転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第221話 戦争は全力で回避しよう

唐突だが、俺は戦争が嫌いだ。大っ嫌いだ。

 

 

 

まあ、平和な日本に生まれ育って、戦争が好きだ、たまらねーなんてヤツはいないとは思うけど。だが、俺は戦争映画も嫌いだったし、話を聞くのも嫌だった。他国で行われていた戦争のニュースを聞くのも嫌だった。

 

戦争を体験した人の体験談を聞き、戦争の悲惨さを学んで戦争を起こすことの愚かさを学ぼう、という事自体を否定しようとは思わない。目的がそれだけでないこともわかる。

 

映画もそうだな。戦争の悲惨さと、一人一人の兵士が「一人の人間である」ことを伝える良い媒体であるような気もするが、どうしても好きになれない。

 

「戦争=悲惨」である、というイメージが抜けないため、映画も本も全く楽しめない。

 

大体、学ぶだけなら想像するだけでわかるだろう、と思ってしまう。

 

だが、自分が痛くないと分からない人たちもいる事は事実なんだよな。

 

 

 

戦争により、領土拡大する事ができ国が富む、そう考えるから侵略戦争が起こるのだろう。

 

相手の国に同じような人が生きている事を知っていながら、それらを蹂躙して自分たちの富のためだけに力を振るう。

 

それって、盗賊と何が変わるの?と思ってしまうのだが。

 

だが、個人で行えば犯罪になる事も、国でやるとそうでは無くなる事は非常に多い。その現実は目を背けても無くなりはしないだろう。

 

 

 

現実問題を考えた上で、今自分がいる異世界の事を考えてみる。

 

ラノベの物語って、必ずあるよな。チート主人公が活躍し始めると巻き込まれる大型イベントに『戦争参戦』が。主人公の力が膨大になれば、巻き込まれるトラブルもそれに比例して規模が増大する。それは仕方のない事なのかもしれない。田舎でスローライフを、と思っていた俺も今では王都で伯爵なんてものに祭り上げられちまってるしな・・・チートも無いのに。

 

 

 

それにしても、ラノベの主人公が戦争に巻き込まれる時、チート能力で相手を殲滅するパターンか、戦争そのものを回避させると言う想像を絶するパターンか、大抵どちらかが多い気がするな。力が足りないからってその場から逃走するパターンもあるけど。

 

 

 

ラノベで読むならよかったが、この異世界は自分の生きる世界なんだ。今の自分の力と立場からすれば、戦争への参戦は不可避だろう。ならば、俺は相手の兵士を殺せるのか? 人を殺すところを自分の目で見たくないからと言って、絶対に野放し出来ない最悪の敵を魔導戦艦ごと圧倒的なエネルギーで消滅させた俺に目の前に迫る兵士が殺せるのか?

 

 

 

侵略戦争なんだ。戦わないと言う選択肢はない。だが、相手国の兵士たちはこちらを蹂躙して欲望を満たしたい悪魔のような奴らばかりだろうか? 戦いたくないけど、命令だし仕方なくって思っている兵士もいるかもしれない。でも、給料をもらっている職業軍人ならばその気持ちを考慮する必要などないのだろうか? 無理矢理徴兵された農村の優しい青年が槍を持たされていたらどうするのか。その区別は果たしてつくのだろうか?

 

 

 

それにワイバーンだってそうだ。彼らは捕まって無理矢理調教されている感じもあった。なんだか強いドラゴンがいて、逆らえないと言っていたような気もするが、攻めてきた時にそのワイバーンたちの首をあっさり落とすことが出来るのか。

 

 

 

考えていても埒が明かないが、戦場に立つのならば、それ相応の覚悟は必要になるだろう―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、スライム伯爵、よくぞ参った! そちらの席に掛けてくれ」

 

 

 

宰相のルベルクに案内されて席に座る。

 

伯爵が何人も並んで座っているが、最も辺境伯に近い位置に案内された。いいのか?最も新参な俺が伯爵の並ぶ席の一番上座的な場所で。

 

 

 

だが、その隣はイリーナの父親であるダレン卿、ダレン・フォン、ルーベンゲルグ伯爵だしな。あまり気にしない様にしよう。

 

