転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第220話 落ち着いて日常生活に戻ってみよう

 

ワイバーンと取りあえずコミュニケーションを取って、ドラゴニア王国の話を聞いてみた。

 

尤もワイバーンから見たドラゴニア王国の内情だからな。話はワイバーン使いが荒いって事ぐらいだったな。

 

 

 

結局頭の上に鎮座する謎の生き物たちの情報も手に入らなかったし、俺としては実りの無い時間になってしまった。

 

 

 

さて、時間はすでに昼を大きく回っている。

 

遅いランチを食べたいところだが、もうすぐ夕方だ。それに<水晶の庭(クリスタルガーデン)>のリューナちゃんのご飯を食べたくても、きっとまだ混雑している事だろう。ポポロ食堂はもう閉まっている頃か。

 

ここまで考えて、大人しく屋敷に帰って奥さんズの面々と食事しようと思わないのが情けないところだ。ちょっと心を落ち着けたい。悪い事をしているわけではないはずなのだが。

 

 

 

「よし、手作りパンの店マンマミーヤに行こう!」

 

 

 

ポンッと手を打って歩き出す。というか遠いので、ちょっと飛んでいくか。

 

 

 

「キュキュッ!」

 

「ズゴッ!」

 

 

 

宙に浮かぶと、頭の上に座っているジョージもジンベーも嬉しそうに鳴いた。

 

君たち怖くないんかい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほー、マミちゃん元気? パン買いに来たよ!」

 

 

 

元気よく挨拶して手作りパンの店マンマミーヤに入った俺だが、店内を見て固まった。

 

 

 

「あっ、ヤーベさん! お久しぶりです!」

 

 

 

笑顔で出迎えてくれた看板娘のマミちゃんに変わりはないのだが、店にはパンが一つも無い。

 

 

 

「いやはや、完売だね・・・、パンが一つも無い」

 

 

 

空っぽのパンの棚を見て俺は呟いた。まあ、店のパンが売り切れるほど店が繁盛しているのならいい事ではあるんだが。俺の昼飯が手に入らないだけで。

 

 

 

「そうなんです・・・、緑の皮鎧を着た兵士さんたちが数名来て、とても美味しいと感動されて、根こそぎ買って行ってしまったんです」

 

 

 

嬉しいやら困ったやらで複雑な表情のマミちゃん。

 

 

 

「ああ・・・そうなんだ。あの連中か・・・」

 

 

 

「知ってる人たちですか?コロッケパンは売り切れだったんですが、焼きそばパンは出来るだけたくさん作って売っているので、まだあったんですけど、それを買って我慢できなかったのか一人がすぐ食べ始めたら凄くパンが美味しい美味しいって・・・、それで全員食べ始めちゃったんです」

 

 

 

「それはそれは・・・」

 

 

 

あの連中、緑色の皮鎧をまとっていたが、多分ジャイアントリザードの皮で出来ている鎧だろうな。ワイバーンに乗るために、出来るだけ軽い防具をつけているという事か。

 

 

 

「明日からもっとたくさんパンを焼かないといけないかな・・・」

 

 

 

「多分あの連中は隣の国のドラゴニア王国の兵士たちだよ。だから、今日か明日には帰っちゃうんじゃないかな?」

 

 

 

思案顔になるマミちゃんに連中の素性を話す。

 

 

 

「そうなんですね、それじゃあ毎日は来てくれないかぁ。凄いお得意様が出来たかと思ったんですが」

 

 

 

そう言って笑って舌をペロッと出すマミちゃん。

 

 

 

「そうだね、たまに来たら根こそぎ買っていく軍団ってことで」

 

 

 

「ふふふ、来たら大変ですが、ずっと来ないのも寂しく感じちゃうかもしれませんね!」

 

 

 

俺はマミちゃんの笑顔に見送られてマンマミーヤを出た。

 

・・・スライムだから、お腹空かないはずなんだけどね、リズムのある生活を送ると、眠くなる、腹が減る、などの感覚が襲ってくる気がするからまいるね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そっと屋敷の門から中を覗く。

 

結局昼飯は食べられずじまい。その後商業ギルドのロンメルのところへ出向いて魔獣の取引について話し合い、アローベ商会に出向いては商品の中身を確認、予約状況なども確認する。

 

それも終わってしまったので、やるべき事としては、ローガ達の厩舎からカソの村の西に広がる魔の森へ出かけられるようにする空間移動用常設扉を作らねば。

 

カソの村側はこちらも神殿マイホームの横に作られた狼牙族用の厩舎の中に作る事にしよう。勝手に使用されない様に神殿マイホームの護衛を目的とした常駐グループも用意するか。ローガと相談しよう。万一魔の森で狼牙族が見つかれば仲間に引き入れてきてもらってもいいしな。

 

 

 

俺は屋敷に入らず、厩舎を覗く。

 

 

 

『あ、ボス!お帰りなさい!』

 

 

 

むくりと顔を上げたのは氷牙であった。

 

 

 

「おう、警護おつかれさん。先日ローガには伝えたんだが、この王都周りでの魔獣狩りは今後依頼を受けてお願いされない限り行わないことにしたんだ」

 

 

 

『なるほど・・・魔獣がいなくなれば人間の生活も安全になるのかと思っておりましたが』

 

 

 

氷牙は少し首を傾げる。

 

 

 

「そうなんだ・・・、俺もそう思っていたんだが、弱めの魔獣を狩って生活する人間もいたんだよ。その人間たちの仕事が無くなってしまってな・・・」

 

 

 

ちょっと遠い目をして俺が語ったため、氷牙もそれが若干触れるべきではない話題なのかとそれ以上追及しなかった。

 

 

 

