転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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閑話35 狼牙族の憂鬱

 

「・・・由々しき問題である・・・」

 

 

 

夜の帳もすっかりと落ち、深夜静寂が闇を支配する時間。

 

 

 

ローガは狼牙族一同を集め、静かに呟いた。

 

自分たちに与えられた厩舎は広く快適ではあったが、総勢61匹も集まれば狼牙達で溢れかえって「そっちつめろよ!」「狭いな!」などと小競り合いも発生している。

 

 

 

通常、深夜も警備を怠らないため、全匹が一堂に会することなとありえない。

 

だが、ローガは全狼牙族を束ねるトップの権限を使い、警護や警邏を中止させてでも全匹を一同に集合させた。

 

 

 

「・・・一体どうしたというのです?」

 

 

 

一同を代表して氷牙がローガに問いかけた。

 

 

 

「・・・我の失態を捌くのでは・・・?」

 

 

 

風牙が項垂れて申し出る。

 

先日風牙は奥さんズ警護と言う大役を担ったものの、イリーナを誘拐されると言う大失態を犯してしまった。ヒヨコたちも同罪であるのだが、風牙は四天王として警護のトップというべき地位にいる。その責は自分が負うべきだと考えていた。

 

 

 

「ああ、その件はボスより風牙は元より俺達狼牙族もヒヨコたちも責任を問わないと直々に言われた。ボスも考え方が甘かったとご自身が反省されるようなことをおっしゃられておられた」

 

 

 

「そんなっ! ボスに何の責任がありましょうか!」

 

「風牙だけではない、我々狼牙族の力不足がいけないのです!」

 

「ボスの優しさが身に染みるでやんすな」

 

 

 

氷牙が声を上げれば、雷牙が自分達の力不足を指摘し、ガルボがヤーベの優しさに感動する。

 

特に雷牙はつい先日ケモミミ三人娘の護衛に出て、土くれゴーレムに苦戦した経緯があり、より自身の力不足を痛感していた。

 

 

 

「・・・実はボスが、我々はマスコット枠ではない、と断言された・・・」

 

 

 

ものすごく落ち込んだ表情でローガが呟く。肩も落ち、明らかに沈んでいた。

 

 

 

「・・・マスコット枠ですか?」

 

「それは一体、どういう・・・?」

 

 

 

氷牙と風牙は首を傾げる。

 

 

 

「多分マスコット枠と言うのは、ボスにとって『可愛がる存在』を意味しているのではないかと思われる。そのマスコット枠が、現在ボスの頭を席巻しているジョージとジンベーと名付けられた謎の生き物たちだ」

 

 

 

「な、なんですとっ!?」

 

「か、可愛がる存在!」

 

「で、では我々は可愛がってもらえないとっ!」

 

 

 

氷牙、風牙、雷牙がそれぞれ驚きの表情を浮かべる。

 

ガルボはみんな、ボスに可愛がってもらいたかったのかと若干驚きの表情を浮かべていた。

 

 

 

「そうだ、このままでは我々はボスに可愛がってもらうことは出来ない! あの新参の二匹だけが可愛がられ、我々はモフモフタイムを頂くことは無くなってしまうであろう!」

 

 

 

「それは大問題だ!」

 

「正しく死活問題だ!」

 

 

 

一般の部下たちも声を上げる。

 

狼牙族にとってボスからのモフモフはご褒美であり存在意義と言っても過言ではなくなっていた。

 

 

 

「何としてもボスに可愛がってもらえるよう、我々の存在を復権せねばならない!」

 

 

 

「「「ウォォォ――――!!」」」

 

 

 

「シ―――――!! 静かにしろ!ここは厩舎で今は深夜だ!」

 

 

 

(((ははっ!!)))

