転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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閑話34 奥様会議Ⅱ

「・・・由々しき問題です」

 

 

 

目にうっすらと涙を浮かべて呟くようにルシーナが声を絞り出す。

 

 

 

つい先ほど「第33回奥様会議を始めます」と宣言したばかりだと言うのに、もう絶望の淵に叩き落されたかの如く表情が暗い。

 

 

 

「・・・確かにな」

 

 

 

腕を組み、足も組んだまま呟くイリーナ。イリーナも表情は暗い。

 

 

 

「・・・私たちに飽きちゃったのかなぁ?」

 

 

 

錬金釜を撫でながら寂しそうにサリーナが呟く。

 

 

 

「飽きられるほど堪能された覚えはありませんわ」

 

 

 

少しだけ剣呑にフィレオンティーナが言う。

 

 

 

「だよねぇ・・・」

 

 

 

自分で呟いておきながらサリーナもそう思っていたのか、同意した。

 

 

 

「カッシーナ王女はどう思うかしら?」

 

 

 

ルシーナがそう呟く。

 

 

 

「そうですわね・・・」

 

 

 

すると、カッシーナが考える様に声を絞り出す。

 

なぜこの会議にカッシーナが返事できるかと言えば、ついにヤーベの奥さんズとカッシーナを結ぶための魔導通信機が完成したからである。対になるこの魔導具をルシーナとカッシーナが持つことにより、相互通信で互いの映像と声を送ることが出来るようになった。そこで今回の会議からカッシーナが参加できるようになったのである。

 

 

 

「実は、先ほどからヤーベ様におやすみの念話を送っているのですが、返事がいただけないのです。ですので、念話で返事がいただけないほどにお忙しいのか、もしかして私とのおやすみの挨拶をお忘れになってお眠りになるほどお疲れなのかと危惧していたのですが・・・」

 

 

 

「えっ? 念話ってそんなに遠くまで届くのか?」

 

 

 

イリーナが最もな疑問を呈した。

 

 

 

「あ、ヤーベ様に頂いたこの髪飾りのおかげですわ」

 

 

 

そう言って魔導通信機に頭を向けると、そこには薄いグリーンの髪飾りが見えた。

 

 

 

「ああっ!? それ、ヤーベさんの体で出来た奇跡の逸品だ!」

 

 

 

サリーナが椅子から立ち上がって叫ぶ。

 

 

 

「ルシーナが旦那様に抜け駆けして貰ったヤーベ様の指輪と同じ物、と言う事ですわね?」

 

 

 

フィレオンティーナの目が鋭くなる。

 

 

 

「いや、抜け駆けって!」

 

 

 

ルシーナの表情が困惑する。

 

 

 

「カッシーナもヤーベ特製のアイテムを貰っていたのか! 一体いつの間に!?」

 

 

 

イリーナも目に涙を溜めて悔しがっている。

 

 

 

「えええっ!? 何故話がそんな方向に!?」

 

 

 

いつの間にか自分が糾弾される立場になってしまったカッシーナは狼狽する。

 

とりあえず、自分がいつもヤーベのそばにいられなくて寂しい、と相談していたら、遠く離れていても話せるようになるアイテムを貰った、との説明で納得してもらった。

 

尤も、髪飾りがある事によりカッシーナの位置を常に把握できるようになることで、誘拐されたりしてもすぐに連れ戻せるようになっているのだが、そこまでの説明はされていなかった。

 

 

 

「それで、ヤーベ様が夕食時も戻って来ずに、深夜日が変わる時刻になってもご帰宅されない、というお話でしたわよね・・・?」

 

 

 

カッシーナが他の奥さんズの面々が悩んでいる議題を再確認する。

 

そうなのだ。ヤーベが夕食時に帰って来なかったのである。そして、現在深夜零時を回って日付が変わってもヤーベは屋敷に帰って来ていなかった。そして何の連絡も無いのである。

 

 

 

・・・尤も、この時のヤーベは冒険者ギルドでケモミミ三人娘が帰って来ないと文句を言ってエールを煽っている頃である。そしてこの後、未知の<迷宮ダンジョン>へケモミミ三人娘を救出に向かうため、日が変わっても屋敷に帰って来なかったのである。屋敷で待つ奥さんズの面々に連絡を入れなかったのはヤーベの完全なる落ち度と言えよう。

