転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?   作:西園寺卓也

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第225話 ドラゴニア王国兵士団の侵攻を足止めしよう

ドラゴニア王国、国王陛下バーゼル・ドラン・ドラゴニア八世は昼夜を問わず駆け、火竜山に住む<古代竜(エンシェントドラゴン)>のミーティアに会いに行った。

 

通常の馬なら潰れてしまうであろう距離と時間ではあるが、岩蜥蜴ロックリザードと呼ばれる山に住む巨大蜥蜴に乗っていた。この岩蜥蜴ロックリザードは飼いならせば騎乗でき、体力とスピードに優れ遥かに馬を凌駕する乗り物となる。

 

 

 

「陛下!少し休憩を入れられては!」

 

 

 

並走している軍務大臣のガレンシアが声を掛ける。

 

休憩と言っても水分と少しの携帯食を取るだけだ。

 

回復魔法が使えるような人材はドラゴニア王国には少なかった。

 

特に軍務につく者には皆無であった。これは竜騎兵を用いて戦うドラゴニア王国の特性のためか、兵士に中途半端なケガで戦線離脱する率が少ないため、あまり必要性を感じる人間がいなかったことに起因していた。

 

 

 

「そうしましょ!それがいいですわ」

 

 

 

竜騎兵ドワルーが賛同する。だが、

 

 

 

「まだ不要だ!もう少し進むぞ!」

 

 

 

休憩の言を却下し、岩蜥蜴ロックリザードの手綱を握り直して加速して行く。

 

 

 

「ええ~、まだ休憩せんのかいな」

 

 

 

ドワルーの嘆きは誰にも聞こえることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古代竜(エンシェントドラゴン)>ミーティアよ! 我はドラゴニア王国、国王バーゼル・ドラン・ドラゴニア八世である! 盟約に基づき、我が要望を聞き届け、その力を貸せ!」

 

 

 

火竜山の山頂近く、火口付近の支配の王錫を掲げて巣穴に踏み込んだ国王バーゼルは声を張り上げた。

 

 

 

「だ、大丈夫でっしゃろか・・・」

 

「支配の王錫にどれほどの力があるかわからんが、<古代竜(エンシェントドラゴン)>ミーティアが敵に回れば我らは一瞬で消し炭になるだろうよ」

 

 

 

不安げなドワルーに身も蓋も無い答え方をするガレンシア。

 

 

 

『フシュ~~~、不遜なる者よ、人間の国の矮小な王よ。我が<古代竜(エンシェントドラゴン)>ミーティアと知ってそのような口をきいておるのか』

 

 

 

巣穴の奥、大きな体を丸めて休んでいた<古代竜(エンシェントドラゴン)>ミーティアは侵入者に首をもたげて対峙した。

 

 

 

「<古代竜(エンシェントドラゴン)>ミーティアよ!今は我が国存亡の時ぞ!古き盟約に基づきその力を行使せよ!俺を乗せてバルバロイ王国王都バーロンを急襲するのだ!」

 

 

 

そう言って国王バーゼルは手に持っていた支配の王錫を掲げる。すると支配の王錫は光輝きだし、その光は<古代竜(エンシェントドラゴン)>ミーティアの眉間に吸い込まれる。

 

 

 

『グム・・・古の盟約とは言え、支配の王錫の能力も限界であろう。これが最後となるやもしれぬな。小僧、貴様の願い、聞き届けてやろうぞ』

 

 

 

バサリと大きく羽根を広げたかと思うと、首だけでなく、その前足と後ろ足も地面を踏みしめ、胴体を持ち上げる。

 

 

 

「で、でかい・・・」

 

 

 

ガレンシアは呟いたが、ドワルーは絶句していた。首を持ち上げ、地面から立ち上がった<古代竜(エンシェントドラゴン)>ミーティアはその高さだけで10m近くありそうで、しっぽまで入れた全長は優に20mを超えそうであった。

 

 

 

「ど、どうやって乗ればいいのだ・・・?」

 

 

 

国王バーゼルはあまりに巨大な<古代竜(エンシェントドラゴン)>ミーティアを前にしばし呆然としていた。

 

 

 

『仕方のない奴よ』

 

 

 

古代竜(エンシェントドラゴン)>ミーティアは国王バーゼルの襟首を口先で加えると、自分の頭の上に放り投げた。

 

 

 

「あいたっ!」

 

 

 

『短めの角にでも捕まっておれ。それでは行くぞ。古の盟約に基づき、貴様の要求をかなえよう。バルバロイ王国の王都バーロンを急襲、であったな』

 

 

 

