転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第222話 敵の動きを検討しよう

 

作戦は、こうだ。

 

 

 

敵国のワイバーン戦力をヘッドバンキングする―――――

 

 

 

いや、ワイバーンがヘッドバンキングしたら怖すぎる。ロックやヘビメタライブでは盛り上がるかもしれんが。ヘッドハンティングだ、ハンティング。

 

ワイバーンを味方に引き抜けばドラゴニア王国としても戦争継続は難しいだろう。

 

 

 

そう説明したところ・・・

 

 

 

 

 

「ハ――――ッハッハッハ! スライム伯爵は御乱心召されたようだぞ!」

 

 

 

とオレイス将軍に馬鹿にされた。まあ、この説明だけで納得しろとは俺も言わないが、コイツに馬鹿にされるのだけは何となく腹が立つな。

 

 

 

「そんな事が可能なのか・・・」

 

「救国の英雄殿ならばあるいは・・・」

 

「いやしかし・・・」

 

 

 

ざわつく貴族のオッサンたち。特に子爵、伯爵のこの会議場で言うと下座の人たちのざわつきが激しい。

 

てか、侯爵様方はなぜに泰然とされておられる?

 

俺ならやりかねん、ってか?

 

 

 

「はっはっは、さすがは救国の英雄殿だな。して、ワイバーンの引き抜きだが、お主の<調教師(テイマー)>の能力をもってして、どれほどの確率なのだろうか?」

 

 

 

キルエ侯爵が笑みを浮かべて俺に問いかける。

 

ワイバーンを使役できる能力があると俺の能力を知らない下座の貴族たちにわかるように聞いてくれるとは、さすがキルエ侯爵だ。

 

 

 

「もちろん交渉事ですからね。100%というのはあり得ないわけですが、ドラゴニア王国のワイバーンたちは隷属の首輪と呼ばれる首輪をつけられており、その効力もあって竜騎士たちの指示に従わざるを得ないようですので、まあやりようはあると思いますよ?」

 

 

 

実は、ワイバーンたちとトークしてた時に首輪に気づいたので聞いてみたら、網で捕まった時に首につけられて、やつらの言うことを聞かないと体が痺れて動けなくなるとの事だった。仲良くなったワイバーンに急に暴れないことを伝えた上で、試しに俺の亜空間圧縮収納へ首輪を収納できるか試したところ、あっさり収納できてしまった。鑑定の結果、隷属の首輪というモンスターを無理やりテイムするためのアイテムだとわかったのだが、コレ、人間にも効果があるようだ。コワッ!

 

 

 

うわっ、首輪とれたー!と喜びのあまりワイバーンが暴れそうになったので、すぐ首輪を元通りにしてやったらすごく落ち込まれた。

 

今みんな自由になると問題になるから、もうちょっと待ってろ、タイミングを見てお前たちの国に行ってやるから、と伝えたらどのワイバーンたちもすごく喜んでいたからな。引き抜きはともかく、ワイバーンの首輪を外してフリーにするところまでは100%成功するだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「それは頼もしい限りだ」

 

 

 

キルエ侯爵が俺を持ち上げる。

 

俺を持ち上げても何も出ませんぜ?

 

 

 

「ハンッ!ワイバーンがいなくなっても、まだドラゴニア兵団三万五千が残ってるだろ。安心するには早いんじゃねーのか?」

 

 

 

フレアルト侯爵がいら立つように告げる。

 

この御仁、どうも俺様が活躍することに反発する傾向にある。文句があるなら自分が対応すればいいのに。

 

 

 

「それ以前に、もっと大事なことを検討せねばならないと思いますが?」

 

 

 

俺は努めて冷静に伝える。

 

 

 

「どういうことだね?」

 

 

 

俺の言葉に即座に反応したのはワーレンハイド国王であった。

 

 

 

「ドラゴニア王国の宣戦布告状にある戦争開始の期限は一週間後ですよ?おかしいと思いませんか?」

 

 

 

「・・・何がだよ?」

 

 

 

フレアルト侯爵が首を傾げる。

 

 

 

この王都バーロンの北は旧リカオロスト公爵領となっている。そのリカオロスト公爵領の北は広大な山脈が広がっている。つまりドラゴニア王国はこのバルバロイ王国の北西に位置した国ではあるが、この王都バーロンを急襲するために、そのまま国から南下して攻めてこられるわけではないのだ。

 

 

 

「ああっ!そういう事か!」

 

 

 

ドライセン公爵が思わず立ち上がって叫ぶ。どうやら俺が疑問に思っていることに気が付いたようだ。

 

 

 

「なんだ、どういうことか?」

 

 

 

宰相のルベルクも俺とドライセン公爵を交互に見ながら説明を促す。

 

 

 

「ドラゴニア王国が主要街道を使って軍を進めてくる場合、真っ先に我が国に到達する場所は城塞都市フェルベーンになります。元々<迷宮ダンジョン>が多いからという理由の他に、ドラゴニア王国が進行してきた場合ここで食い止めることも視野に入れて作られている都市です。そう簡単には落ちません」

 

 

 

「ふむ・・・」

 

 

 

ワーレンハイド国王が頷く。

 

 

 

「ですので、王都を急襲するためには山越えをして直接王都バーロンの北西に出る以外にありません」

 

 

 

「なるほど」

 

 

 

宰相のルベルクも頷く。

 

 

 

「ここで問題になるのが、先ほどヤーベ卿が言われた一週間という期限です」

 

 

 

ドライセン公爵が会場を見渡しながら説明する。

 

 

 

「一週間がなんだというのです?」

 

 

 

フレアルト侯爵がまだピンと来ていないのか疑問を口にした。

 

 

 

「貴殿、ドラゴニア王国から軍兵が移動してきた場合、どれくらいの日数がかかると思う?」

 

