転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第208話 三人娘のお守りをしよう

金貨と銀貨、銅貨がたっぷり入った袋をホクホクとリュックに入れて冒険者ギルドを出るケモミミ三人娘。ぶっちゃけ、新人の三人娘に渡す額としては多いだろうし、渡すにしても、他の冒険者たちにわかる様な渡し方はどうなんだろうか? それとも冒険者稼業は自己責任をわからせるためか? だとしても、間違いなく今<気配感知>で捉えている三人組はこちらを襲う気満々だぞ?

 

「ねえねえ、大通りの<水晶のベル>亭に泊まろうよ!」

「それいいにゃ!憧れだったにゃ!」

 

サーシャとミミが浮かれながら憧れの宿へ泊りに行こうとする。

 

「待つのです。今まで路地裏の<樫の木>亭に泊まっていたです。先にお礼と滞納していた家賃の支払いと、洗濯してもらってる服の引き取りに行かないといけないです」

 

「あ、そっか」

「新しい服買えばいいにゃ」

「ダメです。少しお金が入ったからって、無駄な事は避けるべきです」

 

サーシャとミミのイケイケ行動をコーヴィルが諫める。

いいバランス感覚だな。逆にコーヴィルが手綱をコントロール出来なくなったらヤバイパーティだ。

 

三人娘はキャッキャと楽しそうに話しながら路地裏に入って行く。

<樫の木>亭はかなり裏通りの安宿だ。くるくると入り組んだ角を曲がって向かって行く。

 

「ひょいっ!」

 

俺はサーシャのリュックから飛び出して矢部裕樹の姿に戻る。

 

「わあっ!」

「ヤーベ、どうしたにゃ?」

 

「つけられているぞ。多分冒険者ギルドでお前たちが大金を貰ったのを見ていたんだろうな。お前たちを襲って金を奪うつもりだろう」

 

「さ、最悪じゃない!」

「最低なヤツにゃ!」

「そんな酷い人が・・・」

 

俺は角の隅に寄ってついて来る連中を待つ。

そして男たちがやって来た。

 

「よう!」

 

俺が明るく声を掛けてやると、驚く暑苦しいマッチョ三人組。

 

「てめえ!」

「つけている事を知ってたのか!」

 

「当たり前だろ? 逆になんでバレてないと思ったんだ?あんな雑な尾行で」

 

俺は肩を竦めてハハンと笑ってやる。

 

「まあいい、さっきの金は俺達が有意義に使ってやるよ。さっさと寄越しな」

「ああ、なんならお前たちもおいしく頂いてやるよ!」

 

「おお、ゲスと言う以外に言いようがないな。冒険者として雑魚すぎるからって、ついに盗賊に身を落とすとは。哀れなりけり」

 

俺は大げさに頭を振って肩を竦める。

 

「な、何だと!」

「俺達Dランクの<黄金の船>を舐めてんじゃねえぞ!」

「俺たちにケンカ売ってタダで済むと思うなよ!」

 

次々に捲くし立てる盗賊。あ、Dランク冒険者たちだっけ?

 

「信じられんほどの馬鹿だな。金目当ての強盗を働こうとつけて来て、見破られたらケンカ売ってるって? 頭湧いとんのか? しかも黄金の船だか知らんが、名乗りを上げて強盗って、狂ってるな。黄金の船?おまえらなんざ泥船で沈没間違い無しだろーよ」

 

さらにハハンと鼻で笑ってやる。

 

「ふ、ふざけるな!」

 

殴り掛かってくるDランク冒険者たち。

 

先頭の男のパンチを躱し、右フックを叩き込み、そのまま建物の壁に叩きつける。

 

メシャリ!

 

壁と俺の拳に挟まれて顎を粉砕されるDランク冒険者A?

 

そして、二人同時の攻撃もミドルキックで右側の男(冒険者B?)を吹き飛ばし、左の男(冒険者C?)のパンチを躱して手首を捻り落とし、地面に叩きつける。

 

「つ、強い・・・」

「ヤーベは強い男にゃ!」

「すごい・・・です」

 

「ちょっとコイツらギルドに突き出してくるから、先に<樫の木>亭に行っててね」

 

俺はそう言ってボコった男たちを引きずって冒険者ギルドに向かった。

 

 

 

 

 

「おーい、ギルドマスター。いやグランドマスターだったか?」

 

普段から混んでいる王都冒険者ギルドにならず者三名を引きずってドカドカと入って行く。

 

「げっ、あれ、Dランクパーティの<黄金の船>の連中じゃないか」

「三人とも完全にやられてるけど・・・」

「あの男、それほどの腕前ってことか?」

 

カウンターに並んでいた連中が騒ぎ出す。

 

「なんだ、騒々しいな・・・って、ヤーベ殿これは!?」

「あーあ、ヤーベにケンカ売るとか、自殺願望でもあるのかね?」

 

グランドマスターのモーヴィンとソレナリーニの町ギルドマスターのゾリアが出て来てぼやく。

 

「いや、直接は俺にじゃないな。薬草てんこ盛り取って来た新人女性冒険者三人組をつけて来て、その報酬を強奪しようってタチの悪い話だったよ。しかも、女の子を乱暴する目的も追加でね」

 

「なんたることだ・・・」

「まったく、冒険者として情けねーな」

 