そう言って大きな翼をはばたかせ、巣穴を飛び出ると、高々と大空へ舞い上がった。

 

今ここに、神話級の天災(カタストロフィ)が解き放たれたのである。

 

まさにバルバロイ王国、王都バーロンは殲滅不可避、絶体絶命の危機に陥ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、ここはバルバロイ王国とドラゴニア王国の国境境にある山脈。

 

ドラゴニア王国王都に所属していた全軍約三万五千の兵団はバルバロイ王国の王都バーロンを目指して山越えを強行していた。

 

 

 

「進め!進むのだ!」

 

「これだけ木が生い茂っているんだ、たまったもんじゃねーよな」

 

「できる限り踏みしめて後続が通りやすいようにしろよ!」

 

「大ナタを持っている奴、刈り倒しちまえ」

 

 

 

だいぶ苦慮しながらではあるが、着実に王都バーロンへの距離を縮めていく。

 

 

 

『だいぶ王国内に侵入してきたな』

 

『敵国も王国だぞ?』

 

 

 

氷牙の言葉に上げ足を取る風牙。

 

 

 

『・・・ドラゴニアの兵士たちがバルバロイ王国領土内に侵入してきたな』

 

『ずいぶん丁寧な説明だな』

 

『お前のせいだろ!』

 

 

 

まるで漫才のような掛け合いを見せる氷牙と風牙。

 

 

 

『さて、我らの仕事は足止めなわけだが・・・』

 

『うむ、ボスからの指令は少々厄介だ』

 

 

 

氷牙と風牙はヤーベよりドラゴニア王国の兵士たちの足止めを指示されていた。

 

その条件は、

 

 

 

①相手兵士を殺さない事

 

②自分たちの存在を気取られない事

 

 

 

であった。

 

 

 

『あの時は高揚してお任せください!などと言ったのだが・・・結構条件がキツイな』

 

 

 

氷牙がボヤく。あの時というのは、言うまでもなく、四天王やその下の直属の何匹かの狼牙たちの前で、ボス直々に指名を受け指示を賜った時の事だ。ボスから直接名指しで命令を受けることは狼牙族の中でも極めて名誉なことであった。

 

 

 

『そうだな、だが、俺たちの能力ならやりようもあるだろう。そのために俺とお前を指名して下さったのだろうしな』

 

 

 

ただ単に蹴散らすだけなら、造作もないことだ。殲滅することもたやすいだろう。それは雷牙やガルボでも同じことだろう。いや、むしろ広範囲の雷撃魔法を操る雷牙やパワー型のガルボの方がさらに殲滅速度が速いかもしれない。だが、今回は足止めだけで相手を一人も殺さず、しかも自分たちの存在を知られてはいけないのだ。そんな条件をクリアできるのは氷牙と風牙しかいない、そうボスが言ってくれたのと同じ事なのである。

 

 

 

『まずは全軍の行動速度を落として行こうか・・・』

 

 

 

氷牙が魔法を唱える準備に入る。

 

 

 

『大気に潜む氷の子らよ。その力を開放し、その世界を見せよ!<氷点下の領域(ビロウフリージング)>』

 

 

 

氷牙の唱えた魔法により指定したエリアの温度が徐々に下がっていく。あまりに急速に下げてしまうと死に至らしめてしまうが、氷牙はあくまでゆっくりと温度を下げて行った。

 

 

 

「やべぇ、手がかじかんできた」

 

「やたら寒くなってきやがったな」

 

「山の天気は変わりやすいって言うぜ?」

 

「焚火で温まりてーよな」

 

「馬鹿野郎!火なんか使ったら煙が出て居場所がばれるだろうが!」

 

 

 

奇襲のための隠密行動であったため、暖が取れずに状況が改善できないドラゴニア王国兵士団。

 

 

 

『さすが氷牙、素晴らしい。効果抜群だな。俺ももう一押しするか』

 

 

 

そう言って風牙も魔法を準備する。

 

 

 

『風よ、行く手を阻みしものを切り裂け!<風刃斬撃(エアロスライダー)>』

 

 

 

風牙の魔法により放たれた風の斬撃が、木々の枝葉を切り落とす。

 

それらは足元を邪魔し、さらに進軍を遅くした。

 

そして、効果的な位置で幹を切り裂き、偶然を装って倒木を起こした。

 

 

 

「やべっ!でけー木が倒れてくるぞ!下がれ!」

 

「うわっ!」

 

「押すなっ!」

 

 

 

進行方向から倒れてきた木に大慌てのドラゴニア王国兵士団。

 

氷牙と風牙の嫌がらせにより、兵士団の侵攻は遅々として進まないのであった。

 

 


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