 

 

「え? あ~」

 

 

 

ざっとした地形は頭に入っているのだろうが、馬でも人でも実際に移動する時間の認識まで持っていなかったのか、フレアルト侯爵は答えられなかった。

 

 

 

「ドラゴニア王国から城塞都市フェルベーンまででもざっと一週間以上かかるでしょうな。王都を急襲するために山越えしてくるとなるとどんなに急いでも二週間以上は確実かと」

 

 

 

ドルミア侯爵が腕を組んだまま説明する。普段影が薄めのドルミア侯爵ではあるが、実直で頼りになる男でもあった。

 

 

 

「・・・開戦日程にまるで間に合わぬではないか・・・」

 

 

 

ワーレンハイド国王が手を顎に当てて考えるしぐさを取った。

 

 

 

「ここから考えられる事は二つです」

 

 

 

俺は指を二本立てて説明する。

 

 

 

「一つはワイバーンを使った竜騎兵の集団のみで戦端を開くという可能性」

 

 

 

「むうっ!」

 

「ワイバーンによる竜騎兵のみでだと・・・」

 

 

 

ざわつく会場に俺は説明を続ける。

 

 

 

「ワイバーンの戦力からして、王都を陥落させるほどの脅威ではない。あくまでもこちらの兵士の士気を落とし、兵団での戦闘を優位にする目的と思われるが、日程に乖離があり、疑問符が付く」

 

 

 

「それでは・・・?」

 

 

 

これまで一言も口を挟まなかったリヴァンダ王妃が恐ろしい表情を浮かべながら疑問を口にする。

 

 

 

「そうです、もう一つの可能性として、すでにドラゴニア王国の兵団がこちらに向かっている可能性です。この場合、宣戦布告状が届く前からドラゴニア王国はこのバルバロイ王国に兵を出立させた。つまり最初からドラゴニア王国は戦争を仕掛ける気であったということですよ」

 

 

 

「な、なんだと!?」

 

「なんてこと・・・」

 

 

 

ワーレンハイド国王とリヴァンダ王妃が同時に言葉を失う。

 

 

 

「それでは、最初の会談を求めてきた時には、もうその腹積もりであったということか」

 

 

 

宰相のルベルクはしてやられたと臍を嚙んだ。

 

 

 

「聞けばドラゴニア王国はこのバルバロイ王国より国土も狭く、高地であり食糧事情もあまりよくないとの事。そんなドラゴニア王国が防衛ではなく、侵略戦争として兵をこのバルバロイ王国へ繰り出すという。先の報告にもあったように、王都全軍でも三万五千程度の兵団という規模なのだ。竜騎兵と全軍でこの王都バーロンを急襲して初めて勝利が見えてくるだろう。であれば、ドラゴニア王国の王都を防衛する戦力は空になってしまう。これをどう見るか」

 

 

 

俺の言葉にハッと気づく諸侯たち。

 

 

 

「確かにおかしいぞ・・・」

 

「王都の防衛を考えないなど、通常はあり得ないぞ」

 

 

 

ざわざわと話し出す連中をしり目に、俺はワーレンハイド国王に目を向ける。

 

 

 

「ワーレンハイド国王がもしこの王都全軍を上げて他国に攻め入ろうと判断をする時、そこにはどんな条件が必要ですか?」

 

 

 

俺は答えのわかった質問をワーレンハイド国王に向ける。

 

その方が諸侯にも今どれだけ世界が動いているのかイメージできるだろう。

 

 

 

「通常ならばその判断はありえん・・・。だが、どうしてもその判断をせねばならぬとなると、この王都への危機が及ばぬことが絶対条件となるが・・・、そのような条件があるかどうか・・・」

 

 

 

「貴方、コーデリアが嫁いだガーデンバール王国が全面的にバックアップしてくだされば、東からの脅威に対応できますから、全軍を北へ向けられるのでは?」

 

 

 

悩み始めたワーレンハイド国王にリヴァンダ王妃が声を掛ける。

 

 

 

「そうか、ガーデンバール王国の力を借りれば・・・まさかっ!」

 

 

 

ワーレンハイド国王が驚愕の表情を浮かべる。宰相のルベルクもドライセン公爵も侯爵一同も、コルーナ辺境伯でさえ驚きの表情を浮かべた。

 

 

 

「ドラゴニア王国の東は大きな山脈があり、西は魔の森が広がっている。南はこのバルバロイ王国ですよね」

 

 

 

俺が指を折りながら地理を確認していく。

 

 

 

「グランスィード帝国・・・!!」

 

 

 

そう、ドラゴニア王国の北に位置する、列国第二位の軍事力を誇る強大なグランスィード帝国が裏で糸を引いているに違いなかった。

 

 

 

「グランスィード帝国の後ろ盾を得たからと言って、全軍で進行を始めるなど、一体・・・」

 

「どれほどの盟約があるのか・・・」

 

「そもそもグランスィード帝国を全面的に信頼するなど、ありえるのか?」

 

「想像を絶する裏取引があるやもしれん」

 

わらわらと話し出す諸侯。ドラゴニア王国のさらに後ろに強大な帝国の影がちらつくことにより、脅威が増したようだ。

 

 

 

「まずは斥候の数を増やし、ドラゴニア王国から進行する兵団の位置と規模を正確に把握するのが大前提です。その上でドラゴニア王国とグランスィード帝国のつながりを検討し、その対策を練らねばなりません。ワイバーンの引き抜きなどその対応の一手に過ぎません」

 

 

 

俺の言葉に険しい表情を浮かべる諸侯たち。

 

今まさに長く続いた安寧の時代が終わりを迎え、激動の時代へと切り替わろうとしているのを肌で感じ取るのだった。

 

 


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