「そんなわけでお前たちに思いっきり暴れられる場所を用意しようと思ってな」

 

 

 

『ほう!そんな場所を頂けるのですか』

 

 

 

「カソの村の西にある魔の森で狩りをしてきてもらいたい」

 

 

 

『おお、それは腕が鳴りますな!』

 

 

 

氷牙は魔の森と聞いて嬉しそうな表情になる。

 

 

 

『して、魔の森まで行くメンバーを選定せねばなりませんな』

 

 

 

きりっと表情を締める氷牙に俺はチッチッチと指を振る。

 

 

 

「なんと、ここから即カソの村の泉の畔に立てた神殿マイホームに行けるように俺の能力で空間をつなぐようにするんだ。すぐに行けるし、すぐに帰って来れるぞ。だからローテーションを組んで全員が魔の森で腕を磨けるようにしてやるぞ」

 

 

 

『ほう!それは素晴らしいですな!では我ら四天王がそれぞれグループを率いて鍛えて参りましょう!』

 

 

 

やたら気合いの入った氷牙に苦笑いしながらも、俺は空間転移の扉を設置する。

 

 

 

「お前たちだけが使うようにな。あ、ヒヨコたちはフリーに使わせていいぞ。この扉を守るために、こちらとあちら側に最低二匹を張り付かせてくれ」

 

 

 

『ははっ!』

 

 

 

後は、明日にでもカソの村へ行ってミノ娘たちがのんびり暮らせる村をつくる相談をせねば。フラウゼアさんも巫女の仕事のために移動準備をしてもらわないとな。

 

・・・サキュバスのミーナは、うん、ストラップ作りに精を出してもらうか。

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・」

 

 

 

努めて普通の表情で屋敷に入る。

 

 

 

「おかえりなさいませ、旦那さま」

 

 

 

出迎えてくれたのは筆頭執事のセバスチュラであった。

 

 

 

「ああ、ただいま」

 

 

 

「食事が出来ております。奥様方も普通のお姿でお待ちです」

 

 

 

「あ、そうなんだ。ありがとう」

 

 

 

すっと無言で頭を下げて来るセバスチュラ。必要情報だけをすっと出してくれる、出来る執事だね。

 

 

 

「ただいま~」

 

 

 

努めて普通に食堂に入る。みれば奥さんズの面々とリーナが席に座っていた。

 

 

 

「ふおおっ!ご主人しゃまが帰って来たでしゅ!」

 

 

 

席から飛び降りてリーナが俺に突撃してくる。

 

ここは甘んじてリーナの突撃を優しく受け止めよう。

 

 

 

「ただいまリーナ。いい子にしてたかな?」

 

 

 

リーナの頭を撫でる。

 

 

 

「ハイなのでしゅ!」

 

 

 

何となく俺がいい子に出来ていないとかツッコミを入れられそうだが、リーナには真っ直ぐに育ってもらいたいので声はかけておかねば。

 

 

 

「ヤーベおかえり。疲れたろう、とにかく夕食を取って休むといい」

 

 

 

イリーナが席につくよう手で促しながら声を掛けてくれる。

 

まさか、イリーナがまるで奥さんの様に俺を気遣う労いの言葉をかけてくれるようになるとは・・・。まあ、奥さんになるんだが。

 

 

 

「・・・ヤーベよ、何か失礼な事を考えてないか?」

 

 

 

「イイエ、ソンナコトハ」

 

 

 

思わずカタコトになってしまう。

 

そんなこんなもあったが、ゆったりとした食事をとり、休むことにした。

 

 

 

そして翌朝―――――

 

 

 

「さて、今日はカソの村に行っていろいろ打ち合わせだな」

 

 

 

「私に務まりますでしょうか・・・」

 

 

 

心配そうな表情を浮かべるのはフラウゼア・ハーカナーさんだ。

 

 

 

「なんの心配もいらないですよ。それにもうすでに一人働いていますから、その人についていろいろ覚えてもらえればいいですよ」

 

 

 

「ちょっと―――――!! アタシ!アタシのこと忘れてますよね!」

 

 

 

羽をパタパタと動かし、ちょっとだけ浮いた状態で俺に文句を言うサキュバスのミーナ。

 

 

 

「えっと・・・だれ?」

 

 

 

「うええええ~~~ん!ヤーベさんがひどいよ~!!」

 

 

 

ガチ泣きするミーナ。

 

 

 

「わかったわかった、お前にも環境のいい場所でストラップ作りできるよう部屋を用意してやるよ」

 

 

 

「ていうか、どーしてアタシだけずっとストラップ作りなのよ~~~!!」

 

 

 

「売れるんだよ、ストラップ」

 

 

 

「ふえええ~~~ん、鬼だよ!ヤーベさんは鬼だよ~~~」

 

 

 

「失礼な。ちゃんと時給で給料計算しているぞ? 時給銅貨2枚」

 

 

 

「少なっ! 一日八時間働いても銅貨16枚だよ!?」

 

 

 

「そこから食費と宿泊費差っ引くけどね」

 

 

 

「お給料残らない!? ていうか、もしかして赤字かも!?」

 

 

 

がっくりと膝から崩れ落ち、両手を床について肩を落とすミーナ。まあ冗談なんだけどね。

 

 

 

そんなコントじみたことをエントランスでやっていると、門番が慌ててやって来て玄関を開けた。

 

 

 

「だ、旦那様!王城から使いの方が来ています!」

 

 

 

すぐ後ろには宰相であるルベルク殿の部下がやって来ていた。

 

 

 

「どうしました?」

 

 

 

「スライム伯爵様! すぐに登城お願い致します! 今朝方ドラゴニア王国より宣戦布告状が届きました!」

 

 

 

・・・はれ? いつの間にそんなことになったの?

 

 


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