転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? 作:西園寺卓也
「ば、馬鹿なっ! 貴様ふざけているのか!」
「恐れながら陛下、これは冗談でも嘘でも虚言でもないのです」
ドラゴニア王国、国王陛下バーゼル・ドラン・ドラゴニア八世は玉座より立ち上がって怒鳴り声を上げた。
報告した兵士は真っ青を通り越して真っ白になってしまったと思われるほど白くやつれ切っていた。
「それでは、貴様は竜騎兵の厩舎に居たワイバーン二十頭悉くが脱走して行方不明と言うか!」
「恐れながら国王陛下、その通りでございます」
頭を下げ、顔が上げられない兵士。
だが、その事実はどうしても陛下に伝えなければならなかった。なぜならすでに戦争は始まってしまっているのだから。
「ワイバーン二十頭が煙の様に消えたと申すかッ!!」
完全に激怒しているバーゼル陛下。
「しかし、これは少々おかしゅうございますな」
「少々で済むか!」
「陛下、落ち着いてください。落ち着きを失う事はより多くの物を失うことになりかねませんぞ」
国務大臣のパーシバルがバーゼル陛下を諫める。
本来ならば国防危機なのだから国防大臣のノルデガが諫めるべきところだと思われるが、国防大臣のノルデガはコネと血筋で伸し上がって来た典型的な貴族であったため、非常時にはまるで頼りにならなかった。
「むう・・・で、何がおかしいのか?」
「厩舎でございます。ワイバーンたちの隷属の首輪が不具合を起こしたとして、暴走したワイバーンたちが一頭たりとも建物を壊すことなく静かに逃げて行くと言うことなどありえるのでしょうか?」
「むっ!確かに変だ!」
「それでは、煙の様に消えたとでもおしゃられるのですかな?」
軍務大臣のガレンシアが眉をひそめて国務大臣のパーシバルを睨む。
「わからぬ。どのようなからくりがあるやも見当が付かぬ」
「大したご意見番よの」
ガレンシアはパーシバルを足掻けるようにぼやいた。
「えらいこっちゃ~、ワイバーンが一匹もおらん様になっとりますわ!」
慌ててバーゼル陛下のいる玉座の間に駆け込んできたのは竜騎兵隊長のドワルーであった。
「落ち着け、もうその話は陛下にご報告が上がっておる」
国務大臣のパーシバルはドワルーに説明した。
「しかし、隷属の首輪つけ取ったのに何で一匹たりともおらんようになってまったんやろ?」
「陛下、申し上げます!」
そこへ別の兵士が報告に来た。
「どうした?」
国防大臣のパーシバルが問いかけた。
「はっ! 西の森に向かって多くのワイバーンが飛び去って行くのを見たとの目撃情報が上がっております!」
「なんだとっ!」
再び玉座を蹴って立ち上がるバーゼル陛下。
「それは誠か?」
「ははっ!多くの兵士が目撃しております。多分城下の町でも多くの人々が目にしていると思われます」
国務大臣のパーシバルに問われ、答える兵士。
「西の森・・・だとっ! 北東の火竜山に住む<古代竜エンシェントドラゴン>のミーティアの保護を受けに行ったのではなく、真逆の西の森へ飛び去ったと言うのか!」
バーゼルは全く理解できなかった。
<
「馬を引けぇ! 余自ら火竜山へ向かう! 支配の王錫を用意せよ! あれが無いと<
「陛下!今陛下ご自身で向かわれるのですか!危険ですぞ!」
国防大臣のノルデガは自分も付いてこいと言われると非常に危険が迫ると感じての、わが身可愛さから出るセリフであった。
「今余が行かずしてどうするのだ!すでに戦端は開かれたと言っても過言ではない!竜騎兵の奇襲があってこそ兵士の突撃も生きて来るのだ!こうなれば余自ら<