 

 

 

急にやる気満々で雄たけびを上げた部下たちを叱責するローガ。自分で煽っておいてそれはどうなんだと思わなくはないガルボはジト目でローガを見る。

 

 

 

「それではボスに可愛がっていただくためのアイデアを出せ!」

 

 

 

ローガの言葉に、一匹の狼牙が手、というか前足を上げる。

 

 

 

「貴様っ!」

 

 

 

「はっ! ボスの前で地面に背中をつけて、腹を出し全面降伏の姿勢を示してみてはいかがでしょうか?」

 

 

 

腹を見せるのは魔獣にとってその命を預けるという信頼もしくは全面降伏の意味を示す。

 

 

 

「だが、それは可愛く見えるのだろうか?」

 

 

 

氷牙が根本的なツッコミを入れる。

 

 

 

「むう、確かに」

 

 

 

ローガは前足を組んで唸る。ローガに至ってはその所作がおっさん臭くなってきている。

 

 

 

「それより、魔力をより高めて、毛を伸ばしてみてはいかがでしょうか?今よりさらにモフモフが進めば、触りたくなるのでは?」

 

 

 

別の一匹が別のアイデアを出す。

 

 

 

「あまり毛が長くなると、逆に触り心地が悪くならないか?」

 

「ふわふわ感が無くなるかもしれないぞ」

 

 

 

だが別の狼牙からは疑問の声が上がる。

 

 

 

あーだこーだと意見を言い合うが、これと言ったアイデアが出ない。

 

 

 

「・・・そう言えば、リーナ殿の所作をボスが可愛い、可愛いと褒めておりましたな」

 

 

 

ぼそりと風牙が呟く。

 

 

 

「風牙、どういうことだ?」

 

 

 

その呟きを聞き逃さずローガは問う。

 

 

 

「はっ、リーナ殿がオシリをクネクネと振って手を振る踊りを見せたところ、ボスが両手を叩いて可愛い可愛いとリーナ殿を褒めておられたところを見たことが・・・」

 

 

 

「それだっ!」

 

 

 

風牙の説明にローガが立ち上がる。

 

 

 

「我らは数が多い。それはそれだけであの二匹よりも有利な条件となる。そこで、リーナ殿のように可愛いと言われる踊りを我ら全員でマスターすれば・・・」

 

 

 

「おおっ!素晴らしいアイデアでございますな!」

 

 

 

ローガの説明に真っ先に雷牙が食いつく。

 

 

 

「では早速その踊りをマスターしましょう! 風牙、どうやるのだ?」

 

 

 

「えーと、確かリーナ殿はこんな感じで・・・」

 

 

 

氷河に促された風牙は二本足で立ち上がると、クネクネと尻尾を振りながら踊り出す。もちろんリーナに尻尾はないのだが風牙が腰をフリフリすれば、合わせて尻尾もフリフリだ。

 

 

 

こうしで夜通しローガ達の特訓は続けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レッツダンス!スタ―――――ト!!」

 

 

 

朝、屋敷の玄関をでた俺は、ローガ率いる狼牙族が勢揃いしているのにまず驚いた。

 

俺の頭の上に乗っているジョージとジンベーも声が出ないくらい驚いているようだ。

 

一緒に出てきた奥さんズの面々とリーナも狼牙族の勢揃いに完全に呆気に取られている。

 

 

 

そしてローガを先頭にその後ろに四天王、さらにその後ろに軍団がずらりと並ぶ。

 

軍隊を思い起こすビシっとした整列から、尻尾をフリフリ踊り出すローガ達。

 

謎のステップを踏みながら、二本足で器用に踊るローガ達を見て、俺はローガ達一体何をしたいのかまったく理解できなかった。

 

 

 

ただ、61匹もいるのに、一糸乱れぬステップで尻尾をフリフリ踊るローガ達は素直にすげーなって思うけど。

 

 

 

 

 

「フィニッシュ!」

 

 

 

ババーンとキメポーズで止まるローガ達。

 

チラッと俺を見て、「どう?」みたいな視線を送られても。

 

 

 

「キャ―――! すごいです―――!」

 

「ふおおっ!カッコいいのでしゅ!」

 

 

 

見ればルシーナとリーナがローガ達に突撃して行き、抱きついて全身でモフモフしている。その後ゆっくりとイリーナ、サリーナ、フィレオンティーナもローガ達を撫でに行った。

 

その光景を見たのか、メイドさんたちやメイドの格好をしたミノ娘たちをローガたちをモフりに来た。

 

 

 

多くの女性たちにもみくちゃにされるローガ達。何となく羨ましい。

 

だが、ローガ達が何したかったのかさっぱりわからん。

 

 

 

『(何故だっ!こんなにみんなモフりに来てくれるのに、ボスだけモフりに来て下さらないのは何故なのだっ!!)』

 

 

 

ローガの想いは何故かヤーベだけには届かなかったようである。

 

 




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