転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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閑話29 お引っ越ししてもオヒッコ漏らしゅなよ!でしゅ!

 

「うんしょ!うんしょ!」

 

おりおり、おりおり。

 

「うんしょ!うんしょ!」

 

イリーナおねーしゃんたちにたくさん買ってもらった服を折りたたんでいくでしゅ。

ある程度服が折りたためたらそれを縦に積むでしゅ。

そして、ご主人しゃまに買ってもらったリーナ専用のリュックに詰め込むでしゅ!

 

ご主人しゃまにリュックを買ってもらった時はうれししゅぎてご飯を食べる時もしょったままで、寝る時もリュックを抱いて寝たでしゅ。

・・・気づいたらご主人しゃまの腰に抱きついて寝ていたでしゅ。不思議でしゅ。

 

「うんしょ!うんしょ!」

 

リュックは軽い物を下に積めると背負いやすいってご主人しゃまに教わったでしゅ!

ご主人しゃまは何でも知っていて、とってもすごい人でしゅ!

 

リーナはあんまり自分の荷物がないから、引越しの準備も楽ちんでしゅ。

リュックの上にはリーナのためにご主人しゃまがベルヒアおねーしゃんに作ってもらったコップやお皿を入れるでしゅ!

リーナが手を滑らせて落としたりしても全然壊れない、とってもとっても丈夫ですごい食器なのでしゅ!

 

「うんしょ!」

 

リュックを背負って準備万端でしゅ!

 

「あら、リーナちゃんはお引っ越しの準備が出来たのかな?」

 

見るとメイド長のメーリングおねーしゃんがにっこり笑って声を掛けてくれたでしゅ。

今まではコルーナ辺境伯しゃまのおうちにご主人しゃまたちと一緒に居候させてもらっていたでしゅ。当主であるフェンベルクしゃまにはもちろんでしゅが、たくさんのメイドしゃんたちにもお世話(しぇわ)になったでしゅ。特にメイド長のメーリングおねーしゃんにはたくさんたくさんお世話(しぇわ)になったでしゅ。

・・・紅茶やクッキーもいっぱいもらったでしゅ。

 

「今までたくさんたくさんお世話(しぇわ)になりましたでしゅ」

 

そう言ってぺこりと頭を下げるでしゅ。たくさんお世話(しぇわ)になったのだから、ちゃんとありがとうの気持ちを伝えないとダメでしゅ。

 

「はい、こちらこそ一緒に居られて楽しかったですよ? ありがとうね」

 

メーリングおねーちゃんがそう言ってリーナの頭を撫でてくれましゅ。

 

「ふええ・・・ふえぇぇぇぇぇ~ん」

 

メーリングおねーしゃんにギュッと抱きついてしまったでしゅ。メーリングおねーしゃんと離れ離れになると思うと悲しくなって涙しゃんが出てきてしまったでしゅ。

 

「あらあら、じゃあリーナちゃんはココのおうちの子になっちゃう?」

 

メーリングおねーしゃんがこのおうちに残れるように言ってくれましゅ。

 

リーナは目をゴシゴシこしゅって涙しゃんをふき取りましゅ。

 

「とってもうれしいけど、ダメなのでしゅ。リーナはご主人しゃまのおそばでお仕えしないといけないのでしゅ」

 

そう言って、メーリングおねーしゃんを心配させないように目いっぱいの笑顔を向けるでしゅ。

 

「ふふふ、リーナちゃんは強い子なのね? ご主人様と新しいおうちに行っても、いつでもここに遊びに来てね?」

 

「ハイなのでしゅ!」

 

「それじゃ、準備が出来たら、出発まで時間もあるし、紅茶とクッキーでも食べましょうか」

 

「やったーでしゅ!」

 

そうして、イリーナおねーしゃんたちが呼びに来るまでメーリングおねーしゃんといっぱいいっぱいお話しながら紅茶を飲んでクッキーをご馳走になったでしゅ!

 

 

 

 

「フィレオンティーナさん、かっこいいトランクですね」

 

サリーナがフィレオンティーナの準備したトランクを見て感想を述べる。

 

「一応冒険者時代は移動も多かったし、占い師を始めた頃も、呼ばれて移動して行うこともよくあったから、トランクはしっかりとしたものを使っているのですわ」

 

そう言って小さなコロがついてひっぱれる大きなトランクと、手提げの小ぶりなトランクをポンポンと撫でながら説明するフィレオンティーナ。

 

「すっごく味のある色をしてますよね~」

 

「これ、冒険者のころに討伐した魔獣ベヒモスの皮を使用して作ってもらった特注品なのよ。だからわたくしのオリジナルと言えばオリジナルですわね」

 