マスター二人が深く溜息を吐く。

 

「冒険者の教育や管理はもっとしっかりとしてもらいたいね。少なくとも俺がいなければ有望かどうかは知らんが、三人の駆け出し女性冒険者の人生が大きく狂っていたかもしれんぞ」

 

「お手を煩わせて申し訳ない・・・」

 

モーヴィンが項垂れて頭を下げる。

 

「こいつらの怪我は重傷だが、教会の大聖堂にいるアンリ枢機卿なら治療魔法で治癒が可能なレベルだ。ギルドで治療費を教会に建て替えて、治療した後のコイツらに罰金と借金を追わせておくのはどうだ?」

 

「ヤーベ卿がそれでよいのであればそうしましょう。ヤーベ卿に慰謝料は?」

 

「俺は不要だ」

 

「わかりました。それでは職員にコイツらを教会に連れて行かせるとしましょう」

 

そう言って職員が出て来てならず者たちを教会まで連れて行く。

 

「ほら、Sランクだとトラブルも便利だろ? これがFランクならお前さんの言っている事が本当か厳しく言い分を聞くところだが、何と言ってもお前さんは『救国の英雄』であり、信頼度抜群のSランクだからな、基本的には全面的にお前さんの話が信用できると思われるのさ」

 

「Sランクは悪いこと出来ないね」

 

「悪い奴は元々Sランクにしないさ」

 

Sランクに上がるためには厳しい審査があるんだろうね。俺はどうだったか知らないけど。

 

「それにしても、質の悪い奴らだな」

 

ゾリアがモーヴィンに苦言を呈する。

 

「最近、王都の周りに魔獣が出なくなって、討伐系の依頼がほとんどなくなっているんですよ」

 

(ハレ? もしかして、ローガ達が王都周りの魔獣を狩り尽くしたから、魔獣狩りしか出来ない粗暴な連中が金を稼げなくなったのか?)

 

元々、ローガ達の一部がトレーニングを兼ねて夜中に魔獣狩りに出かけている。

寝ている間も亜空間圧縮収納にどんどん収納されてくるから、認識はしていた。

一応、魔獣ではない獣の類は狩らない様に指示している。それこそ狩人の仕事を奪ってしまってもいけないと思ったからだ。ちなみに、獣はローガ達に恐れをなして近寄って来ないから問題ないらしい。

 

「王都の周りは平和なんだな」

 

ゾリアは妙な顔つきで納得していた。

うーむ、しばらく王都周りの魔獣狩りを中止しよう。

転移の門が使えるようになったから、カソの村にローテーションを組んで、魔の森へ定期的に魔獣狩りに出かけさせよう。魔の森ならどれだけ魔獣を狩っても迷惑が掛からないだろう。

 

 

 

 

 

「おばちゃんお世話になったわね! 今日から<水晶のベル>亭に泊まる事にするから!」

 

サーシャがドヤ顔で説明している。

 

「おや、アンタ達も偉くなったもんだね」

 

「ふふん、出来る(おんにゃ)は違うにゃよ!」

 

何故かミミもドヤ顔だ。

 

「ま、もうここに来ることも無いかもね~」

 

ピラピラと手を振るサーシャ。

 

ゴチン!

 

「アイタッ!」

 

俺は後ろからサーシャにゲンコツを落とす。

 

「な、何すんのよ!」

 

サーシャが涙目で振り返って、俺がいる事にびっくりする。

 

「それが今まで世話になった宿の女将さんへの挨拶かよ・・・。すみませんね、礼儀のなっていない子供たちで。ちょっと今回収入が良かっただけで、すぐここに帰って来ると思いますから、これからも一つよろしくお願いしますね」

 

俺は笑って女将さんに挨拶する。

 

「はっは、羽振りがいい時はたまには贅沢もいいさね。金さえちゃんと払ってくれればいつだって泊りに来るといいさ」

 

気さくなおばちゃんは快く送り出してくれた。

溜めていたツケを払い、洗濯ものを受け取って<樫の木>亭を出る。

 

「さあ、<水晶のベル>亭へレッツゴー!」

 

サーシャがゲンコツを落とされたことも忘れて、軽くジャンプしながら拳を突き上げる。

 

「それで、<水晶のベル>亭は部屋が空いているか確認してあるのか?」

 

「・・・え?」

 

サーシャがキョトンとする。ミミも全く同じ顔で「にゃ?」って言ってる。

 

「あ・・・」

 

コーヴィルはわかったようだ。

 

「あのなあお前達、通常は次に泊まりたい宿の部屋の空きを確認してから今の宿を引き払うんだよ。<水晶のベル>亭が開いていなかったらどうするんだ?野宿するのか?」

 

「あうう・・・」

「にゃにゃにゃ・・・」

「わふぅぅぅ」

 

落ち込む三人娘。

 

「ここに来る前に<水晶のベル>亭に行って予約してきたよ、ちょうど三部屋しか空いてなかったぞ。ちょっと遅れたら泊まれなかったかもな」

 

「わーい!ヤーベ大好き!」

「やるにゃ!流石はヤーベなのにゃ!」

「出来る人は頼りになるのです!」

 

三人が大喜びで俺に抱きついてくる。

本当に手のかかる娘たちだよ・・・。この先大丈夫なんだろうか?

 




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