空間圧縮収納へ放り込んでいく。

ただの草や土は後ろからポイだ。

鑑定結果で有用なものだけ回収する。

 

「はっはっは!これで薬草を死ぬほどカウンターに積み上げてやるわ!」

 

俺は完全にラノベでチート能力をフル活用して初心者冒険者なのにとんでもない結果を出すというシチュエーション(ラノベのおやくそく)にあこがれていた。

そうなのだ、俺もドーンと薬草をカウンターに積み上げ、ゴブリンの死体を山ほど出してチヤホヤされたいのだ!

 

粗方周りの薬草をごっそり回収したところで、ふと気づくと森の奥の方に三人ほど誰かがうずくまっているのが見える。

俺は矢部裕樹の姿に戻ってそっと近づく。

 

「まずいです・・・どれが目的の薬草かわからなくなったです・・・」

「この辺の全部引っこ抜いて持っていけばいいんじゃないかにゃ?」

「この前それで受付嬢のサリーさんにメチャクチャ怒られたです。次はきっとないです」

 

何やらそれぞれ特徴のある耳と尻尾をぴこぴこ動かして座り込んで相談しているな。

声を聞く限り女の子たちのようだが。

 

「すでにFランクの薬草採取に二回失敗しているです。後がないです」

「く~、ゴブリンとかだったら瞬殺できるのに!」

「仕方ないにゃ、Fランクの依頼を一度はクリアしないと一つ上のEランクの依頼受けられないにゃ」

 

犬耳少女、狼耳少女、猫耳少女の順に悩んでいる。

狼耳の少女は喫茶<水晶の庭(クリスタルガーデン)>のオーナーであるリューナちゃんの耳に形が似ているといえば似ているが、リューナちゃんは銀髪に銀色のしっぽだが、この子は茶色いな。より狼っぽい? 普通とか安っぽいっていうと、きっと当人に怒られるだろう。

 

「次にFランク依頼を失敗すると、一か月の冒険者資格停止になるです」

「ヤバイ・・・お金稼げない・・・」

「でも元々お金稼げてないにゃ」

 

切実だな。おい。

 

「でも今までは冒険者だったから、安宿の支払いもちょっと待ってもらえたです。資格が止められたとすれば宿も追い出されるかもしれないです」

「ヤバイ・・・本格的にヤバイ・・・故郷の連中を見返すどころの話じゃないよ・・・」

「死活問題にゃ。妖しい酒場でエロい衣装で踊る仕事くらいしか稼げないにゃ」

「「そんなの絶対イヤ(です)!」」

 

猫耳娘の非常な提案に涙を浮かべて拒否を示す狼耳娘と犬耳娘。

大変だなぁ、冒険者って。

 

「やあ、君たち、だいぶ困っているようだけど?」

 

「にゃああ!」

「きゃああ!」

「わふうっ!」

 

三者三様に驚くケモ耳娘たち。

 

「だ、誰にゃ!」

「というか、私たちの鼻が効かないなんて・・・」

「気配を感じさせないなんて、とんでもない達人です」

 

う~ん、ものすごいポンコツ臭が漂ってくるが、この子達大丈夫なんだろうか?

 

「俺は薬草採取に来た新米冒険者だよ。ヤーベっていうんだ」

 

「一人でこんな森の奥深くまで?怪しいにゃ!きっと獣人の美少女を捕まえて奴隷商人に売る悪党にゃ!」

「なんですって!」

「許せないです!」

 

そう言って飛びかかってくる三人。すごいな、自分で美少女って言い切ったよ。しかもこちらの話を聞きゃあしないし。猪突猛進もいいところだな。

 

俺は一番早く飛び掛かってくる狼耳娘の手首をつかんで捻って転ばし、もう片方の手で猫耳娘の手首を取って投げを打つ。一瞬遅れてきた犬耳娘は飛び掛かってきたところで体をずらし、右手で抱えるように掴むと、背中からひょいっと地面に寝転がす。

 

「はい、そこまで」

 

犬娘耳の顔の前に人差し指を突きつけると、顔を真っ赤にして目をそらした。

 

「つ、強い・・・!」

「これは、私たち全員売られてエロい事をされてしまうにゃ・・・」

 

「売らないから! エロいこともしないから! なんなら薬草いっぱいあるから分けてあげるから!」

 

そう俺が必死に告げると、

 

「薬草あるにゃ!?」

「薬草頂戴!」

 

俺は猫耳娘と狼耳娘に飛び掛かられた。

 

「やめれ!あげるから、やめれ!ひっかくな!ひっぱるな!顔を舐めるな!」

 

薬草狩りに来て、逆にケモ耳少女たちに狩られるってどーいうコトよ!

俺は華々しい冒険者ライフのデビューに失敗したことを感じとっていた。

 




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