 

 

 

「そうなのです・・・。屋敷に帰って来たくない理由でもあるのでしょうか・・・?」

 

 

 

ルシーナが心底落ち込んだように力無く呟く。

 

 

 

「そんなことは無いと思いますが・・・。ちなみにヤーベ様は「お仕事」と称してお出かけされているのですわよね?」

 

 

 

カッシーナが確認する。

 

 

 

「そうだな、確かに「仕事」に行くと言っていた」

 

 

 

イリーナが断言する。

 

 

 

「その、仕事と言うのはどういったものなのでしょうか?」

 

 

 

そもそも論を展開するカッシーナ。

 

 

 

「・・・そう言えばそうだ、どんな仕事をしているのだろうか?」

 

「王国の伯爵に叙されているわけですし・・・その関係では?」

 

 

 

イリーナが首を傾げれば、ルシーナが貴族の仕事ではと推論する。

 

 

 

「いえ、現在ヤーベ様には伯爵として直接何かしなくてはならない、という命令は王国からは出ていないのです。これから辺境の開発をお願いする事にはなるのですが」

 

 

 

「・・・それじゃ、王国からの仕事じゃないのかな?」

 

 

 

カッシーナの説明にサリーナが頭を捻る。

 

 

 

「・・・冒険者ギルドに行くとおっしゃっていましたわ」

 

 

 

フィレオンティーナの説明に他の奥さんズの面々が視線を向ける。

 

 

 

「冒険者ギルド?」

 

 

 

「ええ、多分冒険者として依頼の仕事を受けるつもりなのだと思いますが・・・」

 

 

 

「なんだ、フィレオンティーナ。知っていたのなら教えてくれればよかったのに」

 

 

 

イリーナのツッコミに若干困惑の表情を浮かべるフィレオンティーナ。

 

 

 

「実はよくわからないのです。旦那様の実力は冒険者のランクなどというものでは測れないほどの実力の持ち主です。この王都バーロンは比較的平和で、冒険者ギルドにはそれほど深刻な依頼があるとも思えないのですが、なぜ今冒険者の依頼を仕事として受けようと思われたのでしょうか・・・?」

 

 

 

元冒険者Aランクまで上りつめたフィレオンティーナだからこその疑問であった。

 

冒険者はその命を懸けた冒険の対価に報酬を得る。

 

それだけにヤーベほどの実力者がわざわざ冒険者ギルドに行ってその仕事に満足するほどの報酬が得られるような大きな依頼があるとは思えなかったのである。

 

それならば王国の仕事をしたり、アローベ商会の仕事をしていた方がずっと儲けることが出来るだろう。フィレオンティーナにはそこが理解できなかった。

 

 

 

・・・まさか、ヤーベが冒険者ギルドで依頼を受けて仕事をすることを『ラノベのロマン』として意気揚々と出かけて行っているなどとは想像できないことであり、理解できなくても当然のことであったのだが。

 

 

 

「・・・うーん、なんか心配することでもあるのか?」

 

 

 

不意にチェーダが呟いた。

 

 

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 

 

パナメーラが慌てる。

 

 

 

チェーダ、パラメーラ、エイカ、マカンのミノ娘四天王(ミノ娘たちを統括する4人なのでそう呼ばれるようになった)たちも会議室の末席に座っていたのだが、深刻に話し合う奥さんズの雰囲気を察して今まで一言も口を利かなかったのである。

 

それが、チェーダがいきなり不敬ともとられない一言を唐突に呟いたためパナメーラたちは慌てた。パナメーラたちはヤーベの「妾」としての立場を弁え、控えているつもりだったのだが、チェーダは若干、というかだいぶヤーベを王子様として見ている「夢見る少女」のようなところがあり、些か「妾」としては態度に問題があるとパナメーラたちは考えていたからだ。

 

尤もヤーベは全く気にしていないし、そんなチェーダの気持ちをある程度知って、奥さんズの面々もチェーダにはあまりうるさい事を言わずに好きにすればいいと思ってはいるのだが。

 

 

 