自慢げにフィレオンティーナがトランクを説明すれば、いいなーとサリーナがうらやましがる。

ちなみにサリーナは魔獣には疎いのでベヒモスがSランクのすさまじく危険な魔獣であることを知らないため、全く驚いていないのだが、知る人が聞けば腰を抜かすだろう。その希少性と計り知れない価値に驚いて。そしてそんなSランクの魔獣を討伐するだけの実力をフィレオンティーナが有していることもサリーナはもちろんスルーである。

 

「私なんて、生活雑貨はこの小さな手提げバックだけだし」

 

サリーナが小ぶりなバックを持ち上げる。

 

「でも、その後ろの大きな箱たちは、ここまでの旅や王都で旦那様に買っていただいた錬金の道具なのでしょう?」

 

「えへへ・・・そうなんです。結構かさばる物や大きな道具も、錬金ギルドで掘り出し物があると、すぐにヤーベさんが買ってくれて・・・」

 

「結構いろいろ溜め込みましたわね」

 

「あはは・・・特に鉄の加工でヤーベさんに依頼された“弾丸”というアイテムの製作を効率化しようといろいろ買い込んでもらったから・・・」

 

サリーナとフィレオンティーナはお互いの引っ越し準備が整ったため、玄関に来て談笑していた。

お互いにカバンの中には王都の謁見時に着込んだ一張羅のドレスとかも入っているのではあるが、それらは話題には一切出ない。質実剛健、自分の能力とヤーベのためになることを目的とした奥さんズの意識の高さが垣間見える一瞬である。

 

その横では続々と高級な家具を運び出すお手伝いたちを指示しているルシーナの姿が。

 

家の前には荷物を積む車をつながれた狼牙族がずらりと並んでいた。その先頭はまさかのローガであり、ローガにも大きな車がつながれていた。

 

『奥方様たちの大切な荷物をお屋敷まで運ぶのは我々の大事な使命であるからして』

 

そう言って尻尾をブンブンと振っているローガ。ローガともなれば、というか四天王クラスでも、部下に荷物を牽かせれば十分であり、ローガたちは監督する立場でよかったはずである。だが、直接荷車をつなぎこみ、荷物を運ぶ役目を請け負っていた。

明らかに、運んで来ましたよ!とアピールしてモフモフタイムを勝ち取ろうという魂胆がミエミエのローガたちである。

 

 

 

その狼牙たちが牽く荷台にどんどんと高級な家具が積まれていく。

 

「ルシーナちゃん、そんなに運ぶんだ?」

 

「これ? お母さんからの花嫁道具よ。奥さんになりに行くわけだし」

 

「「「な、なにぃ!?」」」

 

ガーン!という顔をするサリーナとフィレオンティーナ。その奥では大して準備もしていないイリーナも声を上げていた。

 

「あらあら、ルシーナも自分の荷物をまとめたの?」

 

見ればルシーナの母親であるフローラさんが玄関にやって来ていた。

 

「ええ、お母様。もう完了しているわ」

 

そう、と答えたフローラさんがどんどん積み込まれて、赤い帯で荷台にくくられていく荷物を見つめる。

 

「ルシーナもお嫁さんに行く時が来たのね・・・季節の移ろいも早いはずだわ」

 

ルシーナを見つめながら、ふふふと笑うフローラさん。

 

「お、おいフローラ! これは一体どういう事なんだ!?」

 

見れば王城から帰ってきたフェンベルク卿が積み込まれた荷物を見て驚いている。

 

「何って、ルシーナの花嫁道具ですわよ。ヤーベさんのところへ嫁ぐわけですし」

 

「引っ越しって聞いたけど!?」

 

「だから、嫁ぐ相手の新居が準備できたからお引っ越しじゃない」

 

「ぐぐぐっ!だからって、まだ結婚式もしてないのに!」

 

「逆でしょう? 今これだけの狼牙たちに荷物をゆっくり運んでもらって移動できるなんて、大チャンスじゃないですか、貴方。このあたりの方々に、スライム伯爵家にコルーナ辺境伯家から嫁がせていると大々的にアピールできるのですよ?こんなチャンスを逃すわけには参りませんわ」

 

ドヤ顔でふんすっと鼻息荒いフローラさん。

涙目のフェンベルク卿をよそに、次々と積み込まれていく花嫁道具の高級家具。

 

「お父様?ヤーベ様のお屋敷はすぐ近くですから、お気軽に遊びに来てくださいね?」

 

ルシーナがにこやかにそう父親に伝えると、「むぐぐっ」とさらに顔をしかめてフェンベルク卿は積み込まれていく荷物を眺めるのであった。

 

「むむむ・・・ウチも実家から何か結婚祝いを送ってもらうか・・・いや、しかし」

 