 

 

俺は椅子に座った。周りを見れば、子爵以上の貴族の多くが出席しているようだ。

 

 

 

「ヘッ! 重役出勤たぁいい御身分だなぁ、オイ!」

 

 

 

文句を言って来るのはフレアルト侯爵だな。スルーで。

 

 

 

「おいっ!無視すんなよ!」

 

 

 

何か言ってるけど、スルーで。

 

 

 

「よし、これで揃ったな。早速会議を始める」

 

 

 

宰相のルベルクが宣言する。フレアルト侯爵がマジで!?みたいな顔でルベルクを見た。

 

 

 

ちなみに、今までずっと頭の上に鎮座していた二匹の謎生物、ジョージとジンベーは奥さんズに預けてきた。ジンベーはイリーナが、ジョージはフィレオンティーナにギュッと抱きしめられたままの状態で屋敷を出てきた。出かける時にめちゃめちゃキューキューズゴズゴ鳴いてペチペチされたが、ちゃんと夜までに帰って来ると約束して、いい子なら留守番して待つことも出来るだろ、と話しかけから、落ち込んで目に涙を浮かべながらも理解してくれたのか、イリーナとフィレオンティーナの腕に抱かれたまま大人しくなった。

 

ちょっと可愛そうになったが、他国からの宣戦布告状を会議で話し合うのに、頭に謎生物を乗せたままでは何を言われるか分かったものではないからな。

 

 

 

宰相のルベルクの隣にはワーレンハイド国王、リヴァンダ王妃、カルセル王太子、カッシーナ王女の王族全員がそろっていた。

 

・・・改めて、一番最後が俺ってまずかったのでは、と思わなくもないが、多くの貴族はたぶん城にいたんだろうな。屋敷にいた俺は呼ばれて登城したわけだし、仕方がないな。

 

そしてリヴァンダ王妃、なぜ俺の頭の上を見て残念そうな表情を浮かべてるの! 大事な会議だからね。カッシーナもだよ!

 

 

 

「スライム伯爵が到着する前に一応ドラゴニア王国よりもたらされた宣戦布告状の内容を皆には一読して頂いたわけですが、スライム伯爵も到着されましたので、簡潔に要点を再度確認しましょう」

 

 

 

そう言って宰相のルベルクがドラゴニア王国の宣戦布告状の要点を次の様に述べた。

 

 

 

1.ドラゴニア王国はバルバロイ王国に宣戦布告を行うものとする。

 

2.宣戦布告の理由はバルバロイ王国が大陸各国の安寧を脅かす兵器を獲得しながら秘匿した事による

 

3.戦争開始は一週間後とする

 

 

 

という事のようだ。

 

 

 

「・・・明らかに、リカオロスト公爵が掘り出した魔導戦艦の事を指しているな・・・」

 

 

 

ドライセン公爵が腕を組みながら溜息を吐くように呟く。

 

 

 

「死んでからも我が国に迷惑をかけるとは・・・、本当に存在自体が害悪でしたわね・・・」

 

 

 

リヴァンダ王妃が思いっきり辛らつな発言をする。

 

相当リカオロスト公爵にムカついていたんだろう。

 

 

 

・・・それにしても、兵器・・という指摘で助かった。実際のところ兵器としての魔導戦艦はすでに木端微塵で消滅している。これが大陸を脅かす存在・・と記載されていれば、微妙な所だろう。俺の事を危険な存在だと言われれば、全面否定したくても信じない者は出るだろう。

 

・・・ノーチートの上、ツルンとした可愛いスライムボディの俺を危険な存在などと、何をバカなと言いたいところだがな。それに、そう言った危険な存在ではないと証明するためにわざわざスラ神様になって「加護持ち」を印象づけたのだ。怪しい神とはいえ、神からの加護持ちを危険な存在で切って捨てるのはあまりにも短絡と言うものだろう。

 

尤も、王国に利が無いとなればあっさり切られる事もあるのだろうがな。

 

 

 

「彼我の戦力差はどうなっているのです?」

 

 

 