「ヤーベ様が夜に帰って来ないことが心配でないと?」

 

 

 

ルシーナがじろりとチェーダを睨む。

 

だが、珍しくチェーダはたじろぎもせず、持論を展開した。

 

 

 

「オレも魔獣討伐に森に入って狩りを良くしたんだけどさ・・・、魔獣を追ってついつい遠くまで来てしまって帰りが遅くなったり、獲物が大きすぎて持って帰るのに苦労して帰るのが遅くなったりしたこともあるんだ。ヤーベの実力は本物だし、ヤーベが魔獣にやられるなんてことは考えられないし・・・。なら、多少帰りが遅くなっても心配する事なんてないんじゃないのか? 何かちょっと手間取って遅くなってるだけだろうし」

 

 

 

チェーダが何でもない事の様に言う。

 

 

 

「・・・まあ、確かに言われてみればその通りですわね。旦那様に何かあるとは考えにくいですし」

 

 

 

フィレオンティーナも少しホッとしたように椅子に深く座り直す。

 

 

 

「・・・ですが、ヤーベ様は亜空間圧縮収納という能力をお持ちです。狩った魔獣が大きいからと苦労する事はありません。実力も申し分ないでしょう。だからこそ、チェーダさんが言うように何か苦労して帰りが遅くなるようなことがあるはずがない、と思うのです」

 

 

 

「ふむ・・・確かにヤーベが苦労することなどあまり考えられないか・・・」

 

 

 

ルシーナの考察にイリーナも同意する。

 

そして会議室に少しだけ沈黙の静寂が流れた。

 

・・・ちなみにすでに深夜のため、リーナはオネムで爆睡中である・・・ヤーベのベッドで。

 

 

 

「と、なると・・・やっぱり浮気・・・?」

 

 

 

「ふぇっ!?」

 

 

 

サリーナが暗く淀んだ眼をして、錬金窯を磨きながら呟く。

 

浮気と言う言葉にチェーダが涙目で裏返った声を出す。

 

 

 

「ヤーベは私に会いたくないから帰って来ないの・・・?ほ、他の女の所へ?」

 

 

 

パナメーラに向けた顔は涙だけでなく鼻水まで大洪水のチェーダであった。

 

 

 

「ほら、拭きなさい」

 

 

 

そう言ってハンカチを渡すパナメーラ。

 

お約束の如く、受け取ったハンカチでチーンと鼻をかむチェーダ。

 

後で念入りに洗濯しようと決意するパナメーラであった。

 

 

 

「もし他の女に現を抜かすようなことがあれば、再度こちらに目を向けさせればいいのですよ」

 

 

 

パナメーラはチェーダに言い聞かすように言ったのだが、奥さんズの面々もものすごい目を向けて来ていた。

 

 

 

「例えば・・・裸にメイドエプロンだけをつけて、『お帰りなさいませご主人様!』と出迎えるとか・・・」

 

 

 

「「「「「!」」」」」

 

 

 

「いつものメイド服をサイズを小さい物に変更して、いろいろなところが見えちゃいそうな感じで出迎えるとか・・・」

 

 

 

「「「「「!!」」」」」

 

 

 

「後、ミルク風呂の効果が高いので、お風呂で背中を流して差し上げたり、マッサージして差し上げたり・・・」

 

 

 

「「「「「!!!」」」」」

 

 

 

いくつか思いつくことをつらつらと上げて行ったパナメーラだったが、いつの間にか奥さんズの面々に囲まれていた。

 

 

 

「あら・・・、どうされました奥方様?」

 

 

 

「その話・・・詳しく!」

 

「もう少し具体的にお願いします!」

 

「そう言えばメイド姿でトツニュー作戦もあったね!」

 

「戦略こそ勝利への第一歩ですわ!」

 

 

 

そうして会議では魔導通信機でのカッシーナまでも交えてヤーベへの対応という戦略を練ると、パナメーラの提案する作戦を詳細まで詰めて具合的な戦術を練るのであった。

 

 

 

先日会議終了時には風前の灯となっていたヤーベの命であったが、ここに来てまさかのバラ色の花園への誘いへと変化していようなどとは、当のヤーベにはまったくわからないことであった。

 

 




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