「なんですとっ!?」
国防大臣のノルデガは腰を抜かす。ドラゴニア王国の守り神とも言うべき<
圧倒的存在の<
「出発するぞ!何としても先行している兵士団の行軍に間に合わせるっ! ガレンシア、ドワルー、道中供を頼む」
「「ははっ!」」
こうしてバーゼル国王陛下は支配の王錫を手に<古代竜エンシェントドラゴン>のミーティアに助力を願うべく火竜山へ向かった。
自分が供をせよと名指しを受けなくてよかったとノルデガはその場でへなへなとへたり込んだ。
時はしばらく遡る―――――
『我が主よ。ワイバーンたちがいる厩舎に忍び込みましたぞ』
長距離念話がハンゾウより入って来る。狼牙族のハンゾウとヒヨコ族のサスケを組ませて隠密として働いてもらっているが、素晴らしい適材適所だったようだ。俺はハンゾウに持たせた出張用ボスから受けた念話で、その位置を特定する。
『それではそちらに向かう』
そう言って転移の扉を開けて瞬時にハンゾウとサスケの目の前に現れる。
『さすが我が主。主の前には空間すら意味をなさなくなるとは』
恭しく頭を下げながら俺を出迎えるハンゾウ。
『ボス!ボスと仲の良いワイバーンがいるのはそちらの厩舎です』
『お、サスケさすが仕事が早いね、ありがとう』
『ははっ!我はボスの手足となって働く事こそ我が望み!』
サスケは固いね、ホント。
じゃあ、魔法耐性の弱い人間だけが効くように魔力調整して魔法を発動させよう。
「ダータレラ、頼むよ」
俺の言葉に闇の精霊ダータレラが顕現する。
先日の<
『ふふっ・・・ついに私を呼び出してしまいましたのね・・・貴方に深淵の闇が訪れんことを・・・』
『ダータレラ、いきなり怖い事を言わないでくれ。深淵の闇なんていらないよ。ダータレラだけでいい』
『あら・・・貴方様はわたくしを喜ばせる事がお上手なよう・・・』
ほんの少しだけ頬を染めて笑顔を浮かべる。闇の精霊ダータレラ、かわゆし。
「さあ、兵士たちには眠ってもらおう。<
俺は闇の精霊魔法<
『やあ、ワイバーン君、元気だったかね?』
『あ、この前の! 本当に来てくれたんだね!』
この前俺と喋ったワイバーンが嬉しそうに顔を向けてきた。
『さあ、その忌々しい首輪を取り外そう。だけど、建物を壊したり人間を殺したりするなよ?脱走がバレて邪魔されちゃうから』
『なるほど!君は頭いいね!わかったよ!』
ウキウキとした様子で隷属の首輪を外してくれるのを待っているワイバーン。こうやって見ると人懐っこい様に見えるけど、気のせいか?
俺は亜空間圧縮収納へ隷属の首輪を収納する。ワイバーンの首から隷属の首輪が消える。
『わあっ!やっぱり問題なく外れた!君すごいよね!』
その後他のワイバーンの隷属の首輪も全て回収する。
総勢二十頭のワイバーンたちに指示を出す。
『それではここから建物の外に出て、西の森へ向かおう。俺も一緒に飛んでいくから、ついて来てくれ。いい狩場があるんだ』
そう言って<
『よしっ!みんなであの人について行こうぜ!』
俺を先頭にワイバーンが大勢飛び立つ。
眠らせた連中はともかく、街の誰かにワイバーンたちがどちらの方向へ行ったか確認してもらう必要がある。転移の扉であっさり消える様に移動してしまうと、ワイバーンが神隠しにあったとか変な方向に話が行きかねない。それに、転移の能力を万が一にでも気づかれるわけにはいかないしな。
まずは西の森で腹いっぱいになるまで魔獣を狩らせて、それから南下してバルバロイ王国の領土に移動だな。
俺は今後の移動方向を確認しながらまずは西の森に向かった。