「わが国は王都の騎士団と兵士で約五万の戦力を有しております。バルバロイ王国の兵士総数は三万から三万五千程度との調査報告ですが、彼の国は竜を崇める国であり、その兵士たちの多くは竜人族ドラゴニュートの血を引くと言われております。兵士一対一の戦いでは彼の国に分があると言えましょう」

 

 

 

淡々と説明する宰相ルベルク。

 

なるほど、完全に亜人の国と言うわけではないが、その血を引いているわけか。

 

 

 

「なんの! ドラゴニア王国なぞ何するものぞ! 我が兵団は一騎当千! 負けるはずがありませんぞ!」

 

 

 

気勢を上げるのは宰相の近くに座っているフルプレートを着た男だった。

 

 

 

「オレイス将軍、そなたが兵を鍛え上げているのはわかっている。だが、戦力差はまず数字で把握しておかねばならぬ」

 

 

 

ワーレンハイド国王が少し諫める様に発言した。

 

 

 

「ははっ」

 

 

 

大人しく引き下がるオレイス将軍とやら。あれが、兵士を纏める軍のトップか。

 

王国騎士団とは別の組織、バルバロイ王国軍を束ねる頭があれか・・・ちょっと脳筋入っている感じだな。どちらかというと、王国騎士団長のグラシアとはだいぶ違う感じだな。

 

 

 

「敵国はワイバーンを駆使しております。天空から飛来し、<火炎の吐息ファイアブレス>での攻撃が予想されます。まずはこれに対抗措置を取らねば、戦争に勝つことなど夢のまた夢となりましょう」

 

 

 

そう思っていたら王国騎士団の団長グラシアがはっきりとそう告げる。

 

 

 

「何を軟弱な!王国騎士団長がそんな弱腰でどうする!」

 

 

 

激昂して立ち上がるオレイス将軍。うむ、何の対策も出さずに根性論だけをぶち上げる脳筋の中の脳筋野郎だな。

 

 

 

「だが、ワイバーンの飛行高度は我らの弓矢の届くギリギリの距離を飛ぶ。こちらの弓矢は大した威力を発揮できないのに敵の<火炎の吐息ファイアブレス>はこちらを焼くのだ。対策は必要だ」

 

 

 

「そんなものっ!」

 

 

 

グラシア団長は頼りになりそうだが、オレイス将軍はダメだな。この将軍の下で戦う兵士たちに同情を禁じ得ない。

 

 

 

「スライム伯爵、どう思う?」

 

 

 

ワーレンハイド国王が直接俺に問いかけた。

 

 

 

「ドラゴニア王国のワイバーンですが、どうやら二十匹程度の集団の様です。それとは別にそれらを束ねているドラゴンが一匹いるとか」

 

 

 

「な、なんだとっ!」

 

「ドラゴンだと!」

 

「ドラゴンがいるなど、初耳ですぞ!」

 

「そのような情報どこで!?」

 

 

 

いきなり紛糾する会議場。この前ワイバーンが飛来した時にちょっと直接トークしたら、いろいろ聞けたんだよね。

 

 

 

「先日ドラゴニア王国より使者がやって来た際に乗っていたワイバーンから直接情報を聞いたのですよ。何せ<調教師テイマー>なもので、うまくいけば魔獣と意思疎通が出来るのですが、ドラゴニア王国のワイバーンとはうまく意思疎通を取ることが出来ました」

 

 

 

「なんとっ!」

 

「それは素晴らしい!」

 

「ナイスな情報ですぞ!」

 

 

 

俺の説明に感動してくれる人が・・・。

 

というより、俺を持ち上げてる感じ?俺を持ち上げてもなーんにも出ないですけどね!

 

 

 

「・・・それほどの軍勢がすべて我が王国に向かって来れば、大変なことになるな・・・」

 

 

 

ワーレンハイド国王が苦々しい表情で呟く。

 

 

 

「二週間後に控えたスライム伯爵とカッシーナ王女の結婚の儀式は延期する以外にありませんな・・・」

 

 

 

宰相のルベルクが残念そうに国王に告げる。

 

 

 

「その必要はないかもしれませんよ?」

 

 

 

俺は、ニヤリとしてそう告げるのだった。


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