その横でイリーナが難しい顔をして腕組みをしながらウンウンとうなっていた。

イリーナは王都へ出発する際、自分の生活用品の内、小物以外の大半をカソの村の神殿に置いて来ていた。ヤーベが王都へ呼ばれた際、その途中にて必要な経費はその大半をコルーナ辺境伯家で持つと言われたからである。

 

そのため、服を詰めたバック一つでイリーナの引っ越し準備は終わっていた。

 

「今日はともかく、一度実家に戻り父上と母上としっかり話をするべきか・・・」

 

どんどん積み込まれていくルシーナの荷物を見ながら、イリーナは真面目にそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

「しゅっぱ~~~~つでしゅ!」

 

なぜか、先頭のローガ自身にまたがり、集団の出発を促すリーナ。その後ろにはガルボが牽く狼車があり、フィレオンティーナが手綱を握っている。イリーナやルシーナ、サリーナもこちらに乗り込んでいた。

 

『それでは参りますぞ』

 

ローガの「わふっ」という返事とともに、ゆっくりと歩きだすローガたち。

 

コルーナ辺境伯家の総出に近い人々の見送りを受け、大きく手を振って狼牙たちの歩みを進めていく。

フェンベルク卿や奥さんのフローラ、執事長のグリード、メイド長のメーリングの他、多くのメイドやお手伝いたちがその仕事の手を止め、送り出すために集まってくれていた。

 

「今までお世話になりましたわ!落ち着きましたらまたご挨拶に伺いますわ!」

「今までありがとうございました!」

 

フィレオンティーナとサリーナが大きな声でお礼を伝える。

 

「本当に今まで助かりました、ありがとう!」

「ヤーベ様のお屋敷にも遊びに来てね!」

 

すぐ近くに実家があるにも関わらず、コルーナ辺境伯家に居すわったイリーナと、新居に遊びに来るように伝えるルシーナ。

 

多くの者たちに手を振られながら、奥さんズとリーナは長く逗留したコルーナ辺境伯家を後にした。

 

貴族街の大通りを歩いていくローガたち。道幅は広いものの、王都を出る各門に通じる大通りと違い、屋台などが出たり店が立ち並んだりはしない。貴族専用の店もあるにはあるが、大半は貴族の屋敷ばかりであった。

 

そんな通りをゆっくりとローガを先頭に進む狼車の部隊。

 

「はうっ!」

 

『・・・どうした?リーナ殿?』

 

奴隷であるリーナではあるが、ボスであるヤーベが非常に大切にしている存在だとわかっているため、他の奥さんズの面々と同じような対応を取るローガ。

 

「オ・・・オシッコ・・・」

 

『な、なんとっ!?』

 

「さっき・・・メーリングおねーしゃんと楽しくお話ししながら待っていた時に、たくさんの紅茶を飲んでしまったでしゅ・・・漏れるでしゅ・・・」

 

すでに涙目のリーナ。ローガに乗って主人であるヤーベの新しい新居へ移動するという興奮に包まれていたせいか、尿意の到来に気づくのが遅れたようであった。

 

「はううっ!」

 

リーナがプルプルしだす。

 

『こ・・・このまま我の背中でぶちまけられたら・・・』

 

ローガは恐ろしい想像に背中がヘンに熱くなった。

 

『も、もう少しで屋敷につきますぞ!今しばらくの辛抱である!』

 

そう言ってローガがフル加速をしていく。今のローガは風の精霊魔法も操れるため<風の手>という初歩系の魔法を唱えて、リーナを自分の背中に固定すると、フルスロットルで加速していく。

 

「ふおおっ!?」

 

屋敷に向け、大通りを直角に曲がる。ドリフト気味に荷台が傾き、きしむ。

 

あっという間に新居の屋敷前に到着するローガ。

 

『開門!開門だ!』

 

屋敷の敷地に入る門はもともと開いていたのだが、屋敷の玄関は開いていない。

 

『『『『ぴよぴよー(了解!)』』』』

 

館の中にいたヒヨコ軍団がローガの念話をキャッチし、玄関を開け放つ。

 

「おお、いったいどうしたと・・・」

 

筆頭執事のセバルチュラが玄関を開け放つヒヨコたちを疑問に思い、エントランスに出てきた。

そこへ荷物満載の荷車を牽いたままのローガが突っ込んでくる。

 

「うわわわわっ!?」

 

飛び込んで来て急停車するローガ。風の精霊魔法<風の手>を解除したのか、その勢いでポーンと放り出されるリーナ。

 

『ヒヨコよ!頼んだぞ!』

 

『『『『ぴよぴよー(了解!)』』』』

 

空中を飛んできたリーナを編隊を組んだヒヨコたちが背中でキャッチ。そのままトイレへと直行した。

 

「ほわわ~」

 

多くの協力といくつかの犠牲を経て、リーナの大惨事は辛くも回避されることになったのであった。

 




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